74層迷宮区。
骸骨の剣士《デモニッシュ・サーバント》相手に、ミトとアスナは一歩も退かない戦いを見せた。
放たれる片手剣スキル《バーチカル・スクエア》の4連撃を、アスナは持ち前の俊敏さを生かし左右にステップして躱し、ミトは鎌を回転させ攻撃を弾く。
「やっぱり手練れがいると助かるな……」
「と言うより、あの二人だから助かるな……」
そんなミトとアスナを見て、カイとキリトはそう言う。
「カイ!」「キリト君!」
ミトとアスナの二人が同時に叫ぶ。
それと同時に、アスナは重めの一撃を《デモニッシュ・サーバント》の盾にぶつけ、ノックバックさせ、ミトは鎌の形状を生かし足を引っかけて体勢を崩させる。
その隙を逃さず、キリトは《バーチカル・スクエア》の4連撃をヒットさせ、止めの《メテオブレイク》で《デモニッシュ・サーバント》を倒す。
カイは、体勢の崩れた《デモニッシュ・サーバント》に《朧月》を使い、突進からの斬り上げ、斬り下ろしを繰り出す。
これにより、《デモニッシュ・サーバント》の両腕が弾かれ、無防備な首が露わになる。
止めの《弧月》で首を斬り飛ばし、《デモニッシュ・サーバント》を倒す。
「やった!」「よし!」
後ろに下がっていたアスナとミトが声を上げ喜ぶ。
アイテムの分配を後回しにし、4人はさらに奥へと進む。
ここまでに数回モンスターとの戦闘があったが、殆どノーダメージで来れている。
「順調だな」
「ま、昔は4人でよくパーティー組んでたしな。昔取った杵柄って奴だろ」
「もう1年以上前になるんだね……」
「私とアスナがギルドに入ってからは組んでなかったしね」
懐かしさを感じ迷宮区を進んでいると、回廊の突き辺りで、怪物のレリーフがびっしりと施された灰青色の巨大な二枚扉が現れた。
残りのマップの空白部分と、周りのオブジェクトの変化である程度そろそろかもしれないと思っていた4人は、その扉の前で止まる。
「ねぇ、これってやっぱり……」
「ああ、ボス部屋だ……」
キリトの言葉に、全員が息を呑む。
これまでにフロアボスと戦った回数は73回。
フィールドボスやイベントボス、クエスト限定ボスなどの戦闘も含めれば4人は100回どころか200回以上はボスモンスターとの戦闘を経験している。
だが、どれだけ経験を積もうといざボス部屋を前にすれば緊張し、体が震える。
「ねぇ、ちょっと覗いてみない?」
そんな中、ミトは少し不安そうに言う。
「そうだな……偵察戦って訳じゃないが、ボスの姿を見ればある程度の攻撃方法も推測できるだろうし、最初の偵察戦の役にも立つ。俺は賛成だ」
ミトの意見にカイは賛成する。
「そうだな。フロアボスは自身が守護する部屋からは出てこない。扉を開けて、中を覗くぐらいなら……」
「一応、転移結晶を準備しておきましょう」
アスナの言葉に全員が頷き、各自転移結晶を片手に握り締める。
「開けるぞ、カイ」
「ああ」
キリトとカイが扉に手を置き、ゆっくりと押す。
それに合わせて扉は左右に開いていき、ずしんっと音を立てて完全に開かれる。
部屋の中は暗く、中が見えない。
暫くすると両側に青い炎が灯り、その炎が連続して灯り、部屋の中を明るくする。
そして、フロアボスの姿が現れた。
巨大な人間の体のような体に山羊の頭がくっ付いたその姿は、悪魔だった。
右手には巨大な斬馬刀がある。
ボスの名は《グリームアイズ》。
ボスとの距離があるにもかかわらず、4人はその姿に恐怖を感じ、足が竦んだ。
『GYAOOOOOOOOOOOO!!』
「「うわあああああああ!!」」「「きゃあああああああああ!!」」
部屋全体を振動させるかのような雄たけびを聞き、4人は同時に悲鳴を上げ遁走した。
4人は一心不乱に走り、安全エリアを目指す。
途中、何度かモンスターにターゲットにされたが全てを無視して走り、安全エリアに飛び込み、壁に寄りかかってへたり込む。
そして、息を整え数秒後、4人は笑い出した。
「あははは!マジでビビった!」
「初めて見るボスだったわね!こんな驚いたの久しぶりね!」
「あはは、やー、逃げた逃げた!」
「こんなに走ったの凄い久しぶりだよ!」
先程の恐怖なんかはもう吹き飛び、4人は笑い合うとすぐに表情を引き締めた。
「あれは苦労しそうだね」
「そうだな。見た感じ武器はあの斬馬刀だけだけど、特殊攻撃があるな、きっと」
「前衛に固い人を集めてどんどんスイッチしていくしかなさそうね」
「そうなると、盾持ちが十人は欲しいな……まぁ、当分は少しずつちょっかい出して傾向と対策を練るしかないな」
「盾装備、ねぇ」
すると、アスナが意味ありげにキリトを見た。
「キリト君、何か隠してるでしょ」
「え?」
「片手剣の最大のメリットって盾を持てることでしょ。でもキリト君が盾を持ってるとこ見たこと無い。私の場合、細剣のスピードが落ちるからだし、スタイル優先で持たない人もいるけど。キリト君の場合、どちらでもないよね」
「あ、それは………」
アスナからの質問に、キリトは狼狽える。
「アスナ、そう言うのはマナー違反よ」
そんなアスナに、ミトがそう言う。
「う~ん、それもそっか。ごめんね」
そう言ってアスナはキリトに謝る。
「わ、もう3時だ。遅くなっちゃったけどお昼にしましょう」
「もうそんな時間だったのね」
そう言って、アスナとミトは包を取り出し、アスナはキリトに、ミトはカイに差し出す。
「手作りか!?」
「態々悪いな。ありがとう」
受け取ると、二人は早速包を開け、中身を確認する。
そこにはサンドイッチが入っており、焼かれた肉や新鮮な野菜、そしてスパイシーな香りに、二人は一気に空腹を覚える。
「「いただきます!」」
大口を開けて齧り付くと、ちょっと濃いめの甘辛い味が口の中いっぱいに広がり、焼かれた肉の肉汁と新鮮な野菜と絶妙にマッチしていた。
その味は、現実で度々口にしていたファーストフードに似ていた。
「う、うまい……!」
「この味、一体どうやったんだ?」
「私とアスナによる1年の修行と研鑽の成果よ」
「アインクラッドで手に入る約百種類の調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメーターを全部解析して作ったのよ」
「これがその作った物よ」
そう言ってミトは紫色のドロっとした液体の入った小瓶を取り出す。
「手出して」
ミトに言われるがまま、カイが手を差し出すとミトはカイの掌にその液体を掛ける。
「舐めてみて」
少々気味の悪い液体だったが、ミトを信じカイはその液体を舐める。
「この味……マヨネーズか!?」
「そう。グログワの種とシュブルの葉、カリブ水を混ぜた物よ」
「そして、こっちがアビルパ豆とサグの葉、ウーラフィッシュの骨を混ぜた物」
今度はアスナが別の小瓶を取り出し、キリトに差し出す。
出された液体を舐めるとキリトは驚きの表情になる。
「醤油だ……!」
「マヨネーズに続いて醤油まで作ってるのか……何と言うか、流石だな……」
素直に二人を称賛してると、ミトは笑って言う。
「まぁ、私の場合は《料理》スキルの熟練度上げも兼ねてたからね。それにさ、前にカイが言ってたじゃない。マヨネーズが欲しいって」
そう言われ、カイは結構前に4人で食事した際、マヨネーズぐらい欲しいと言ったのを思い出す。
「だから作ってあげれないかなって」
「もしかして、俺の為に作ってくれたのか?」
「あ、えっと………まぁそう言う言い方もあるかもね」
ミトは赤くした頬を掻いて笑う。
「そっか……わざわざありがとうな」
ミトにお礼を言い、カイは残りを一気に食べる。
「しかし、これ本当にうまいな。再現度も高いし、店で売ったら飛ぶように売れるぞ」
サンドイッチを頬張りつつ、キリトがそう言う。
「本当?」
「ああ、勿論。……いや、売るのはダメだな」
「え?どうして?」
「俺の食べる分が無くなる」
大真面目にそう言うキリトに、アスナは呆れた表情をする。
「もう、意地汚いんだから……また作ってあげるわよ」
小声でそう言うアスナだったが、その言葉はキリトの耳に届いており、キリトはアスナの料理が食えるなら、カイを説得して拠点を《セルムブルグ》に移してもいいかもと思った。