僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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グーテンモルゲン。
最近dアニメで『ぼくのとなりに暗黒破壊神がいます。』ってアニメを見てます。略称は『ぼくはか』というらしいです。
キャラクターが皆んな可愛くて見ていてホントに癒されます。
まぁメインキャラほとんど男子なんですけど。



俺ノンケちゃうかもしれへんな………





えぴそ〜ど2:ようこそ我が家へ!日本のお米は世界一

 今の時刻は18時過ぎ。昼間はあんなに高かったお日様も(地下にいたから想像だけど)徐々に沈み、オレンジ色に変わった柔らかくて優しい夕陽が、明日に向けてぼちぼち寝支度を始めている街と人々を、そして僕とレイちゃんを載せた車輪付きの白い小箱を照らしていた。

 

 僕は2台ある愛車の中の四輪担当、白くて小さなボディと少し高めの車高がキュート&クールな軽自動車『ケーちゃん』のステアリングを握りながら、助手席にちょこんと座る白くて小さな体と少々そっけない態度がキュート&クールな少女、綾波レイに色々な話題を振って会話のキャッチボールを試みていた。

 

 

 「もう夕方なのにあっついよねぇ。エアコン直しておいて良かったよ」

 

 「……」

 

 「あ、寒かったら言ってね?冷やしすぎると身体に悪いからね!」

 

 「……」

 

 

 

 

 

 ……投げたボールはなかなか返ってこないけどね!?ごめんねレイちゃん、どうやら僕はノーコンみたいです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えぴそ〜ど2:ようこそ我が家へ!日本のお米は世界一

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 15年前の大災害『セカンドインパクト』の影響でこの国からは四季が消え去り、唯一残ったのは夏だけだった。

 

 クリスマスだろうがお正月だろうが容赦無くギラッギラの日差しに肌を焼かれるのには、ちょっと辟易する。僕は母親に似て肌が弱く、ちょっと油断するとすぐ真っ赤に焼けてしまうのだ。そのせいでここ15年間は日焼け止めがずっと手離せずにいる。小麦色にカッコよく日焼けできる人達がうらやましいなぁ……。

 

 でも、そんな苦労も母から僕への贈り物だと思えばへっちゃらだ。

 

 僕を産んだ両親はもうこの世に居ないけど、僕に残された日差しに弱いこの肌と、日本人らしからぬ無駄にサラッサラなブロンドの髪は、母が確かにこの世界に生きていた事の証だ。ふふっ、幼稚園児の頃は女の子みたいだとかガイジンだとかって周りの男の子にからかわれて、よく両親に泣きついていたっけ。『みんなはぼくのことがきらいなんだ!だから意地悪するんだ!ならぼくもみんななんかきらいだ!ぼくのこともきらいだ!』なんて、母の胸にしがみつきながら泣き喚いていた。

 

 その度に、母に縋り付く僕を母ごと抱きしめながら、父は言っていた。『ミナト、お前の肌も髪も、この世界でお前しか持っていないとても大切なモノだ。お母さんの息子であるミナトだから、お母さんと同じ肌と髪がある。みんなそれがキレイで羨ましいから、ミナトだけズルいって意地悪してるんだよ。だから、許してあげなさい。そして好きになるんだ。みんなのことも自分のことも、精一杯好きになるんだ。ミナトが好きなれば、きっとみんなもミナトを好きになってくれるよ』と。

 

 この言葉を、僕は一生忘れないだろう。

 

 母と違って容姿の面で父から僕に受け継がれたものはあまり無かったけど、父は色々な事を僕に教えてくれた。その『教え』は、ひとつも欠ける事なく僕の心に、魂に刻まれている。

 

 だから、夏の日差しくらいはなんてことない。肌が焼けるのは誇るべき事だ。だってそれは僕を産んでくれた母からの贈り物があまりにキレイすぎるせいなんだから。そしてそう思える心、自分を好きでいられる心は、父の教えが支えてくれている。僕の中で確かに今も息づいている両親が、僕を強くしてくれている……うーん、日焼けくらいでちょっと大袈裟だったかな?しょうがないじゃん日差し強いんだもん!言っておくど毎日日焼けどめ塗るのって結構大変なんだからね!?

 

 別に夏自体はキライじゃないし、むしろ好きだ。四季が無くなった日本に残ったのが夏だったのは、この国の名前にはとても合っているから冬よりはいいかなと個人的には思う。日の本の国、日出ずる国だからね。ただちょ〜っと出ずり過ぎな気がするので、たまには手加減してもらえないかな、なんて。

 

 そんな具合にここ十数年実に絶好調な我が国のお天道様も、夜になればちゃんとシフト通りに退勤して、お月様にバトンタッチする。今はまだ夕方だから、日勤と夜勤で業務の引き継ぎをしてる最中って所かな?

 

 

 「セカパク前は、いまごろになると外はもう真っ暗だったなぁ。……運転する身としては、ずーっと真夏なこの気候も悪くないかもね。明るい方が安全だもん」

 

 「……」

 

 

 

 うん、いまの話題は失敗だった。

 

 僕らみたいにセカンドインパクトを経験した所謂セカパク世代とそうじゃない新世紀生まれの子供達とでは、この国の気候や環境に対する認識があまりにも違う。子供達にとっては、年がら年中暑い夏なのも街路樹の葉がずっと緑色なのも当たり前の事で、例えば僕たちが『桜が舞い散らない4月は寂しい』と口にしても、彼らは『あぁあのピンクのやつね。写真で見た事あるけどキレーだよねハハハ』くらいにしか感じない。昔の事に興味を持つタイプの子であれば逆に色々な話を聞こうと鼻息荒くおねだりしてくるけど、そうじゃない子達にとってセカパク前の話を聞かされるというのは、昔の資料映像や古い戦争映画を観せられるのとそう変わらない。ハマる人はハマるし勤勉な人はしっかりと観てくれるけど、それ以外の人からすればただの『勉強にはなるけど退屈でカビくさいモノ』で、テキトーに流し見して当たり障りの無い感想を述べてハイ終了、である。

 

 

 「……」

 

 

 わき見運転にならない程度にそれとなくレイちゃんの様子を伺ってみたけど、やっぱり僕の話は彼女が興味を持つに値しなかったみたいだ。車に乗り始めたときの姿勢から少しも変わらず、ただ助手席のドアガラス越しに流れる景色をじっと見つめている。

 

 暮れゆく第三新東京市の街並み。僕には優しく輝いて見えるけど、今の彼女の目にこの街はどう映っているんだろうか。

 

 

 

 少女が話に応えてくれない事よりも、この時の僕にはそれが何より気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 今日初めて『会った』ヒトの車に乗せられて、私はただ窓に映る風景を見ていた。

 

 スーツ姿の男性が、ビジネスバッグを片手に俯きがちな姿勢で歩いている。あの人には帰りを待つ家族はいるんだろうか。

 

 制服姿の少女達が、コンビニの前で何やら楽しそうに談笑している。彼女達にその制服を買い与えたのは、彼女達の本当の両親なんだろうか。

 

 

 普段の自分なら気にもしないであろう他人の『家族』について、なぜか今は考えてしまう。

 

 

 

 

 「今気づいたけど、その包帯で手巻き寿司は難しよね……う〜ん、僕が巻いてあげてもいいけど、それじゃあ手巻き寿司の魅力が半減しちゃうし……いっそ普通にお寿司握っちゃう?ヘイお待ちしちゃう?」

 

 

 

 

 

 この男性、入江ミナトが今日から私の『父親代わり』らしい。

 

 ドアガラスに僅かに反射して見える彼は、何が楽しいのか嬉しいのか、碇司令の部屋で会った時から変わらずふにゃりと緩んだ笑顔を絶えず浮かべている。何がそんなに嬉しいんだろう。ひょっとしてこの人は子供が欲しかったんだろうか。なら自分で作ればいいのに。私は自分に父親が必要とは感じていないのだから。

 

 

 

 「そういえば、レイちゃんもけっこう色白だよね。どう?日焼け止めとか大変じゃない?僕なんか大変だよぉ。油断したらす〜ぐ真っ赤になっちゃってさ!」

 

 (彼の子になる事が、碇司令の命令)

 

 

 

 何故私に父親が必要なのかは分からないが、碇司令がそうしろというのだから、きっと司令にとって———『計画』にとって必要な事なんだろう。

 

 

 親。子を育て、守り、導く存在。

 

 

 私は育ててもらう必要も、守ってもらう必要も無い。私が死んでも代わりがいるから。

 

 私は導いてもらう必要もない。私にはエヴァがあるから。エヴァにさえ乗れれば、司令は私を見てくれるから。

 

 

 そう、碇司令が見てくれるなら、私はそれでいい。父親なんて、いらない。

 

 

 でも、この入江というヒトの子になれというのが、司令からの命令。命令なら従わないといけない。司令を困らせたくないから。失望させたくないから。

 

 

 私には司令さえいれば良いのに、司令は私に『これからは彼を頼れ』と言った。新しい保護者を頼れと。それはもう自分には頼るなということなんだろうか。私はもう、いらないんだろうか。

 

 

 

 「……よし、決めた!片手でも食べられて、お肉も必要なくて美味しくて沢山作れる料理!いっこ思いついちゃった!」

 

 

 

 

 多くの人々にとって、父親というのは大切な存在で、敬うべき上位者らしい。

 

 

 ならば何故私は、その大切な父親となる彼に対して、なんの敬意も尊さも感じられないのだろうか。何故、彼から普通の父親が子に対して放つという——普段碇司令から感じるような——威厳を感じないのだろうか。

 

 彼の女性的な容姿が原因ではないというのはわかる。

 

 

 

 それはきっと私が、親とは実際どんな存在で、頼るべき大人とはどの様な人物なのかが分からないからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……分からなくていい、その必要性を感じない。

 

 

 

 

 

 私は深まりかけた思考を放棄し、眺める対象を人々から空へと移した。

 

 

 

 

 

 

 

 私はただ、命令に従う。

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

 

 

 「はいとうちゃーく!車置いてくるからそこで待っててね!」

 

 

 近所のスーパーで買い物を終えて、僕の住むアパートに着くころにはすっかり暗くなっていた。夕飯を作って食べて一休みしたら、すぐに彼女を送り帰さなきゃいけない。お泊まり会も楽しそうだけど、まだ初日だしレイちゃんも僕も何の準備もしてないからね。

 

 ウチの最高司令官はなかなかに太っ腹なようで、明日にでも僕たちの為に新居を用意してくれるらしい。赤木博士が言うにはかなり立派な部屋だそうだ。

 

 なんで博士がそんな事を知ってるのかというと、その部屋は博士の親友である葛城ミサト一尉が住んでいるマンションの一室らしい。

 

 葛城一尉とはまだちゃんと話した事はないけど、賑やかで人懐っこい性格が評判なNERVの人気者だ。そんな人が隣人になってくれるなら、これから始まる新生活も楽しい物になりそうだ。

 

 というわけで、今日の所はひとまずお祝いのディナーだけ。本格的にレイちゃんと家族になるのは明日から。僕の部屋はヒト二人が継続して暮らすのにはちょっと狭いしね。

 

 

 ちなみに、僕は明日付けで保安警備隊から葛城一尉が指揮する作戦部に異動になるらしい。そして三尉の階級が与えられるそうな。

 

 理由は恐らく、レイちゃんがエヴァンゲリオンのパイロットで戦闘の際は作戦部の指揮下に入るから、保護者をやらせる人間も作戦部の人間にしてしまえば色々とやりやすいよね、みたいな理由だと思う。

 

 ……子供を死地に送り出すんだ、親が着いていくのは当たり前だろう。そもそも子供が命懸けで戦う事を止められない時点で親どころか大人失格なんだ。僕も、碇司令も冬月副司令も赤木博士も葛城一尉も誰も彼も。この世界に生きる大人全てが大人失格だ。

 

 だから作戦部でレイちゃんのサポートが出来るのは願ったり叶ったりだ。警備隊員の僕が作戦部で何が出来るかは分からないけど、自分が出来る事を精一杯やっていこうと思う。一所懸命、ですよねヤマト先生!

 

 ……そういえば、僕の明日からの有給5日間はどうなるんだろう。なんか、引越しとか各種手続きとか警備隊の皆んなへのお別れとか作戦部の方々への挨拶とか、色々してる間に自然と消滅してしまう予感がビンビンにする!!ごめんよカブちゃん、君とのツーリングはもうしばらく先になりそうです!

 

 僕は我が愛車達の二輪担当、110ccの原付二種『カブちゃん』に心の中でごめんなさいしながらケーちゃんを動かす。落ち着いたら絶対行くから、それまで良い子で待っててね!

 

 

 (ここにケーちゃんを駐めるのも今日で最後かぁ)

 

 

 アパートのすぐ隣にある月極駐車場でケーちゃんを駐めて、食材が詰まったダンボールをバックドアからよっこいしょ!と取り出す。

 

 他人に料理を振る舞うのが久しぶりでテンション上がってつい沢山買っちゃったけど、今日作る料理は余らせてもそれなりに保たせられる料理だからヘーキヘーキ!

 

 多分一般的な家庭でお祝いの料理として出す事は無いモノだろうけど、『とーさん』のトコではこの料理を皆んなで作ってしょっちゅうパーティーを開いていた。色々な味を楽しむ事が出来るコレならレイちゃんもきっと喜んでくれるはずだ!……喜んでくれるといいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よっ、とっ、おいしょっと!はぁ〜ただいまぁ〜!」

 

 「……」

 

 

 

 ダンボールを抱えたままなんとか鍵を開けて、愛しき我が家のドアを開く。この部屋で寝るのも今日で最後かと思うと、なんだか寂しくなるな……。

 

 引越してきてすぐの頃はどこか他人の部屋みたいに感じていたこの部屋も、今ではすっかり僕の帰るべき心の拠り所、大好きなマイホームだ。急に引越しが決まってしまったので、まだお別れする心の準備も出来ていない。いきなり僕が出て行ってしまったら、この部屋はどう思うだろう。少しは寂しがってくれるだろうか。それとも清々したと鼻で笑われるだろうか。

 

 ッと、黄昏てる場合じゃないよね!今日は新しい家族の歓迎パーティーなんだから!

 

 

 

 「ささっ、入って入って!晩御飯が待ってるよ!」

 

 

 「……お邪魔します」

 

 

 

 ……お邪魔します、か。まぁ一緒に暮らすのは明日からだし、住むのはこの部屋じゃないしね!それにレイちゃんがちゃんと挨拶できる礼儀正しい良い子だってわかったんだ。これは僕たち会いたてホヤホヤの親子にとっては大切な一歩だよ、うん!

 

 

 レイちゃんを中に通してから、後ろ手にドアを閉める。うんうん、靴もしっかり揃えて端に寄せてる。なんだやっぱり良い子じゃないか!碇司令、部下への説明は超テキトーだったけど、レイちゃんへの教育は熱心にしてんたんだろうなぁ。僕も負けないようにしっかりしないと!

 

 

 ダンボールを抱えて短い廊下を進みリビングに入ると、レイちゃんが所在無さげに立っていた。もしや勝手に座っていいのかどうか決めかねているんだろうか。う〜ん本当にしっかりした子だなぁ。僕が中学生の頃ってどうだっただろう。ここまでしっかりしてただろうか?

 

 

 

 「カバンは好きなトコに置いていいよ。そこの流しで手を洗ったら、座布団に座ってゆっくりしてて!すぐにお茶淹れるから!」

 

 

 「……はい」

 

 

 

 レイちゃんは素直にカバンを置き、キッチンの流し台で手を洗い始めた。それを横目に僕はダンボールを冷蔵庫の前まで運んで食材達を取り出していく。なんせ種類も量も多いからこれだけでもちょっと大変な作業だ。というか明らかに買いすぎだよコレ。二人が一食分で食べていい量じゃないよ。うぅ、とーさんが見たら呆れるだろうなぁ。お前はいくつになってもはしゃぎ癖が治らないな〜なんて言われそうだ。

 

 

 なんとかダンボールを捌いてから手を洗い、冷蔵庫から麦茶の容器を取り出しコップに注ぐ。明日引越しなら、これも明日の朝には飲み干してないといけないなぁ。まだだいぶ残ってるんだけど。うーんお腹タプタプになりそう……。

 

 

 

 

 

———————————————

 

 

 

 

 

 

 「はい、お茶どうぞ〜。お腹空いてるよね、すぐ夕飯にするからテレビでも見て待っててね!」

 

 

 

 

 リビングのテーブルの側に敷かれた座布団に座っていると、入江ミナト——明日からは作戦部の三尉になるので三尉と呼ぼう——三尉が琥珀色の液体が入ったグラスを私の前にコトリと置いて、テレビの電源を点けたと思うと小走りでキッチンに戻っていった。

 

 部屋の中はまだエアコンが冷えきっていない事もあり少し暑い。私は無意識に涼を求めて、差し出されたグラスの中身の半分を一口で飲み干した。

 

 熱を持った体内に冷蔵庫でよく冷やされたお茶がスッと染み込み、心地よい清涼感が全身に流れていく。

 

 (……冷たくて、美味しい)

 

 

 何かを口にして美味と感じるのは、大抵冷えた水を口にした時だ。固形物ではあまり無い気がする。強いて言えば、いつも食べている補給食の中ではフルーツ味が好みだ。

 

 最初に碇司令が食事に連れて行ってくれた時は、司令と同じコース料理を出された。

 

 スープや前菜は確かに美味しかった記憶があるが、メインのステーキだけは身体が受け入れなかった。アレはダメだ。一口噛んだら血の味がして、噛んでも噛んでも血の味がする。一切れ目を食べながら余りの嫌悪感に思わず顔を顰めてしまい、それに気付いた司令がすぐに料理を下げさせてくれた。なぜ司令はアレを好んで食べるんだろう。血の味が好きなんだろうか。

 

 それ以来、司令との食事の時も、私の分は普段通りの錠剤と補給食にして貰った。司令は他の料理を用意させると言ってくれたけど、私にその資格は無いと思って断った。司令の好きな料理を拒絶した私に、あの席で食を楽しむ資格は無い。

 

 

 

 

 「〜♪〜♪」

 

 

 

 キッチンからは三尉の控えめな声量の歌声が、テレビの音声を遮らない程度に聞こえて来る。聞いた事も無い歌だった。

 

 歌とは、人が感じる喜怒哀楽を発露する為に歌うらしい。私に歌は分からないが、三尉の歌声からはなんとなく『楽』を感じる。歌を歌うほど料理が楽しいのか、それとも料理とは歌いながら作るのが一般的なのか。そんな事をふと考えたその時、ふいに嗅いだ事の無い匂いが鼻腔をくすぐった。

 

 

 

 「〜♪〜〜〜〜〜♪」

 

 

 

 これは、なんの匂いだろう。

 

 嗅覚と味覚は密接に関係していると言うが、私は今それを身をもって実感している。この匂いを嗅いで、まだ食べた事も無いであろうその料理に対して私は自然と『美味しそう』という想像をしてしまっていた。

 

 すると不思議な事に、先程まではそこまで感じていなかった空腹感が急激に私の胃を襲ってきた。今まで感じた事の無い、痛みすら覚える程の凄まじい空腹。

 

 

 

 「〜〜♪〜♪〜〜〜〜〜♪」

 

 

 

 後ろをチラッと振り返ると、コンロに置かれた花柄の白い鍋がコトコトと小気味良い音を鳴らしながら白い湯気をたてていた。どうやらあれが匂いを発している元凶らしい。三尉は鍋の様子をこまめに確認しながら、せっせと別の作業に勤しんでいる。

 

 キッチンに向かってあの鍋の中身を検めたい衝動に駆られるが、三尉は座って待っててと言っていた。上官の命令には従わないといけない。

 

 

 

 

 

 

 

 (テレビでも見てと、言っていた……)

 

 

空腹から目を逸らすように、テレビに映るニュースキャスターに意識を向ける。

 

 

 明日の天気は……

 (どんな、味なんだろう)

 

 

 西日本は全体的に晴れ間。東日本は……

 (どんな、見た目なんだろう)

 

 

 東、日本は……

 (どんな、どんな、どんな、どんな………)

 

 

 

 

 

 ………。

 

 

 

 

 (おなか、すいた………)

 

 

 

 これは、入江三尉が上官として私に与えている試練なんだろうか。だとしたら効果はてきめんだ。私は今、かつて無いほどの激痛(空腹感)に真っ直ぐ座る事すら出来なくなっている。赤木博士の実験でも、ここまで辛い事をされた記憶は無い。初対面でここまでスパルタな精神鍛錬を強要してくるとは、流石は碇司令が私の保護者に選定した人物という事なんだろうか。

 

 心の中で入江ミナト三尉に対する上官としての評価を上方修正させながら、私は空腹を訴え続ける胃袋を少しでも萎める為に上半身を前傾姿勢にし、この地獄を耐え忍ぶ覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 (入江三尉は……優秀な、上官………)

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 「おっまたせ〜!ごめんねぇお腹空いたよね!今日はもうたっくさん食べていいからねって、え、レイちゃん大丈夫!?お腹痛いの!?」

 

 

 「ゔ、ゔぅ………っ、問題、ありません」

 

 

 

 大急ぎで調理してようやく完成した品々をお盆で運んできたら、レイちゃんがテーブルに突っ伏してうーうー唸っていた。な、なにごと!?

 

 すわ一大事かと思って救急車を呼ぼうかとNERV職員専用の携帯端末を手にとったところで、リビングに『ぐぅ〜〜〜〜〜っ』と気の抜けた音が響いた。

 

 あ、もしかしてこれは……?

 

 レイちゃんはぐったりした姿勢はそのまま、頭だけを緩慢な動作で僕に向けながら誇張表現抜きに本当に死にそうな顔で、

 

 

 「三尉、食事を……食事を要求します……ゔぅ」

 

 

 お腹が減って死にそうだという事をめっちゃ丁寧に伝えてきた!やばいやばいこれはやばい!そうだよね成長期の子供には酷な待ち時間だったよね!?わぁぁぁ申し訳ない!もうほんとウルトラ申し訳ない!

 

 

 「あぁー!?ごめんね!?ものすっごいお腹空いてるんだね!?遅くなってほんとごめん!ほら、もう夕飯だよ!たくさん食べて元気だしてぇ!」

 

 

 僕は大急ぎで食卓に料理を並べた!

 

 お願い、死なないでレイちゃん!ここを耐えれば、あったかいご飯が待ってるんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いただきまーす!はい、どうぞ召し上がれ!」

 

 

 「いただき、ます……」

 

 

 両手を合わせて食材とそれに関わったあらゆる人、物に感謝を伝えてから、お味噌汁のお椀を手に取る。レイちゃんの分は片手でも飲みやすい様に具を少なめにしてあるけど、大丈夫だろうか?

 

 

 

 「これが……」

 

 

 レイちゃんは虚ろな目でお味噌汁のお椀を見つめながら、ゆっっっっっくりと口もとに運んでいる。だ、大丈夫かなホントに?あれだけゆっくりなら零したりヤケドしたりはしないと思うけど……

 

 

 「ふーっ、ふーっ……ずずっ」

 

 

 時間をかけてようやくお味噌汁をずずっ、と一口のむレイちゃん。僕は味が大丈夫かとそもそもレイちゃんの体調が大丈夫かの両方が不安で、つい自分も食事の手を止めてじっと見つめてしまう。

 

 

 「ど、どうかな?お口に合えば良かったんだけど……」

 

 

 「………」

 

 

 一言も発さず、ただお椀の中身を見つめるレイちゃん。も、もしかして美味しくなかったかな……味見はちゃんとしたんだけど……

 

 でも次の瞬間、その心配は杞憂だと分かった。

 

 お椀を見つめるレイちゃんはいつも通りの無表情だったけど、かすかに、近くでみていてようやくわかる程度にかすかにだけど、フッとその顔が緩んだのがわかったからだ。

 

 

 「ずずっ、ずずっ、コクッコクッコクッ………」

 

 

 そして、一口目までとは段違いのスピードでお椀の中身を飲み進め、あっという間に一杯完食してしまった。そしてお椀をテーブルにおいて、ほぅっ、と小さく一息ついてから、

 

 

 

 

 「……美味しい」

 

 

 小さな声で、そう言ってくれた。

 

 

 僕の胸に、じんわりと暖かいモノが広がっていく。誰かに料理を振る舞って、それを美味しいと言ってもらえる。久しぶりに感じるポカポカしてちょっとだけむず痒い感じがする歓喜を、僕はお味噌汁のダシの香りと一緒に堪能した。

 

 

 「ふふっ、おかわりもあるよ。よそってこようか?」

 

 

 「……はい」

 

 

 

 美味しいと言ってくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、今晩の主役は残念ながらお味噌汁ではない。今日のお祝いにピッタリな、片手で食べられてお肉が必要なくて、かつ手早く沢山作れる料理、それは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さ、どうぞレイちゃん!今日は『おにぎり』パーティーにしてみました!」

 

 

 「おにぎり……」

 

 

 

 食卓に並ぶのは、色々な具材ごとに作り分けたスモールサイズのおにぎり、おにぎり、おにぎり。

 

 色んな味を楽しんでもらおうと思って、小さいおにぎりをとにかくたくさん作ってみました!それぞれのおにぎりのテッペンには、一目で中の具材がわかる様にその具材をひとつまみ分だけちょこん、とのせている。

 

 シャケ(焼いてほぐす時間が無かったのでフレークを買ってきた)、梅干し、ツナマヨ、おかか、昆布、ワカメの混ぜ込み。その他にもエトセトラエトセトラ。

 

 これならお肉が無くても大丈夫だし食べやすいし、何より残ってもある程度保存が効く。レイちゃんがどれくらい食べるかわかんないからね。小さいおにぎりなら食べ過ぎる心配は無いし、この量なら足りなくなる心配もないだろう。

 

 お祝いの席でおにぎりはないだろって?…………他所は他所、ウチはウチですっ!

 

 

 

 「さ、食べよ食べよっ!」

 

 

 「……」

 

 

 僕もすっかり腹ペコだったので、一番好きな梅干しのおにぎりを手に取ってぱくっと一口。うん、出来立てはやっぱりいいね!あったかくて柔らかい!なんかこう、お米食べてるっ!て感じ!

 

 いやはや、家電を揃える時に炊飯器だけは奮発していいヤツを買っていてホントに良かった。急速炊飯にしても、しっかりおいしいご飯が食べられる。うん、日本人でよかった。僕ほんと日本人でよかったよ、お父さんお母さん!

 

 

 レイちゃんも少し遅れて、昆布のおにぎりに手を伸ばしてはむっ、と一口食べた。

 

 

 「……」

 

 

 「どうかな、美味しい?」

 

 

 さっきのお味噌汁ですっかり味をしめてしまった僕は、調子に乗ってまたレイちゃんに感想を求めてしまう。

 

 自分でも『あ、いま僕調子乗ってるな』ってわかったけど、それでも我慢が出来ない。それくらいさっきのレイちゃんの言葉が嬉しかった。NERVでは一切口を聞いてくれなかったレイちゃんから出た言葉だからこそ、余計に僕を舞い上がらせているのかもしれない。

 

 レイちゃんはゆっくりとおにぎりを咀嚼してゆっくりと嚥下し、そのまま言葉を発さず二口目でミニおにぎりを平らげた。

 

 そしてそれも全て飲み込んだ後、少し間を置いてから小声で一言、さらに僕を調子づかせる言葉を放つ。

 

 

 「美味しい、です。三尉」

 

 

 今までの触れ合いで、彼女は礼儀正しいけどお世辞を言ったりするタイプじゃない事は分かっていた。

 

 その彼女が美味しいって言ってくれたって事は、それってつまり、そういうことだよね!?

 

 

 「ほんと!?ありがとうレイちゃん!そっかそっか美味しいかったかぁ!ふふっ、よかったぁ〜」

 

 

 「……?」

 

 

 

 

 

 

 さっき本部で今回の話を聞いた時、今日は人生で最高の日になるかもって思ったけど、やっぱり今日は人生最高の日みたいだ。

 

 新しい家族。僕の料理を食べてくれる家族。美味しいよって伝えてくれる家族。

 

 身勝手な喜びだって、ひどい自己満足だって事はわかってるけど、それでもやっぱり嬉しかった。18歳から一人暮らしをはじめて約6年。やっぱり僕は寂しかったんだろう。こうして食卓を一緒に囲んでくれる相手がいるだけで、ポカポカした歓喜が無限に湧き出てくる。

 

 

 

 あぁレイちゃん。ホントに、ホントのホントに———

 

 

 

 「ありがとう、レイちゃん」

 

 

 

 これから、どうぞよろしくね!

 

 




ケーちゃんの車種はスズキのkeiのイメージです。カブちゃんはまんまホンダのカブちゃん。

ミナトくんの容姿について1話で全く描写してなかったので今回むりっくりねじ込んでみました。
金髪色白なオトコの娘おにーさん。
はい、完全に僕の性癖です。
だが私は謝らない(からすまスタイル)




俺ノンケちゃうかもしれへんな………
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