ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第13話 同盟調印

キリトとユージーンの2人が地面に衝突して、辺り一帯が砂煙で覆われた。

 

誰もがどちらが勝ったのかと固唾を飲んで見守った。

 

砂煙が晴れ、そこに居たのは地面に片膝ついて荒い呼吸を繰り返すキリトと、赤い残り火(リメンライト)だけだった。

 

勝負は決した。

 

勝ったのはキリトだった。

 

そんな中、誰一人として身動き一つ取らなかった。

 

ALOでの戦闘は、近接戦では不格好に武器を振り回し、遠距離では魔法を打ち合うだけのつまらないもので、防御や回避と言った見応えのある戦闘が出来るのは一部の熟練プレイヤーぐらい。

 

それこそ決闘(デュエル)大会などで上位決定戦などでしかお目に掛かれない。

 

だが、今のキリトとユージーンの決闘(デュエル)はそれ以上だった。

 

誰もが言葉を発することのできない状況の中、最初にその沈黙を破ったのはサクヤと猫妖精族(ケットシー)領主のアリシャだった。

 

「見事、見事!」

 

「凄い!ナイスファイトだヨ!」

 

そして、領主の護衛に来ていたの風妖精族(シルフ)猫妖精族(ケットシー)のプレイヤーたちからも歓声が上がり、更に火妖精族(サラマンダー)達からも、戦闘を称賛する声が上がった。

 

その完成の中、キリトはHP回復ポーションを飲んで一息入れる。

 

「お疲れ様」

 

そんなキリトに、ミトは近寄り、飛ばされた《ダークリパルサー》をキリトへと渡す。

 

「回収してくれたのか。ありがとな」

 

「いいわよ、気にしないで。それにしても………流石ね、一瞬カイかと思ったわ」

 

「………走馬灯って言うのかな?カイと決闘(デュエル)した時の事を思い出したんだ。そしたら、自然と体が動いて」

 

「そう………本当にアンタ達の関係が羨ましいわ」

 

ミトは羨ましそうに小さく笑いそう言う。

 

「誰か、彼に蘇生魔法を頼む!」

 

《ダークリパルサー》を鞘に戻しながらそう言う。

 

「解った」

 

サクヤが名乗り出て、ユージーンに蘇生魔法を掛ける。

 

復活したユージーンは、辺りを見渡し、そして、キリトを見る。

 

「見事な腕だ。俺が見てきた中で、貴様は最強のプレイヤーだ。貴様の様な影妖精族(スプリガン)が居たとはな。世界は広い」

 

「そりゃどうも。それで、俺たちの話、信じて貰えたかな?」

 

キリトの問いに、ユージーンは沈黙する。

 

「ちょっといいかな、ジンさん」

 

すると、長槍を持った火妖精族(サラマンダー)が前に出る。

 

「カゲムネ、なんだ?」

 

「昨日、俺たちのパーティーが全滅させられたのはもう知ってると思う」

 

「ああ」

 

「その相手が、そこに居る影妖精族(スプリガン)だ」

 

そう言って、カゲムネはキリトを見る。

 

リーファは昨夜、キリトに助けられたのを思い出し、冷や汗を掻く。

 

あの時、キリトの傍にミトは居なかった。

 

もし、そのことを言われたら同盟の件が嘘だったとバレる。

 

リーファは固唾を飲んで、見守ることしかできなかった。

 

「確かに、連れにそこの女の闇妖精族(インプ)が居たよ」

 

驚くことに、カゲムネはキリトを庇い嘘を吐いた。

 

「それと、部下の1人が鎌使いの闇妖精族(インプ)にやられたんだが………どうやらその女らしいんだ」

 

今度はミトを見てそう言う。

 

「アイツは、性格に少々難はあるが腕は確かだ。そんなアイツを倒せる腕、それに扱い辛い鎌を使いこなせる技量………護衛が1人なのも、1人でも十分だって事だと思う。それに、エスの情報でメイジ隊が追ってたのもコイツらだ。どうやら撃退されたみたいだけど」

 

「………なるほどな」

 

ユージーンは、暫し黙考し口を開く。

 

「ならば、そう言う事にしておこう」

 

軽く笑い、ユージーンは再びキリトを見る。

 

「現状で、影妖精族(スプリガン)闇妖精族(インプ)と事を構えるつもりは俺と領主にもない。ここは退くとしよう。だが、貴様とはいずれもう一度戦うぞ。それに、そこの闇妖精族(インプ)の鎌使い。貴様とも一度戦いたい。機会があれば、手合わせ願うぞ」

 

「望むところだ」

 

「そうね。いずれ、お相手させてもらうわ」

 

キリトとミトの言葉に満足し、ユージーンは身を翻し、部隊に指示を出す。

 

火妖精族(サラマンダー)は一糸乱れぬ動きで隊列を組み、ユージーンを先頭にして去って行った。

 

「すまないが……事情を説明してもらえるか?」

 

すると、サクヤがそう尋ねて来た。

 

詳しい事情を知ってるジークが、最初から全てを説明し、それが終わるとサクヤは溜息を吐いた。

 

「そうだったか………シグルドの苛立ちは私も感じていた。だが、独裁者と見られるのを恐れ合議制に拘るあまり、シグルドを要職に置き続けてしまった」

 

「苛立ち?何に対して?」

 

風妖精族(シルフ)の現状にだ。勢力的に火妖精族(サラマンダー)の後塵を拝しているのが許せなかったのだろう。シグルドはパワー志向の男だから、数値的能力だけでなく、権力も深く求めてしまった」

 

「なるほど……恐らく、思い描いてしまったのだろう。火妖精族(サラマンダー)が、空を自由に飛び続け、自身がそれを見上げているという構図を」

 

「恐らくな」

 

「でも、どうしてスパイなんか………?」

 

「もうすぐ、《アップデート5.0》の話は聞いているな。そのアップデートで、《転生システム》が実装されるらしい。シグルドは、それで火妖精族(サラマンダー)に転生し、転生後の火妖精族(サラマンダー)での地位をモーティマに約束されたんだと思う。もっとも、あの男が約束を履行するかは怪しい所だが……」

 

そこでサクヤは口を閉ざし、何かを考える。

 

「アリシャ、確か闇魔法のスキルを上げてたな。シグルドに《月光鏡》を頼む」

 

「いいけど、まだ夜じゃないからあんまり長く持たないヨ」

 

「構わない。すぐ終わる」

 

アリシャは頭の上にある獣耳をぴこぴこと動かし、詠唱を開始する。

 

刹那、周囲が暗くなり、降り注いだ一筋の月光が、円形の鏡を形作り、波打った表面に景色を映しだす。

 

そこは《風妖精族(シルフ)領主館》の領主執政室で、鏡には本来なら領主が腰掛ける椅子に座り、両足を卓上に乗せて、ワイン片手に優雅に目をつむっているシグルドが居た。

 

「シグルド」

 

鏡に向かって、サクヤが話しかけると、シグルドは驚いたように飛び上がり、目の前にある《月光鏡》に気づく。

 

『さ、サクヤ!?』

 

「ああ、そうだ。残念ながら、まだ生きているよ」

 

『なぜ……いや………か、会談は……?』

 

シグルドは、しどろもどろになりながら訪ねる。

 

「条約の調印はこれからだが、無事に終わりそうだ。そうそう、予期せぬ来客があったぞ。」

 

『き、客……?』

 

「ユージーン将軍が君によろしくと言っていた」

 

『なっ!?』

 

シグルドは、弁明しようと必死に言葉を探すも、右往左往させる瞳がミトとキリト、そして、ジークとリーファを捕らえ、全てを悟った。

 

『無能なトカゲ共め………!…………で、俺をどうするんだ、サクヤ?懲罰金か?それとも、執政部から追い出すか?だがな、軍務を預かる俺を追い出したらお前の政権はそこまで!真実がどうであれ、お前は自分の都合で同胞を斬り捨てる独裁者になるんだ!』

 

シグルドの言う通り、他の執政部のメンバーとの話し合いもなく、シグルドを執政部から追放すれば反感は買う。

 

そう言われ、サクヤは口を閉ざした。

 

だが、その目はシグルドを見ていた。

 

『はっ!何も言えないみたいだな!所詮お前は、俺が居なければ何もできないお飾りの領主なんだよ!』

 

「………ああ、そうだな。お前を執政部から追放すれば、反感は買うだろう。なら、同じ反感を買うなら別の処罰を与えるまでだ」

 

そう言うと、サクヤは領主専用のメニューウィンドウを開き、何かの操作をする。

 

数秒後、シグルドの前に青いメッセージウィンドウが表示される。

 

それを見た瞬間、シグルドの血相を変えてサクヤを見る。

 

『この俺を風妖精族(シルフ)領から追放だと!?正気か、貴様!?』

 

「ああ、至って正気さ。そんなに風妖精族(シルフ)であることが耐えられないなら、追放者(レゲネイド)として、中立域を彷徨うといい。新しい楽しみが見つかることを祈ってる」

 

『ふざけるな!こんなの不当だ!GMに報告するぞ!』

 

「好きにすると言い。さらばだ……シグルド」

 

サクヤのその言葉を最後に、シグルドの姿は消えた。

 

そこで、《月光鏡》は砕け散り、元の場所へと戻る。

 

「すまなかったな、リーファ、それにジーク。それに、そちらの2人も。改めて、自己紹介をしよう。私はサクヤ、風妖精族(シルフ)の領主をしている。もっとも、今回の判断で次も領主で居られるかは分からないがな」

 

「私は、アリシャ・ルー!猫妖精族(ケットシー)の領主だヨ!改めて助かったよ、ありがとうネ!」

 

「キリトだ。気にしないでくれ。俺がしたい様にしただけさ」

 

「ミトよ。私は何もしてないし、お礼ならキリトにしてあげて」

 

自己紹介を終えると、アリシャがキリトに近づく。

 

「ところでさ、影妖精族(スプリガン)闇妖精族(インプ)が同盟って本当なの?」

 

「まさか、ハッタリだよ」

 

あっさりと嘘であることを吐く、2人にアリシャとサクヤも驚く。

 

「まさか、あの状況で大法螺を吹くとは………」

 

「悪い状況の時は、取り敢えず掛け金は全部レイズする派なんでな」

 

「それにしても、キミ、結構強いね。影妖精族(スプリガン)の秘密兵器だったりする?」

 

「まさか。しがないプレイヤーだよ」

 

「ふ~ん、そっか」

 

すると、悪戯っぽい笑みを浮かべ、アリシャがキリトの右腕に抱き付いた。

 

「フリーならキミ、うちで傭兵やらない?3食おやつに昼寝付きだよ」

 

「へっ?」

 

「おいおいルー、抜け駆けはよろしくないぞ。」

 

そう言って、今度はサクヤが左腕に抱き付いてきた。

 

「キリトと言ったね。どうかな、個人的興味もあるので、礼を兼ねてこの後、スイルベーンで酒でも……。」

 

「あー!サクヤちゃん、色仕掛けはんたーい!」

 

「人の事言えた義理か!密着しすぎだお前は!」

 

ワイワイと騒ぎながら、キリトを引き抜こうと揉める領主と、その間で引っ張り合いにされるキリト。

 

そんなキリトに、ミトは溜息を吐き近寄る。

 

「すみませんけど、コイツにはやらないといけないことがあるので引き抜きは遠慮してください」

 

そう言い、キリトの首根っこを掴み引っ張る。

 

「まったく、美人相手にデレデレしちゃって。世界樹に行く目的忘れたの?」

 

「いや、忘れる訳ないだろ!それに、デレデレなんかしてない」

 

「どうだかね」

 

そう言い、ミトはキリトを放す。

 

「ねぇ、サクヤ、アリシャさん、今回の同盟って世界樹攻略のためなんでしょ?」

 

そこで、リーファが今回の同盟の目的について尋ねる。

 

「まぁ、究極的にはな」

 

「その攻略に、俺たち4人も参加させて貰えないだろうか。それも、できるだけ早く」

 

ジークはリーファが何を言いたいのか察して、その先を言う。

 

「それは構わない。というより、こちらから頼みたいぐらいだ。だが」

 

「攻略メンバー全員の装備を整えるのに暫くかかると思うんだヨ。とても1日2日じゃ……」

 

「いや、いいさ。取りあえず樹の根元まで行くのが目的だし……あとはなんとかするよ。あ、そうだ」

 

そう言うとキリトは、何かの操作をし、革袋を取り出した。

 

「これ。攻略資金の足しに使ってくれ」

 

「え!?こ、こんな大金を!?」 

 

「ああ、俺にはもう必要ないからな」

 

キリトが渡したのは、キリトの全財産だった。

 

「これだけあれば、かなり目標金額に近づくヨ」

 

「すぐに装備を整えて、準備が出来たら連絡させてもらうよ」

 

「その時はよろしく頼む」

 

そして、サクヤとアリシャの合図で全員が帰る準備に入った。

 

「何から何まで世話になったな。君たちの希望に極力添えるように努力することを約束するよ」

 

「アリガト!また会おうネ!」

 

そう言ってサクヤとアリシャ、風妖精族(シルフ)猫妖精族(ケットシー)のプレイヤー達は猫妖精族(ケットシー)領に向かって行った。

 

「さて、俺たちも行こうぜ」

 

「そうね」

 

「うん」

 

「ああ」

 

全員で頷き合い、ジークとリーファが飛び、ミトとキリトが続いて飛ぶ。

 

その時、ミトとキリトの視界に世界樹が見える。

 

「………あそこまで行けばアスナを」

 

「……ああ」

 

病室で横たわるアスナの顔を思い浮かべ、ミトとキリトは拳を握る。

 

「待っててくれ」

 

「必ず助けるから」

 

翅を震わせ、ジークとリーファの後を追うように、2人は空を飛んだ。

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