翌日の午後1時半。
1人の少年が、学校へと来ていた。
今の時間は5時間目が始まったぐらいで、この時間に歩いている1年生や2年生はおらず、自由登校の3年生も高校入試直前の集中ゼミナールの受講生が殆どで、こんな時間に校内を歩いているのは推薦入試組の者だけだった。
「あ、花部君!」
「ん?ああ、桐ヶ谷さん」
振り返った少年の名は、花部順樹。
そして、順樹を呼び止めた少女の名はキリトこと桐ヶ谷和人の妹、桐ヶ谷直葉。
ALOではジークとリーファの名でプレイしている。
「そっちはいつも通り剣道か?」
「そうだよ。そっちも部活?」
「ああ。もう少しでいい絵が描けそうなんだ」
順樹は美術部に所属しており、推薦組と言うこともあって時間があり、1、2年の美術の授業がない時は、美術室に入り浸っている。
文化部の順樹と運動部の直葉。
どうして真逆の位置にいる様な2人が、友人となり、ALOをプレイしているのかと言うと、それは中学入学から間も無い事だった。
あの日、直葉は何時ものように部活の練習の為、休日に学校を訪れていた。
だが、運悪く顧問の教師が体調を崩し、その日の練習は無くなった。
そのまま自宅に帰ろうかと思ったが、生徒の居ない校舎に冒険心を擽られ、休日の校舎を見て回っていた。
その時、直葉は偶然にも美術室を覗いた。
そこでは、1人で黙々とキャンバスに絵を描く順樹が居た。
直葉は芸術には疎く、どんな絵を見ても綺麗な絵かそうじゃないかぐらいでしか判断が出来ない。
だが、順樹の描く絵には何故か心惹かれ、気が付けば美術室に入り、順樹の後ろから、順樹の描く絵を見続けていた。
何時間が絵を見続け、美術室内が夕日で照らされ始めた頃、絵を描く手を止めた順樹が、ふと後ろを振り向き、2人の目が合った。
一瞬の沈黙の後、2人は驚き、思わずその場から飛び退いた。
互いに一通り驚いた後は、丁寧に自己紹介をした。
『えっと、どうも。花部順樹です。1年です……』
『あ、どうも。桐ヶ谷直葉です。同じく、1年です………』
あまりにも簡単な自己紹介に、直葉は「あの時は焦ってた」と回答を示した。
それからと言うもの、直葉と順樹の2人は妙な縁が出来たのか、日常でも関わることが増え、気が付けば友達になっていた。
ALOも直葉から誘われたのをキッカケに、順樹は始めた。
元々、ゲームにあまり時間を割けない2人にとって完全スキル制のALOは有り難かった。
「しかし、急だったな、アルンまで付いて来るなんて……」
「急なのはそっちもでしょ。花部君は危なっかしいんだから、保護者である私が付いてないと」
「確かに、桐ヶ谷さんにはリアルでもALOでも世話になっているが、俺はお守りが必要な子供じゃないんだ。自分の事ぐらい自分で………」
「この間、必要な画材買いに行って予定より多くの物買い過ぎてどう持ち運ぼうか途方に暮れてたのは誰だっけ?」
直葉にそう言われ、順樹は口を紡ぐ。
「それに、この間、ALOで道に迷って中立地帯を3時間も彷徨ってたのは誰だっけ?」
「………すまない、俺だ」
「で、そんな君を助けたのは誰だったかな?」
「………桐ヶ谷さんだ……すまない、俺はどうやら自分が思ってる以上に桐ヶ谷さんに迷惑を掛けてるみたいだ、本当にすまない」
「良いよ。別に、怒ってないから。とにかく、花部君には私が付いてないとダメなんだからね。それより、そのすぐ謝る癖直しなって」
直葉は強引に話を終わらせようと、話題を順樹の謝り癖に変える。
そんな話をしながら、駐輪場まで来ると駐輪場の陰から1人の少年が飛び出してきた。
「リーファちゃん。それにジークも」
行き成り、2人をALOでのプレイヤーネームで呼ぶ少年の名は、長田慎一。
ALOではレコンの名でプレイしている少年だ。
「ちょっと長田君!学校ではその名前は呼ばないでって言ってるじゃない!」
プレイヤーネームを言う長田に直葉はキレる。
「ご、ごめん!直葉ちゃん!」
馴れ馴れしく名前呼びする長田に、直葉は無言で竹刀に手を伸ばす。
「すみません、桐ヶ谷さん!」
素早く謝る長田に溜息を吐き、直葉は竹刀から手を離す。
「それで、長田。俺達に何か用か?」
「ああ、そうだった。シグルドが今日の探索は海底洞窟でしようってさ。あそこ、
「狩りの話ならメールでいいって言ったでしょ。………それと、あたしと花部君、暫く参加できないから」
「ええええええ!!?どうして!?」
「実は、アルンまで行くんだ」
長田の疑問に順樹が答えると、長田は目を見開き驚く。
「そんな!この前、僕が誘った時は断ったのに!?」
「あんたと一緒じゃ何回全滅するか分かったもんじゃないでしょ」
「て、ていうかそんなの駄目だよ!リーファちゃんとジークの2人だけなんて!そんなの破廉恥だよ!」
「何言ってるのよ!?変な事想像しないで!第一、2人っきりじゃないから!」
「昨日の
「そう言う訳だから、シグルド達にはよろしく言っといてね。じゃあね!」
そう言い残し、直葉は自転車に跨り去って行った。
「俺も帰る。じゃあ、長田。よろしく頼んだ」
順樹も長田にそう言い、自転車で去って行った。
ジークの現実での名前の順樹は「まさき」と読みます