「そんな、ミト………!俺は、俺はなんてことを!」
誤ってミトを殺してしまったことに、カイは膝を付く。
そして、無意識に手にした刀を自身の首へと持って行こうとした。
「カイ、早まるな!」
キリトが大声でそう叫び、ある物を取り出す。
手の平で握れるサイズの大きさの、七色に輝く宝石だった。
「蘇生!ミト!」
キリトの手にしたそれは、砕け散りポリゴンの欠片になる。
そして、散らばった欠片は再び集まり、人の形を形成する。
それはミトだった。
「………ミト?」
「………ん?あれ?私………助かったの?」
辺りを見渡し、ミトは自分が助かったことに気づく。
「良かった………本当に、良かった………!」
ミトが助かったことに、カイは安堵し涙を流す。
「ふぅ、間に合って良かったよ」
キリトは立ち上がり、カイとミトに近寄る。
「キリト、もしかして貴方が?」
「ああ。持っていて助かったよ」
キリトが使ったのは《還魂の聖晶石》と言うアイテムで、SAOに唯一存在する蘇生アイテムだ。
このアイテムはメニュー画面から使用を選択するか、手に持って「蘇生+《プレイヤー名》」を言うことで、対象プレイヤーが死亡してから10秒間以内なら対象プレイヤーを復活させることができる。
このアイテムは、2023年の12月24日に、キリトとカイ、そしてクライン達《風林火山》とディアベルたち《
クラインやディアベルも、キリトとカイはコンビだから二人が持つのがいいとのことで、キリトはその言葉に甘えて、《還魂の聖晶石》を貰っていた。
「まさか、こんなタイミングで使うとは思ってもなかったけどな」
「…………キリト、俺………すまなかった」
「たっく。本当に世話の焼ける相棒だよ、お前は」
キリトは困った様な、安堵した笑みを浮かべカイを見る。
「それで?折角の感動のシーンなのに、のぞき見とは随分悪趣味だな」
そう言い、キリトは背後にいる何者かに声を掛ける。
「覗かれたくなかったら、こんな戦場のど真ん中で青春劇繰り広げるんじゃねぇよ!」
「…………」
現れたのは愉快そうに笑っているジョニー・ブラックと、不愉快そうに無言でいるザザだった。
「見えていてもスルーするのが常識じゃないか?ま、お前たちに常識を説いた所で無駄か」
キリトは溜息を吐き、愛剣《エリュシデータ》を構える。
「ミト、カイを連れて下がってくれ」
「ちょっ何言ってるのよ!相手はジョニー・ブラックとザザよ!一人で戦える相手じゃ!」
「今のカイを一人にはできないだろ。頼む、数分ぐらいなら俺一人でもやれる」
「………分かったわ」
ミトはそう言うと、カイの手を取り後ろへと下がった。
「ミト待て!キリトが……!キリト!」
後ろへと連れて行かれるカイを見送り、キリトはジョニー・ブラックとザザの二人と対峙する。
「しっかし、面白いものがみれたぜ。殺人嫌いが殺人を犯すとか、最高のエンターテイメントだなぁ、ザザ!」
「くだらない……俺は……奴を……殺したかった……だが……今の……アイツは……殺す……価値が……無い」
「ま。ザザはそうだろうけどさ。俺としては傑作も傑作、大傑作!見て見たかったぜ、アイツがぶっ壊れた時の顔がよぉ!態々殺されに行くように部下の一人を嗾けた甲斐があったぜ!」
ジョニー・ブラックのその言葉に、キリトは反応した。
「おい、ジョニー・ブラック。それはどういう意味だ?」
「あ?どうもこうも、言葉通りさ!《紅蓮の剣豪》が忌み嫌う殺人を《紅蓮の剣豪》自らが行う!最高に面白いだろ?」
「なんでそんなことをした?」
「ハッ!理由なんてねぇよ、ただ気になったから試した。それだけさ」
「…………そうかよ」
そう言い、キリトは素早くメニューウィンドウを操作する。
そして、キリトの背中に新たな剣が現れ、キリトはそれを抜く。
その白銀の剣の名は、《ダークリパルサー》。
《エリュシデータ》とは別の、キリトのもう一つの愛剣だ。
「お前らだけは、俺が倒す」
キリトは2人、特にジョニー・ブラックに対して静かに怒気を向け、剣を振るう。
ミトに連れられ、カイは後方に下がる。
《
「ミト!何があったの!」
すると、指揮を執っていたアスナがやって来る。
「ミトのHPが無くなって驚いてたのに、急にまたHPが現れてもう何がなんだが………」
「そのことは後で説明するから。それより、今キリトが奥でジョニー・ブラックとザザ相手に一人で戦ってる。すぐに向かわないと」
「キリト君が!?なら急がないと!」
「アスナ。アスナはこのままここに残ってて、私が助けに行くから」
「え!?で、でも!」
「お願い。今のカイを一人にはできない」
ミトはそう言い、カイを見る。
「カイ」
座り込んでいるカイと目線を合わせ、ミトは言う。
「カイはもう戦わなくていいよ」
「え?」
「カイは、ずっと苦しんでたよね。それでも、攻略組の一員として頑張って戦ってきた。今回だってそう。本当は人を殺す事になるかもしれないのに、私達を死なせたくないからって参加した。でも…………カイが苦しむぐらいなら、もう戦わなくていい。私が、カイの分まで戦う。だから、もういいんだよ」
「…………ミト」
「アスナ!カイをお願い!」
「ちょっミト!」
走り去っていくミトを追い掛けようにも、カイの様子がおかしい事と、カイのプレイヤーカーソルがオレンジになっている事が気になりアスナは動けなかった。
「カイ君、大丈夫?」
「………アスナ、ごめん。俺の所為だ」
謝るカイに、アスナは何かを感じ取りミト同様目線を合わせる。
「カイ君、何があったの?」
「キリト!」
ミトは二振りの片手剣を巧みに操り、ジョニー・ブラックとザザ相手に激戦を繰り広げるキリトの元に辿り着く。
キリトはミトが来たことに気づき、大ぶりの攻撃を放ち、ジョニー・ブラックとザザの二人を自分から遠ざける。
「ミト!カイは?」
「アスナに任せて来た!そっちは大丈夫?」
「ああ、なんとかな!とりあえず、ザザの相手を任せていいか?ジョニー・ブラックは俺が相手する!」
「構わないけど、大丈夫なの?」
ジョニー・ブラックとザザ。
この二人の実力はほぼ同じぐらいだが、ジョニー・ブラックは毒を使ってくるため、少しでも攻撃を食らえば戦闘不能になり殺される。
その危険は、キリトも承知だった。
「コイツだけは、絶対に許せないんだ!こいつは、俺が必ず倒す!《対毒》スキルはあるし、対毒ポーションも飲んである!心配するな!」
「分かった!なら。こっちは任せて!」
ミトは愛鎌を手に、ザザへと攻撃を繰り出す。
ザザは
「《死線》か……お前を殺せば……《紅蓮》は……本気になるか……試して……やろう……」
「それはどういう意味?」
「貴様に……語る理由は……無い……ただ……俺は……戦いたい……だけだ……本気の殺意を……ぶつけてくる……奴と」
「あっそ。でも、お生憎様。カイはアンタとは戦わないし、アンタはここで終わるの。この後、牢獄に行くからね!」
ザザの
ザザは後ろに飛び退き躱す。
そして、連続突きのソードスキルでミトに攻撃を仕掛ける。
ミトは武器防御スキルを発動し、ザザの攻撃を防ぐ。
ザザは接近しミトに攻撃を仕掛けるも、ミトはザザと一定の距離を保ち続けながら戦闘をする。
ザザの武器、
対してミトの武器、両手鎌は攻撃範囲が広く、攻撃力が高いが、その分小回りが利かず、懐に潜り込まれると反撃が難しいため、ミトは一定の距離を保って戦う必要があった。
「本当に……アイツは……来ないんだな……」
数分程戦っていると、ザザは突然そう言い出した。
「だから何?アンタには関係ないでしょ」
「関係は……無い……だが……残念だ」
落胆の声を出すザザに、ミトは怒りを覚える。
「人1人……殺すだけで……暴走して……正気になったかと……思えば……戦いを放棄する……本当に……残念だ……殺して……やりたかったのに……あんな臆病者だった……とはな」
「いい加減にしなさいよ!」
ミトがザザに対し怒鳴る。
「カイの事、何も知らないくせに好き勝手言うんじゃないわよ!カイが、今までどれだけ苦しんでいたのか………苦しみの中でどれだけ頑張ってたか………それも知らずに、カイを臆病者呼ばわりするな!」
ミトは渾身の一撃、両手鎌スキル《グリムゾンロード》を放つ。
現時点での、ミトが使える上級のソードスキルだった。
《グリムゾンロード》は、単発で頭上から大きく振り被った一撃を放つだが、発動動作が分かり易いという欠点がある。
だがミトは、自身のレベルやステータスの補正、加えて敏捷値や筋力値を利用したシステム外スキル《スキルブースト》を使えば、躱すことはできないのが分かっていた。
「ふっ……掛ったな……!」
ザザはそう呟き、
そして、ソードスキルの《スピカ・キャリバー》が放たれる。
5連撃の突きの内、三連撃ががミトの鎌にぶつかり、発動直前だったミトのソードスキルは打ち消された。
「しまっ!」
そして、無防備となったミトに残りのに連撃の突きが当たる。
「がっ!」
2連撃の突きは、ミトの鎌を弾き飛ばし、ミトは衝撃でその場に倒れる。
「ふっ!」
さらに、ザザが追撃としてミトの両目を斬りつける。
「ぐっ!」
「視界を……封じた……これで……お前は……戦えない……」
(やられた……!武器は!武器は何処……!)
見えない状態で手探りで愛鎌を探すも、近くにはないらしく手は何も掴まなかった。
武器を探すのは諦め、投げナイフを抜くもザザが何処にいるのかは、分からなかった。
「ミト!気を付けろ!ザザはお前の「おっとさせねぇよ!」
キリトがザザの位置を教えようとするも、ジョニー・ブラックが横入りし、邪魔をする。
ザザはミトの背後に立っていた。
「お前が死ねば……アイツも……本気を出すかもな……!」
ザザの一撃がミトに振り下ろされる。
ミトは背後の気配を感じ取り振り向く。
だが、既に遅くザザの
キンッ!
金属音が響いた。
「お前は……!」
ザザが驚きの声を上げる。
しかし、その言葉には僅かに喜びを帯びていた。
「ミトに………手ぇ出すんじゃねぇ!」
ザザの
「やっときたな………《紅蓮の剣豪》カイ……!」
ザザは、ようやく表れたカイを前にそう声を上げた。
カイは先程と打って変わって、確固たる意志を持った目でザザを睨み、ミトを守るため立っていた。
死んだのに、蘇ってすぐに戦いに行くミトってメンタルヤバくね?