2024年11月5日
その日、22層には大勢のプレイヤーが集まっていた。
何故なら、今日はこの22層にある池に棲む主の魚を釣り上げるイベントをとあるプレイヤーが開催し、その主を釣り上げる光景を一目見ようと、様々な野次馬や釣り人プレイヤーが集まっている。
「よぉ、キリト。なんか凄いことになったな」
そして、カイとミトもこのイベントを見学に来ていた。
「カイ、お前も来たのか」
「楽しそうなことしてるからな」
このイベントの主催の一角を担うキリトに、カイが挨拶するとカイに誰かが、抱き付いた。
「カイさん!お久しぶりです!ミトさんも!」
「久しぶりね、ユイちゃん」
「ユイちゃん、久しぶり。少し大きくなったか?」
そう言い、カイはユイを抱え肩に載せる。
「この世界じゃ背は伸びませんよ」
「気分的にだよ」
「そうだ、クッキー焼いて来たけど、ユイちゃん食べる?」
「本当ですか!いただきます!」
カイとミトの2人に可愛がられるユイを見て、キリトとその隣にいるアスナはほっこりする。
今の3人は姪を可愛がる伯父と伯母みたいに見える。
「おや?キリトさん、お知合いですか?」
「あ、ニシダさん、紹介します。コイツはカイ。俺の相棒で、その隣がカイの奥さんのミトです。カイ、ミト。この人はニシダさん。この釣りイベントの主催者だ」
「これはこれは!ご夫婦でしたか!ニシダと申します!この度は、よくぞ当イベントにお越しくださいました!」
「カイです。今日は頑張って下さい」
「ミトです。大物、期待してますよ」
「はい!見事釣り上げて見せますよ!と言っても、私がするのはあくまで主をヒットさせるとこまで。そこからはキリトさん頼みです」
「キリト頼みって、何するんだ?」
ユイを肩に担いだまま、カイが尋ねる。
「ああ。主を釣り上げるのに、ニシダさんの筋力値じゃ足りないみたいでさ。それで俺が代わりに釣り上げるんだ」
「釣竿でスイッチか。面白いな」
そんなことを話てる内に時間は進み、とうとうメインイベントが始まった。
「え〜、それではいよいよ本日のメインイベントを決行します!」
ニシダがそう言うと、周りの釣り人プレイヤーからの歓声が上がる。
ニシダは長大の釣竿とその釣竿の先端に付けられた人間の二の腕ぐらいの大きさのある赤と黒の毒々しい模様のトカゲを手に現れる。
なお、釣り餌がトカゲと言うことにアスナは引いていた。
ニシダは大上段に釣竿を構え、一気に竿を振り、トカゲは飛んでいき、湖に沈んだ。
しばらくするとピクピクと浮が動く。
「き、来ましたよニシダさん!!」
「何の、まだまだ!!」
ニシダは、いつもよりもさらに爛々と輝かせ、竿の先を睨む。
その竿の先がいっそう深く沈み込んだ瞬間
「いまだっ!!」
ニシダが体を反らせ竿を引く。
「掛かりました!!あとはお任せしますよ!!」
釣竿を受け取ったキリトは、急に引っ張られ驚くも、すぐさま持ち堪える。
「うわっ!こ、これ、力一杯引いても大丈夫ですか?」
「最高級品です!思い切ってやってください!」
その言葉を聞いたキリトは全力を出し、竿が中程から逆Uの字に大きくしなる程に力を籠める。
「あっ!見えたよ!!」
アスナが身を乗り出し、水中を指差した
その言葉に全員が、湖面を注視する。
キリトが一際強く竿をあげると、何やら巨大な魚のようなものが湖から外に飛び出した。
その魚は、シーラカンスのような姿で全身から水滴を滴らせ、6本の足で地上に立っていた。
その光景に、殆どのプレイヤーが逃げ出し、キリトも釣竿を放り捨て逃げ出す。
「自分だけ逃げるなんてずるいだろ!」
キリトは一足先に逃げ出していたアスナとミト、そして、ユイを担いでいたカイに文句を言う。
その間にも、湖の主はずんずんと迫って来る。
「キリト君、武器は?」
「その、持ってきてない」
「しょうがないなぁもう」
そう言うと、アスナは愛用の
「付き合うよ、アスナ」
ミトも鎌を構え、アスナの隣に並ぶ。
「ありがとう、ミト」
アスナはお礼を言い、ミトと共に湖の主を待ち構える。
「キリトさん!カイさん!奥様達が危ないですよ!?」
キリトの隣にいるニシダが声を上げる。
「いや、任せておけば大丈夫ですから」
「あの2人ならあの程度は脅威にもなりませんよ」
「ママー!ミトさーん!がんばれー!」
湖の主が無数の牙の生えた口を開け、2人を捕食しようとした。
その瞬間、アスナは細剣スキル最上位技《フラッシング・ペネトレイター》で貫き、ミトが両手鎌スキル最上位技《スカーレット・ネメシスロード》で首と胴を一刀両断する。
湖の主を倒すと、ミトとアスナは武器を仕舞い、振り返る。
「よ、お疲れ」
「ナイスだったな、ミト」
「ママもミトさんも凄いです!」
「私たちだけにやらせるなんてずるいよー。今度何か奢ってもらうからね」
「もう財布も共通データじゃないか」
「あ、そっか」
「なら、沢山労ってもらおうかしら?」
「はいはい、マッサージでもなんでもござれだよ」
緊張感なく、自然と話すカイ達にニシダは目をパチパチさせながら口を開く。
「い、いや~、驚きましたね。奥さん、こんなにお強いとは………」
ニシダが声を掛けながら近寄ると、1人のプレイヤーが声を上げた。
「あ……あなた、血盟騎士団のアスナさん……?」
そのプレイヤーは前へと出てアスナを見る。
「そうだよ、やっぱりそうだ、俺写真持ってるもん!!」
それを皮切りに多くの若い男性プレイヤーが詰め寄る
「か、感激だなあ!アスナさんの戦闘をこんな間近で見られるなんて……」
「そうだ、サ、サインお願いしていいですか……?」
「あ!こっちはミトさんだ!」
「ええ!?あの《死線》のミト!?」
「マジだっ!!お、俺ずっとファンでした!握手いいですか?」
一瞬で男たちに囲まれ、アスナもミトもあたふたする。
「はいはい、下がれ下がれ」
「うちの嫁さんたちに近寄りたければ、まずは夫たる俺達を通してもらおうか」
「そうですよ!ママとミトさんは、パパとカイさんの奥さんなんですから!」
そんな男共を、カイ達が追い払う。
男共は、憧れのアスナとミトが結婚していると言う事実、おまけにアスナが子持ちと言う事にもショックを受け、嘆いていた。
唯一、ニシダは何が何だが分からないと言った具合に首を傾げていた。
「なんだか今日は大変だったわね」
「お陰でここに住んでるのがバレたな」
その日の夜、カイとミトは一緒のベッドに入ったまま会話してた。
「どうしよっか?」
「う~ん、ミトが嫌なら他のエリアに引っ越すか?」
「別に嫌じゃないけど、邪魔されたら嫌だなって思ってる」
「なら、ほとぼりが覚めるまで何処か別のフロアで隠れよう。この家を捨てるのは嫌だしな」
「なんか逃避行みたいね」
そう言い、ミトはカイに抱き付く。
「ねぇ、カイ。明日が何の日か覚えてる?」
「明日?」
ミトに言われ、カイは少し考える。
そして、思い出し、口を開いた。
「俺の誕生日か」
明日は11月6日。
カイの誕生日だ。
2022年の11月6日はSAOのサービス開始日で、カイはこの日を史上最悪の誕生日と言った。
2023年の誕生日は、カイがミトに教えて無かったため、ミトはカイの誕生日を祝えなかった。
「今年はしっかり祝いたいの。私だけじゃなくて、キリトやアスナ、ユイちゃんに、レオとシリカ、トバルとリズ、ディアベルとかとにかく沢山の人を呼んでカイの誕生日パーティーしましょう」
「いや、なにもそこまでしなくても…………俺はミトに祝ってもらうだけでも嬉しいぞ」
「駄目よ。今までできなかった分、一気に祝うつもりだから覚悟しなさいよ」
ミトはそう言って笑う。
「わかったよ、楽しみにしてる。それじゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
寝ようと、ベッドの傍の照明を消そうとしたその時だった。
カイ達に、1通のメッセージが届いた。