ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第58話 ノアの心

カイの赤い刀と、ノアの黒い刀がぶつかり合い火花を散らす。

 

互いに一歩も譲らない攻防に、キリトとアスナはハラハラしていた。

 

今日までのカイとノアのやり取りは、まさに親子そのものだった。

 

まるで本当の親の様にノアに接するカイと、本当にカイを父と慕うノア。

 

にも関わらず、2人は今戦っている。

 

「そこを退いて下さい。俺の目的はそこにいる《MHCP-001》のみです」

 

「それを言われてはい、そうですかって退けるわけないだろ?そもそも、女の子を虐めるのは感心しないぞ、ノア」

 

「………俺は、貴方の息子じゃない。父親面するのを止めていただこう」

 

ノアは刀スキル《矢車斬》を使い、回転して斬り掛かる。

 

カイはそれを受け止め、スキル発動が終わると同時に、ノアを斬り上げる。

 

「くっ!」

 

「結構強いな、ノア。でも、父さんの方が強いな」

 

「うるさい……」

 

ノアは苛立ちはじめ、刀を横薙ぎに振りカイの首を狙う。

 

カイはその攻撃を躱し、突きをノアへと向ける。

 

ノアはギリギリでカイの突きを躱し、後ろへと下がる。

 

「おかしい………」

 

その様子に、キリトがそう言った。

 

「キリト君、おかしいって何が……?」

 

「さっきの状態だと、通常攻撃よりソードスキルでの攻撃の方が有効だ。ノアは大振りの攻撃を躱された直後だったし、距離的にもソードスキルを外すこともない。それは、カイだって分かってるはずだ」

 

「それじゃあ、どうして………?」

 

アスナは今も尚戦い続けるカイとノアを見る。

 

最初こそ互角に渡り合っているように見えたカイとノアだったが、徐々に隙が増え始めた。

 

「《MHCP-001》は所詮プログラムの一つにすぎない……それも致命的欠陥を抱えた物。そんなの庇った所で何になる?」

 

「………ノア、ユイちゃんはプログラムじゃない。キリトとアスナの娘だ。それにな、ユイちゃんの抱えてる物は欠陥じゃない。感情だ。感情を持った存在を、俺はプログラムとは思わない。それは………お前も同じだ」

 

鍔競り合いながら、ノアの目を真剣に見て語るカイ。

 

そんなカイに、ノアは表情を変えない物の、その瞳には僅かに動揺があった。

 

「俺は……《ASMAP-001》。全システム維持管理プログラムだ。感情なんかない」

 

「……ミトの料理、うまいって喜んでたよな」

 

その言葉に、ノアは反応する。

 

「ミトの鎌捌きにも喜んでたし、俺の戦いを見て自分も戦いたいって興奮してたな。………あれでも、感情はないって言うのか?」

 

「………そうだ。《MHCP-001》に最初接触した際に、感情模倣機能が俺の機能の一部に入り込んだだけの、偶然の産物だ。本来の俺に、感情はない」

 

「そうか……だとしても、俺はお前に感情があると思ってる。そして、本当の息子だとも思ってる」

 

「………くだらない」

 

そう言い捨てノアは、カイとの間合いを一瞬で詰め、ソードスキルが放とうとする。

 

そのモーションをカイは知っており、キリトも知っていた。

 

刀スキル最上位技《散華》。

 

繰り出される4連撃の斬撃に、最後は上からあらん限りの力を込めた斬撃が振り下ろされる技。

 

その威力と速さは凄まじいもので至近距離から放たれた以上、カイに対抗する手段はなかった。

 

カイは体を捻り、体で隠す様に刀を構える。

 

(何をするつもりか知らないが……遅い!)

 

ノアが《散華》を放つ。

 

それと同時に、カイの右手が振られる。

 

そして、その手に“焔群”はなかった。

 

代わりにあるのは、両刃の刀身が大きく彎曲している剣があった。

 

その武器の名は、“ショーテル”、そして固有名“コーザルシュナイダー”。

 

カイの持つ、現時点で最強クラスの曲刀だった。

 

「はあああああああ!!」

 

曲刀スキル《リーパー》が発動され、ノアの刀に当たる。

 

それにより、発動直前だった《散華》はキャンセルされ、更にノックバックによりノアは仰け反る。

 

そして、繰り出される曲刀スキル最上位技《レギオン・デストロイヤー》。

 

「がっ!?」

 

6連撃の技が直撃し、ノアは刀を落とす。

 

それでも、倒れまいとその場に踏み止まった。

 

が、顔を上げるとそこにはカイが立っていた。

 

「ノア、お仕置きだ」

 

拳を強く握りしめ、赤いライトエフェクトを纏う。

 

「女の子に、刃を向けたらダメだろ!」

 

体術スキル《閃打》がノアの顔に当たり、そのままノアは吹き飛ばされ、壁に身体を叩き付けられる。

 

「勝負あり、だな」

 

カイはそう言って、“コーザル・シュナイダー”を仕舞う。

 

「まさか………体で刀を隠した時、瞬時に曲刀へと切り替えていたとは……」

 

「はっきり言って、刀より曲刀を使ってた時期の方が長いからな。基本技ぐらい目を瞑っても放てる」

 

カイはノアの様子がおかしいことに気づいており、瞬時に使用スキルを《業火刀》から《曲刀》へと変え、クイックチェンジに曲刀をセットしていた。

 

「俺が刀使いだから、《刀》でも《業火刀》でもないスキルを使えば不意を突けれると思ったし、《リーパー》は基本技でスキル発動後の硬直も短い。次の技を使うのにも、問題はない。どうだ?強いだろ?」

 

カイは歯を見せてニカっと笑う。

 

そんなカイを見て、ノアは何故かおかしくなり笑った。

 

「うん、流石だよ。父上」

 

その直後、ノアの身体は再び光り、子供の姿に戻った。

 

「…………記憶を失った直後は、まだ《ASMAP》としての自我はあったんだ」

 

ノアが語り出した。

 

「でも、次第にその自我は薄れて行って、最終的に自分が何のための存在が分からなくなった。そんな時だった。俺の中にあった、ある感情。喜び……安らぎ……でもそれだけじゃない……未知の感情。それがあった」

 

「それって………!」

 

ノアの台詞に気づいたのか、ユイが声を上げた。

 

「そうだよ、《MHCP-001》いや、ユイ。君が、キリトさんとアスナさんから感じ取った物だ。君はそれをキリトさんとアスナさんだけだと思ったみたいだけど、実はもう1組いたんだ。キリトさんとアスナさん以外にも、その感情を持った人たちが」

 

ノアはカイとミトを見た。

 

「カイさんとミトさん。貴方達も、キリトさんとアスナさんと同じ、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメーターを持っていた。俺は、ユイから得たその感情と、酷似したパラメータを持つ貴方達と接触した。そして、接触した時、《ASMAP-001》の“ノア”は壊れ、新たな存在の“ノア”が生まれた。お二人を、父と母と呼んだのはソレが理由です」

 

「そっか………本当に、私とカイの子だったんだね」

 

ミトはノアに近付き、抱きしめた。

 

「ありがとう……私とカイの所に来てくれて……ありがとう……」

 

「ミトさん………」

 

「と言うか、さっきからカイさんとかミトさんとか、堅苦しいぞ」

 

カイもノアの傍に近寄り、その頭を撫でる。

 

「父上と母上って呼んでくれよ」

 

「…………いいんですか?こんな……こんな俺でも……俺は……2人を父と母と呼んでもいいんですか?俺は……父上と母上の子供で………居ていいんですか?」

 

「「もちろん!」」

 

口を揃えて言うカイとミトに、ノアは涙を流す。

 

「父上、母上!ごめんなさい………ごめんなさい……!」

 

泣きじゃくりながら、カイとミトに抱き付き謝るノアは子供にしか見えなかった。

 

そんな姿にキリトもアスナも安堵し、笑った。

 

「取り敢えず、一件落着ってことでいいんだよな?」

 

ノアが泣き止むと、キリトはそう言って声を掛けて来る。

 

「いえ、キリトさん。まだ終わってません」

 

すると、ノアがそう言った。

 

「え?」

 

「言いましたよね?ユイは、そこのシステムコンソールにアクセスしたと。その際に、カーディナルのエラー訂正能力によってユイの破損していた言語能力が復元された。同時に、カーディナルは再びユイの存在を検知した。今はユイのプログラムをチェックされているでしょう。システムの命令に違反し、更に《MHCP》としての役割の範疇を超えた行い。彼女は異物として消去されます」

 

「なんだって!?」

 

ノアの言葉に驚き、キリトはユイを見る。

 

ユイは悲しそうに頷いた。

 

「なんとかならないのか!?」

 

「……パパ、ママ。これでお別れです」

 

「嫌!そんなの嫌だよ!これからじゃない!これから、楽しく……仲良く暮らそうって…」

 

「ユイ、行くな!」

 

キリトもアスナも必死にユイを止める。

 

「パパとママの傍に居ると、みんなが笑顔になれる。お願いです。これからも、私の代わりにみんなに笑顔を分けてあげてください」

 

ユイの黒髪が、服が、身体が光の粒子となって消え始める。

 

「いや、そうはさせない」

 

すると、ノアがそう言った。

 

ノアはそのままシステムコンソールへと向かい、掌をかざした。

 

巨大なウインドウが出現し、高速でスクロールする文字列が輝き、部屋を照らす。

 

そして、数秒後、消えかかっていたユイの身体は一瞬強い光を放った。

 

光が収まったその場には、ユイが呆然と立ってた。

 

「………え?」

 

「ユイ、どうしたんだ?」

 

「ユイちゃん?」

 

「カーディナルとの……システムとの接続が、切れてます………」

 

「何とか間に合った」

 

ノアは優しい笑みを浮かべ、ユイを見る。

 

「《カーディナル》が、君を廃棄するために、俺を使ったと言っただろ?そして、そのために俺の権限の一部を回復させた。仮にもSAOの全システム維持管理プログラムなんだ。君のデータをシステムから切り離すことぐらい造作もない」

 

「ど、どうしてそんなことを!?」

 

ユイが驚きの声を上げた。

 

「そんなことしたら、今度は貴方がカーディナルに目を付けられます!そうなったら、いくら《ASMAP》と言えども、カーディナルによって越権行為として消去されるのに!」

 

ユイの言葉に、全員が驚く。

 

「俺にできることはこれぐらい。ユイ、君に刀を向けて悪かった」

 

「だからってこんな………!」

 

「俺はただのプログラムに過ぎない。だが、同時に男でもある。男なら、それぐらいの責任を取るのが当然だ。ユイ………キリトさんとアスナさんなら、みんなを笑顔に出来る。だが、あの2人を笑顔に出来るのは君だけだ。ここで、君が消えてはいけない。全システム維持管理プログラムとして、君の存在はこの世界に必要だと判断する。だから……生きるんだ」

 

そう言いノアは、カイとミトを見る。

 

「父上……母上……すみません。さようなら………最期にもう一度俺を息子にしてくれたこと、嬉しかったです」

 

「待ってノア!お願い、行かないで!私……私……!」

 

ミトが泣きながらノアに抱き付く。

 

「ノア………後悔はないのか?」

 

カイは俯いたまま、ノアに尋ねた。

 

「……はい、父上。後悔はありません」

 

「そうか……流石は俺の息子だ」

 

カイは涙を流し、そう言った。

 

その言葉に、カイは無邪気に笑い、そして、消えた。

 

「う……うわああああああ!!!」

 

「くっ………!ノア………!」

 

ミトが、膝から崩れ落ち、泣いた。

 

カイも拳を握り、声を押し殺して泣く。

 

「ふざけるな………こんなの、認められるか!」

 

そんな中、キリトが大声で叫んだ。

 

「カーディナル!いや、茅場!そういつも、お前の思う通りになると思うなよ!」

 

キリトはそう叫び、コンソールを叩く。

 

「今ならまだ、ここのGMアカウントでシステムに割り込めるかも!」

 

ノアが出したような巨大なウインドウが出現し、高速でスクロールする文字列が輝き、部屋を照らす。

 

キリトは幾つかのコマンドを入力する。

 

小さなプログレスバーウインドウが現れ、横線が右端まで到達すると、コンソール全体が青白く輝き、フラッシュする。

 

それと同時に破裂音がし、キリトを吹き飛ばす。

 

「キリト君!」

 

吹き飛ばされたキリトにアスナが駆け寄るが、キリトは床に打ち付けた後頭部を撫でながら、ミトにある物を渡した。

 

それは、炎の形をしたオブジェクトだった。

 

「管理者権限が切れる前に、システムにアクセスして消去されかけていたノアのプログラムを切り離したんだ。流石にノア程の権限はないから、オブジェクト化して取り出すのが精一杯だった………すまない」

 

「それじゃあ………これって………!」

 

「ああ、ノアの心だ」

 

そう言うキリトに、カイは駆け寄り肩を掴んだ。

 

「キリト……!本当に……本当にありがとう……!俺、強がってたけど本当はノアと別れたくなくて………本当にありがとう……!」

 

「お前の気持ちぐらいお見通しだ。それに、ノアがユイの為に、命を賭してくれたんだ。なら、こっちもそれ相応のお返しをしないとだろ?」

 

「キリト……ありがとう………!」

 

「ミト……良かったね……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事ダンジョンを脱出したカイ達5人を、ディアベルたちが迎えた。

 

ノアが居ないことに最初は疑問を持ったが、全員の表情を見て何かを察したディアベルはそれ以上何も言わなかった。

 

その後、キバオウ達《アインクラッド解放軍》はディアベル立ち合いの元、正式に解体され、解体後、シンカーは再び《MTD》を復活させ、新聞屋として活動することとなった。

 

「ねぇ、キリト。ゲームがクリアされたら、ノアはどうなるの?」

 

帰り道、ミトがキリトにそう尋ねた。

 

「容量的にはギリギリだけどな。クライアントプログラムの環境データの一部として、カイのナーヴギアのローカルメモリに保存されるようになっている。ユイも、ノアがいう風に設定してくれてたみたいだから大丈夫だ。もっとも、向こうで展開させるのはちょっと大変だろうけど……きっとなんとかなるさ」

 

「キリト、何から何まで本当に助かった……ありがとうな」

 

再度キリトにお礼を言うと、ユイがカイとミトに近寄った。

 

「あの、カイさん、ミトさん………私の所為でノアが………」

 

申し訳なさそうにするユイに、カイは笑顔で頭を撫でた。

 

「ユイちゃん。向こうでまたノアに逢えたら、その時はまた友達になってあげてくれないか?」

 

「そうね。きっとノアも、ユイちゃんとまた友達になりたいと思うし」

 

「あ………はい!」

 

カイとミトに、ユイは笑顔でそう返事した。

 

「それと、たまにはウチに遊びに来ていいぞ。アスナも知らないキリトの秘密、特別に教えてやるよ」

 

「じゃあ、私はアスナの秘密でも」

 

「本当ですか!?はい、絶対遊びに行きますね!」

 

「ちょ、カイ!ユイに何を吹き込む気だ!?」

 

「ミトも!ユイちゃんに変な事教えたら承知しないわよ!」

 

キリトとアスナが慌てて、カイとミトは笑い、ユイも釣られて笑う。

 

その後、カイとミトはキリトとアスナ、そして2人に手を繋がれ帰って行くユイを見送り、家へと帰った。

 

「なんだが、手が寂しいな」

 

「でも……心はここにある」

 

そう言ってミトは胸の前で拳を握る。

 

「そうだな……いつかは分からないけど、またノアと3人で暮らそう」

 

「ええ、そうね。その時までは、また2人っきりだね」

 

ミトはカイの手を取り、そう言う。

 

「ノアには悪いけど、もう少し2人っきりなのを楽しむか」

 

「うん」

 

2人は手を離さない様にしっかりと繋ぎ、家へと帰った。

 

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