キリトからのメール通り、ミトはすぐにエギルの店へと向かった。
煤けたような黒い木造で、小さなドアの上に金属製の看板があり、《DiceyCafe》と刻まれている。
扉を押し開けると、カランっとベルの音が響く。
カウンターにはエギルがおり、そして、カウンター席にキリトが居た。
「よぉ、久しぶりだな。ミト」
「ええ、久しぶりね。エギル」
久々の再会に、ミトとエギルは軽く挨拶を交わす。
「さて、エギル。役者は揃った。あの写真について話してくれ」
「そうね。その為に、来たのよ」
「分かってるって。その前に、コイツを見て欲しい」
そう言い、エギルはカウンター下から何かを取り出し、ミトとキリトの前に置く。
「これって……ゲーム?」
「《アミュスフィア》っていうナーヴギアの後継機対応のMMOだ」
「ってことは、これも、VRMMOか」
キリトが手に取り、パッケージに掛かれたタイトルを読み上げる。
「あるふ……へいむ……おんらいん?」
「アルヴヘイムって発音するらしい」
「意味的には、妖精の国って所かしら」
「妖精?なんかほのぼのしてそうだな。まったり系か?」
「そうでもないぜ。どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」
「どスキル制?」
聞いたこと無い言葉に、ミトが聞き返す。
「いわゆる《レベル》が存在しないらしい。各種スキルが反復で上昇するだけで、HPもたいして上がらない。戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、ソードスキルなし、魔法ありのSAOってところだ」
「PK推奨ってのは?」
今度は、キリトが質問をする。
「プレイヤーはキャラメイクでいろんな種族を選ぶわけだ。違う種族ならPKできるんだとさ」
「確かにハードだ。だけど、そんなマニア向け仕様じゃ、人気で無いだろう」
「それがそうでもない。今、大人気だそうだ。理由は《飛べる》からだそうだ」
「「飛べる?」」
ミトとキリトがハモる。
「妖精だから、翅がある。フライト・エンジンとやらが搭載されていて、慣れると自由に飛びまわれる」
「凄いな、翅はどう制御するんだ?」
「さあな。だが、相当難しいらしい。初心者はスティック
飛ぶと言う未知の体験に、ミトとキリトは思わずゲーマーとしての血が騒ぎ、挑戦したいと思ってしまった。
だが、すぐにそんな雑念を捨てエギルに問う。
「それで、このゲームとアスナがどう関係してるんだ?」
エギルは、再びカウンター下から何かを取り出す。
今度は例の写真を印刷した物だった。
「どう思う?」
「……似ている」
「そうね」
「やっぱりそう思うか」
「早く教えてくれ、ここは何処なんだ!」
キリトが大声を上げてエギルに問い詰める。
「その中だよ。アルヴヘイム・オンラインの」
エギルは手元にあるパッケージを引っくり返し、後ろのイラストの真ん中にある樹を指差す。
「世界樹、と言うんだとさ。9つの種族に分かれたプレイヤーは世界樹の上にある城に、他の種族に先駆けて到着する事を競ってるんだ」
「なら、飛んで行けばいいんじゃ……」
「滞空時間があって、無限には飛べないらしい。でだ、体格順に5人のプレイヤーが肩車をして多段ロケット方式で樹の枝を目指した」
「ははは、なるほど。馬鹿だけど頭いいな」
「だが、ぎりぎりで到着できなかったそうだ。でも、到達高度の証拠に5人目が何枚か写真を撮った。その1枚に巨大な鳥籠が写ってた」
「鳥籠?」
「そいつをぎりぎりまで引き延ばしたのが、その写真だ」
「でも、どうして、アスナがゲームの中に?」
キリトがもう一度パッケージを見ると、いきなり険しい顔になった。
「ミト!これを見ろ!」
キリトに言われ、ミトはキリトの手元のパッケージを見る。
そこには、《レクト・プログレス》の名があった。
「これって!」
「ああ………恐らくだが、ここに行けば………」
ミトとキリトは互いに頷き合う。
「エギル、これ、貰って行ってもいいか?」
「構わんが、行く気なのか?」
「この目で確かめる」
エギルは心配そうにキリトを見る。
キリトも心では、何かまた嫌なことが起きるのではと思ってる。
だが、キリトはその恐怖を振り払うかのように笑う。
「死んでもいいゲームだなんてぬるすぎるぜ」
「はぁ………こんな事だろうとは思ったよ」
そう言い、エギルはもう1つALOのソフトを出す。
「ミト、持って行きな」
「エギル、いいの?」
「ああ。俺も着いて行きたいが、都合が悪くてな。すまないが、お前たちだけで行くんだ」
「ありがとう」
ミトはお礼を言い、ソフトを鞄に仕舞う。
「ハードを買わなきゃな」
「ナーヴギアで動くぜ。アミュスフィアはナーヴギアのセキュリティ強化版でしかないからな」
「そいつは助かる」
「ありがたい話ね」
本来なら、ナーヴギアは危険なものとされ、帰還した全てのSAOプレイヤーから回収しているが、ミトとキリトは密かに隠して持っていた。
「助け出せよ。アスナを。でないと、俺たちの戦いは終わらない」
「ああ、いつかここでオフをやろう」
「必ず連れ戻してくるわ」
3人は拳を合わせそう言い、ミトとキリトは店を出た。
家に着くと、ミトはすぐさま親の都合を確認した。
ミトの両親は共働きで、よく家を空けてることが多い。
幸いにも、今日はミトの母親は夜遅くまで帰って来ないし、ミトの父親も泊まりの仕事で明日まで帰って来ない。
それを確認し、ミトは自室へと向かった。
コートを脱ぎ、ソフトを取り出し、ナーヴギアの電源を入れ、ROMカードをスロットに挿入する。
そして、ベッドに横になりナーヴギアを被る。
「カイ………お願い、力を貸して」
祈る様に呟き、ミトは2年ぶりにあの言葉を唱えた。
「リンク・スタート!」
暗闇の世界に飛び、そして、虹色のリングを潜り抜けるとアカウント情報登録ステージについた。
『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。最初に、性別と名前を入力してください』
柔らかい女性の声で、案内される。
性別は女で、名前は愛着のある《Mito》と入力した。
『それでは、種族を決めましょう』
「そう言えば、9つの種族が居るんだっけ。どれがいいのかしら」
碌に下調べをしてなかった為、ミトはどれにするか悩んでいた。
「
ミトは目に付いた
理由としては、髪の色が紫色かかってるからだ。
『それでは、
その言葉を最後に再び光の渦に巻き込まれ、次に感じたのは浮遊感だった。
そして、ミトは高山地帯にある洞窟を使った
徐々に中央の洞窟に近づいて行く。
すると、急に映像がフリーズした。
あちこちでポリゴンが欠け、ノイズが走る。
「な、何!?」
喚く暇もなく、再び落下し、暗闇の中に落ちていく。
そして、ミトは森の中に落下した。
同時刻、
そこに1人のプレイヤーがいた。
黄緑色の髪に、背には細身の両手剣を背負ったそのプレイヤーは困り顔で辺りを見渡す。
「しまったな……リーファとレコンと逸れてしまった」
つい先ほどまで、一緒に狩りをしていたパーティーメンバーを思い出す。
いつも通り、顔見知りとなった仲間4人とリアルでも知り合いのリーファとレコンの7人で中立域のダンジョンを巡っていたら、
その混戦の中、彼は仲間と逸れ、現在1人で行動していた。
「まずいな……回復ポーションも心許ない。ここで襲われたら一溜りもないな。ここは俺だけでも《スイルベーン》に戻った方がいいかもな」
彼はそう判断し、背中にある翅を確認する。
飛行力が回復した証である、薄緑色の燐光が翅を包んでいた。
「よし、行くか」
そう言い、コントローラーを使用せずに飛ぶ、ALOの一流戦士の証“随意飛行”で彼、“ジーク”は夜の空を飛んだ。