ご迷惑おかけします
カイがテンたちの元を離れて数年が経った。
カイは生まれ故郷へと戻って来たが、テンたちの所へ戻ろうとはしなかった。
「あいつら………元気にしてるかな………」
カイとミトが、テンたちのチームに加入した時に取った写真を眺め、カイは呟く。
「伊緒、入ってもいいか?」
部屋の扉をノックされ、カイは写真を机に仕舞う
「伯父さん、いいよ」
扉が開き、伊緒の伯父である神里耕哉が現れる。
「伊緒、今日が何の日か覚えてるか?」
「え?今日…………なんだっけ?」
「やれやれ、また忘れたのか」
そう言って、耕哉は紙の包を取り出す。
「伊緒、16歳の誕生日、おめでとう」
「え?……あ、そっか。今日、誕生日か」
カレンダーの日付を確認し、今日が自分の誕生日であることを思い出す。
「まったく、去年もそんな調子だっただろう」
「あはは……ありがとう、伯父さん」
困ったように笑い、プレゼントを受け取る。
「ところで伯父さん、これって?」
「聞いて驚けよ……《ソードアート・オンライン》だ」
「え!?」
耕哉の言葉に驚き、慌てながら包を開ける。
そこにあったのは、今話題のVRMMORPG《ソードアート・オンライン》だった
「凄い!これ、一万人限定の初回ロットなのに!」
「ふふん、俺は運がいい男だからな」
耕哉はそう言って笑う。
「俺は今から出掛けるけど、あまり遊び過ぎるなよ。今日は誕生日だから大目に見るが、何事も程々だぞ」
「わかってるよ!ありがとう、伯父さん!」
出かける伯父を見送り、カイはすぐにベッドの傍に置いてあるナーヴギアを被り、ソフトをスロットに入れる。
時刻は12:59
もうすぐでSAOサービス開始が始まる。
「よし…………リンクスタート!」
そう唱えると、暗闇の世界に飛んだ。
『《ソードアート・オンライン》の世界へようこそ。まずはプレイヤーネームを入れてください』
「じゃあ、kaiで」
親しみのある名前を入力し、その後にアバターの設定画面に映る。
特にこだわりがなかったため、デフォルト設定に髪型や目の形を少し弄るだけですませた。
『それではゲームをお楽しみください』
アナウンスが終わると共に、虹色のリングをくぐり、カイは地面に立っている感覚に襲われる。
ゆっくり目を開けると、そこはPVで見た、SAOの世界だった。
「おお、ここがSAOか……βテストの抽選も落ちて、ソフトの発売も平日だから諦めてたけど…………伯父さんには感謝だな」
そう言い、カイは伯父に感謝の念を飛ばす。
「さて、まずは武器屋だな」
マップを頼りに、武器屋に向かい、カイは武器屋に入る。
「ハンマーはあんのか?俺的にはモンスターの頭をかち割れるヤツが欲しいんだが」
「初期からある訳ないだろ、そんな高火力なヤツが」
「槍って、使い方とかあんのか?足で蹴る以外に」
「足で蹴るを前提の選択肢に入れるな。普通に手を使え、手を」
「手裏剣ない?キリトさん」
「剣の世界ってコンセプトだからな。ブーメランとかはあるかもしれないけど…手裏剣は流石にな」
「すみませんが店主。金の斧または銀の斧はありますか?できれば、出来損ないの斧があると非常に嬉しいのですが。ああ、泉があっても落としはしませんよ。この世界での武器は大変貴重ですからね」
「ヴェルデ、御伽噺をしたいなら店の外でやるといいぞ。というか真面に武器を探すつもりはあるのか?お前たちは」
武器屋には、既に5人の客がいるらしく、黒髪のプレイヤーが仲間と思しき4人にあれこれと説明をしていた。
(騒がしい連中だな………でも、楽し気だな)
カイは、楽しそうに騒ぐ5人に、テンたちを思い出した。
カイは店で初期所持金で買える範囲の武器で、曲刀を購入した。
そして、すぐさまフィールドに出て、SAOの目玉システムと言えるソードスキルを練習し、直ぐに物にした。
「こうして体を動かすってのがいいな」
初期モンスターを新たに葬り、カイは言う。
「本当にいい時代になったな…………アイツらと、一緒ならどれだけ楽しかっただろうか………」
自ら、テンたちとの絆を切って置きながら、カイはテンたちとSAOに居る自身を空想する。
「ま、もう俺には関係ないか」
悲しそうに笑い、カイは狩りを再開する。
かなりの数のモンスターを狩り、時刻は17時13分になっていた。
「そろそろ帰るか」
曲刀を仕舞い、カイはログアウトしようとメニューウィンドウを操作する。
「あれ?ログアウトボタンが無い?」
幾らメニュー画面を探しても、ログアウトのロの字も見当たらず、カイは徐々に焦り始める。
「なんだこれ?バグか?」
そんなことを考えていると、突然鐘のような音が鳴り響いた。
突然のことに驚いていると、カイの体が鮮やかなブルーの光に包まれた。
光が収まると、三人は《始まりの町》にいた。
他にも、たくさんのプレイヤーたちが集まっており、全てのプレイヤーが集まっているのではと思う数だ。
数秒経ち、周りがざわつき始めた。
徐々にそれが苛立ち変わり始めた頃、空に【System Announcement】の文字が浮かびあがった。
ようやく、運営側からのアナウンスが始まる。
全員がほっとし、肩の力を抜いた。
しかし、夕焼けに染まった空の一部がどろりと垂れ下がり、空中でとどまった。
そして、そのどろりとした塊が形を変え20メートルはある人間の形になった。
形はSAOに出てくるGMの恰好をしている。
だか、そのGMのローブの中に顏は無く、袖の中には腕も無い。
肉体自体がない。
とりあえずGMのアバターの恰好だけを用意しただけみたいな姿だった。
GMの両手がゆっくりと揚がり言葉が放たれた。
『プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
茅場明彦の名に、カイは驚く。
SAOを作った天才ゲームデザイナーで量子物理学者、そして、ナ―ヴギアの基礎設計者でもある。
『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが無いことに気づいてると思う。それは、不具合ではなく《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームからログアウトすることはできない。また、外部の人間によってナ―ヴギアの停止、解除を試みられた場合、ナ―ヴギアが諸君の脳を破壊する』
そのセリフを聞き、カイの表情が強張った。
『10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナ―ヴギア本体のロック解除、または分解、破壊のいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。現時点で、警告を無視しナ―ヴギアの強制除装を試み、すでに、213名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している』
213名と言う、人数の命が失われたと言うことに、カイは、今度は恐怖を感じた。
だが、それを面には出さず、平然を装い、茅場の言葉を待った。
『今、ありとあらゆる情報メディアによってこの状況は報道されている。ナ―ヴギアを装着したまま、2時間の回路切断猶予時間のうちに病院、施設に搬送される。現実の肉体は、厳重な介護体制のもとにおかれる。諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい。さらに、《ソードアート・オンライン》はもうただのゲームではない。もう一つの現実だ。今後、ありとあらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、ナ―ヴギアによって脳を破壊される』
突きつけられた現実に、プレイヤーたちはどよめき出す。
『このゲームから解放される条件はただ一つ。アインクラッドの最上部、第100層に辿り着き最終ボスを倒すことだ。そうすれば、生き残ったプレイヤーは、全員、安全にログアウトされることを保証しよう』
プレイヤー達がどよめいていると茅場はまた口を開いた。
『最後に諸君にこれが現実である証拠を見せよう。アイテムストレージに私からのプレゼントがある。確認してくれたまえ』
カイがアイテムストレージを開くとそこに一つのアイテムがあった。
アイテム名:手鏡
《手鏡》と言う、茅場がプレゼントと言ったアイテムが気になり、カイはそれを調べた。
オブジェクト化し鏡を覗くと、そこにはカイが作った顔があった。
首を傾げていると、急に体を白い光が包んだ。
2.3秒経ち光が消えた。
何が起きたのか分からないでいると、周りが突如騒ぎ出した。
「お前女だったのか!?」「学生って嘘だろ!?」「お前誰だよ!?」「そっちこそ誰だよ!」等々、その様な言葉が飛び交い、カイはあることに気づき、手鏡で自身の顔を確認する。
そこには、自身で現実での顔があった。
『諸君は、今なぜこのようなことをしたのか、と思っているだろう。大規模なテロでも身代金目的でもない。私の目的はすでに達成してる。この状況こそが私の最終目的なのだ。…以上で《ソードアート・オンライン》正式チュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』
そう言って茅場の姿は空に同化していくように消えた。
しばしの静寂の後、広場に絶叫が響いた。
全員が口々に罵詈雑言を言い、騒ぎ立てる。
そんな中、移動を始めるプレイヤーがおり、その中にはカイも居た。
(MMORPGで得られるリソースは限られる。効率よく強くなるには、次の街を目指す………だよな、ミト、カズ)
かつての友人、ミトとカズが言ってた事を思い出し、カイは次の街を目指す。
(俺は、死にたくない)
街を目指しながら、カイはそう呟く。
(勝手に自分から縁を切って、勝手に居なくなったのに………俺は、もう一度アイツらに会いたい)
テンたちを思い出し、カイは走り続ける。
死を目前にして、もう一生会う事は無いだろうと思っていたにもかかわらず、カイはもう一度テンたちに会いたいと願う。
(せめて、アイツらに謝ってから死にたい………だから!)
「まだ死ねないんだよ!」
カイはそう叫んだ。
友人達との再会を願い、カイはゲームをクリアすることを選んだ。