ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第47話 流麗の涙

主街区《ミーシェ》に着くとシリカは、早速他のパーティーに勧誘された。

 

「彼女、人気なんだな」

 

「ええ、元々ビーストテイマー自体少ないし、元の容姿もあって中層ではアイドルも同じなんです」

 

「そんな彼女とコンビで居るとか結構鼻が高いんじゃないか?」

 

何気なしに、カイはレオにそう尋ねた。

 

「………そうですね」

 

レオは一瞬表情を曇らせるも、すぐに笑顔でそう言った。

 

その笑顔に、カイは何処か陰があるのに気づくも何も言わずに、静観した。

 

「あの!すみません!」

 

他のパーティーに勧誘されていたシリカは大きな声を出して、レオ達の元に戻る。

 

「あたし、今はこの人たちとパーティー組んでるんで」

 

シリカがそう言うと、熱心にシリカを勧誘していた1人の両手剣士がキリトとカイに近付く。

 

「おい、あんたら。見ない顔だが、抜け駆けは良くないんじゃないか?こっちは何日も前から、この子に声を掛けてるんだぜ?順番を守れよ」

 

「いや、そう言われても成り行きで……」

 

キリトがしどろもどろに答えていると、カイが前に出る。

 

「おい、抜け駆けとか言ってるけどよ、誰の勧誘を受けるかはこの子が決めることだろ」

 

「なんだと?」

 

「こっちからパーティー組まないかって言ったことだけど、決めたのはこの子なんだよ。そもそも、この子はレンタル品とかじゃないんだぞ。それなのに抜け駆けだの、順番だの………この子の事、なんだと思ってんだ?」

 

怒気を込めて放たれた言葉に、両手剣士のみならず周りに居たプレイヤーもビビらせる。

 

「あ、あの!」

 

そんな中、レオが動いた。

 

「俺たち急ぐんで!シリカ、行こう!」

 

レオは群衆から逃げるように、シリカの手を引いて走る。

 

その後を、カイとキリトも急いで追い掛けた。

 

「人気者なんだな、シリカは」

 

レオとシリカの2人に追いつき、キリトはシリカにそう言った。

 

「マスコット代わりに誘われてるだけです。それなのに“竜使い”なんて言われていい気になって…………ピナを………!」

 

ピナの事を思い出し、シリカは涙ぐむ。

 

「カイさんは否定してくれましたけど、私はレンタル品なんです。連れて行くと華があるから………私なんて所詮そんな物なんですよ」

 

「それは違う」

 

自分を卑下するシリカにレオが言った。

 

「シリカは立派なビーストテイマーだ。シリカ程、あんなに使い魔と、ピナと心を通わせてるビーストテイマーなんていない。ピナだって、そんなシリカだからあの時、身を挺してまで庇ったんだ。だから、シリカは自分に自信をもっと持っていいんだ」

 

「レオ君……うん、ありがとう。レオ君に言われると、嫌でも自信持てちゃうな。やっぱり、レオ君は凄いね」

 

「凄くなんかないよ。俺なんかよりシリカの方が…………

 

最後の方は小声でシリカには聞こえなかったが、カイとキリトの耳には聞こえた。

 

キリトはレオにどうしたのか尋ねようかと思ったが、カイがそれを止めたので尋ねるのを止めた。

 

カイとキリトは、そのままレオとシリカの案内で現在2人が拠点として止まっている宿屋《風見鶏亭》を訪れる。

 

「キリトさんとカイさんは、普段ホームは………」

 

「50層だけど、戻るのも面倒だし今日はここに泊まるよ」

 

「賛成だな。明日、一々待ち合わせするのも面倒だしな」

 

「是非泊って行ってください!ここ、チーズケーキが結構いけるんですよ」

 

「シリカ、そのチーズケーキがお気に入り過ぎてもう2週間もここに滞在してるんですよ」

 

4人でわいわいと話しながら、宿屋に入ろうとしたその時だった。

 

「あら、シリカにレオじゃない」

 

レオとシリカにとって、一番聞きたくない声が聞こえた。

 

「無事にあの森を抜け出せたのね。残念だけど、アイテムの分配ならもう終わったわよ」

 

現れたロザリアは嫌味ったらしくそう言う。

 

「アイテムはいらないって言いましたよね。私たち急ぐんで」

 

「あら?あのトカゲはどうしちゃったの?」

 

足早に宿屋に入ろうとするシリカだったが、ロザリアの言葉に足を止めてしまう。

 

使い魔はアイテムストレージに仕舞うことはできない。

 

そして、圏内であっても使い魔であればモンスターは街に入れる。

 

そのモンスターが居ないとなれば、理由は明白だった。

 

ロザリアはそれを承知で、聞いて来ていた。

 

「あらら、もしかして……」

 

ロザリアはうすら笑いを浮かべ、わざとらしく言葉を続けようとした。

 

「ピナは死にました」

 

だが、ロザリアが言葉を続けるより先に、シリカは答えた。

 

「でも、絶対生き返らせます!」

 

痛快と言う具合に笑っていたロザリアだったが、その言葉に僅かに目を見開き、小さく口笛を吹いた。

 

「へぇ~、じゃあ47層に行くんだ。でも、アンタらのレベルで攻略できるの?」

 

「できるさ」「問題ない」

 

シリカが答えるより、キリトとカイが答えた。

 

「そんなに難しいダンジョンじゃないしな」

 

「ま、こんな階層でイキッてるアンタじゃ無理かもな」

 

そう答えるカイとキリトを、ロザリアは値踏みするように見る。

 

「アンタらも、その子に誑し込まれて口?見たとこ、強そうには見えないけど」

 

「人を見た目で判断しない方がいいぞ、おばさん」

 

「おばっ!?」

 

カイがおばさんと言ったことに、ロザリアは怒筋を浮かべる。

 

「ほら、シリカ、レオ。さっさと宿屋に入ろうぜ。チーズケーキ以外にもおすすめの料理、教えてくれよ」

 

「できれば、香辛料がたっぷり効いたのがあると俺は嬉しいぞ」

 

そのままロザリアを無視し、カイとキリトは、レオとシリカの背中を押し宿屋へと入る。

 

「なんであんな意地悪言うんだろう……」

 

宿屋に入り、早速料理を注文し、キリトが持参した飲み物を飲んで一息入れていると、シリカはそう言い出した。

 

「ロザリアさんの事か?」

 

「うん、いい人じゃないってのはなんとなく分かってたけど、あそこまで意地悪なこと言ってくる人とは思ってなかったから………」

 

「確かに……なんでだろう?」

 

「2人は、MMOはSAOが初めてか?」

 

キリトの質問にレオとシリカは頷く。

 

「どんなオンラインゲームでも、長くプレイしているとプレイヤーキャラに身をやつし、人格が変わる人もいる。従来では、ロールプレイって言われてたけど、SAOの場合は違うと俺は思ってる」

 

そう言い、キリトは持っていたコップをテーブルに置く。

 

「こんな異常な状況だってのに、他人の不幸を喜ぶ奴、他人のアイテムを平気で奪う奴、そして…………殺しを楽しむ奴が多過ぎる」

 

「ま、そう言う奴は現実でも性根が腐ってるんだろうな。だからこそ、この異常な状況も、平気で悪事を働けるんだ」

 

カイは面白くなさそうにそう吐き捨てる。

 

「でも、俺だって人の事はあまり言えないかな」

 

すると、キリトは悲しそうな表情でそう言った。

 

「人助けだってろくにしたことないし、自分の保身のために、誰かを危険に晒し掛けた事も………」

 

「何言ってんだよ、キリト」

 

そんなキリトにカイは頭を軽くデコピンで弾く。

 

「お前は文句なしでいい奴だよ。でなきゃ、俺1人でここまで成長出来なかったしな」

 

そう言い、カイはカップの飲み物を飲み干す。

 

「だから………これからもいい奴で居てくれよな、相棒」

 

「………たっく、カイには本当に敵わないな………ありがとな」

 

拳をぶつけて笑い合うカイとキリトの様子に、シリカは少し羨ましいと思った。

 

レオとコンビを組んで1年近く経つが、カイとキリトのような関係には至れてない。

 

カイとキリトもコンビを結成した時期は、レオとシリカと大して変わらないが、カイとキリトの2人はまるで互いの命を預けれるほど、お互い頼れる相棒と認めた様な雰囲気だった。

 

シリカ自身、レオの事は信じてるし命を預けられる頼りになる相棒だと思ってる。

 

だが、レオはどう思っているのか。

 

それが分からなかった。

 

だからこそ、何も言わずに互いを信頼し合っているカイとキリトの雰囲気が羨ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事をとり、食後のチーズケーキを食べ終えた4人はそのまま部屋へと直行し、休むことになった。

 

だが、カイが休む前に47層について予習しておこうと言ったので、レオとシリカはカイとキリトの部屋に集合した。

 

4人がそろうと、キリトは1つのアイテムを取り出し、スイッチを押す。

 

すると、光が溢れ、それはアインクラッドの全体像を映し出した。

 

「うわ~、奇麗……」

 

「これってなんていうアイテムなんですか?」

 

「《ミラージュ・スフィア》って名前だ」

 

「第1層から攻略済みの層までの事が詳細に分かる、便利アイテムだよ」

 

そう言って、カイは47層のマップを映し出す。

 

「これが47層のマップだ。ここが主街区で、思い出の丘に向かうにはこの道で行くんだけど、この辺にちょっと厄介なモンスターが現れるんだ」

 

「本来なら階層の数字と同じレベルで問題ないからな。2人の今の装備なら、ノーダメージは難しいが問題なく倒せるはずだ」

 

「俺とカイもいるし、道中はあまり危険はないと思ってくれていい」

 

テキパキと47層の説明をしていく中、突然キリトが口を噤む。

 

「キリトさん?」

 

「しっ」

 

シリカが不思議そうに尋ねるも、キリトは静かにするように言う。

 

そして。カイに目配せをし、カイは無言で頷いて扉に近寄る。

 

「誰だ!」

 

勢いよく扉を開けるも、そこには誰もおらず階段を駆け足で降りていく音だけが聞こえた。

 

「ちっ!逃げられたか………」

 

「どうしたんですか?」

 

「盗み聞きされてたみたいだ」

 

「え?でも、宿屋の部屋の中の声は聞こえないはずじゃ……」

 

「《聞き耳》スキルってのを上げると聞こえるんだ。もっともそんなスキル上げてる奴はあまりいないけどな………」

 

「キリト、どうする?追うか?」

 

「いや、どうせもう転移結晶で逃げてるだろう。ともかく、重要な説明はもう終わったし、今日はもう寝よう」

 

キリトが話し合いを閉め、レオとシリカは自分の部屋へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*ここから先、シリカの知らない裏話です

 

夜、全員が寝静まるとレオはベッドから起き上がり、宿屋を抜け出した。

 

「こんな時間に、何してるんだ?」

 

その様子を、カイは見ており後を付けた。

 

カイはレオの様子がおかしいことに気づいており、少し心配して見張っていると案の定、レオは夜中に何処かへと抜けだしていた。

 

跡をつけると、そこは主街区からそう離れてはいないフィールドだった、

 

「ふっ!はっ!せいっ!」

 

レオは、カイからもらった小太刀の様な短剣《水禍之刃》を手に、モンスターと戦っていた。

 

「ほぉ……奇麗な剣捌きだな」

 

レオの動きは淀みなく流れる水の様で、戦いと言うよりは踊りの様な感じだった。

 

武器の性能の然る事乍ら、その技量で35層のモンスターを次々と倒していく。

 

あらかた倒し終え、一息入れるもレオはすぐに次のモンスターを求めて動き出した。

 

「おいおい、流石にオーバーワークだぞ」

 

討伐したモンスターの数が50を超えるかと言うところで、レオはとうとう膝を突き動かなくなった。

 

「やっぱりこうなったか」

 

カイはレオに近付き、レオを背負って主街区へと戻った。

 

「ん?あれ?俺は………」

 

「目が覚めたか?」

 

「え?……か、カイさん!?」

 

カイに背負われていることに気づき、レオは慌て出す。

 

「ちょっ下ろしてください!俺、やらないといけないことがあるんです!」

 

「それは、モンスターの行動が活発になる夜中に1人でレベリングする事か?」

 

カイに図星を突かれ、レオは黙る。

 

カイはそのままレオを背負って歩き、途中でベンチを見かけ、そこにレオを下ろし、自分も隣に座る。

 

「さて………話してみろよ」

 

「え?」

 

「惚けるなよ。悩んでるんだろ?今日1日の様子に加えて、夜中の無茶なレベリングで大体察せれる。シリカの事だろ?」

 

またしても図星だったらしく、レオは黙って下を向く。

 

「言わないなら言わないでいいけど、楽になるなら吐いた方がいいぞ?」

 

カイにそう言われ、レオは暫しの沈黙の後、口を開いた。

 

「実は、俺にも2つ名があるんです」

 

「そうなのか?」

 

「はい。“流麗”、それが俺の2つ名です。流れる様な剣捌きと動き、それにこの水色の髪。まるで、水が流れる様だからって付いたんです」

 

「なるほどな」

 

「でも…………シリカの2つ名の方が有名です。俺の2つ名なんて、5人中1人知ってればいい方なんです。シリカなんか、殆どの人が知ってます」

 

「あの人気ぶりを見れば、何となくわかる」

 

カイは。ここについて間もなくのことを思い浮かべる。

 

「そんな俺がシリカの傍にいることを、不服に思ってるプレイヤーは多いんです」

 

「可愛い顔してても、やっぱり男だからそう言う嫉妬の感情とか向けられるんだな」

 

「可愛いって………まぁ、そうなんです。今日絡んできたあの両手剣士の人、あの人に言われたことがあるんです。いつまでもシリカを独占するな、シリカも違う人と組みたいはずだって」

 

悔しそうに言うレオの言葉を、カイは無言で聞き続けた。

 

「俺、その言葉が悔しくて絶対見返してやるってずっと思ってたんです。でも………俺は馬鹿だった。大した実力もないくせに、“流麗”なんて2つ名を付けられて、自分は強いんだって思い上がって………………ピナを死なせた」

 

いつの間にか、レオの目から涙が溢れていた。

 

「俺がもっと強ければ………ピナが死ぬことはなかった………!いや、俺が一緒じゃなければ、俺よりも強い人が居ればピナは死ななかったし、シリカだって泣くことはなかった…………!」

 

「それで、夜中に1人レベリングか」

 

カイの問いに、レオは頷く。

 

「でも……精神的な疲労で倒れて、カイさんにここまで運んでもらってたらダメですよね」

 

そう言い、レオは《水禍之刃》をカイに差し出した。

 

「カイさん、これお返しします。俺には過ぎた代物です」

 

「それを俺に返して、お前はどうする?」

 

「シリカの傍に居ても、シリカに迷惑を掛けるだけですし、このままどっかに行きます。シリカに聞かれたら、俺は戦うのが怖くなって下層に降りたとでも言ってください。シリカには、俺以上に相性のいいパートナーが見つかるでしょうし」

 

暗い表情をしてるレオに、カイは溜息を吐いた。

 

「レオ、この馬鹿野郎」

 

すると、カイはレオの額にデコピンをした。

 

「あのな。この際だから言うが、お前以上にシリカに相応しいパートナーはいないぞ」

 

「でも………」

 

「いいか?何も、パートナーってのは強いから一緒にいるってもんじゃない。どれだけ信用してるかが大事なんだ。少なくとも、俺から見るとシリカはお前の事をかなり信頼してるぞ」

 

「…………そんなこと」

 

「ある。だって、お前はシリカに自信を与えてただろ?」

 

カイに言われ、レオはシリカを勧誘するパーティーから連れ出した時の事を思い出す。

 

「人に勇気や希望を与えるってのは、ある程度の力と良識を兼ね備えてれば与えられると思う。でもな、人に自信を与えるのは、その人にとって大切な人じゃないと無理だと思う」

 

「大切な……人……?」

 

「ああ。仮に、俺があの時、お前と同じことをシリカに言っても、シリカに自信は与えれなかったはずだ。お前だからこそ、自信を与えられた。お前とシリカが共に過ごした時間と、お前への信頼があるからこそシリカは自信を持てたんだ」

 

カイはレオの肩を掴み、視線を合わせる。

 

「自信を持て。お前は、誰よりもシリカに相応しい男だ」

 

「カイさん……俺、俺!」

 

カイの言葉に、とうとうレオの涙腺は限界を迎え、泣き出した。

 

「俺……シリカの隣に居たいです………シリカは俺のパートナー、相棒なんだって言いたいです!誰に何を言われようがシリカと一緒がいいんです!」

 

「そうか、今までよく頑張ったな。偉いぞ」

 

泣き出すレオを、カイは慰めた。

 

レオはずっとため込んでいたことを涙と共に掃き出し、30分後にはスッキリとした表情になっていた。

 

「カイさん、ありがとうございます。俺、少しだけ自分に自信が持てそうです」

 

「そうか。それなら良かった。それじゃあ、残り時間は寝るとするか。出ないと、明日……てか、もう今日だな。今日に響くぞ」

 

「そうですね。本当にご迷惑をお掛けしました」

 

2人は宿屋へと戻り、部屋の前で別れることになった。

 

「カイさん、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

レオを見送り、カイは自室に向かう。

 

「(吐いたら楽になる、か)俺も吐けたらどれだけ楽なんだろうな……」

 

カイは自身の過去を振り返り、ぽつりと小声で言った。

 

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