僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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やかましい朝がきた(ラジオ体操)


えぴそ〜ど16:優しい朝、やかましい朝

 

 

 

「はい、おべんと!」

 

 ここ1、2週間でようやく食べ慣れてきた、ミナトさんお手製の弁当をカバンにしまう。

 他人の手料理なんてずっと食べてなかったから、こうして弁当を受け取る時とか、『ごはんだよー』なんて夕飯に呼ばれる時なんかは、正直まだソワソワしてしまう。まるで違う世界に生まれ変わったみたいで、すごく変な感じだ。

 

「碇くん」

「あ、うん」

 

 綾波といっしょに玄関に向かいながら、今日の弁当についてぼんやり考える。

 今日は何が入ってるんだろう。夕べのカボチャコロッケの残りと、今朝の筑前煮とたまご焼きとおひたしは多分入ってるんだろうな。

 最初はミナトさんの人柄的に、きっとテレビで紹介される様な可愛さ重視の凝り凝りな弁当が出てくるんだろうな、なんて思っていたんだけど、意外や意外。ミナトさんの弁当は、びっくりするくらい庶民的というか、普遍的だった。毎回ごはんの上に刻み海苔でネコとかイヌの顔が描かれているのは、ちょっと変わってるけど。

 

「忘れものない?」

「問題ないわ」

「うん、僕も」

 

 エプロン姿のミナトさんと一言二言交わして、玄関ドアの開閉スイッチを押す。このスライドドアの扱いにもようやく慣れてきた。開閉のスピードが速すぎてちょっと怖いんだよね、これ。

 

「いってきます」

「…いってきます」

「いってらっしゃい。気をつけてね!」

 

 挨拶もそこそこに、綾波と二人でエレベーターへ向かう。

 途中でふと玄関の方に目を向けてみると、やっぱりまだそこに居たミナトさんがニコニコ笑顔で手を振ってくる。釣られて自然と口角が上がってしまって、僕はちょっぴり気恥ずかしい心持ちになった。保護者の見送りに喜ぶなんて、小さな子どもみたいでなんだかイヤだ。

 でも、こうしてミナトさんが毎朝見送ってくれる事自体は、なんというか…嬉しい、と思う。そんな気がする。

 

(不思議だな。まだ一月も経ってないのに)

 

 戸惑う事はたくさんある。ガラリと変わってしまった環境にはまだまだ慣れない部分も多いし、エヴァンゲリオンの操縦訓練なんて、正直未だに他人事みたいだし。

 でも、この第3心東京市での暮らし自体は、そう悪いものでもない。機械的で冷たい印象が強いこの要塞都市、だけどそこに住む人々は拍子抜けなまでに普遍普通で、驚くほど僕に優しい人たちばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、優しくないヤツもいる。

 

「オラッ!碇オラッ!」

「いたっ!?」

「ちょっとナイコ…はぁ、全くもう」

 

 同じクラスの女子である河田ナイコが、15センチ定規をしならせて猛然と襲いかかってきた。綾波と並んで教室に入ったばかりの僕の二の腕を、猛烈な勢いでペチペチペチペチ叩いてくる。委員長が呆れた声で止めに入ってくれるけど、河田は聞きもしない。

 

「やめろよ!なにすんだよ!」

「竿役撃退じゃボケ!」

「なんだよそれ!?意味わかんないよ!」

「意味わからんのはお前じゃい!」

 

 野生的な黒い瞳に今日も今日とて理不尽な怒りを燃やす河田が、相変わらず無表情な綾波をひっしと抱きしめて僕を睨む。

 

「レイと同棲!通学も同伴!同じ弁当に同じ匂いの柔軟剤!無垢な親友に突然迫る男の影!こんなんフツー許せるか!?許せねぇよなぁ!?」

 

「「「そーだそーだ!」」」

 

 ギャーギャー騒ぐ河田の声にやんややんやと追従するクラスメイトたち。こういうノリになってしまったが最後、僕に味方は居なくなる。

 

「だからなんにもしてないって言ってるだろ!?」

「ウソをつくなッ!お前みたいな優男に限って実は鬼畜な隠れドSだったりするんだ!ヒロインが何の気なしに呟いた一言が地雷だったりして、いきなり豹変して押し倒してきたりするんだ!アタシは詳しいんだッ!」

 

 ぎゅーっ!と綾波を抱きしめながら、ぎゃーっ!と牙を剥く河田。綾波はマネキン人形の様にされるがままだけど、頭を軽く河田の顔に預けていたりもするので、実はまんざらでも無いのかもしれない。

 って、そんなのはどうでもいいんだよ!

 

「そんなことするわけないだろ!?っていうか、ミナトさんだって男じゃないか!なんで僕だけ」

「アニキはママだから良いんだよ!!!!」

「ひぃっ!?」

 

 げ、逆鱗!?

 

「ナイコさん」

「なんだいレイさん!」

 

 黙って行末を見守っていた綾波が、静かに口を開く。

 

「うるさい」

「それな!」

 

 あまりにも端的に呟かれた苦情。河田はパッと綾波を解放して『すんませんした!』と素早く敬礼した。声だけじゃなくて動きまでうるさい。完全にギャグ漫画の世界の人だ。

 綾波は河田の敬礼を華麗にスルーして、そのまま自分の席へと行ってしまった。

 

「ふっ、今日はアタシの負けか。腕を上げたな碇」

 

 謎の強者感を出しつつ腕を組んで不敵に笑う河田。

 意味不明すぎて何も言い返せないし、もう何も言いたくない。

 

「ごめんね碇くん、ウチのおバカがホントに…」

「委員長は悪くないよ」

 

 左右のおさげをシュンとさせて謝ってくる委員長。

 なんで河田なんかと仲良しなんだろう、委員長は。

 

「ねぇ今バカって言った?」

「言ったわよバカナイコ。バカナイコ。バカナイコ」

「三回も言いやがった!?やずやだって二回なのに!?」

 

 優しい委員長から放たれた容赦ない悪口に慄く河田を放って、僕も自分の席についた。

 

「はぁ…」

 

 机の上に、どさりと置いた学生カバン。僕は河田の喧しさに大きくため息を吐きながら、サイドのポケットから飛び出していた黒いイヤホンをぎゅっと仕舞い直した。

 

 

 つづく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…アイツか。あのロボット動かしよったんは」

 

 

 

 





次回、トウジの前歯に危機迫る———!

次は3日後か4日後に更新します。
短いのをちょっとずつ早めに上げてく方法を試行中なんですが、どうですかね。どうでもいい?あ、ハイ…


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