僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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グーテンモーゲン(夜)
今回はシャムちゃん戦開始までです。戦闘シーンは一週間以内に投稿するのでもちっと待ってね。


えぴそ〜ど20:私の保護者は間が悪い

 

 

「入ります」

「はっ、はいります!」

 

 綾波に手を引かれてバタバタと本部に——どこからか現れたNERVの黒いセダンに送迎されて辿り着いた僕たちは、厳しい風体をした保安部員さんの案内のまま、慌ただしくブリーフィングルームに転がり込んだ。

 

「おいでなすったわね」

 

 腕を組んで不敵に笑うミサトさんの声色が、いつもと違って重たく響く。

 

「ようやく主役のご登場ね」

 

 緊張感に満ちた薄闇の中、リツコさんの眼鏡が妖しく光る。普段の訓練の時とはまるで違う、落ち着きながらもどこか殺気立った大人たちのプレッシャーに、僕の背筋がぶるりと震える。

 

「状況は」

 

 そんな中でも、綾波は普段と特別変わらない。凛とした鈴の音色で淡々と現状を確認する彼女の横顔が、ピリついた雰囲気を醸す薄闇の中で白く光る。不思議な色味を湛えた赤い瞳はブリーフィングモニターを注視しており、隣で立ち竦んでいる僕の臆病などは、今の彼女には眼中にもない様に見えた。

 

(やっぱり違うんだ、綾波は…)

 

 補欠とはいえ僕もパイロット。難しい説明を必死に聞き取り作戦を頭に叩き込みながらも、僕は畏怖心にも似た隔絶を綾波に抱かざるを得なかった。家族とも友人ともつかない奇妙な関係ではあるけれど、少しずつ親しい仲になりつつあった蒼銀の少女の研ぎ澄まされた赤い視線は、今の僕にはそり立つ壁の頂でしかなかった。

 この場において、本当に僕は必要なんだろうか?夕焼けに燃える街で勇ましく使徒を撃破した綾波が負ける事なんて、万に一つもあるんだろうか?完璧な戦士にしか見えない今の綾波に必要な予備なんて、本当はありもしないんじゃないか?

 

「……?」

「…綾波?」

 

 詮無い逡巡も束の間、ブリーフィングがひと段落ついたところで、どこか訝しげに周囲を見回す綾波の様子にふと気づく。どうしたんだろう。

 

「…三尉は?」

 

 ほんの小さく首を傾げる綾波。

 

「そういえばいないね」

 

 三尉、といえばミナトさんの事だ。言われてみれば姿が見えない。今日は本部にいるって言ってたし、パイロットの僕たちが出撃するって聞けば、真っ先にすっ飛んで来そうなものなのに。

 

「入江くんならいないわよ」

 

 白いマグカップを片手に、何の気ない声でそう言ったのはリツコさんだ。

 

「…いない?」

「えぇ。なんでも避難誘導の人手不足とかで、あっという間に古巣の彼らに引っ張られて行ったわ。今ごろ上で子守りでもしてるんじゃないかしら」

「……」

 

 綾波の沈黙が怖い。ちらりと隣を窺うと、さっきまでとはまた違った風合いの冷たい真顔がそこにはあった。こ、こわい…

 

「し、仕方ないよ綾波!ミナトさん前は警備隊にいたって話だったし、きっと上官の人たちに無理やり連れてかれて…」

「ダメ犬…」

「ヒェッ…」

 

 ぼそりと低い呟きに、違う意味で背筋が震える。そういえば初めてモニター越しに会った時も、ミナトさんに対して何で側にいないんだ、って文句たらたらだった様な…

 

(ミナトさんって、ひょっとして間が悪い人…?)

 

 使徒戦とはまた違ったプレッシャーに晒される事が確定した金髪の保護者に心の中で合掌しつつ、僕は胸に去来した不思議な安心感にふっと肩の力を緩めた。

 ミナトさんへの不満をぐちぐちと漏らす綾波の、ツンと尖った小さな唇。

 

「一度ならず二度もコレ…ダメ犬…ダメ犬…三尉は本当にダメ犬…」

 

 僕の知ってる綾波レイは、今も確かにそこにいた。

 

 

 

 

 

 

「おにーさん、どこのおくにのひと?」

「うふふ。どこだと思う〜?」

 

 ガヤガヤ、ザワザワ。慣れた様子ではあるけれど、それでもちょっぴり浮き足だった雰囲気のシェルターの一角にしゃがみ込んで、小さな男の子の小さな瞳と笑い合う。

 

「あめりか!」

「ぶぶー」

「えーっ」

 

 ハズレを引いた男の子の不満の声が可愛くて、思わず頭を撫でてしまう。

 

「ほらたっくん、そろそろお兄さんお仕事だって」

「やだ!」

 

 お母さんの言葉にイヤイヤと首を振るたっくん。うぅ、かわいい…いっぱいぎゅ〜ってしちゃいたい…えぇいがまん!がまんの子!

 

「あはは。また戻ってくるから、ちょっぴり待っててね」

「ほんと?」

「うん。僕もたっくんとお話したいもん」

「やった!ぜったいね!」

「ん!やくそくね!」

 

 ちっちゃなちっちゃな小指とゆびきりをして立ち上がり、お母さんに頭を下げてから後ろ髪引かれる想いで彼らの側を離れる。

 …第4使徒襲来の報が本部に鳴り響いた直後、僕はどこからか現れた保安警備隊の副隊長殿にガッと首根っこを掴まれて、あれよあれよと言う間に避難誘導部隊の臨時要員として市民の皆さんをシェルターに誘導していた。警備隊の人員不足問題は僕がいた時から変わらず健在だったみたいで、制服の上に赤い腕章だけを巻いて元同僚たちと肩を並べた時は、ちょっぴり申し訳ない気持ちになった。すみません人手が足らないのに隊を抜けちゃって…あぁ!叩かないで!叩かないで!

 その後はもうご覧の通りで、シェルター内を見回ってちょっとしたトラブルを解決したりとか、不安がっている小さなお子さんの面倒を見てあげたりとか、何度か実施された避難訓練の時と同じ様な役割をこなしている。厳しい装備品で身を固めた隊員よりも、制服姿の僕の方が親しみやすいだろう、なんて狙いもあるみたい。

 

(大丈夫かな…レイちゃん、シンくん…)

 

 コンコンと咳こんでいたおばあちゃんの背中をさすって、インカムで水の手配をお願いしつつ、僕はこれから戦いに出るであろう子どもたちの無事を祈った。

 

(こんな大事な時なのに、側にいてあげられないなんて…)

 

 ありがとう、と優しく目を細めて笑ってくれるおばあちゃんの顔に、僕の大事な家族の顔が…ちっちゃくて華奢で可愛らしい、二人のビジョンが数瞬重なる。守るべき二人の笑顔を、僕は本当に守れているのか。不甲斐ない保護者の自分が、心底イヤになるけれど。

 

(できることをしよう)

 

 同僚が届けてくれたペットボトルを手渡して、また来ますね、と静かに離れる。

 …僕の心の葛藤なんて、ここにいる人たちには関係ない。とにかく今は笑顔でいなきゃ。市民の安心と安全を守る、それこそが僕たちにとって一番大事な務めなんだから。  

 NERVの僕が不安がってちゃ、皆んなも不安になってしまう。ここはなんともならないよ、大丈夫だよって伝えてあげなきゃ。

 

「ミナトさん?」

「おっ、アニキじゃん」

「へ?うわはー!二人とも!よかった〜ちゃんと避難できたんだね」

 

 ちょっぴり騒がしい第壱中学の子たちにかる〜く注意をしていると、偶然にもレイちゃんのクラス、A組の場所だった様で。レイちゃんのお友達、ヒカリちゃんとナイコちゃんがいた。

 

「みんな大丈夫?困ったこととかない?」

「それは大丈夫ですけど、あの…レイさんと碇くんは?」

「あぁうん、二人は…」

「だーから大丈夫だって」

 

 心配そうに、かつちょっぴり訝しげに窺ってくるヒカリちゃんの肩に、ナイコちゃんがカラリとした笑顔で手を乗せる。

 

「他のシェルターにいるから大丈夫だ〜って、先生サマ方も言ってたろ?なんともねぇよ。なぁアニキ?」

「ナイコ…」

 

 な?と目配せをくれるナイコちゃんの黒い瞳。

 …聡い子だな。それにとっても優しい子。

 

「…うん。ちょっと色々あってみんなとははぐれちゃったけど、ちゃんと避難してるから大丈夫だよ。心配してくれてありがとね、ヒカリちゃん」

「そう、ですか…?」

「うん。大丈夫!」

 

 ニッと笑ってみせたけど、ヒカリちゃんの表情は晴れない。

 …この子もきっと、何かを察してる。こんな子たちにウソをつかなきゃいけない事が、酷く心苦しい。

 

「ほらアニキ、サボってないで仕事しろ仕事。それともアタシらと合コンでもするか?」

 

 ニヤニヤ笑いながらシッシと手を振るナイコちゃん。周りにいる他の子たちは、彼女の言葉にくすくすと笑っている。ムードメーカーって、きっとこの子みたいな子の事だ。

 

「あはは、それはまた今度。二人ともまたね」

 

 きっと助け舟を出してくれたに違いない黒髪の女の子にそっと目線で感謝を送りつつ、僕は女の子たちの島を後にした。

 ありがとうナイコちゃん。気を遣わせちゃって、本当にごめんね…?

 

「ところでお兄さん、そのカメラ見せて?」

「エッ!?」

 

 …それはそれとして、遠くからず〜っと無断で僕を撮ってた見知らぬ眼鏡の男の子には、優しく優しくお説教、だね?うふふふ…♪

 

 

 

 

 

 

『レイ、出撃よ。いいわね?』

「味噌汁抜きの刑…」

『こーら、集中なさい。プラグに肉汁仕込まれたいの?』

「…ごめんなさい」

 

 とんでもない事を言い放ったミサトさんの言葉に慄き、ふっと息を吐いて気持ちを切り替える。肉汁はイヤ。ギョーザ以外の肉汁は悉く滅ぶべき。

 …今日も三尉はいなかった。私がエヴァで出撃する時、いつだって三尉は側にいてくれない。過保護でうるさい私の保護者は、肝心な時に限って間が悪い。

 でも、私は大丈夫。私はぜったい負けたりしない。

 

(私は勝つ。勝って戻る。戻って三尉におしおきをする)

 

 シンプルかつ明確な戦う理由が、私とエヴァンゲリオンの心臓にカチリと火を点ける。プラグの内装と初号機の視界が混ざり、不思議なほど明瞭な視覚情報が私の目の内側に広がる。

 

「…リンク良好。コンディショングリーン」

『よろしい…碇司令!』

『あぁ。任せたぞレイ』

「はい」

『綾波っ!あの、気をつけて…』

「大丈夫。いい子で待ってて」

『い、いい子って…』

 

 碇司令の低い声が、私の背中を押してくれる。碇くんの心配そうな声色が、私の中に微かに残った臆病を優しく励ます。

 大丈夫、大丈夫。私はきっと大丈夫。たとえ三尉はいなくても、皆んなが私を支えてくれる。皆んなと紡いだ絆の巨人が、決戦兵器エヴァンゲリオンなのだから。

 エヴァは絆。私の絆。絆の力で、私は勝つ。

 

『エヴァンゲリオン初号機、発進!!』

 

 轟ッ!と急上昇するリフトの強烈な縦Gに歯を食いしばりながら、私は初号機に念を送った。

 私は勝つ。勝って皆んなの元へ戻る。

 だから貴方も暴れていい。思う存分暴れていい。

 

(それが、貴方の願いでしょう——?)

 

『リフト・オフ!』

 

(——!!)

 

 

 

 

 ……つづく。

 

 






戦闘シーンも纏めて投稿するつもりでしたが、長すぎる&細部が仕上がらなかったので一旦ここで。未熟な私を許してくれ…
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