ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第42話 歪んだ愛情

ヒースクリフに負けた翌日、カイの元にミトが団服を持って訪れた。

 

「うへ~……全身真っ白の服とか派手じゃないか?」

 

カイの服装は、カイが慣れ親しんだ真紅のコートとデザインは同じだが、生地は白く、所々に赤のラインが入っていた。

 

おまけに両襟に小さく2つ、背中に大きく1つ《血盟騎士団》のギルドマークの真紅の十字模様が施されている。

 

「それでも割と地味な方よ。似合ってるわ」

 

「白と赤を逆にして作り直して欲しい」

 

そう言って、カイはベッドに腰掛ける。

 

「それじゃあ、前のと変わらないじゃん」

 

ミトもそう言って、カイの隣に座る。

 

「まぁ、これからはギルドメンバーとしてよろしくね」

 

「ああ、よろしく。と言っても、俺は新人でミトは副団長だからな。もう気軽に話せなくなるか」

 

「誰も見て無い所ならいいでしょ」

 

そう言って、ミトはカイに寄り掛かり、肩に頭を置く。

 

そんなミトの頭を、カイは優しい手つきで撫でる。

 

「そう言えば、俺の仕事ってなんだ?ヒースクリフは、俺にピッタリな仕事があるって言ってたけど」

 

「ああ、それ私の護衛よ」

 

「護衛?ミトの護衛は、あのコユキって子じゃ………そう言えば、護衛の任は解かれたんだっけ」

 

「それとキリトもアスナの護衛になったわ。本部で、カイが護衛を付けるなら護衛対象より弱い人を付けるなって言ったのが効いたのか、団長が貴方達なら私たちの護衛にピッタリだって」

 

「そうか………その辺は、ヒースクリフに感謝だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、今日からミトの護衛として《血盟騎士団》に入団することになったカイは、キリトと共に真新しい純白のコートを着て、ミトとアスナと共に第55層《グランザム》へと向かった。

 

そして、本部に着くや否やカイはある人物に接触された。

 

「訓練?」

 

「そうだ、私を含む5人パーティーでここ55層の迷宮区を突破し、56層の主街区まで到達してもらう」

 

その人物の名は“ゴドフリー”。

 

《血盟騎士団》では、フォワードの指揮を執っているプレイヤーだった。

 

「ちょっとゴドフリー!そんなことしなくても、カイの実力は私が保証するわ!」

 

「アスナ第一副団長と言い、ミト第二副団長も規律をないがしろにされては困りますな。それに、入団する以上、一度はフォワードの指揮を預かるこの私に実力を見せて貰わねば」

 

「そんな必要ないぐらいカイは強いわよ!」

 

ミトがキレながら怒るが、ゴドフリーはそれを気にせず、街の西門に40分後に集合と言って笑いながら出て行った。

 

「はぁ……ごめんね、カイ。ゴドフリーの奴、一度言い出したら聞かない奴で」

 

「ま、いいさ。どこの迷宮区でもすぐに突破してやるさ」

 

カイはミトの傍に立って、頭にポンっと手を置く。

 

「今日我慢すれば明日からは一緒だ。だから、待っててくれよ」

 

「カイ………うん、分かった。待ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

40分後、西門にカイが向かうとそこにゴドフリー達の姿はなく、1人のプレイヤーがいた。

 

「君は……!」

 

「ふん、やっと来やがりましたね」

 

そのプレイヤーはコユキだった。

 

「新人の分際で遅刻とはいい度胸してやがりますね」

 

カイは思わず警戒するも、コユキがあまりにも普通の態度の為驚いていた。

 

「遅刻って、どういうことだ?」

 

「私以外はもう皆、迷宮区へ向かってます。私は遅刻してきたアンタを待ってただけです」

 

「時間通りに来たんだが?」

 

「集団行動するなら5分前行動が常識では?」

 

正論を言われ、カイは思わず黙る。

 

「ふん、早く行きますよ。向かうのは45層の迷宮区です」

 

「45層?55層の迷宮区じゃないのか?」

 

「ゴドフリーが気まぐれで変えました。ガタガタ言わず付いて来るでやがります」

 

そう言って先を進むコユキに、カイは急いで後を追った。

 

迷宮区に着くとコユキは立ち止まり、カイに手を差し出した。

 

「今日の訓練は危機対処能力も見るから、アンタの結晶アイテムを渡して下さい」

 

「はぁ!?結晶アイテムを預かるだって!?」

 

結晶アイテムはこのデスゲームと化したSAOでは生命線も同じ。

 

カイは、結晶アイテムを切らしたことは一度たりともない。

 

「こんな下層の迷宮区で何ビビってんですか?それとも、ミト様の護衛になるであろう御方は、こんな下層でも結晶アイテムがないと怖くて入れねぇんですか?」

 

カイを馬鹿にした態度を取るコユキに、カイは苛立ちを感じる。

 

だが、ここで喧嘩腰になっても良い事などなく、入団初日に問題行動を起こしてミトの護衛の任を外されるのも嫌だったので、大人しく結晶アイテムを渡した。

 

「では、行きますよ」

 

コユキを先頭に、迷宮区へと入る。

 

カイは遭遇するモンスターをすべて一刀で葬り、先へと進み続ける。

 

暫く進むと、コユキが急に足を止めた。

 

「アンタは、この迷宮区のこと知ってますか?」

 

「……ああ、フロアボス自体そこまでの強さはなかったが、迷宮区攻略中にいくつかのパーティーがトラップで壊滅した話を聞いてる」

 

45層迷宮区は、トラップが多いダンジョンでその殆どが即死系やモンスター大量ポップ系と言った物だった。

 

その為、攻略中に壊滅したパーティーは少なくなく、フロアボス攻略後も中層プレイヤーが未発見のトラップに引っ掛かり亡くなる件が相次いで起きた。

 

「だけど、トラップの殆どは事態を重く見た攻略組が有志を募ってトラップの除去を行ったな」

 

「ええ、そうですよ。攻略組が動いたお陰で殆どのトラップは解除されました。…………このダンジョンは、私にとっては思い出の場所なんです」

 

「思い出?」

 

「私はここでミト様と出会ったんです。当時の私は、中層プレイヤーでその日を生き抜くのに精一杯でした。あの日も行きずりの野良パーティーに加えてもらって、このダンジョンに来てました。その時、私たちはモンスターの大量ポップ系のトラップを踏んだんです。そしたら、パーティーメンバーは私を囮に逃げたんです」

 

コユキの言葉に、カイは言葉を失った。

 

ギルドや固定でパーティーを組んでいるプレイヤーたちではあまりないが、行きずり同士で組んだ野良パーティーなどでは、そう言うことがあると言うのは聞いたことがある。

 

コユキはそれに当たってしまっていたのだ。

 

「今でも思い出しますよ。私に向かって下卑た笑みを浮かべ逃げ出す男どもの顔を………そんな、死を覚悟していた私の前に現れたのがミト様でした。ミト様は1人で全てのモンスターを倒し、私を助けてくれました。それに、貴重な転移結晶までくれて、主街区まで連れて行ってくれました」

 

「そうだったのか………」

 

「あの時の感動は今でも忘れてません。それからですよ。私の道は、常にミト様だけを追い掛けていた。あの人の役に立ちたい。あの人の隣に立ちたい。それが、私の願いでした」

 

ミトへの異常なまでの執着は、ミトへの憧れでもあった。

 

その事を知り、カイは少しだけコユキの事を知れて良かったと思った。

 

「だからですよ。アンタみたいな男、邪魔でしょうがないんです」

 

次の瞬間、コユキは振り向き、カイの首目掛け剣を振った。

 

カイは咄嗟に刀を抜き、その攻撃を防御し、バックステップで後ろに下がった。

 

「何の真似だ!」

 

「邪魔な寄生虫野郎の排除ですよ。アンタさえいなければ、私はずっとミト様の傍に居られた。全部お前が悪いんだ!」

 

「……ここで俺を殺しても何もないぞ。それどころか、お前が疑われるだけだ」

 

「安心してくださいよ。私が疑われることはありませんから」

 

「何?」

 

「ゴドフリーが訓練先のダンジョンを変えたっての、アレは嘘ですよ。ゴドフリー達は今頃、55層の迷宮区に行ってるはずです。集合時間も、私が前以て嘘の時間を教えて、その後に正しい時間を教えました。実際にはゴドフリー達は10分前にギルドを出発してました」

 

「だとしても、俺たちが来ないことに気づけば…………」

 

「言ったでしょ?疑われないって」

 

その言葉には絶対的な確信の色が現れていた。

 

その自信が何処から来るのか、分からないカイだったが瞬時に理解した。

 

「まさか!」

 

「そうです。向こうにもいるんですよ。あの男、《黒の剣士》」を殺したくて堪らない奴が!私はその男と互いの殺したい相手を殺すために、共謀することにしたんです。筋書きはこうです。ゴドフリー率いるパーティーは、55層迷宮区にて、犯罪者プレイヤーの集団と遭遇。勇戦空しく3人が死亡。私とクラディールは、2人で犯罪者集団を撃退し、生還しました。これなら、誰にも疑われないですよ」

 

「クラディール………アスナの護衛をしていた奴か。だが、あの程度の奴にキリトが後れを取る訳がない。それは俺も同じだ。お前如きに、俺が殺せるかよ」

 

「……そうですね。私の実力じゃ、貴方には勝てません。そもそも、貴方を直接手に掛けたら、私がオレンジになってしまいます。だから、こうするんですよ!」

 

その瞬間、コユキは投げナイフを取り出しカイに投げる。

 

カイはその投げナイフを躱す。

 

そして、コユキの投げナイフはそのままカイの背後の壁に当たり、崩れ、そこから大量のモンスターが現れた。

 

「何!?」

 

「言ったでしょ。殆どのトラップは解除されたって。つまり、まだ解除されてない隠されたトラップがあるんですよ!」

 

コユキは《隠蔽(ハイディング)》スキルで姿を隠したのか、辺りにはいなかった。

 

その為、モンスターのタゲはカイに集中する。

 

おまけに、コユキの言葉を信じ、結晶アイテムは全て預けている。

 

離脱も即時回復もできない。

 

「くそっ!」

 

カイは刀を抜き、モンスターを薙ぎ払う。

 

幸か不幸か、モンスターの殆どは2足歩行型のモンスターの為、《業火刀》の対人特攻が刺さった。

 

対人特攻頼みによる通常攻撃の連撃と、クールタイムと硬直時間の短い《業火刀》のソードスキルを使い、モンスターを蹴散らしていく。

 

だが、全てのモンスターの攻撃を防ぐ事は出来ず、カイは徐々にHPを減らしていく。

 

カイは結晶無効エリアの事も考え、常日頃から結晶アイテムとは別に、ポーション類も携帯している。

 

何とかポーションを使い、HPを回復するも数は多くなく限界があった。

 

とうとうポーションも底を尽き、カイのHPはイエローにまでなっていた。

 

「くそ……どれだけいるんだよ………!」

 

HPも少ないが、それ以上に精神的な疲労が強かった。

 

先の見えない戦いに、カイは参っていた。

 

その為、背後からの攻撃に反応が遅れ、後頭部にキツイ一撃を食らった。

 

「がっ!?」

 

更に、膝を突いてしまい、そこにモンスター群が襲い掛かった。

 

咄嗟に防御に徹するも、到底防ぎきれず、《戦闘時回復(バトルヒーリング)》での回復も間に合わなくなり始めていた。

 

(ここまでか…………!)

 

自身の死を覚悟し、カイは思わず目を閉じた。

 

《待ってるよ》

 

だが、ミトの声が聞こえた。

 

その瞬間、カイは再び体に力を籠め、立ち上がった。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

“焔群”が焔を纏い、1回転するように振られる。

 

《業火刀》スキル、重範囲技《戦火灰塵》。

 

強力な範囲技に、モンスターは蹴散らされる。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「まさか、あれだけのモンスターをすべて倒すとは、驚きですね」

 

コユキがカイの背後から近寄り、《隠蔽(ハイディング)》スキルを解除すると同時に、疲弊しきったカイの無防備な背中を突き刺した。

 

「がっ!?」

 

「予定変更です。オレンジになっても構いません。貴方は、私がこの手で始末してやります」

 

HPが減っていくのをカイは見る。

 

(ごめん、ミト………約束、守れそうにない…………)

 

ミトへの別れを心の中で呟く。

 

その時、一陣の風が吹いた。

 

そして、その風はコユキへと向かい、コユキを吹き飛ばした。

 

「がっ!?」

 

吹き飛ばされた弾みでカイの背中からコユキの剣が抜け、地面に倒れそうになったカイは、誰かに受け止められる。

 

「ヒール!」

 

カイを受け止めた者は、瞬時に回復結晶でカイのHPを回復させた。

 

カイは自分を助けてくれた者を見る。

 

「ミ………ト………?」

 

「良かった………間に合った………!」

 

そこには、今にも泣き出しそうな表情のミトが居た。

 

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