遅めの昼食を終え、食後のお茶を呑み一息入れてると、ガチャガチャと鎧を鳴らす音と足音、話し声が聞こえ、カイとキリトは音の聞こえた方を警戒する。
だが、現れた6人のパーティーはカイとキリトの知ったパーティーだった。
そのパーティーはギルド《風林火山》のパーティーで、その中には友人でギルドリーダーのクラインが居た。
「おおっ!キリトにカイじゃねぇか!」
2人の顔を見ると、クラインは笑顔で駆け寄り声を掛ける。
「まだ生きてたか、クライン」
「元気そうでなによりだ」
立ち上がり、カイとキリトもクラインに近寄る。
「相変わらずだな、お前らも。今日は、他にもツレがいる……のか……」
荷物を片付け立ち上がったミトとアスナを見て、クラインは固まった。
「おい、どうした?ラグってんのか?」
「しっかりしろって」
クラインの肩を揺らし声を掛けると、意識を取り戻したクラインは腰を直角に曲げ、右手を差し出した。
「は、初めまして!クライン、24歳独身!彼女募集ちゅっ!!?」
変なことを口走りそうになったクラインに、キリトは脇腹に強めの一撃を入れる。
その程度なら攻撃判定にはならず、キリトのカーソルはグリーンのままだ。
それを皮切りに、他の5人も駆け寄り、ミトとアスナに自己紹介を始める。
「ま、まぁ悪い連中じゃないから!」
「程よく仲良くしてやってくれ」
男どもを抑え、ミトとアスナにそう言うとクラインが復活し、カイとキリトの首根っこを摑まえる。
「おい、キリト!カイ!一体どういうことだよ!?お前らがあんな美少女と!」
「いや、これには訳が……」
「ミトと一緒に居るのにお前の許可が居るのかよ?」
尋問と言う名のじゃれ合いをする3人に、ミトとアスナも思わず笑顔になった。
「こんにちは、暫く彼らとパーティー組むのでよろしく」
「同じく。よろしくね」
2人の言葉にクライン達は、カイとキリトに羨望と嫉妬の眼差しを向ける。
そんな時、また新たな足音と鎧の音が聞こえ、そちらに視線を移す。
黒鉄色の鎧に濃緑色の戦闘服。
その戦闘服は、《アインクラッド解放軍》の者だった。
「軍の連中だ」
「第1層を支配してる連中がなんで?」
「25層以降攻略に参加せず、組織強化をしてる連中がどうして最前線に?」
《風林火山》のメンバーが後ろでそう言う中、《軍》のパーティーは安全エリアへと入る。
「休め!」
先頭に立っていたリーダーらしき男が号令をかけると、全員がへたり込むように座る。
リーダーは前を向きカイ達を見る。
「私は《アインクラッド解放軍》所属、コーバッツ中佐だ」
「キリト、こっちは相棒のカイだ」
「うむ、君たちはもうこの先まで攻略はしているのか?」
「ああ、ボス部屋までマッピングしてある」
「では、そのマップデータを提供してもらいたい」
「提供だと!?テメー、マッピングする苦労が分かってんのか!?」
傲慢な態度のコーバッツにクラインが声を上げた。
「我々は君ら一般プレイヤー解放のために戦っている!諸君が協力するのは当然の義務である!」
「何が解放だ!25層以降、攻略に参加しなかった分際でよく言えたな!」
「落ち着け、クライン」
一触即発になりそうだった空気をキリトが制した。
「どうせ、街に戻ったら公開する情報だ。構わない」
「俺もキリトに賛成だ。欲しけりゃくれてやるよ」
「おいおい、そりゃ人が良すぎるぜ、キリト、カイ!」
「マップデータで儲ける気は無い」
クラインを宥めてキリトは、マップデータを渡した。
「協力感謝する」
「ボスに挑むならやめといた方がいい」
「それは私が判断する」
キリトの言葉に耳も貸さずにコーバッツは部下達を立ち上がらせ、先に進んだ。
「大丈夫なのかよ、あの連中」
「ぶっつけでボスに挑むことはないと思うけど」
「でも、あの噂もあるし……」
「噂?どんなだ?」
ミトが噂と言い、気になりカイが尋ねる。
「《軍》が方針変更して、再び攻略を行うって噂。資材の蓄積に現を抜かしてる所為で、末端のプレイヤーから不満の声が上がってるから、戦果を挙げてその不満を消そうとしてるらしいのよ」
「だからってボスに挑むとは思わないが………」
「なら、一応確認だけするか?」
キリトの提案にカイが同意し、ミト、アスナ、クライン、そして《風林火山》のメンバーも賛同した。
途中何度がモンスターとバトルになり、ボス部屋付近に着くのは安全エリアを出てから30分後だった。
「《軍》の連中とはすれ違わなかったな。この先はボス部屋だろ?なら、転移結晶で帰っちまったんじゃねぇか?」
「それならいいんだが、あの噂を聞いた後だとな……」
「あああぁぁぁぁぁぁ………!」
その時、ボス部屋のある方向から悲鳴が聞こえた。
「今の悲鳴って!」
「まさか……!」
「カイ!行くぞ!」
「ああ!」
キリトとカイが走り出し、続いてミトとアスナが走り出す。
ボス部屋に向かうと、ボス部屋の扉は開いており、中で《軍》のプレイヤーが戦っていた。
「おい!大丈夫か!」
ボスである《グリームアイズ》は右手に握った斬馬刀を振り回し、《軍》を蹴散らす。
人数を確認すると先ほどより二人少ない。
「何をしてる!早く転移結晶を使え!」
「だ、ダメだ!クリスタルが使えない!」
「な…!?」
今までにないボス部屋の仕様に全員が息を呑んだ。
「我々《解放軍》に撤退の二文字は有り得ない!戦え、戦うんだ!」
「バカ野郎!」
「おい、どうなってんだよ!」
クラインたちも遅れて辿り着き、キリトが簡単に状況を伝えるとクラインは顔を歪めた。
「どうにかできないのかよ!」
今ここでカイ達が切り込めば退路は開ける。
だが、下手すれば誰かが死ぬ。
「全員突撃!」
コーバッツがHPが限界まで低い二人を下がらせ、残りの八人で四人に列を作り突撃をするよう指示を出す。
「やめろ!」
あまりにも無謀な攻撃に、キリトが叫んだ。
八人で一斉に飛びかかれば満足にソードスキルを発動することもできない。
本来なら、一人ずつダメージを与え、スイッチして戦うべきだ。
《グリームアイズ》は、突撃してきた《軍》のプレイヤー目掛け、息を吐いた。
息にもダメージ判定があるらしく、八人が怯む。
そこに、すかさず《グリームアイズ》の斬馬刀が突き立てられる。
《軍》のプレイヤーは吹き飛び、地面に転がる。
そして、今度は斬馬刀を振り上げるように構える。
刃は、倒れているコーバッツに向けられていた。
「ふっ!」
その瞬間、カイは飛び出し《紫電一閃》を使い、《グリームアイズ》の斬馬刀の軌道をずらした。
お陰で、斬馬刀はコーバッツに当たるスレスレで地面に刺さった。
「早く撤退しろ!」
「ふ、ふざけるな!そんなことが出来るか!我々は「仲間を死なせるつもりか!それが、ディアベルの教えか!」っ!?」
ディアベルの名に、コーバッツが反応する。
カイはコーバッツの事を知っていた。
コーバッツは、ディアベルが《
「さっさと撤退しろ!俺1人で抑えるのも限界があるんだ!」
振り下ろされる斬馬刀を、“焔群”で受け止めつつ、カイが叫ぶ。
「くっ……!動ける者は動けぬ者を抱えろ!撤退だ!」
コーバッツは撤退の指示を出し、僅かに動けるプレイヤーが動けないプレイヤーを抱え動き出す。
だが、筋力値の問題なのか将又恐怖で力が入らないのか、上手くいかなかった。
(耐えろ……!俺が潰れたら、《軍》の連中がやられる……!耐えるんだ……!)
腕に力を籠め、斬馬刀を抑え続けるも、とうとう限界が来てカイは膝を突いた。
(ここ……までか……!)
死を覚悟した、その時だった。
「はあああああああああ!!」
ミトが下から鎌を振り上げ、斬馬刀を弾き飛ばした。
「ミト!」
「ごめん!すぐに動けなかった!大丈夫!?」
「ああ、なんとかな」
立ち上がり、辺りを見渡すとキリト、アスナ、クライン、《風林火山》のメンバーも来て
手伝っていた。
《風林火山》のメンバーは動けない《軍》のメンバーの撤退を手伝っており、カイ達は数人で《グリームアイズ》を撤退完了まで相手にしないといけない。
だが、《グリームアイズ》の強さではカイ達に死人が出るのは分かり切っていた。
(出し惜しみする暇はないか……!)
カイはある決断をし、キリトに叫ぶ。
「キリト、アレを使うぞ!」
「アレをか!でも、今は……!」
「このままじゃ死人が出る!俺はやるぞ!」
「カイ………分かった!アスナ、ミト、クライン!頼む、10秒だけ持ち堪えてくれ!」
キリトの言葉にアスナ、ミト、クラインは頷き、《グリームアイズ》の攻撃を防ぎ続ける。
その間、キリトは素早くメニューウィンドウを操作する。
カイもメニューウィンドウを操作するが、キリトよりも早く操作を終える。
「よし!ミト、アスナ、クライン!下がれ!」
カイの言葉を合図に、3人が下がる。
カイは刀を構え、一気に走り出す。
《グリームアイズ》はカイに向けて
青白い輝きを持つ
「カイっ!?」
カイがやられたのではと思い、ミトが声を上げる。
その瞬間、青白い噴気を割く様に業火を彷彿させる焔が上がった。
「え?」
その光景にミトは驚いた。
そして、焔は噴気を掻き消しその中から、カイが現れた。
「これでも……食らえ!」
カイの刀が赤いライトエフェクトを纏う。
そのライトエフェクトは徐々に大きくなり、そして、焔へと変わった。
「う……そ……」
ミトは思わずそう呟いた。
ミトだけじゃなく、アスナもクラインも嘘だと思った。
カイの2つ名《焔の剣聖》は、カイの斬撃で焔を幻視し、熱を感じたことから付いた。
決して本当に焔が出てるわけでなく、カイの気迫と愛刀“焔群”の透き通る様な赤い刀身により、そう見えるだけだ。
だが、紛れもなく今のカイの刀には焔が纏わり付いていた。
カイの焔を纏った斬撃は《グリームアイズ》の腹を深く抉る様に斬りつける。
『GYAOOOOOOOOOOOO!!』
痛みを感じてるのか、《グリームアイズ》が絶叫を上げる。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
カイは雄たけびを上げ、焔の斬撃で《グリームアイズ》を斬り上げる。
《グリームアイズ》が大きく仰け反る。
「カイ、いいぞ!」
そこで準備を終え、タイミングを計っていたキリトが飛び出す。
「スイッチ!」
仰け反った状態でも、《グリームアイズ》は斬馬刀を突き出すように、キリトに攻撃を仕掛ける。
キリトはその攻撃を右手に握った“エリュシデータ”で軌道をずらし、そして、背中に現れたもう一つの剣“ダークリパルサー”を、抜きざまに切り上げた。
クリーンヒットの為、《グリームアイズ》のHPが目に見えて減少する。
本来、右手と左手に片手剣を握った状態だとイレギュラー装備状態となってソードスキルは発動しない。
「スターバースト……………ストリーム!」
だが、キリトの両手に握られた剣はライトエフェクトを纏っていた。
発動されたソードスキルから幾つもの斬撃が繰り出され、星屑の様に飛び散るエフェクトフラッシュが空間を支配する。
そして、最後の一撃が《グリームアイズ》の胸の中央を貫き、《グリームアイズ》のHPは消し飛び、体はポリゴンの欠片になって消えた。
「………終わった……のか?」
キリトはそう呟き、その場に倒れこんだ。