22層の森の中にある小さなログハウス。
現在その家には、カイとミトが暮らしている。
22層は低層の為、面積が広いが、その殆どを森林と湖で埋められており、主街区も小さく、フィールドにはモンスターも出現せず、迷宮区の難易度も然程大したことないため、攻略組がこの層にとどまった期間は3日程度だった。
だが、カイはこの層が何処となく好きで、暇さえあれば度々訪れていた。
そう言った理由もあり、ミトもこの層で暮らすのに賛成した。
更に言うと、キリトとアスナも22層にログハウスを購入したらしく、4人もとい2組の夫婦はご近所さんになった。
もっとも、ご近所さんと言っても、歩いて30分ぐらいは掛かる距離の為、言うほどご近所さん感覚はない。
そして、カイとミトが結婚して6日が経ったある日の朝。
カイは、いつも通り8時に起床した。
隣ではまだミトが寝ており、カイはミトを起こさない様にそっとベッドから抜け出そうとする。
すると、寝ていたはずのミトが手を伸ばし、カイを再びベッドの中へと引きずり込む。
「………ミト」
「もうちょっと寝よ……」
「もう8時だぞ」
「あと5分……」
「そう言って、5分で起きた奴を俺は知らない」
寝ぼけているミトの頭を撫で、カイは息を吐く。
「5分だけだぞ」
「うん……」
そう言いつつ、結局カイも眠るミトの頭を撫でたり、髪を触ってる内に睡魔に襲われ、2人仲良く二度寝をした。
「なぁ、ミト。流石にこんな生活駄目だと思うんだ」
「そう?私は結構好きだけど」
5分どころか3時間も寝た2人は、朝食兼昼食を食べており、食事をしながらカイはそんなことを言い出した。
「俺も同じ気持ちだが、ここに来てからの俺たちの生活を振り返ってみろ」
「そうね……」
カイの言葉に、ミトが記憶を振り返る。
朝は2人で8時に起床、のはずがミトの我儘で二度寝し、結局昼頃に起床。
朝食兼昼食を食べ終えると、そのまま居間でごろごろもといイチャイチャし、夕方になると夕食の買い出しを2人でし、夕食後は眠くなるまでお喋りをしてイチャイチャして寝る。
「見事に、買い出し以外で外に出てないわね……」
流石にこの生活はどうなのかとミトも思い、引きつった笑みを浮かべる。
「だろ?」
「それじゃあ、今日は何処か出掛ける?」
「まぁそう言う訳だな」
食後のコーヒーを飲みつつカイは言う。
「ほら、俺達ってさ。本来付き合うことからするべきだったのに、行き成り結婚しただろ?」
「そうね」
「だから、恋人らしいことを何一つしてないし、デートでもしないかって思ってさ」
「デート……か」
デートと言う単語を口に出し、ミトは少し顔を赤くする。
「なんか、口に出すと恥ずかしいわね……」
「そうだな。………で、どうする?デートするか?」
「……ええ、喜んで」
朝食兼昼食を終えると、2人は身支度を整え、家を出た。
「それで、何処に行く?」
「う~ん………47層、はベタか」
「いいじゃない。ベタってのは王道ってことよ」
「なら、王道らしく行くか」
行き先を47層にし、2人は手を繋いで向かう。
「攻略に来た時も思ったけど、本当に綺麗な場所ね」
《フローリア》に着くと、ミトは早速花壇の周りを巡る。
そんなミトの後をカイが追う。
「ミトは花は好きか?」
「まぁ人並みにね」
「へ~………ちなみに好きな花とかあるのか?」
「そうね………サネカズラだったかな」
「サネカズラ?」
「花を咲かせる樹木なのよ。夏頃に花を咲かせ、秋になると真っ赤な果実が付くの。まぁ、聞きなれない花よね」
「そっか……だったってことは今は違うのか?」
「うん。今は、アングレカム。熱帯アフリカ、マダカスカル、スリランカが原産地の珍しいランなの」
「どうして今はそれが好きなんだ?」
「…………あってるからかな」
「あってる?」
「………やっぱなんでもない!いいでしょ、好きに理由なんて付けるのはナンセンスよ」
そう言いミトはカイの手を取る。
「ほら、折角のデートなんだから楽しもうよ!」
「そうだな」
そのまま手を繋ぎ、47層を歩いて他愛のない話をしてる内に時間は過ぎて行った。
「もう16時ね」
「時間が経つのが速いな」
「と言うより二度寝したのがいけなかったわね」
「だな」
お互いに笑い合い、夕食の買い出しに向かう。
「あ、そうだ。ミト、ちょっとケイタに用があるから悪いけど、1人で行ってもらっていいか?」
「いいわよ。それじゃあ、後でね」
ミトと別れ、カイは《月夜の黒猫団》のギルドホーム兼店へと向かう。
「いらっしゃいませってカイじゃないか!」
「よぉ、ケイタ」
ケイタに挨拶をし、カイは近寄る。
「6日ぶりかな?新婚生活はどうだい?」
「ああ、充実してるよ。それで、例の物を受け取りに来たんだ」
「アレか。てことは、決心が付いたんだな」
「そんな所だ」
「待っててくれ。今取って来る」
そう言いケイタは店の奥へと向かう。
数分も掛からず、ケイタは小さな箱を手に戻って来た。
「お待たせ。要望通りに仕上がってるはずだけど、一応確認を頼む」
箱を受け取り、カイは中身を確認する。
「バッチリだ。助かったよ」
カイは満足そうに箱を仕舞い、ケイタに代金を支払う。
「毎度………カイ、頑張れよ」
「ああ、ありがとうな」
ケイタにお礼を再度言い、カイは店を出る。
「カイ」
店を出ると、丁度ミトがやってきた。
「ミト、買い物はもういいのか?」
「ええ。帰りましょう」
再び手を繋ぎ、転移門広場までの道を歩く。
カイはミトの歩幅に合わせ歩き、ミトはそんなカイの優しさに笑みを浮かべる。
「あのさ、カイ」
「ん、どうした?」
「またさ。今日みたいにデートしよう。今まで会えなかった分も」
「………そうだな。現実で会えなかった分、
そこで言葉を区切り、カイは立ち止まる。
「なぁ、ミト」
「ん?」
「俺は、昔のミトとSAOでのミトしか知らない。今の現実でのミトの事を知らないんだ。前、キリトと少し話したんだ。今でこそ、SAOは俺たちが今を生きてる場所だ。でも、ゲームをクリアしたら、この世界での出来事はなかったことになるんじゃないかって。それを聞いた時は、何を馬鹿なって思ったんだけど、ミトと一緒に居て幸せを感じれば感じる程、キリトの言葉が現実味を帯びてる様な気がするんだ」
「……そんなこと、言わないでよ。私は、誰かを遊びで好きになったりしない。それどころか、カイの事ずっと好きだったんだよ。SAOは仮想世界で、本当にここに私たちが居るわけじゃないけど、気持ちや想いは本物。私は、その気持ちや想いまでなくなるとは思わない」
ミトが真剣な表情でカイを見つめる。
「SAOクリアしても、私はカイと
「………ああ、そうだな。俺もそのつもりだよ。だから、これはその覚悟を形にしたものだ」
そう言い、カイはケイタから受け取ったあの箱を出そうとした。
「ミト、俺は………」
言葉と共に、箱を出そうとした。
その瞬間、カイの服の裾を何者かが引っ張った。
引っ張られたことに気づいたカイは思わず、後ろを振り返る。
そこには、10歳を超えてるかどうかと言った年頃の少年が居た。
少年は、カイの事をぼーっと見上げていた。
「えっと………君、俺に何か用かな?」
カイは箱を出すのを止め、少年の方を向き目線を合わせて尋ねる。
「………父上」
「………え?」
少年の口から発せられた言葉に、カイは思わずそう言い返した。
「父上、やっとお会い出来ましたね!」
そして、少年はキラキラと瞳が輝き、カイに抱き付く。
「ちょ、ちょっと!」
カイは慌てて少年は離し尋ねる。
「君、俺が父上って一体」
「どういうことだ?」っと聞こうとした瞬間、カイの首に刃が引っ掛けられた。
それはミトの鎌だった。
「カイ………どういう事?」
「ま、待て!ミト、俺に身に覚えがないんだ!」
「子供まで居て身に覚えがないとは言わせないわよ。相手は何処の誰?ちょっと話し合いで決着付けるから」
「絶対に話し合いで済まない雰囲気だぞ!」
圏内だからダメージは入らないものの、今のミトは殺意マシマシだった。
「止めてください、母上!」
すると、少年は今度はミトを母上と呼び、カイを庇う。
「……え?母上?」
「母上!父上を虐めないで下さい!」
カイを「父上」、ミトを「母上」と呼ぶ、謎の少年。
カイとミトは思わず互いに顔を見つめると、再び少年の顔を見る。
少年はそんな二人を不思議そうな顔で見た。
カイとミトを、父と母と呼ぶ謎の少年。
その正体とは?