翌日、教会の食堂では20人近い子供たちが2つの長テーブルの席に着き、朝食を摂っていた。
だが、静かに食べているわけがなく、大声で話しながら食事をし、騒がしい物だった。
「これは………すごいな……」
「そうだね………」
その光景に、キリトとアスナは驚いていた。
「でも、すごく楽しそうだな」
「本当にね……」
逆にカイとミトは子供たちの笑顔に、自身も笑みを浮かべていた。
カイ達は、昨日教会に泊まった。
あの後、ユイは数分で意識を取り戻したが、長距離を瞬時に移動する転移門を使うことにキリトとアスナが難色を示し、サーシャの誘いもあってキリトとアスナ、ユイは教会に泊まることになった。
つでだからと、カイとミト、ノアも教会へと泊った。
「毎日こうなんですよ。いくら静かにって言っても聞かなくて。」
「子供、好きなんですね」
「向こうでは、大学で教職課程を取っていたんです。学級崩壊とか虐めとか色々あるじゃないですか。それをなんとかしたくて、子供たちは私が導くんだって燃えてたんです。でも、こうして子供たちと過ごして、現実は中々うまく行かないなって実感したんです。むしろ、私の方が子供たちに助けられることの方が多くて………でも、それでいいって言うか……それが自然なんじゃないかって、思うんです」
「なんとなく、分かります」
そう言って、アスナは隣で食事をしているユイの頭を撫でる。
(それにしても、ノアの昨日のあの態度は一体………)
そんな中、カイは昨日のノアの様子を振り返っていた。
ノアとユイは、カイから見ても友好関係が築けてると思う。
だが、昨日、ユイが叫び気絶した時、ノアはユイを心配する訳でもなく、ましてやあの光景に怯える訳でもなく冷静にユイの事を見ていた。
(まるで何かを見極めようとする感じだったな………)
コーヒーを飲みながら、ノアを見る。
ノアはソーセージをフォークで刺し、美味しそうに食べていた。
すると、カイが見ていることに気づき、ソーセージに視線を移す。
「父上!もしかして、このソーセージが食べたいのですか?なら、どうぞ!」
そう言って、フォークに刺したソーセージをカイへと差し出す。
「………いいよ、ノアが食べな。父さん、ノアがたくさん食べるのを見るのが好きだしさ」
「そうですか!わかりました!では、もっとたくさん食べます!」
そう言って、ノアは残りの朝食を食べ始める。
(……気のせいか)
今のノアを見て、カイは自分は変なことを考えてるなと思い、コーヒーを飲み干す。
「……軍のことなんですが。俺が知ってる限りじゃ、あの連中は専横が過ぎることはあっても治安維持には熱心だった。でも昨日見た奴等はまるで犯罪者だった……。いつから、ああなんです?」
朝食を終えると、キリトがサーシャにそう尋ねた。
「方針が変更された感じがしだしたのは、半年くらい前ですね……。徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人と、それを逆に取り締まる人たちもいて。軍のメンバー同士で対立してる場面も何度も見ました。噂じゃ、上のほうで権利争いか何かあったみたいで……」
「内部分裂を起こした……まあ、あの人数ならしょうがないかもしれないな」
「でも昨日みたいなことが日常的に行われてるんだったら、放置はできないよな……ミト、アスナ、ヒースクリフはこのこと知ってるのか?」
カイはミトとアスナに尋ねた。
「多分知ってると思う。団長、《軍》の事にも詳しいし」
「でも、団長は攻略組のハイレベルプレイヤー以外にはあまり興味がないみたいなんだよね。
「だから、《軍》の行いに関してどうこうするために、攻略組を動かすなんてことしないと思う」
「となるど、俺達じゃ何もできないか」
キリトがそう呟き、コーヒーを飲もうとすると不意に顔を上げた。
「誰が来る、1人だ」
その言葉と同時に、教会のドアがノックされた。
「はじめまして、ギルド《ALF》所属の“ユリエール”と申します」
教会の一室で、銀髪の長髪をポニーテールにし、右腰にショートソード、左腰に黒い革製の鞭を装備した《軍》の女性プレイヤー、ユリエールが自己紹介をした。
「ALF?」
「あ、すみません。《アインクラッド解放軍》の略称です。正式名は、どうも苦手で……」
アスナの疑問に、ユリエールは答える。
「そうでしたか……はじめまして。ギルド《血盟騎士団》の第一副団長のアスナです。もっとも、今は一時退団してますけど」
「同じく第二副団長のミトです。私も一時退団中ですけど」
「俺はキリト。そこにいるのは俺のコンビで」
「カイです。どうも」
「《
ユリエールは納得したように頷く。
「……つまり、昨日の事で抗議に来たと言う事ですね」
アスナが警戒心を強め言う。
「とんでもない。むしろ、よくやってくれましたと、お礼を言いに来たぐらいです」
ユリエールの言葉に、アスナだけでなくキリトも、ミトもカイも疑問符を浮かべる。
「実は、今日は皆さんにお願いがあって来たんです」
ユリエールの話は、早い話《軍》のギルドマスター“シンカー”、シンカー派筆頭“コーバッツ”、そして、《
元々、ユリエールは《軍》のプレイヤーではなかった。
ユリエールはギルド《MMOトゥデイ》の一員で、そのギルドのリーダーをしていたのは日本最大のネットゲーム情報総合サイト《MMOトゥデイ》の管理人“シンカー”だった。
シンカーは少しでも多くのプレイヤーたちに、SAOの情報を広めるために日夜あらゆる情報を集め、それを分かり易くまとめ、記事にしプレイヤーたちに配布していた。
だが、ある時、キバオウ率いる《アインクラッド解放戦線》がシンカーにある話を持ち掛けた。
それが、《アインクラッド解放戦線》と《MMOトゥデイ》の合併だった。
キバオウは、《アインクラッド解放戦線》の人員、《MMOトゥデイ》の情報収集能力。
この2つが合わされば、最強のギルドになると考え、シンカーにギルド同士の合併を提案した。
最初こそ、シンカーは合併を拒否したものの、より信憑性の高い情報収集のためにと合併の話を承諾した。
ギルドは《MMOトゥデイ》を母体とし、シンカーがリーダー、キバオウがサブリーダーになったものの、全てキバオウのたくらみ通りだった。
ギルドが合併された後、旧《アインクラッド解放戦線》のメンバーは誰1人としてシンカーの命令を聞く者はいなかった。
そんな現状が続き、シンカーは放任主義となった。
結果、ギルドはサブリーダーであるキバオウが指揮を執り、《MMOトゥデイ》は《アインクラッド解放軍》と名が変わった。
これにより、キバオウはアインクラッド一の巨大ギルドの長となった。
だが、そんな天下も長続きしなかった。
25層でのフロアボス戦で壊滅的な被害を受け、《アインクラッド解放軍》はフロアの治安維持を行うことを建前に、ゲーム攻略から身を引いた。
それに伴い、キバオウはギルドの組織強化を行い、組織を大きくすることだけを考えた。
それにより、《軍》はより巨大になるも組織だけが大きくなり、中身はどんどん腐敗していった。
アイテムの秘匿、ギルド運営資金の横領、一般プレイヤーへの脅迫、徴税と称した恐喝、それにより《軍》への不満が貯まり、キバオウは失脚寸前だった。
そこで、キバオウは74層フロアボスを《軍》のプレイヤーのみで倒し、信用回復を図った。
しかし、ハイレベルプレイヤーと言っても力不足のプレイヤーパーティーではボス攻略は不可能で、結果《軍》のメンバーが2人死亡。
さらに、コーバッツ及びその部下9名がギルドからの離反を決意。
それに従い、旧《MTD》メンバーやキバオウのやり方に不満を持っていた者達も離反した。
特にコーバッツとその部下たちの離反が一番効いたらしく、キバオウ派に残ったプレイヤーはプレイヤーとは名ばかりのチンピラでしかなく、キバオウの力は弱まる一方だった。
「そこを狙い、シンカーは兼てより考えていたある作戦を実行することにしたんです」
ユリエールによると、コーバッツがギルドから離反する前、シンカーは密かにディアベルと連絡を取っていた。
放任主義になったとはいえ、日に日に増長していく《軍》の現状を、シンカーは何とかしたいと思っていた。
そこでディアベルと連絡を取り、1つの作戦を立てた。
それがギルド《アインクラッド解放軍》の解体だった。
巨大となり、腐敗したギルドの現状をなんとかするには今あるギルドを潰し、一から立て直す必要がある。
それ以外にもう手はなかった。
シンカーとディアベル、そして僅かに残ったシンカーの部下により、解散の準備が進められ、キバオウの権力が弱まった現在、シンカーはキバオウにギルド解散要求を提示した。
軍が今まで行ってきた悪事に、強行しメンバーを死なせたフロアボス戦、その他諸々を理由にギルドの解散を迫った。
「流石にここまでくれば、キバオウも観念し、大人しくギルド解散を受け入れる。そう思ってました。ですが、キバオウは強行策に出たのです」
今の地位を手放したくなかったキバオウは、シンカーを罠に嵌めることに決めた。
ギルド解散の指示を受け入れるフリをし、シンカーを呼び出した
ディアベルが解散の見届け人となり、シンカー、そして“コーバッツ”の3人が揃った所で、キバオウは回廊結晶で3人をダンジョンの奥深くへと放逐。
さらに、ギルドの解散式と言う体だった為、シンカーにコーバッツ、そして、ディアベルでさえ丸腰だった。
シンカーはともかく、コーバッツやディアベルであっても武器が無ければダンジョンからの帰還は難しい。
その為、3人は未だダンジョンの奥深くにいる。
「その、3人の生死は……?」
「《生命の碑》で確認した所、まだ無事なようです。恐らく、安全地帯に逃げれたのではないかと………ですが、かなりハイレベルのダンジョンの様で身動きが取れないみたいなんです。ご存じの通り、ダンジョンにはメッセージが送れませんし、ギルド
回廊結晶を利用し、モンスター群に放り込む。
これを《ポータルPK》と呼ばれ、かなり悪質だ。
勿論、シンカーもこのPKの事は知っていた。
だが、反目しているとはいえ同じギルドの、それもサブリーダーがそんなことするとは思わなかったのだろう。
ディアベルも、かつては共にフロア攻略を志し、ゲームクリアを目指した同志でもあるキバオウを信じたのだろう。
コーバッツぐらいは警戒はしたかもしれないが、シンカーやディアベルがキバオウの言葉を信じたこともあり、油断したと思われる。
「ギルドリーダーの証である《約定のスクロール》を操作できるのはシンカーとキバオウだけ。シンカーがいない今、ギルド解散どころかギルドの人事や会計は全てキバオウの思うがままです」
そこで、ユリエールは席から立ち上がり、頭を下げた。
「お願いします!私と一緒に、シンカーたちを救出に行ってください!私1人ではダンジョンを突破できない……《軍》の助力も当てにできない今、貴方方だけが頼りなんです!どうか……どうか!」
悲痛なまでに頼むユリエールに、カイ達は顔を見合わせた。
もし、ユリエールの言葉が嘘だったら。
同情を誘い、圏外に連れ出したところで襲う。
そう言う作戦の可能性もある。
その為、カイ達は簡単に頷くことが出来なかった。
「無理を言ってるのは分かってます!でも、《生命の碑》のシンカーの名前に、いつ横線が刻まれるかと思うと、もう胸が張り裂けそうで………!」
涙を流し懇願するユリエールにミトとアスナは、心が揺らいだ。
もし、自分がユリエールの立場で、キリトやカイがいつ死ぬかもわからない状況にいたら、きっと泣きながら攻略組の仲間に応援を求めるだろう。
だが、同時に2年間の経験から感傷的になってはいけないと警鐘を鳴らしている。
カイとキリトも同じらしく、決め兼ねていた。
「だいじょうぶだよ、ママ」
すると、ユイが口を開いた。
「その人、嘘ついてないよ」
「ユイちゃん、分かるの?」
「う~ん……うまく言えないけど……分かる………」
その言葉を聞き、キリトは腹を決めたのかユイの頭を撫でて言う。
「疑って後悔するより、信じて後悔しようぜ。大丈夫、きっとなんとかなるさ」
「相変わらずのんきな人ねえ」
アスナもユイの髪に手を伸ばす。
「ごめんね、ユイちゃん。お友達探し、1日遅れちゃうけど許してね」
「たっく、俺の相棒はお人よし過ぎるな」
「私の親友もね」
そう言い、カイはノアの頭を撫でる。
「ノア。父さんと母さん、今から大事な仕事してくるよ」
「ノアの友達探しも遅れちゃうけど、ごめんね」
「はい!俺は構いません!」
ノアからの許しも得て、カイ達はユリエールを見る。
「ユリエールさん、微力ながらお手伝いさせていただきます」
「大事な人を助けたいって気持ちは、痛いほどわかりますから」
「皆さん……ありがとう、ありがとうございます…………!」
ユリエールは感謝の涙を流し、そう言った。
ディアベルの言ってた厄介ごととは、アインクラッド解放軍の解体作戦の事でした