僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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バームクーヘン(挨拶)。

「最近フィフスチルドレンがホストデビューしたそうだな碇。ならばお前の息子も女装ホステスとしてデビューさせるべきではないか碇。碇。碇碇碇碇碇」

と冬月先生が仰っていました。ラドンもそうだそうだと言っています。シンちゃんはうそだうそだと言っています。皆さんはどう思いますか?私はえっちなのでするべきだと思います。今後の公式の動向に期待しましょう。

尚今作にシンちゃんの女装シーンはありませんのでシンちゃん推しの変態紳士諸兄は落ち着いてパンツを履いてください。この作品は全編健全ゲリオンです。
 



えぴそ〜ど12:ウェルカムシンくん、ちゅうへん!

 

 

 

 客入りの少ないスーパーでたんまり食材を買い込んだミナトさんの運転で、二人が住むマンションへと向かう道中。

 

「あ、こらっ。車で食べちゃめっでしょ」

「使徒、倒した」

「…………………今日だけですからねっ!」

「ん」

 

 助手席に座った綾波が、いちご味のポッキーをぽりぽりぽりぽりと齧りだした。買い物中いつの間にかお菓子コーナーから収穫してきて買い物カゴに放り込んでいた、今回の彼女の戦利品のひとつだ。

 お財布の紐ゆるゆるデー、とはいいつつも、やっぱり無駄使いには厳しいらしいミナトさんは、肉やら野菜やらの上にどさっと投げ入れられた菓子類を見るなり

 

『だーめ。一個だけ選んで、他はもどしてきなさい』

 

 と、人差し指をピンと立てて『めっ』と綾波を叱ったものの、綾波は

 

『使徒、倒した』

 

 と真顔で主張。そのまま数秒間睨み合い(綾波は真顔でミナトさんはぐぬぬ顔)が続いたのち、ミナトさんが『今日だけだよ?』と折れて綾波が勝利した。つよい。

 その後も綾波はアイスやらジュースやらちょっとお高い味噌(なんで味噌?)やらをどこからか収穫してきてはどさどさカゴに投下しまくり、その度に般若の様な顔で『ぐるるるっ!』と唸るミナトさんを『使徒、倒した』連呼のゴリ押しで圧倒し完全勝利。存分に彼の財布を破壊し満足げな足取りでスーパーを後にした(ミナトさんは泣いていた)。

 つよい。あまりにもつよい。

 

(…意外と、子どもっぽいのかも)

 

 冷たくて無感動、無愛想っていうのが正直な第一印象だったんだけど、もしかしたらちょっと違うのかもしれない。

 

「……」

「…おいしい?」

「ん」

「もう…」

 

 呆れた様なミナトさんの声。やっぱり普段からこんな感じらしい。

 そういえば、昨日の出撃前にモニター越しで初めて話した時も、ミナトさんにいつまでそこに居るんだーとか、僕に対してもミナトさんから離れてーとか、色々言ってたっけ。思い返せば、あれもまるで子どものヤキモチみたいだった。

 

「……」

 

 無表情で、しかしどこか誇らしげなオーラもほんのり醸し出しつつ、ピンク色のポッキーをぽりぽりする綾波。

 うん、やっぱり子どもっぽい。無感動とかそんなんじゃなくて、単に口数が少ないだけなのかも。

 …まぁ、だからなんだってコトでもないんだけど、別に。

 と、綺麗な空色の髪をぼんやり眺めながら意味もなく考えていると。

 

「なに」

「っ!?」

 

 ぐるんっ!と勢いよく綾波がこっちを見た。相変わらずの真顔で、食べかけのポッキーをむっつりと咥えたまま。こわい。

 

「な、なにって?」

「見てたから」

「ご、ごめん」

「どうしてあやまるの?」

「どうしてって…」

 

 尋問の様に淡々と詰めてくる綾波。

 は、話しづらい…

 

「イ、イヤだったのかなって…」

「そんなこと言ってない」

「そ、そう…」

「……」

「……」

 

 あれ、終わった…会話が終わった…?

 

「……」

「……」

 

 いや、見てる!?まだ見てる!ポッキー咥えたままずぅっとこっち見てきてる!まだ終わってないんだコレ!?

 

「……」

「……」

 

 は、話しづらい…ッ!!

 

「食べたいんじゃない?」

「「?」」

 

 って、ミナトさん?食べたいって一体…

 

「レイちゃん、シンジくんとポッキーはんぶんこしてあげて?」

「ッ…!?」

「え"」

 

 おっとりしたミナトさんの声に、ほんの少しだけ目を見開く綾波。それ以外は全然表情が変わらないけど、明らかに『なんと!?』っていうオーラを放出している。僕は思わず引き攣った声をあげてしまった。

 

「……」

 

 沈黙の綾波。明らかに渋っている。

 ちがうよ。ちがうんだよミナトさん。僕そんな食いしん坊じゃないし意地汚くないし、そこまで甘党でもないよ。というか女の子が食べてるお菓子をせびるだなんてそんな…

 

「それは命令ですか入江三尉」

 

 というか綾波の渋り方がすごい。どんだけ好きなのそのお菓子。

 

「命令じゃないけど」

 

 対するミナトさんは平常運転。ゆったりと車を右折させながら、小さな子どもと話すみたいに優しい声で綾波を諭す。

 

「お菓子をひとりじめしちゃう様な意地悪な子はイヤだなーって、入江三尉は思います」

「!!」

 

 のほほ〜んと放たれたミナトさんの追撃。綾波は再び目を見開いた。

 というか、今度は見るからに表情が変わった。なんなら小さく息を呑んだ。食べかけだった短いポッキーといっしょに。よくわからないけどめちゃくちゃ効いてるらしい。

 …いや、そんなに?

 

「…………………………………………………そう」

 

 長い長い逡巡の末、綾波はフッと目を伏せてポッキーの箱を探り、二つあるうちのまだ開けてない一袋を僕に差し出してきた。

 

「はい…」

「い、いやいいよ…僕いらないよ…」

 

 そんなこの世の終わりみたいなオーラで渡されたもの食べられないよ綾波。ぜんぶ食べなよ。それは君のだよ。

 

「だめ。受け取って」

「え」

「受け取って」

「……」

 

 あ、圧がすごいよ綾波。どうしてそんな冷たいプレッシャーをぶつけてくるんだよ。なんだか僕が悪いことしてるみたいになってきたよ。

 

「じゃ、じゃあ…貰うね?」

「えぇ」

「うん…あの、ありが」

「どういたしまして」

 

 すごい食い気味な返事。でも声自体は凪の様に平坦。これは一体どういうテンションなんだろう。会話術が独特過ぎてちょっとカロリーが高い。

 

「……」

 

 半ば強制的にポッキーを渡してきた綾波は、そのままクッと顔を運転席のミナトさんに向けて黙り込んだ。感情の見えない真っ赤な瞳で、運転中のミナトさんの横顔を微動だにせずにガン見している。

 …わからない、わからないよ綾波。それは一体何待ちのガン見なんだよ綾波。

 

「…ん、はんぶんこできた?」

 

 視線に気づいたミナトさんが、脇見運転にならない程度に綾波を見やる。

 コクン、と小さく頷く綾波。

 

「できた」

「うん、えらいえらい」

 

 信号が赤になり、ゆっくりと車が止まる。

 ミナトさんは左手を綾波の空色の髪にそっと伸ばし、小首を傾げてニコッと微笑んだ。

 

「よくできました」

 

 いい子だね、と細長い指で優しく髪を梳くミナトさん。そのまま二度三度と小さな頭を撫でて、ゆっくりとフロントガラスに意識を戻していく。

 

「…ん」

 

 撫でられ終わった綾波は、再び小さく頷いて前に向き直った。そして何事も無かったかの様にポッキーを手に取り、再び無心でぽりぽりぽりぽり。もちろん顔は無表情。

 …え、つまり今のガン見ってただの?

 

(…褒められ、待ち?)

 

 それか、撫でられ待ち?ちゃんといいつけ守れたよ、撫でて撫でて〜…って、コト?

 

(な、なんというか…)

 

 さっきNERVで話した時は、綾波の方がミナトさんのことを…なんだっけ、ダメ犬?とかって言ってたけど…

 

(綾波も、ちょっと犬っぽいような…)

 

 二人は最近一緒に暮らしはじめたばっかりらしいし、血の繋がりも無いって話だったけど…やっぱり、似るんだろうか?親と子って。

 

(それだけ、いつも一緒にいるってコトなのかな)

 

 …僕は、どうなんだろう。僕は誰かに似てるんだろうか。父さんに捨てられて、先生にも腫れ物扱いされてる僕は、一体誰に似る事が出来るんだろう。僕の側には、いつだって僕しか居ないのに。

 

「……」

 

 もう何度目になるかも分からない無意味な思考の海に沈みながら、僕はのろのろとポッキーの袋を開けて、そのまま一本ぽきりと齧った。

 甘くて酸っぱい、いちご風味のチョコレート味。でも、今の僕には味なんてさっぱり分からなくて…

 

「おいしい?」

「え?」

 

 …ミナトさんだ。バックミラー越しに見られてたのかな。

 

「…はい」

 

 とりあえずの肯定。味なんてわからない、なんて言えるわけないし…。

 そんな投げやりな肯首を返してしまう僕にも、ミナトさんは変わらない柔らかさを返してくる。

 

「シンくんも、今日は特別だよ?ウチは車ではお菓子禁止なのです」

「はい…って、シンくん?」

「ニックネーム。かわいいでしょ?」

「かわいいって…」

 

 いきなりニックネームをつけられてしまった。しかもシンくん。なんだか子どもっぽいあだ名だ。

 

「あ、シンちゃんの方がかわいいかな?」

「…シンくんでいいです」

「そう?じゃあシンくんで決まりね!ふふ、シンくん、シンく〜ん♪」

 

 歌う様にシンくんシンくんと繰り返すミナトさん。眩しいブロンドヘアが楽しげに揺れて、バックレストの左右からちらちらと金色の光が漏れる。

 

「ふっふっふーん、ふっふっふふーん♪」

 

 カーステレオから流れるカーペンターズのイントロに合わせた鼻歌が、小さな車内で踊る様に弾む。女性的な声で幸せいっぱいに奏でられる、どこか少女じみた幼さを感じさせる無邪気で陽気な高音のハミング。

 …うん、やっぱりミナトさんって結構…

 

「子どもっぽい…」

「え゙」

「あ」

 

 ビシリ、と固まるミナトさん。目の前の運転席から、ずぅ〜んと沈んだオーラが放たれる。

 しまった、つい口に…

 

「また、お子さま扱い…レイちゃんに続いてシンくんまで…僕って一体…大人って一体…」

「ご、ごめんミナトさん、つい口が滑って」

「じゃあ本音ってコトじゃん…ふぐぅぅ…」

「ち、ちがうよ、ちがうって…」

 

 どうやらミナトさんは、子ども扱いされるとホントに子どもみたいに拗ねてしまう困った大人らしい。僕はさっきまでの考え事も(ついでに敬語も)忘れて、必死にミナトさんを宥めすかした。

 …綾波も綾波だけど、やっぱりこの人もかなり変わった人だ。精神年齢が時と場合によってあまりにも違い過ぎる。昨日はすごく優しくて頼りになるキレイなお兄さんって感じだったのに、今はもうただただ情けなくて残念なお兄さんにしか見えない。

 

「…よしよし」

「わぁい♪…ってやめんかっ!」

「使徒、倒した」

「ぬぅ…!」

 

 ハッとするほどキレイで眩しくて、やたらキラキラした感じの容姿なのに、中身はちょっぴり残念な感じで…

 

「い、いやダメ!ナデナデはダメ!ダメったらダメなの!だーめー!」

 

 …うん、ちょっぴりじゃないかも…

 

「でも、倒したわ。私、エヴァに乗って使徒を倒した。勝利に貢献したパイロットには、正当な報酬を支払うべき」

「お菓子いっぱい買ったでしょ!」

「人類の存亡が大量生産の菓子類と等価値…?」

「ッッッッこの子はぁ…!」

「よしよし。よしよし」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅぅぅぅ……!」

 

 鉄面皮でパワープレイを押し通す綾波に破れて、悔しさにぷるぷる震えながら金色の髪をさらさらと梳かされているミナトさん。綾波は撫でられるだけじゃなく、自分から撫でるのも好きらしい。

 

「気持ちいい?」

「ぎも゙ぢよ゙ぐな゙い゙っ!」

 

 とうとう嗚咽まじりになってしまった。なんかもう、台無しだ、色々と。ホントにいるんだな、残念な美人さんって…

 

(親子っていうより、まるで兄妹…)

 

「いい子、いい子ね」

「ちがうもん!いい子じゃないもん!大人だもんッッ!!」

 

(…あれ、姉弟?)

 

 どうなってるんだろう、この二人のパワーバランス…

 

「大人なら、頭を撫でられても喜ばないわ」

「喜んでない!」

「でもさっき、わぁいって言ったわ」

「言ッ…………………………ってない!」

「言ったわ」

「ない!」

 

 目の前で繰り広げられる、あまりにも子どもじみた言った言わないの応酬。ユニークどころかもはや滑稽レベルな凸凹親子(?)漫才。

 

(家族って、こんなだったっけ…?)

 

 すっかり面食らってしまった僕は、手慰みに手元のポッキーをもそもそ食べ進めながら二人の漫才を眺め続けた。

 

 …うん。けっこういけるかも、いちご味。

 

 

 

 

 そんなヘンテコ親子が住む家…僕が今日からお世話になる家には、その後すぐに着いた。10階建てくらいのキレイなマンションだ。日当たりがよくて駐車場も広い、それなりにお高そうな物件。

 食材が詰まったダンボールを(綾波はお菓子だらけのエコバッグを)腕に抱えて、3人でエレベーターに乗り込んで、11階へ。

 

「重くない?」

「うん、全然」

「わ、力もち」

 

 待ち時間中の他愛もない会話。もう敬語は完全に抜けてしまった。ミナトさんが相手だと、自然と楽な喋り方になってしまうから不思議だ。

 

「……」

 

 そして、綾波はまたもや無言モード。お菓子だらけのエコバッグを胸に抱いたまま、エレベーターの扉をじーっと見つめて、マネキン人形みたいに固まっている。ホントにぴくりとも動かない。

 

「ふふっ」

 

 ミナトさんが、そっと僕の耳元に顔を寄せて囁く。

 

「レイちゃんね、お買い物の帰りはいっつもああなの。早くお家に帰りたくって、待ちきれないんだって」

 

 かわいいよね、とくすくす笑うミナトさん。

 …そっか、あの体勢はそういうことなんだ。全然わかんなかった。

 

「どうしてわかるの?」

「見てたらわかるよ、ほら」

 

 ぽそぽそと囁やくミナトさんに促されて、改めて綾波の背中を注視する。

 

「うーん…?」

 

 じっと目を凝らしてみるけど、目に映るのは空色の髪と細い背中だけ。

 

「…さっぱりだ」

 

 エレベーターが止まり、ウィーンとドアが開く。

 特に小走りしたりする事もなく、静かに歩き出す綾波。

 くすくすと笑いを漏らすミナトさんと共にエレベーターを降りながら、僕は首を傾げた。

 一体ミナトさんには、綾波の何が見えてるんだろう。

 

「三尉」

「ふふっ、はいはい」

 

 『入江』と横書きの小さな表札が掛けられた玄関ドアの前で立ち止まる。

 無機質な意匠のドアにはドアノブも鍵穴も無く、代わりに小さなカードリーダーが付いている。

 

「Aの3号室。ここが僕らのお家だよ」

 

 片腕でダンボールを抱えながら士官服の内ポケットを漁るミナトさん。

 赤いカードキーを取り出し、慣れた手つきでリーダーにカードを読み込ませると、シュンッと小気味いい音と共にドアがスライドした。

 …すごいや、家の玄関まで自動ドアなんだ。

 都会なんだな、やっぱり。

 

「ただいま」

 

 意外にもしっかりと『ただいま』を言いながら、綾波がそそくさとドアをくぐって中に入る。ミナトさんはごく自然に脇に避けて綾波を先に部屋へと通した。

 

「さ、入って」

「あ、うん…」

 

 ドアの隣りで微笑むミナトさんに促されて、おずおずと玄関を覗く。

 床にエコバッグを置いた綾波が、しゃがんで靴を整えている。備え付けらしいシューズケースの天板の上にはレースが敷かれ、ほっそりしたガラスの花瓶と小さな針時計、それと丸っこい卓上ミラーが飾られている。ミラーの裏側にはクリアグリーンの消臭剤がそっと置かれていて、ほんのりと爽やかな香りを醸し出している。

 

「……」

 

 随分と久しぶりに感じる、他所の家の匂い。知らない人の家の知らない生活様式を五感に感じ、僕の胸に少しの緊張が走る。

 …苦手なんだよな、こういうの。

 

「えと…おじゃまします…」

 

 立ち止まっている訳にも行かないので、静かに右足を踏み出す。

 出来るだけ音は立てたくない。他人の領域を自分が犯してるって、その人たちに思われたくない。そんな臆病な心理が、僕の足を鈍らせていた。

 

「だめ」

「え?」

 

 脱いだローファーを端に寄せて立ち上がった綾波が、片足だけ玄関に踏み入れた状態の僕を止めた。ルビーみたいな真っ赤な視線が真っ直ぐに突き刺さり、僕をその場に縫いつける。

 

「だ、だめって?」

 

 ダンボールを抱えたまま訳もわからず聞き返すと、綾波は氷みたいな無表情のまま淡々と、予想だにしなかった一言を放った。

 

「ただいま」

「へ…」

「家に帰ってきたら、ただいま。おじゃましますじゃない」

「…!」

 

 抑揚なくつらつらと、当たり前の様に述べる綾波。遠慮も気遣いも何もないただそれだけの一言に、何故か僕は不思議な安心感を…どこか懐かしい、遠い日の母の面影を見た。

 …そうだ、そうだった。今日から僕は、この人たちと家族になるんだった。

 

「じゃ、じゃあ、その…あの…えっと…」

 

 意識した途端に変な照れ臭さが湧き出してきて、ほんのり顔が熱くなる。嬉しい様な、恥ずかしい様な、でも、やっぱりちょっと気まずい様な…

 

「シンくん」

 

 いつの間にか、僕の後ろに寄り添っていたミナトさん。

 彼の優しい囁きが、僕に最後の一押しをした。

 

「おかえり」

「ぁ…」

 

 …本当に、本当になんでかはわからないけれど、この時の僕は、綾波とミナトさんのこの言葉に、酷く救われた様な気持ちになったんだ。

 

「た、た…」

 

 探していた大切なモノが、やっと見つかった時みたいな、そんな気持ちに。

 

「ただいま…?」

「うん♪」

 

 …この日、初めて入った薄暗い玄関で、赤い瞳の不思議な少女と、青い瞳の綺麗な人に挟まれながら、僕は…

 

「「おかえりなさい」」

 

 …この人たちと、家族になった。

 

 

 

 

 

 

「うわはー、シンくん包丁じょうず。お料理得意なの?」

「別に、いつもやってるだけだから」

「あ、今のかっこいいかも」

「な…やめてよ、もう…」

 

 夕飯の準備を自分から買って出た碇くんが、キッチンで三尉と肩を並べて仲睦まじげに笑い合っている。

 

「……」

「ごめんね、いきなり手伝わせちゃって」

「いいよ。大変でしょ、キャベツ切るの」

 

 …とても、とても仲…睦まじげに。

 

「……」

「えー全然だよぉ。っていうか大変ならなおさら僕が」

「ミナトさんこそゆっくりしててよ。米研ぎくらい僕が」

「だーめ!僕だってお料理したいの!」

「米研ぎって料理かなぁ」

「……」

 

 ……。

 

「三尉」

「シンくんまさか今日の夕飯ぜんぶ作るつもり?だめだよ、だめだめ。焼くのは僕がやるしお味噌汁も僕が作りますからね!」

「どうして?」

「だってシンくんホントに手際いいんだもん!ぜったい美味しいの作るじゃん!」

「いや、別にそんな…って、美味しいなら問題ないんじゃないの?」

「ノウ!だめったらだめ!レイちゃんの胃袋シンくんに取られちゃう!」

「はぁ?」

「……」

 

 …………。

 

「三尉、三尉」

「ん?どうしたの?」

 

 後ろからエプロンのヒモをくいくい引っ張ると、ようやく私に気づいた三尉が、とても楽しそうな笑顔で振り向いてきた。

 ……。

 

「…掃除」

「そうじ?」

 

 コテンと首を傾げる三尉。サファイアの様な青い瞳が、私の姿をはっきり捉える。

 碇くんじゃなく、私の姿を。

 

「風呂、掃除する」

「あ、お風呂ね。やってくれるの?」

「ん」

 

 コクンと頷くと、三尉の表情がぱぁっと輝き出した。

 …これは、私をナデナデしたいって顔。でも、今の三尉は米研ぎで両手が塞がってるから、ナデナデできない。

 …ここで、入江ミナト豆知識。こういう時は、もっと彼に近寄ればいい。そうすれば…

 

「んっ…ありがと。お願いね?」

「ん」

 

 …撫でる代わりに、頭にキスを落としてくる。

 

「ふふっ♪」

「んん…」

 

 しかも、機嫌によってはこうして頭にすりすりと頬擦りもしてくる。基本三尉の生態は子犬なので、愛情表現も子犬並みなのだ。

 …そう、子犬。三尉は子犬。私の事が大好きで、触れ合いたくて仕方がない子犬。だからこうして、私の方から接触のチャンスを与えてやる必要がある。三尉は私が好きなのだから。碇くんじゃなく、私の事が。

 

「な゙…」

 

 ?…碇くんが目を見開いて私を見ている。なにかあったんだろうか。

 

「なに?」

「い、いや!?なんでも…」

「そう」

 

 問題ないらしい。変な人。

 

「……ふぅ」

 

 しばらく三尉の頬擦りを堪能…ではなく、三尉に私の頭を堪能させてから、私は任務を遂行すべく浴室へと出動した。

 

「ミ、ミナトさん、今の…」

「今のって?」

「……」

 

 …また、楽しげな談笑…

 

「…うん。とりあえず、ちょっと離れてもらっていい?」

「え!?なんで!?僕なにかヤなコトしちゃった!?」

「イヤっていうか、その…気持ち悪いです、普通に」

「キッ…!?」

 

 …早急に任務を遂行する。あのダメ犬が、飼い主の顔を忘れる前に。

 

(ダメ犬…三尉は、本当にダメ犬…三尉は、三尉は…)

 

「…むかむかする」

 

 …本当に、ダメ犬…

 

 

 ……つづく。

 

 





後半へつづく(ちびまるこちゃん)

次はシンちゃんが女装ホステスデビューしたら更新します。しない場合は泣きながら更新します。ほんとにデビューしたらぬきながら更新します。最高だ俺って。

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