僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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短く小刻みに進めてきます。


えぴそ〜ど15:始動?お姉ちゃんタイム

 

 

 

『目標、補足』

 

 綾波が操るエヴァンゲリオン初号機が、仮想空間に現れた第3使徒に素早くライフルを向ける。

 

『攻撃、開始』

 

 淡々とした呟きと共に銃口から吐き出される、正確無比な三点射。

 放たれた弾丸は狙いを外す事なく赤い球体に吸い込まれ、巨大な使徒がもんどりうって背後のビルに倒れ込む。高層ビルを鈍色のガレキに変えた使徒は、凄まじい轟音と共に真っ赤な爆炎と化して姿を消した。

 

「上出来よレイ。そのまま続けて頂戴」

『了解』

 

 訓練を監督するリツコさんの言葉に短く返した綾波が、再び現れた第3使徒に向けてライフルを構える。牢獄の様な実験場に立たされたエヴァ初号機の上半身だけが動き、シミュレーション用ライフルの銃口がピカピカと赤く明滅する。

 

「シンジくん」

 

 シミュレーション結果を映すモニターを細かくチェックするリツコさんが、理知的な声で僕を呼ぶ。

 

「これがエヴァの射撃訓練よ。レイのお手本をよく観察して、イメージを掴んでおいて」

「は、はい」

 

 思わずこわばった声で返事をしてしまう。

 暗い観測室、光るモニター、窓の外のエヴァンゲリオン、冷たい目つきのリツコさん。

 支給された青いプラグスーツに全身を包みながら、僕はザワザワしたイヤな不安と緊張に手を震わせた。

 

『目標の沈黙を確認』

 

 スピーカーから聞こえてくるのは、綾波の抑揚のない平たい声。

 家や学校で見せる少し間の抜けた様子とは真反対なその冷たさが、僕の胸を更にザワつかせる。

 

(やっぱり、プロなんだ。綾波って…)

 

 改めて実感する、自分と彼女の覚悟の差。

 ただ流されるまエヴァに乗る事を決めた僕と、既に実戦すら経験している綾波。同じ家に住んでいるのに、まるで違う僕たちふたり。

 殺人機械の様に淡々とバーチャル使徒を撃ち殺している今の綾波と、いつでもどこでも『私はお姉ちゃんよ』と僕にまとわりついてくる普段のちょっぴりヘンな綾波が、僕の頭の中でぐるぐると混ざり合ってはまだらに淀み、暗く見えなくなっていく。

 

『目標捕捉。攻撃を開始します』

 

 一体どちらの綾波が、本当の綾波なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

「いただきまーす!」

「…いただきます」

 

 三尉の音頭に続いて、食卓を彩る温かな朝餉に手を合わせる。

 

「いただきます」

 

 三尉の対面、私の斜め向かいに座る碇くんも、しっかりと手を合わせて一礼している。

 …ヨシ。

 

「ずずっ…」

 

 そっとお椀を手に取った碇くんが、静かに味噌汁を一口飲む。

 …ヨシ。

 

「ずずずずずずずず…」

 

 …ん、美味しい。

 

「おかわり」

「はいは〜い!」

 

 今日も今日とて朝から元気な三尉に椀を渡し、おかわりを待つ。

 その間も、私は碇くんの行動を細かくチェックしてゆく。

 筑前煮を一口、米を一口、おひたしを一口…テーブルのメニューを行儀よく少しずつ食べ進める碇くん。

 …うん、ヨシ。

 

「…あの、食べずらいんだけど…」

 

 私の視線に気づいた碇くんが、困った様に眉をしかめて、チラチラと上目遣いを向けてくる。ここ数日でわかったが、碇くんは人の視線を特に気にする気質らしい。

 とはいえ。

 

「おかまいなく」

「えぇ…」

 

 やめる訳にはいかない。碇くんを『見守る』ことと『サポートする』ことが、私に課せられた使命なのだから。

 

「はいおまたせー!」

「ありがとう」

 

 ずずずず…うん、美味しい。三尉の味噌汁はいつ飲んでも美味しいけれど、やはり朝一番に飲む味噌汁は格別に美味だ。これを一杯飲んで追加のおかわりを口にしないと、私の平日は始まらない。

 ちなみに、休日の朝は大抵の場合野菜スープかポタージュになる。平日は和食、休日は洋食。それが我が家の朝食サイクルだ。

 

「今日は僕本部に行く日だから、ふたりともお留守番お願いね?」

「あ、うん」

「…ん」

 

 ほかほかの白米の上で梅干しを崩す三尉の言葉に、毎朝出てくるたまご焼き(今日は中に海苔が入っている)を食べながら頷きを返す。私たちの返事を認めた三尉は、よろしくねーと柔らかく笑いながら筑前煮に箸を伸ばした。

 

「帰り、買い物は?」

「してくよー。何か食べたいのある?」

「じゃがじゃが」

「じゃがじゃがね、りょーかい!」

 

 見事夕飯のリクエストに成功した。朝のうちに注文しておけば、大抵のリクエストに三尉は応えてくれる。

 

「ミナトさん、じゃがじゃがって?」

「ん?あぁ。肉じゃがのね、お肉無しバージョンなの」

 

 小首を傾げる碇くんと、ニコニコ笑顔の三尉。碇くんは我が家の食事メニューをよく気にするのだ。元いた家でも料理をしていたらしいから、きっと違いが気になるのだろう。

 家庭ごとに料理の味や様式が違う事は、ヒカリさんやクラスメイトたちの弁当を見ていればよくわかる。三尉のたまご焼きはしょっぱいが、ヒカリさんのたまご焼きは甘い、という様に。

 肉類を使わない(ギョーザは別)我が家の料理と碇くんの料理は、きっと違いが大きいのだろう。

 …と、いけない。

 

「碇くん」

「なに?」

「碇くんは、何が食べたい?」

 

 私よりも、碇くんのリクエストを優先しなければ。

 私は碇くんの『お姉ちゃん』なのだから。

 

「僕はなんでもいいよ」

 

 そう曖昧に笑って、碇くんは逃げる様に味噌汁の椀に口をつけた。

 

「……」

 

 碇くんは、いつもこれだ。三尉とはすっかり打ち解けた筈なのに、自分の要望をなかなか口にしようとしない。

 三尉は言っていた。家族とは、友人よりも誰よりも近しい場所にいる相手なのだから、遠慮はせずにありのままの気持ちを、しかし確かなまごころをもったうえで打ち明け合う事が大切だと。

 …碇くんは、三尉と私に遠慮をしているのだろうか?

 

(わからない…)

 

 わからない。私には、碇くんの心の機微がわからない。自分の感情すらよく理解していない私に、彼の気持ちがわかる訳もない。

 しかし、である。

 

『レイちゃん』

 

 碇くんが我が家に来てすぐ、私は三尉にお願いされたのだ。

 

『いきなりのお引っ越しで、シンくんも色々大変だからさ。何かあったら、レイちゃんも助けてあげてね?』

『助ける?』

『そ、助ける』

 

 碇くんを、助ける様にと。見守る様にと。そして、仲良くする様にと。

 

『レイちゃんは、シンくんのお姉ちゃんなんだから。ね?』

『お姉ちゃん…』

 

 そう、私はお姉ちゃん。この家に来たのは、碇くんより私が先。よって碇くんは弟で、私は彼のお姉ちゃんなのだ。

 お姉ちゃんとは、弟の守護者にして導き手であるらしい。

 であれば私は碇くんのお姉ちゃんとして、彼のあらゆる行動を見守り、自分より彼を優先し、彼の生活を常にサポートする。そんなおねえちゃんに、わたしはなる。

 

 …お姉ちゃんになれば…

 

『頼りにしてるよ?レイお姉ちゃん♪』

『頼りに…』

 

 …きっと三尉は、私をもっと必要とする。

 

『…わかったわ』

 

 …仕方ない。頼られたのなら仕方ない。家族からのお願いには、広い心で応えなければ。

 仕方がない。仕方がない。全く三尉は仕方がない。

 

「お姉ちゃん…お姉ちゃん…」

(また綾波がぶつぶつ言ってる…)

 

 改めて気を引き締めつつ、私も筑前煮のレンコンに箸を伸ばした。

 うん、美味しい。筑前煮、美味しい。

 

「お姉ちゃ」

「こーら。もぐもぐ中はおしゃべり禁止でしょ?」

「……」

 

 ……。

 

 

 

 つづく。






お子ちゃまお姉ちゃん系綾波レイという謎概念、襲来
(続きは明日か明後日投稿します♨︎)
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