僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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乗るなシンジ!戻れ!








えぴそ〜ど19:取り消せよ、今の言葉!

 

 

 

 

 

 

「すまんな転校生、昼メシ時に」

 

 黒いジャージの両袖を男らしく捲り上げた見知らぬクラスメイトの、恐ろしく剣呑な声色が僕を刺す。

 

「お前が…お前が、あのロボットのパイロットいうんは、ホンマか?転校生」

「…っ」

 

 昼休みが始まってすぐに連れ出された人影薄い校舎裏で、僕はひくりと喉をしゃくりあげた。

 

「正直に吐いた方がいいよ?こないだの騒ぎで妹さんがケガしちゃったもんで、結構キレてるからさ、そいつ」

 

 ジャージの彼の隣に立つ眼鏡の少年が、どこか楽しげな、軽薄そうな口調でゆるりと僕を追い詰める。

 

「どうなんや、転校生」

 

 重く低い声で僕を問い詰めるジャージの彼は、怒りの水圧に耐えきれず今にも決壊しそうなダムそのものか。

 

(この人は、エヴァのパイロットが憎いんだ…)

 

 すっかり血の気の引いた冴えない頭で、ぐるぐると拙く考えを巡らせる。

 この人の妹は、使徒と初号機の戦いに巻き込まれて大ケガをしてしまったそうだ。僕を見下ろす瞳は鋭く、硬く握った両手の拳はワナワナと震えている。

 怒っている、間違いなく。たぶんきっと、殴られる。

 

(殴られるのはイヤだ。痛いのはイヤだし、怖いのもイヤだ)

 

 僕は初号機のパイロットじゃない。殴られる理由なんてありはしない。そう目の前の彼に大声で叫び返してしまいたい。

 …でも。

 

「っ…そ、そうだよ…」

 

 僕は恐る恐る彼の目を真っ直ぐ見つめ返して、震える声で言い切った。

 言いたくない!と必死に叫ぶ僕を、カラカラに乾いた喉奥にぎゅっとしまい込んで。

 

「あのロボットのパイロットは、僕だよ」

「……っ、さよか、転校生!」

 

 バチリ、と怒りの臨界点を超えた漢の拳が、スローモーションで僕に迫る。

 ゴンッ!と鈍い音を耳奥に聞きながら、僕はあっけなく地べたに殴り倒された。

 

「ぐっ…」

 

 ズキズキと痛む頬を手の甲でぬぐいながら、僕はつい最近出来たばかりの『姉』の横顔を想った。

 

(綾波は、女の子だものな)

 

 必要以上に過保護で不器用な、不思議で優しい彼女の横顔。まだ出会ったばかりの間柄だというのに、僕は存外彼女の赤い瞳に入れ込んでいる様だった。

 

(キレイな、顔だものな)

 

 そうどこか他人事の様にぼんやりと馳せていた僕の頭は、次に彼が発した聞き捨てならない怒鳴り声に一瞬で沸騰した。

 

「このダボ!アホンダラ!お前がヘボやからワシの妹がケガしたんじゃ!味方を巻き込む様な能無しは、パイロットなんてやめてまえ!」

 

 

 

 

 道ゆく生徒たちにあてを尋ねながら、激しく震える端末を片手に早歩きで向かった先。

 そこにたどり着いた瞬間、ぅっ、と息を呑んで私はその場に立ち尽くした。

 

「取り消せよッ!!」

「ぐうっ!?」

 

 ジャージ姿の少年——鈴原くんの横面を乱暴に殴り飛ばした碇くんの怒号が、人気の無い校舎裏に恐ろしく響いたからだ。

 

(碇くん…?)

 

 普段の大人しい姿からかけ離れた、悪鬼の様な形相が遠目からでも判る。

 地に倒れて鼻白む鈴原くんの腹に馬乗りになった碇くんは、黒いジャージの胸ぐらを乱雑に捻り上げて叫んだ。

 

「ふざけんなよ!何も知らないくせに!!」

 

 血を吐く様な怒鳴り声が、彼の元に駆け寄ろうとした私の足を縫い付ける。ばくり、ばくりと心臓が痛みだし、顔から血の気が引いていく。

 

(怖い声…)

 

 控えめで大人しい少年だと思っていた弟が初めて見せた恐ろしい獣性に、私は凍える様な恐怖を覚えた。

 

「お、おい碇…」

「やりおったな!?」

「うぐっ!?」

「あーあー、もう…」

 

 少し離れたところで額を押さえて傍観している相田くんを置いて、二人はごろごろと地面を転がりながら取っ組み合いをはじめてしまった。

 

「このヘボが!何様のつもりじゃ!!」

 

 碇くんの肩を押さえつけて、硬い拳を振り下ろす鈴原くん。

 

「ぐぶっ…!」

 

 華奢な輪郭の顔面を正面から殴りつけられた碇くんの鼻からタラリと垂れた、一筋の赤。

 

(……ッ!)

 

 それを見た瞬間、私は彼らの元へと駆け寄っていた。

 

「碇くん!」

「え、綾波?」

 

 驚いた様な相田くんの声に構わず、私は鈴原くんに馬乗りにされた碇くんの顔を抱きしめる様にして覆い被さった。

 

「んむっ!?」

「なんっ!?…なんや、綾波か!?」

 

 鈴原くんの拳から守りたい一心で、もごもごと呻く碇くんの顔をぎゅっと胸の下に隠す。土に汚れた黒い髪を抱く両手には、自然と力が篭った。

 

「どけ!どかんか綾波!男同士の間に女が入るんやない!」

「なあトウジ、もうよそうぜ?これじゃ僕ら完全に悪モンだよ」

「だまらんかい!」

「トウジ」

「っ…チィッ!」

 

 間近にあった鈴原くんの気配が、のそりと離れていく。

 

「…女に守られる様な情けないヤツにも務まるんやな、パイロットっちゅうんは」

 

 碇くんの頭を抱いたまま、彼が立ち去るのをただただ待つ。

 話の内容はわからないけれど、きっと碇くんにとって…弟にとって、イヤな話だと思うから。弟が耳を塞げないなら、代わりに蓋をするのが姉だから。

 わからないけど、きっとそうだ。

 

「ケッ!軟弱モンが!一生そこで乳繰り合っとれ!いくでケンスケ!」

「はいよ。二人とも悪いね、それじゃ」

 

 ザッザッザッ、と遠ざかっていく足音を確かめて、私はそっと碇くんの頭から腕を離して上体をおこした。

 

「あ、あわ、あわわわ…!」

「…?」

 

 胸の下から解放された碇くんは、さっきまで出ていなかった方の鼻の穴からも血を流して、あわあわと声にならない声をあげながら狼狽していた。顔が真っ赤だ。

 

「大丈夫?」

 

 汗で頬に張り付いた髪をかきあげながら前屈みになって顔を覗くと、碇くんはギョッとした顔で私の胸元を凝視して、慌てて左右に頭を振った。

 

「だ、大丈夫だよ!なんともない!」

「でも、痛そう…」

 

 確かめる様に彼の頬に手を添えようとする私を遮って、碇くんはごしごしと自分の手の甲で鼻をぬぐいながら、ゆっくりと身体を起こした。

 

「ただの鼻血だよ。ほら、止まってる」

 

 へっちゃらだよ、笑ってみせる碇くんに、私は色々な意味で深く安心してしまった。

 よかった、ひどいケガではなくて。

 よかった、怖い碇くんから元に戻って。

 

「ありがとう、綾波」

 

 弟の笑顔を守れた事実が、今の私にはたまらなく嬉しかった。

 

「非常召集よ、行きましょう」

「えぇっ!?」

 

 素っ頓狂な声をあげる碇くんの手を掴み上げて、そのまま校舎の外へと走り出す。

 エヴァに乗って戦う事が、私の使命。でも私がエヴァに乗る事によって、また誰かが傷ついてしまうかもしれない。不幸に遭ってしまうかもしれない。負の連鎖に対する恐怖は、私の足を今も竦ませようとし続けている。

 でも、それでも。

 

(私には、守りたいものがある)

 

 戦わなければ、きっと誰も守れない。

 あの日の赤木博士の言葉の通りだ。守りたい人たちを、ただ守る。その為に私はエヴァに乗る。

 

(それが私の、戦う理由)

 

 私はファーストチルドレン、綾波レイ。

 エヴァンゲリオン初号機パイロット、綾波レイなのだから。

 

 

 つづく。

 

 

 

 






シンジ「その為の右手、あとその為の拳?(天下無敵)」
アスカ「あぁ無敵のシンジさま!!」
レイ「誰だお前は!?(驚愕)」


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