意識がなくなったのは一瞬の出来事だった。
4人の意識が戻ると、そこは白い壁しかない通路に居た。
「パパ、ママ、大丈夫ですか?」
「父上、母上、起きてください」
ピクシーモードじゃないノアとユイが目の前で心配そうにカイ達の顔を覗き込む。
「ああ、ここは?」
「……判りません。マップ情報が無いみたいで」
「本来なら、先行してたトバルがシステム管理用のアクセス・コードとマップ情報を入手、そして、アスナを救出して《世界樹》の外に出て、俺たちが来るのを待つってのが最初の予定だった」
カイは立ち上がり、辺りを見渡しながら言う。
「でも、アスナが独自に動いたことでマップ情報の入手が間に合わなかったんだ。それでも、システム管理用のアクセス・コードが入手できただけでも良かった」
そう言うと、カイはアスナを見る。
「アスナ、逃げる時に怪しい部屋とか見なかったか?もしくは、GMコンソールがあった部屋とか」
「それなら、それらしいラボを見かけたよ。この場所、私が抜け出す時に使った転送室みたいだから、多分道は分かるわ」
「よし、なら案内頼む」
アスナは記憶を辿りながら、《実験体格納室》を目指し動き出し、カイとミト、キリト、ノア、ユイもその後に続く。
幸いにも、アスナの記憶が正確だったこともあり《実験体格納室》に問題なく辿り着く。
扉はロックが掛かっていたが、ノアとユイの2人が解除し、6人は中へと進む。
「これは………!」
「酷過ぎる……!」
中に入ると、ミトとキリトは、柱の中に収められた精巧に作られた半透明の青色の脳を見て、そう呟いた。
脳がまるでホルマリン漬けにでもされたような光景に、2人はこの悪魔の実験を行っている須郷に対し怒りがこみ上げる。
「この人たちも解放しないとな。アスナ、コンソールがあったって言う場所は?」
「この先だよ。待っててね、今度こそ助けるから」
アスナは誰かも分からない脳にそう呼び掛け、案内する。
「あった!あれだよ!」
ようやく見つけたコンソールに、全員で駆け寄る。
「よし、ここまで順調だ。ノア、ユイちゃん!アスナを含めた全員のログアウトを頼む!」
「「了解しました!」」
カイに言われ、ノアとユイはコンソールに近付き、手をかざす。
巨大なウインドウが出現し、高速でスクロールする文字列が輝き出す。
「このままログアウトしたら、ココで行われた実験の記憶が残り、現実の身体にも異常をきたす可能性があります!」
「実験の影響なく、後遺症を残さない様に処置を施します!処置完了まで5分!少し待ってください!」
ノアとユイはそう言い、処置を行っていく。
「時間は掛かるけど、なんとかなりそうね」
「うん、やっと帰れるんだね………!」
ミトとアスナは、ようやく戦いが終わることに喜んでいるが、そんな中、カイとキリトだけ何処か険しい表情だった。
「カイ、おかしくないか?」
「やっぱり、キリトもそう思うか?」
「ああ。実験室なのに、さっきから研究員の姿らしきものが見えない。それに、GMコンソールがあるのに警備の1人もいない」
「無防備すぎるな………」
その時、カイ達は嫌な気配を感じた。
SAOで感じた、
カイとキリト、それにミトとアスナもそれぞれ武器を抜こうと、手を掛ける。
だが、次の瞬間、6人の体に何かが圧し掛かるような感覚に襲われた。
6人は立っていられなくなり、その場に崩れ落ちる。
そして、周りには深い闇のようなもので覆われた。
「な、なんだこれは……!」
「体が……動かない……!」
「くっ……!アスナ、大丈夫か……!」
「き、キリト君………!」
「ユイ……しっかりしろ!」
「の、ノア……!」
一体何が起きたのか分からず、6人は暗闇の中で身動きが取れなくなっていた
その時、誰かが目の前に降り立った。
「どうだい?次回のアップデートで導入予定の重力魔法なんだけど、ちょっと強すぎるかな?桐ヶ谷君、兎沢君」
妖精王“オベイロン”は、地面に這いつくばるキリトとミトをあざ笑うかのように訪ねる。
「お前は……須郷!」
「その呼び方はよしてくれないかな?僕の名は妖精王“オベイロン”君たち妖精共の王だ。だから、ここでは“オベイロン陛下”と………そう呼べ!」
そう叫び、須郷はキリトの腹部を蹴る。
「がっ!?」
蹴られた衝撃で、キリトは胃液を吐きそうな嫌な感じに襲われ苦しむ。
「やめなさい!卑怯者!」
アスナの言葉に須郷は耳を貸さずキリトに問いかける。
「桐ヶ谷君、いや、ここではキリト君と呼んだ方がいいかな。どうやってここまで登って来たんだい?」
須郷はキリトの背中の鞘から《エリュシデータ》を抜き、振り回す。
「飛んで来たのさ、この翅で」
「ふん、まぁいい。君の頭の中に直接訊けば解かることさ」
「何?」
「まさか僕が酔狂でこんな仕掛けを作ったと思ってるんじゃないだろうね?300人にも及ぶ元SAOプレイヤーの献身的な協力によって記憶・感情操作技術の基礎研究は8割方終了してる。かつて誰も為し得なかった、人の魂の直接制御という神の業を、僕はあと少しでものにできる!まったく、仮想世界様様だよ!フフフフフフフフフ、ハハハハハハハハハハ!」
そう言うと、須郷は倒れているカイの方を向く。
「それで、君は何処の誰だい?随分と余計なことをしてくれたみたいだけど、全部無駄に終わったけどね」
「無駄だって?……まだ終わってないさ。それどころか、始まってすらいない。こっから、お前の悪事を全部暴いていくんだ。覚悟しとけよ、この大法螺吹きが……!」
カイは倒れながらも、目で須郷を見上げ言う。
「はっ、嫌だね。正義は必ず勝つって顔してる。その顔を見てると、嫌でも思い出してくるね、あの正義の味方気取りの愚かなジャーナリストを」
須郷の言い放った言葉に、全員が反応した。
「ジャ、ジャーナリスト……だって……?」
「ああ、そうさ。本当に嫌な奴だったよ。僕の犯した罪は必ず明かされるだの、いつまでも逃げられないだの、挙句、少しでも良心はあるなら自首しろだってさ。全く、ふざけた話だよ」
耳の穴を指で掻きながら、須郷は詰まらなさそうに言う。
「それで、僕が自首しなかったから僕の罪を公表しようとした。この僕に、上から目線で……何様のつもりだよ………本当に忌々しくて、目障りだったよ。だから、消えて貰ったんだ、家族諸共ね」
世間話をするかのように、そう言う須郷。
その話に、ミトとキリト、アスナは驚愕する。
家族諸共殺されたジャーナリスト。
その話を、3人は聞いたことがある。
かつて、アインクラッドで、カイが語った過去。
それと酷似していた。
そんな偶然あり得るのか?
誰もがそう思った。
「………お前だったのか」
「あん?」
「お前が、父さんと母さん、妹を殺したのか………!」
絞り出されるようにカイから言葉が放たれる。
そのカイの言葉に、須郷は手を叩いて思い出したように言う。
「ああ、思い出したよ。あの時、僕の質問に正直に答えてくれた子じゃないか!」
須郷は、久々に再会した親戚の子供に会う様に、両手を広げカイの傍までより、膝を付く。
「いや~、助かったよ。あの時の君のお陰で、待ち伏せなんて面倒なことせずに事を運ぶことが出来たよ。まぁ、その所為で関係ない彼の妻や、君の妹も死んだけどね」
「ふざけるな!」
するとミトが、須郷に叫んだ。
「アンタの所為で……カイがどれだけ苦しんだと思ってるのよ!」
「それどころか、自分の罪を棚に上げやがって………!」
「どこまで自分勝手な人なの!絶対に、許さない!」
ミトだけでなく、キリトも、アスナも須郷を睨みつけるように糾弾する。
「うるさい連中だな。彼がどれだけ苦しんだかって?そんなの知らないね、どうでもいい。自分の罪を棚に上げてだって?それが人さ、人の悪事を糾弾し、自分の悪事は正当化、それが普通さ。そして、許さない?誰が許さないのかな?残念ながらこの世界に神はいないよ。この僕以外はね!」」
須郷は勝ち誇る様に、笑い言う。
「さて、少し余計なことを喋り過ぎてしまったけど、それも今ではどうとでもなる。だが、君たちの魂を改竄する前に楽しいパーティーと行こうか!」
そう言って、須郷が指を鳴らすと、何もない空間から鎖に繋がれた腕輪が現れ、自動的にカイ達を拘束し、釣り上げた。
そして、再び指を鳴らすと、今度は宙に半透明のスクリーンが現れ、何かを映す。
「お前……何をするつもりだ………!」
「今から、《世界樹》の中で行われてる戦闘をライブ中継で見せてやる」
そう言うと、須郷は何処からと鳴く出現したソファーに座り、手にはワイングラスを持つ。
「あるプレイヤーに、君たちに協力した全プレイヤーの捕獲を命じた。僕の実験も、残すはアミュスフィアでの記憶・感情操作が可能かの実験のみ。思いがけなく、いい実験動物が来てくれたよ。またしても、君のお陰だ、カイ君」
須郷は背後で、顔を俯いたままのカイにそう言い、スクリーンに映る様子を眺めた。
「総員撤退!」
カイ達が転送された直後、その様子を見届けるとディアベルは仲間たちにそう言った。
自分たちの役割はここまでと思いながら、ディアベルはサクヤ、アリシャ、ユージーンに近付く。
「協力、感謝します!ALOのプレイヤーの皆さん!」
「構わないさ。我々も、約束を果たしたに過ぎない」
「そうそう。それに恩返しもまだだったしネ!」
「俺は、ただ敗者として勝者に従っただけだ。礼は要らん。兄者も、同じだろう」
4人はそう言って笑い合い、《世界樹》から出ようと、入口へと向かう。
もたもたしてたら、ガーディアン達に襲われるので、早急に出ないと行けなかった。
その時だった。
「逃がすと思ってるのか?サクヤ」
突如、入口から1人のプレイヤーが現れ、全員の前に立ち塞がる。
「お前は!?」
サクヤは、そのプレイヤーを見た瞬間、驚いていた。
「シグルド!」
「久しぶりだな……それに、アリシャにユージーン………お前らも久しぶりだ」
何処か狂気を孕んだシグルドの言葉と視線に、サクヤは気圧され気味になりながらも、一歩前に出てシグルドに問い質す。
「シグルド、こんな場所で何をしている?」
「何をしているって?俺を追い出しておいて、偉そうに」
「よく言うヨ!サクヤちゃんたちを裏切ったんだから、当然の報いでしょ!」
アリシャは、シグルドに向かってそう叫ぶ。
「黙れよ、
シグルドは、アリシャに対し一睨みする。
「ヒッ!!?」
その視線に、アリシャは強烈な嫌悪を感じ、尻尾と毛を逆立てながらサクヤの背後に隠れる。
「ユージーン、この俺が手引きしてやったにも関わらず領主の首が取れなかっただけに留まらず、簡単に切り捨てやがって!」
「前者に対しては俺の力不足なのは否めん。だが、後者に関しては当然だ。そもそも、簡単に自身が仕える領主を裏切るような男に、兄者が重要なポストを用意する訳もないだろう。折を見て、切り捨てるつもりだった」
ユージーンはあっさりと、シグルドを斬り捨てるつもりだったと白状し、それがシグルドの怒りを増長させた。
「どいつもこいつも、俺を虚仮にしやがって!………だが、それも今日までだ。今日俺は、生まれ変わる!妖精王“オベイロン”様の忠実な僕として、貴様らに天誅を降す!」
「妖精王の僕だと!?」
「ふざけるな!たった1人で、この大部隊に敵う訳ないだろ!」
「一思いに、葬ってくれる!」
シグルドの言葉に、反応した
だが、シグルドは自身に迫る刃を全て躱し、全員の四肢を斬り落とした。
「なっ!?速い!」
「嘘!?何あの速さ!?」
「あり得んスピードだぞ!」
「くっくっくっ………やはりオベイロン様が授けてくれた力は素晴らしい………!」
今のシグルドは、オベイロンによって様々なチート状態となっており、違法なまでに強くなっていた。
「さぁ、全員大人しくしてもらうぞ……!オベイロン様の為にも、ここで捕まってもらう!」