「キャッ!」
森の中に落下したミトは、軽い悲鳴を上げる。
「イタタッ」
腰を押さえながら立ち上がり、辺りを見渡す。
「
突如送り込まれた森の中で、ミトはそう呟く。
「そうだ、ログアウトボタンは……」
アナウンスで聞いた通りに左手を振り、メニューウィンドウを出す。
メニューを操作し、一番下に《Log Out》のボタンを見つける。
「あった」
安堵の溜息を付き、試しに押してみる。
すると、《フィールドでは即時ログアウトはできません》と表示が出て《YES》《NO》の表示が出た。
ミトは《NO》を押し、今度はステータスを覗く。
「え?」
思わず口から短い言葉が漏れた。
《Mito》の名前の下に
ここまでは良かったが、その下にある取得スキル欄には複数のスキルが入っていた。
《両手鎌》《識別》《体術》《投剣》といった戦闘系スキルから、《料理》などの生活系スキルがあった。
しかもいくつかは完全習得されていて、他のスキルは800~900代になっている。
「一体どういうこと?」
バグかと思ったが、よく見るとスキルの数値に見覚えがあり、ミトは少し思案する。
《両手鎌》1000
《武器防御》1000
《戦闘時回復》882
《軽金属装備》1000
《投剣》954
《体術》912
《軽業》899
《料理》1000
「あ、SAOと同じだ」
ようやく、その数値全部、ミトがSAOで習得していたスキルの熟練度と同じだと言うのに気づく。
いくつか欠損しているスキルもあったが、確かにミトが習得していたスキルだ。
「どうなってるの?ここはSAOの中なのかしら?」
不安を抱き、今度はアイテムウィンドウを出す。
そこには漢字やアルファベット、数字の羅列が並んでいた。
「うわ、文字化けしてる。多分、これはSAOで私が持ってたアイテムね」
そう思いながら、画面をスクロールさせると、ミトはある物を見つけた。
「嘘……どうしてこれが………!」
文字化けしてるアイテム群の中で、2つだけ文字化けしてない物があった。
《イクシオン・サイス》と《ASMAP-001》。
ミトがあの世界で愛用していた鎌と、カイとの息子であるノアの心。
その2つが無事だった。
「まさか………!」
ミトは《ASMAP-001》をタップし、炎の形をしたオブジェクトを取り出す。
そして、震える指で2度タップする。
すると炎の様な明るい赤色の光が迸り、数秒後、光が収まるとそこにはミトとカイの息子、ノアが立っていた。
「………ノア?」
「ん?………母上?」
久しぶりに呼ばれた名に、ミトは目頭が熱くなり、ノアへと抱き付いた。
「ノア!良かった……また会えた!」
「母上………お久しぶりです!」
ノアとの再会を果たし、暫く経つとミトはノアにあることを告げた。
「ノア、今から言う事をよく聞いて」
そして、ミトはノアにカイが死んだことを話した。
「そんな………父上が………」
「ごめんね、ノア。カイを救えなかった………ダメな母親で、ごめんね………」
「………いえ、母上が謝る必要はありません。父上は、きっと最後の時まで母上の事を想っていたに違いありません。父上が決めた事なら、それを尊重するのが息子である俺の役目です。だから、謝らないで下さい」
「ノア………ノアは凄いな。私よりずっと大人だね」
「父上と母上の子ですから!」
ノアは腰に手を当て、胸を張って答えた。
「そっか。それでなんだけど……ノア、いくつか聞きたいことがあるの」
カイの死を伝え、ミトはノアにここまでの経緯を語った。
SAOプレイヤーの内、300人近い人間が未だに意識が戻らない事。
そして、その中にアスナが居ること。
アスナと思しき人物が、このALO内に監禁されてること。
ミトは、キリトと共にアスナを救う為ALOに来た事。
最期に、スキル熟練度と文字化けしなかった《イクシオン・サイス》の事。
それらを伝えると、ノアは少し目を閉じ、静かになった。
数秒後、目を開きミトを見る。
「解りました、母上。どうやら、このALOはSAOのサーバーをコピーした物です。俺がこうしてSAOの時と同じ姿で再現できているのが、何よりの証拠です。また、セーブデータのフォーマットもほぼ同じな為、共通するスキルの熟練度は引き継がれたんでしょう。HPとMPは形式が違うから引き継がれなかったみたいです。所持アイテムは、ALOとは別物なので全て破損したと思われます」
「ちょっと待って。それが本当なら、どうして《イクシオン・サイス》は無事だったの?」
ミトはアイテム欄にある《イクシオン・サイス》を見つめ、尋ねる。
「う~ん、考えられることとしてはALOに《イクシオン・サイス》が存在していて、そのまま引き継がれたと言う事ですね」
「そんなまさか………アレは、リズが作ったオーダーメイドで世に2つとない武器よ。それが偶々ALOにも存在するなんて………あり得ないわ」
「ですが、それ以外に可能性は思いつきません」
「う~ん、取り敢えず武器の件は一旦保留ね。このアイテム群、やっぱ破棄するべき?」
「はい。スキル熟練度に関しては、プレイ時間と比較すれば不自然ですが、システム的には問題ありません。ただ、破損したアイテムに関しては、エラー検知プログラムに引っ掛かるといけないので、破棄するべきです」
「分かった………ねぇ、《イクシオン・サイス》はどうかしら?」
《イクシオン・サイス》が無事だった理由については保留になったが、武器として使っていいのかは別問題だったので、ミトはノアに尋ねる。
「それも問題はないです。《イクシオン・サイス》は、完全にALO内に存在するアイテムとなっているので、大丈夫です」
「そう。分かった」
ミトは頷き、破損したアイテム群を処理し、初期装備の片手剣を外し、《イクシオン・サイス》を装備する。
「ところで、ノアはこの世界だとどうなってるの?」
「俺ですか?」
ノアはSAOでは全システム維持管理プログラム、通称《ASMAP-001》、としてSAOの維持と管理をするはずだった。
最もその役割は、《カーディナル》が行うことになり、ノアはその役割を果たすことはなかった。
「どうやら、この世界のプレイヤーサポート用の疑似人格プログラム、《ナビゲーション・ピクシー》と言う存在らしいです」
そう言うと、ノアの身体は再度光り、今度は体長10㎝ぐらいの、背中に半透明の翅が2枚生えた、緑色の服を着た姿になった。
「これが《ナビゲーション・ピクシー》の姿みたいです!」
「あら、随分と可愛らしい姿になったわね」
「か、可愛らしい………男としては、可愛いよりカッコよくありたいです………」
「今のノアはカッコいいより、可愛いが勝る時期よ」
そう言い、ミトはノアに手を差し伸べる。
ノアはその手に乗り、ミトはそのまま肩に載せる。
「さて。ここで止まってる暇はないわ。ノア、世界樹って所に行きたいんだけど、ナビ頼める?」
「任せてください、母上!」
ノアがそう言った次の瞬間だった。
突如、森の奥から
「ん?なぜここに、
「ああん!?おいおい、今日はついてるぜ!
ミトもとい
第一印象として、
そして、ミトはそんな
「ねぇ、そこの両手剣持ってる人」
ミトは背負っていた鎌を構え、
「あの男、私が狩ってもいいかしら?」
「いや、流石にそれはキツイと思うぞ?相手の装備から、かなりの実力者だ。初心者の君では、勝つのは………」
「なら、無理だと思ったら割込みでもなんでもしていいわよ?ま、私が勝つけどね」
鎌を手に、ミトは
「おいおいおい!
「良く喋る口ね。ま、どんな武器でも使い手次第ってのは賛成ね。それと……」
ミトがそう言った次の瞬間、ミトは既に
「へぇあ!!?」
「こっちは2年間、毎日鎌を振り回してたのよ」
その言葉を最後に、ミトは高速で
「ぐあああああ!?」
「何、この小さい炎?」
「それは、
「へー」
そう言われミトは暫く黙っていると、炎は消滅し消えた。
「取り敢えず、危ないところ助かった。正直、ポーションが残り僅かで、余計な戦闘は避けたかったんだ」
「お礼ならいいわ。あの
「そうか。だとしても、助けられて恩返しもしないのは俺の道理に反する。せめて、一杯奢らせてくれないか?」
「そうね………それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうわ。こっちも情報とか欲しかったし」
「情報?」
「ええ。特に、あの樹についてね」
ミトは遠くに見える、世界樹を見てそう言う。
「樹とは、世界樹の事か?」
ジークの問いに、ミトは頷く。
「いいだろう。こう見えて俺は結構古参だ。それなりの情報を期待してくれ」
そう言い、ジークは手を差し出す。
「自己紹介が遅れた。俺は“ジーク”。見ての通り、
「ミト、
ミトはそう言って、肩に居るノアを紹介する。
「ノアです!母上共々、よろしくお願いいたします」
「ふむ……随分と礼儀正しい妖精だな。こちらこそ、君の母上に命を助けられた。感謝する」
ノアに頭を下げるジークがおかしく、ミトは思わず笑う。
「じゃあ、少し遠いが、北の方に中立の村がある。そこまで行こう」
「あれ?でも、スイルベーンって街の方が近いんじゃない?」
ミトはマップを開きながら、尋ねる。
「確かに近いが、あそこは
「大丈夫よ。倒せなくても制圧する技ぐらいあるから。それに、いざとなったらジークが私の身分を保証してくれればいいでしょ?」
「なるほど……一理ある。ならば、街にいる間は俺と行動を共にしてくれ。流石に、俺の目が届かない範囲では、どうしようもないからな。では、行こう」
そう言うとジークは背中からは翅を出す。
「あ、そう言えば飛べるんだっけ。あれ、でも飛ぶにはコントローラーが居るんじゃ……」
「ん?……ああ、コントローラーを使わなくても飛べるんだ。“随意飛行”と言って、イメージで空を飛ぶんだ。と言っても、ふわっと飛ぶ感じではなく、背中から仮想の骨と筋肉が伸びてると想定して、それを動かす。そうだな………ドラゴンが空を飛ぶ時をイメージすると分かり易いだろう」
あまり分かり易くないイメージだが、ミトには通じたらしく、ミトは少し背中を内側に収縮するように動かす。
すると、わずかに体が浮いたが、すぐに翅は動きを止めて、地面に降りてしまった。
その感覚を忘れないうちにもう一度動かすと、今度は高く浮いた。
「やった!浮いたわ!」
「うむ、その調子なら大丈夫そうだ。少し、この辺りを飛んで慣れてみてくれ。飛行時間に気を付けてな」
ジークに言われ、ミトは空を飛び、飛行に慣れる練習をする。
数分後には、ミトは“随意飛行”を完全に物にし、空を縦横無尽に飛んでいた。
「ここまで上達が早いとはな。流石の腕だ」
ジークはそう言い、空を飛んでミトに近寄る。
「では、《スイルベーン》に向かおう。ついて来てくれ」
ジークの案内の元、ミトはノアと共に《スイルベーン》へと向かった。
何故、ミトの愛鎌《イクシオン・サイス》が無事だったのか。
その理由は、いずれ明かします