ソードアート・オンライン~焔の剣聖~   作:ほにゃー

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第23話 英雄

「ドラゴンに変わった!?」

 

「プレイヤーと言うより、完全にモンスターじゃない……!」

 

「あれは変異魔法さ」

 

キリトとアスナの言葉に、須郷が答える。

 

「自身の姿を別の姿に変える魔法でね、本来はイベント限定ボス専用魔法なんだけど、今回特別に彼が使えるようにしたんだ。変異魔法は幻影魔法と違い、ステータスも上昇するし、特殊攻撃・特殊魔法の使用なんかもできる。あの姿になった以上、彼らはもう終わりだね」

 

須郷は満足そうに笑う。

 

「カイ……大丈夫……?」

 

そんな中、ミトはカイに声を掛ける。

 

拘束されて身動きが取れない間、カイはずっと黙ったままだった。

 

カイの家族を殺したのは須郷。

 

その事を知った今、カイは冷静で居られない。

 

ミトはそう思ってた。

 

「ああ……大丈夫だ………ミト、すまないけどもう少しだけ待ってくれ」

 

「え?」

 

「あと少しだ。もうちょっとだけ時間が掛かるんだ。時が来たら、全て終わらせよう」

 

驚くことにカイは、冷静だった。

 

先程須郷に向けていた怒りがまるで嘘だったと言わんばかりの落ち着き様に、ミトは驚くもそれ以上は何も聞かないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンと化したシグルドは、口から火炎を吐き、爪で斬りかかり、翼の突風で吹き飛ばしたり、尻尾で薙ぎ払うなど様々な攻撃でALOプレイヤーに襲い掛かる。

 

本来こう言うモンスター相手には、何度か偵察戦を行い、そこで得た情報を元に対策を立てるのが普通だ。

 

何の準備も無しに、ボス戦に挑むことはありえなく、ALOプレイヤーは苦戦を強いた。

 

『ほらほら!どうした!もう御終いか!』

 

シグルドは人格が変わったように、口調も荒々しくなり、かつての面影がもう見えなくなっていた。

 

「この!」

 

多くの仲間がやられる中、ユージーンは何とかシグルドの火球を躱し、接近する。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

渾身の一撃がシグルドへと刺さる。

 

《魔剣グラム》の刀身は、深々とドラゴンと化したシグルドの左腕と左肩の間に刺さる。

 

『ふん、こんな攻撃、ちっとも効かないな』

 

シグルドはそう言うと、右腕でユージーンを攻撃する。

 

ユージーンは、咄嗟に《魔剣グラム》を抜いて防御しようとするが、深々と刺さった刀身を抜くのに手間を取り、攻撃を食らってしまった。

 

その際に、《魔剣グラム》を握る手を離してしまい、《魔剣グラム》はシグルドに刺さったままだった。

 

すると、シグルドは刺さった《魔剣グラム》を抜き、見つめる。

 

『《魔剣グラム》………俺がずっと求めていた剣…………』

 

《シグルド》と言う名は、とある英雄の名前だ。

 

「戦士の王」と称えられる「ヴォルスンガ・サガ」の大英雄、シグルド。

 

現実のシグルドはその物語を読み、シグルドと言う英雄に憧れ、ALOを始める際に、シグルドと言う名を名乗った。

 

そして、英雄シグルドが使ったとされる武具、《魔剣グラム》がALO内にあると知り、彼の心は昂った。

 

《魔剣グラム》を持ち、英雄の如く活躍する自身を思い浮かべた。

 

だが、《魔剣グラム》は両手剣で、重量系武器とは相性の悪い軽量級妖精の風妖精族(シルフ)では扱う事は出来ず、そして、《魔剣グラム》は火妖精族(サラマンダー)のユージーンが手に入れたことを知った。

 

最早、英雄ではなくなった自身にシグルドは腹を立てた。

 

そんな時、《転生システム》の実装を知ったシグルドは、風妖精族(シルフ)領主のサクヤを売り、火妖精族(サラマンダー)へと転生した後の地位を火妖精族(サラマンダー)領主のモーティマと約束し、転生後はユージーンを倒して《魔剣グラム》を奪おうと考えた。

 

『はっ……!俺が追い求めた剣が、こんなちっぽけだったとはな』

 

だが、計画がすべて失敗に終わった今、《魔剣グラム》への未練はなかった。

 

むしろ、光妖精族(アルフ)へと転生できるとオベイロンと約束した今の方が大事で、《魔剣グラム》を放り捨てる。

 

『こんなものより、俺は遥かに強大な物を手に入れた。この力があれば、誰にも負けない!そうだ、俺は最強だ!今まで、俺に与えられた屈辱を、今度は俺が与える番だ!』

 

シグルドはそう叫び、あるプレイヤーを見た。

 

それは、リーファだった。

 

シグルドにとって、リーファは自分を倒した剣士で気に入らない存在だった。

 

だからこそ、狙われるのは必然だった。

 

『まずは、お前からだ!リーファァァァァァァァ!』

 

シグルドは叫び、背中の翼で大きく羽ばたくと、リーファへと向かう。

 

突然の事に、リーファは動くことが出来なかった。

 

ようやく認識した時には、すでにシグルドはリーファを捕らえようとしていた。

 

「リーファ!?」

 

ジークが気付き、助けに向かおうとするもシグルドの方が早くリーファを捕まえる。

 

「リーファちゃん!」

 

すると、リーファが捕まる寸前、レコンが飛び出し、リーファを突き飛ばした。

 

突き飛ばされたリーファは、シグルドに捕まらなかったが、代わりにレコンがシグルドに捕まった。

 

「「レコン!」」

 

ジークとリーファが、捕まったレコンの名を叫ぶ。

 

「う……ぐっ………!」

 

捕まったレコンは苦しそうに呻き声を出す。

 

『お前は、リーファの腰巾着のレコンじゃねぇか』

 

シグルドはレコンに顔を近づけ、そう言う。

 

『はっ!お前みたいな雑魚も居たとはな!そんな雑魚が、ココで何してる?』

 

「くっ……!リーファちゃんが居るなら、僕は何処にだって行くさ………!」

 

『相変わらず、リーファのストーカーしてるみたいだな。まぁ、そんなリーファも、お前の事なんか眼中にないみたいだがな』

 

シグルドは、普段のレコンの態度からレコンがリーファに対して恋心を抱いているのを知っていた。

 

そして、リーファはレコンをそう言う対象として見ていないことも知っており、むしろ、ジークに対して心を寄せているのを知っていた。

 

『そうだ……レコン、取引しねぇか?』

 

「と、取引だって……?」

 

『ああ、そうさ。お前、俺の仲間にならないか?』

 

「な、なに………!?」

 

『確かに、お前は雑魚だがお前は斥候兵(スカウト)として優秀だ。実際、《ホロウ・ボディ》を使える奴は珍しいしな。ある意味、俺はお前の事を買ってるんだよ』

 

意外にもシグルドからの評価が高いことにレコンは驚く。

 

『お前が俺の仲間になるなら、俺からオベイロン様に口利きして、お前も光妖精族(アルフ)にしてやってもいいぜ。それに、オベイロン様の力を使えば、リーファだってお前の好きな様にできる。悪い話じゃないだろ?』

 

「…………ああ、そうさ。僕はリーファちゃんが好きだよ。でも!」

 

レコンは強い眼差しで、シグルドを睨みつける。

 

「それ以上に、ジークと一緒に居て、キラキラと輝いて見えるリーファちゃんが好きなんだ!」

 

そう叫ぶと、レコンはシグルドの腕にしがみ付き、スペルを唱える。

 

そして、レコンの身体が深い紫色の光に包まれそれと同時に、複雑な立体魔方陣が展開され、回転しながら巨大化していく。

 

何の魔法なのかは分からないが、それが《闇魔法》なのは紫色の光で、ジークとリーファは気付いた。

 

「君、駄目だよ!」

 

すると、アリシャが叫んだ。

 

レコン同様《闇魔法》を習得しているアリシャには、それが何の魔法なのかを理解できた。

 

だからこそ、止めた。

 

だが、レコンは覚悟の上らしくスペルの詠唱を止めなかった。

 

そして、最後の一節を唱えると、レコンはシグルドを見る。

 

「一緒に死ね!シグルド!」

 

レコンが叫んだ次の瞬間、とんでもない閃光と轟音に、その場にいた全てのプレイヤーが眼を覆った。

 

視界が回復すると、そこにレコンの姿はなく緑色の残り火(リメンライト)だけだった。

 

「嘘……レコン……」

 

「一体、何が………」

 

何が起きたのか、リーファとジークは理解が出来なかった。

 

そんな2人に、アリシャが口を開く。

 

「あれは、自爆魔法……」

 

「自爆……魔法………?」

 

「闇属性どころか全属性最強の範囲攻撃魔法だヨ。でも、その威力・範囲と引き換えに術者は通常の数倍にも値する死亡罰則(デスペナ)を与えられるの。(ユルド)、スキル熟練度、装備………そして、つぎ込んだ時間。それを全て犠牲にするまさに禁呪………」

 

同じ《闇魔法》を習得しているアリシャだからこそ、自爆魔法を使えるまでに、どれだけのスキル熟練度が必要なのか分かっていた。

 

それらを捨ててまで、レコンは自爆魔法を使った。

 

『くっ………やってくれるじゃねぇか、腰巾着の分際でよ』

 

すると、爆炎の中からシグルドが姿を現した。

 

「そ、そんな……!」

 

レコンの自爆攻撃を食らっても、シグルドはまだ生きていた。

 

流石に無傷とはいかなく、右腕は失っていた。

 

『だが、所詮は雑魚。この俺を殺すには至らなかったな。まさに、無駄死にだ!』

 

シグルドは高笑いをし、レコンの死を馬鹿にした。

 

レコンの頑張りを侮辱するシグルドに、リーファは怒り、斬りかかろうとする。

 

だが、それをジークが止めた。

 

リーファはジークに手を離して欲しいと言おうとした。

 

しかし、ジークの顔を見た瞬間、その言葉を言う気は失せた。

 

何故なら、今のジークは完全にキレており、シグルドを射殺さんばかりに見ていた。

 

「リーファ……俺がやる」

 

そう言って、ジークはシグルドに近寄る。

 

「シグルド」

 

『ああ?なんだ、ジークか。お前も、レコン同様無駄死にしに来たのか?いいぜ、来いよ。お前も、リーファ同様気に食わなかったんだ。テメーにも屈辱を与えないと、俺の気が済まな「黙れ」

 

ジークはシグルドの台詞を切り言う。

 

「レコンは、誰よりも立派な奴だ。お前にできるか?自分の為じゃない、誰かのために己の命を犠牲にする覚悟が………無いなら、お前に英雄(レコン)を侮辱する資格はない!」

 

そう叫ぶと、ジークは自身の剣の柄を両手で握り、自身の前で剣を立てる。

 

「……レコンの為にも、俺は全力で貴様を倒す!」

 

その瞬間、ジークから光が溢れ出した。

 

「な、この光は!?」

 

「なんだ!?」

 

周りのプレイヤーからも、声が上がる。

 

「今ここに、我が剣の名と我の真なる名を明かす」

 

ジークがそう言うと、リーファの視界の隅にある“ジーク”の名がブレる。

 

「我が隠しの名は“ジーク”。真なる名は………“ジークフリート”!」

 

ジークがそう言うと同時に、ジークの名は“ジークフリート”へと変わった。

 

「そして、我が剣の名は《バルムンク》!」

 

ジークの持っていた武骨で、地味な色合いだった大剣は、砥ぎぬかれた刀身に黄金の柄、そして柄に青い宝玉が埋め込まれた大剣となった。

 

ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に出て来る、竜殺しの偉業を成した英雄“ジークフリート”。

 

そして、“ジークフリート”が所持していた聖剣《バルムンク》。

 

真の名と、真の武器を露わにしたジークは、シグルドへと剣を向ける。

 

「俺は、英雄なんかじゃないし、なろうとも思わない。だが、邪竜となった英雄(シグルド)を斬る為に、レコンの想いに報いる為にも、俺は竜殺し(ジークフリート)として、貴様を斬る!」

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