2024年11月6日
カイとミト、そして、キリトとアスナの4人は50層《グランザム》の《血盟騎士団》本部へと来ていた。
昨夜に送られてきたメッセージの送り主はヒースクリフで、75層フロアボスの件で重大な話があると言われた。
正直、気乗りしない状況だったが、75層はクォーターポイントと言うこともあり、激戦が想定され、話を聞くだけ聞くこととなった。
だが、ヒースクリフの口からは恐ろしい事実が告げられた。
「偵察隊が、全滅……!」
「何かの間違いじゃないのか……」
「残念だが、事実だ。昨夜、時間は掛かったものの、犠牲者を出すことなく75層の迷宮区のマッピングが終了した。同時に、75層フロアボスの部屋も発見。25層、50層の事を踏まえて、75層でも激戦が想定される。そこで、我々は5ギルド合同のパーティー20人を偵察部隊として送り込んだ」
ヒースクリフは抑揚のない声で、淡々と話を続ける。
「偵察は慎重に行われ、10人が後衛としてボス部屋前で待機した。しかし、最初の10人が部屋の中央に到達して、ボスが出現した瞬間、入り口の扉が閉まってしまった。扉は5分以上開かずに、鍵開けスキルや直接の打撃攻撃も無駄だったらしい。ようやく開いたと思ったら、部屋の中には、何も無かったそうだ。10人の姿も、ボスも。その後、黒鉄宮まで確認しに行かせたのだが……」
そこから先、ヒースクリフは語らなかった。
だが、それ自体が10人がどうなったかを物語っていた。
「10人も………そんな…………!」
アスナが声を絞り出すように言う。
「団長、まさか74層の時と同じ、75層も結晶無効化エリアだったんですか?」
ミトは冷静を装い、ヒースクリフに尋ねた。
「うむ。転移結晶で逃げ出さなかったと言うことは、そう言う事なんだろう。君たちの報告で74層のボス部屋が結晶無効化エリアだと言うことは聞いている。もしかすると、これ以降全てのボス部屋がそのような仕様になっている可能性がある」
結晶アイテムが使えないと言うことは緊急脱出も瞬時回復も不可。
つまり死ぬ確率が飛躍的に上昇することを意味する。
「だが、攻略を諦める訳には行かない。結晶による脱出が不可な上に、今回は出現と同時に退路が断たれてしまう。新婚の2組を召喚するのは不本意だが、了承してくれ」
「分かりました。だが、俺にとってはアスナの安全が最優先です。もし危険な状態になったら、アスナを守ります」
「それは俺も同じです。危機的状況になったらパーティーメンバーよりも、ミトを優先する」
「何かを守ろうとする人間は強いものだ。君たちの勇戦を期待するよ。75層ボス攻略戦は明日の午後1時に決行。それまでは、自由時間とする。では、解散」
「誕生日どころじゃなくなっちゃったわね」
その日の夜、カイとミトはベッドに座って一緒に寛いでいた。
「まぁ、こんな状況じゃやる気になれないだろ?」
「明日、ボス戦が終わったらしましょう。1日遅れちゃうけど、やっぱり祝いたいし」
「そうだな………」
カイはそこで言葉を区切り、ミトを抱きしめた。
「カイ?」
「……ミト、明日のボス戦なんだけど」
「参加するなって話ならお断りよ」
「でも、相手は10人のプレイヤーを5分で倒すほどの相手だ。できることなら、俺はミトに参加してほしくない」
「それで、自分だけ安全な場所に居ろって言うの?そんなの嫌。私は、もうカイから片時も離れたくないの」
「ミト…」
「絶対に生き残ろう。死ぬなら、一緒に死にたい」
「……バカ言うなよ。お前は死なない。俺が守る」
「うん。私もカイを守るよ」
そして、2人はどちらからともなくキスをした。
キスを終えると、カイは妙な高揚感に襲われ、そのままミトを押し倒した。
「ごめん、ミト。なんか……今、無性にミトが欲しくて堪らない」
「うん、いいよ……来て」
そこで部屋の灯が消え、2人は2度目の交わりを交わした。
翌日の11月7日。
昼近くに目覚めたカイとミトは、風呂で体を清め、簡単な昼食を摂り、装備の点検、アイテムの確認をし、家を後にした。
75層の転移門広場には大勢のプレイヤーが集まっており、その中にカイは見知った顔を見かけた。
「トバル!」
「ん?おお、カイ。それにミトも。お前らも参加するのか」
「偵察部隊が壊滅して、おまけに結晶無効化エリアともなれば、召集されるさ。と言うより、お前も参加するのか?」
「ああ。ヒースクリフの野郎に頼まれてな。フロアボス攻略なんざ、する気なかったが偵察部隊の壊滅に結晶無効化エリアと聞いちまったらな。迷宮区の攻略には参加しないが、今後は俺もフロアボス戦に参加する。ただの鍛冶師の腕なんぞでよければ、いくらでも貸してやるさ」
「お前が居てくれるのは心強いよ。助かる」
「それとだな、もう1人参加するぞ」
そう言って、トバルは自分の背後に隠れていた誰かを引っ張り出す。
「おらぁ!覚悟決めろ!」
「うわぁ!!ちょっと待って!心の準備が!」
「その声!」
聞こえた声に驚いていると、トバルが背後からそのプレイヤーを引っ張り出す。
「し、師匠……どうも」
「レオ!お前、何してるんだ!?」
「こいつも、今回のボス戦に参加するんだとさ」
「なんだって!?」
トバルの言葉に驚き、カイはレオを見る。
「レオ、お前本気なのか!?」
「………はい」
「何考えてるんだ!お前はまだ準攻略組クラスなんだぞ!それなのに、こんな危険な戦いに参加するなんて!」
「でも、師匠たちは参加します」
レオは強い決意を持った目で、カイに言う。
「俺はつい最近、レベルが80になったばっかです。この層で戦うのに必要な安全マージンも取れてません。それでも、できることをしたいんです!例え、師匠にどれだけ言われても俺はやります!」
「だからって………シリカはどうするんだ?」
「シリカにもちゃんと伝えてあります。その上で、必ず帰ることを約束しました」
「でも………」
「ま、男がここまで覚悟以って決めたんだ。それを尊重してやるのが師匠の務めってもんじゃないか?」
「トバル………」
「それに、レオは直接的な戦闘には参加しねぇ。コイツの役目は、後方でボスの攻撃を回避しつつ、HPのヤバいプレイヤーにポーションを渡すことだ。結晶が使えないとなれば、回復はポーションのみになるからな。他にも、何人か準攻略組クラスの奴らがその役割をする。《
トバルからのフォローも受け、レオはカイから目を離さずに見つめる。
「…………はぁ、無茶はするなよ。危険を感じたら、役割なんか放り捨てて自分を第一に考えろ」
「師匠……はい!」
話し終えると同時に、ヒースクリフと《血盟騎士団》のプレイヤーたちが現れ、広場が緊張の包まれる。
「欠員はないようだな。よく集まってくれた」
そう言うと、ヒースクリフは腰のバックから《回廊結晶》を取り出した。
「コリドー・オープン」
その言葉と共に《回廊結晶》は砕け散り、ゲートを展開した。
「さぁ、行こうか」
ヒースクリフと《血盟騎士団》が入り、続々と他のプレイヤーも入っていく。
カイはミトの手を握り締め、ゲートを潜った。
ボス部屋の前で全員が最終チェックを終え、戦闘態勢に入る。
「基本的には我々《血盟騎士団》が前衛で攻撃を食い止める。その間に、可能な限り攻撃パターンを見切り、攻撃して欲しい。準攻略組の諸君は、戦闘には参加せず、攻略組の者たちへのポーションの配布に徹してくれたまえ。《
ヒースクリフの言葉に全員が声を上げ、ヒースクリフが扉を押すと、扉はゆっくりと開く。
「死ぬなよ」
カイは隣に立つトバルと、その後ろで控えているレオに声かける。
「夢半ばで死んでたまるかっての」
「シリカと約束しましたから、絶対に死にません!」
死なない意思を見せる2人に、カイは笑い、最後に隣のミトを見る。
「ミト……必ず生き残ろう」
「ええ。必ず」
ミトもカイに笑い返すと同時に、ボス部屋の扉が完全に開かれた。
全プレイヤーが抜剣、抜刀する。
「戦闘開始!」
合図と共に、全員が突撃をする。
全員が突撃し、部屋の中央に固まる。
扉が閉まる音が部屋中に響く。
そして、辺りは静寂に包まれていた。
「おい」
あまりにも静かすぎる状況に、1人のプレイヤーが声を発した。
「上よ!」
すると、アスナが声を上げた。
全員が慌てて上を見上げると、其処にボスはいた。
ムカデのような骸骨。
一対の巨大な鎌。
名前は《The Skullreaper》、骸骨の刈り手。
スカルリーパーは攻略組を確認すると、一気に急降下してきた。
「固まるな!距離を取れ!」
ヒースクリフの言葉でプレイヤーが動き出す。
だが、恐怖で動けないプレイヤーが何人かいる。
「早く!こっちだ!」
キリトの声で、慌てて2人のプレイヤーが走り出す。
だが、間に合わず、鎌の餌食になり宙を舞った。
キリトとアスナが受け止めようと手を伸ばすが、その手はプレイヤーを掴むことなく、空を切った。
何故なら、プレイヤーが受け止められる寸前で体が無数のポリゴンになって散ったからだ。
この場にいる攻略組は、全員がハイレベルのプレイヤーたち。
そんなプレイヤーたちを一撃で倒す威力に、全員が目を見開き、呆然とした。
そんな中、スカルリーパーは新たな獲物を見つけ襲い掛かる。
だが、ヒースクリフが素早く動き、十字盾で鎌を防ぎ、プレイヤーを守った。
ヒースクリフに攻撃を防がれたスカルリーパーは、今度は別のプレイヤーを狙う。
今度はキリトが剣を交差させ受け止める。
だが、重すぎるのか鎌はキリトの肩に深く斬り込む。
そして、横からもう一つの鎌がキリトを狙う。
「キリト!」
カイは咄嗟にキリトを庇い、刀で鎌を受け止める。
(なんて威力と重さだ………!受けきれない!)
徐々に刀を押し戻され、鎌の先端がカイに刺さる。
「「はあああああああああああああ!!」」
その瞬間、ミトとアスナが飛び出し、ミトはカイを、アスナはキリトを襲う鎌を弾いた。
「二人同時なら!」
「受けきれるわ!」
「よし、鎌は俺達が食い止める!」
「皆は側面から攻撃をしてくれ!」
カイとミト、キリトとアスナがそう叫ぶと、ヒースクリフはそれを承知し、全プレイヤーに指示を出した。
「皆!彼ら4人が抑えてくれてる間に、ボスへと攻撃するぞ!」
「《
ディアベルもギルドメンバーに指示を出し、ボスへと攻撃を仕掛ける
「お前ら!ディアベル塾卒業生の力、今こそ発揮する時だ!行くぞ!」
「「「「おおおおおおおおおおおおお!!」」」」
シュミットも、《聖竜連合》所属でディアベル塾卒業生一同とのパーティーで、攻撃をする。
「貴様ら!後輩共に後れを取るな!最強は、我らディアベル塾第1期卒業生だということを示すぞ!」
「「「「イエス・サー!!」」」」」
コーバッツ率いるディアベル塾第1期卒業生たちのパーティーも果敢に攻撃をする。
「HPが半分以下になったら退却して下さい!ポーションは大量にあります!」
レオは準攻略組の補給部隊として走り回り、ポーションの配布から、HPの危ないプレイヤーに自ら近寄り、HPの回復をさせていく。
徐々にスカルリーパーのHPを減らしていく中、複数の悲鳴が上がった。
プレイヤーを襲ったのは、スカルリーパーの尾の先に着いた槍状の骨だった。
スカルリーパーの尾にも攻撃判定があるらしく、また数人の犠牲者が出た。
だが、瞬時にディアベルの指示で、《
(ミト!次の攻撃を左に打ち払うぞ!)
(了解!)
カイとミトは目を合わせるだけの意志疎通で鎌をさばき続ける。
キリトとアスナも同じらしく、2組は完璧に同期した動きで、鎌の猛攻を防ぐ。
周りを気にせず、とにかく目の前の攻撃にだけ集中し防ぎ続け、いつしか2組は目を交わさずとも攻撃を完璧のタイミングで防いでいた。
ボス戦は1時間にも及び、そして、とうとうスカルリーパーが地面に倒れ込んだ。
「全員、突撃!」
それを好機と見て、ヒースクリフが突撃の合図を出す。
全員が一斉に飛び掛かり、準攻略組も本来の役割を捨て攻撃に参加し、護衛していた《
カイとミト、キリトにアスナも防御を捨て、スカルリーパーへと攻撃をする。
様々なライトエフェクトを撒き散らし、スカルリーパーにダメージを与えていく。
そして、スカルリーパーは絶叫を上げ、消滅した。