僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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グーテンモーゲン。
申し訳ございません、一週間で更新するつもりが二週間もかかってしまいました。すみません許してくださいミナトくんが何でもするので許してください(屑)


えぴそ〜ど21:襲来でゲソ!(第4使徒シャムシエル登場)

 

 

 

「ちぇっ、まただ」

「なんや、またなんも映らんのか」

 

 避難用シェルターの一角。ビデオカメラ片手に唸る眼鏡の少年と、どうでもよさげな目をしたジャージ姿の少年の二人。

 

「報道管制だよ、ホラ」

「さよか」

 

 昼間学校でシンジとトラブルを起こした超本人、黒いジャージに浅黒い肌の鈴原トウジは、上でやっている戦争が見たいという悪友、眼鏡とそばかす顔がトレードマークの相田ケンスケが見せる飽くなき欲求にハァとため息をついた。

 人の生き死にに関わる現場が面白いだなんて、全くどうかしている。

 先の戦闘では、街から逃げ遅れた最愛の妹が数ヶ月の入院を要する大ケガを負ってしまった。街を脅かす怪獣騒ぎに対して、人より高い当事者意識を鈴原トウジは持っていた。

 そんなトウジだからこそ、本物の戦争を鼻先にしたケンスケのはしゃぎ様に呆れたりもするし、街を守りきれなかったロボットのパイロットに対し憤りを示したりもする。お前がもっとしっかりしていれば妹は、と。

 

「……」

 

 そんな怒りを拳に乗せてぶつけた相手が、今ごろ上で戦っている。一方的な暴力ではなく殴り合いの喧嘩ではあったが、間違いなく自分が殴って傷つけた少年が、自分たちの命を守る為、生死を賭けて戦ってくれている。

 

「なにさ、まだ気にしてんの」

「なにがじゃ。なんも気にしとらんわ」

 

 拗ねた様にそっぽを向くトウジ。

 ツンと尖った唇の先では、つい先ほどケンスケに一言二言の注意をした金髪のNERV職員が、泣きぐずる保育園児らしき子どもたちをヨシヨシとあやしていた。

 恐らくアレが、1、2ヶ月前から度々教室で話題に上がる様になった人物だろう。綾波レイの新しい保護者であるという、ナントカって名前の青年だ。

 あの中性的な顔をした白人が綾波レイの保護者だという話が、未だにトウジには何かの冗談に思えた。無口で無愛想な青髪少女を庇護する、金髪碧眼で美形のガイジン。ただでさえけったいな綾波をこれ以上けったいにしてどないすんねん、といった所感である。

 

(マンガやな、ホンマ)

 

 早々に興味を無くして、またぼんやりと天井を見上げる。

 入院中の妹が心配だ。今度こそちゃんと逃げられただろうか。

 上で戦っているであろう転校生が気にかかる。いけ好かないヤツだったが、もう鼻血は止まっただろうか。

 何でもない風を装いつつ悶々と思いを巡らせているトウジと、子どもたちに気を取られてこちらを向いていない件のガイジン、入江ミナト。

 

「…トウジ、ちょっとさ」

 

 千載一遇、またと無いチャンス。

 愛用のビデオカメラを片手に怪しく眼鏡を光らせながら、相田ケンスケは隣で呆けている黒ジャージの腕をトンと肘で突いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発進リフトを内蔵した大型ビルに身を隠し、巨大なパレットライフルのセーフティロックを解除しながら、私はモニターにポップした第4使徒の巨体を睨みつけた。

 横這いの姿勢で宙に浮いていた赤黒い使徒が、どこかイカにも似たその異形を見せつけるかの様に、ゆっくりと身を起こす。

 死んだ魚の様に虚ろな双眼が、ビルに隠れた私と初号機の姿をハッキリと見据えている。見透かしている。

 

(…勘づかれてる)

 

 ぞくりと走る背筋の寒気。使徒の視線に初号機が反応したのだ。エヴァンゲリオンの感覚がLCLを通して私に伝播している。使徒と同じ肉体を持つエヴァの感覚機関は、どんな観測機器よりも正確に雄弁に、使徒から向けられる視線と殺気を私の肌へ伝えた。

 

『作戦開始!』

 

 ミサトさんの鋭い声と共に、私と初号機は勢いよく身を翻してビルから飛び出した。

 素早く構えたライフル、ターゲットサイトは目標中央、ATフィールド中和開始——

 

「ッ!!」

 

 ——ダダダン!ダダダン!ダダダン!——

 三点射撃を短く三回。計9発の劣化ウラン弾を使徒に叩き込み、すぐさま初号機を屈ませて隣の兵装ビルに身を隠す。

 

(手応えが軽い——)

 

 すかさずモニター端のウィンドウをチェック。本部から送られてくる使徒の中継映像だ。人に近しい視覚領域しか持たないエヴァだが、要塞都市との連携によりこうして見えざる敵の姿も視認できる。

 黒々した爆煙を燻らせながら、ぬっとこちらに近づき始めた使徒。

 その赤黒い体表には、かすり傷ひとつとしてついていなかった。

 

「…効果認めず」

 

 スーツの中で手が汗ばむ。強張る肩肘を息を吐く事で無理やり落ち着かせ、私はパレットライフルを道路上にそっと置いた。

 正規配備のライフル弾9連射を真正面から食らってもダメージを受けない使徒。フィールドの中和は数値でも肌感覚でも確認できている。単純に硬いのだ。

 ならば狙うはただ一点。弱点であるコアを叩くしかない。

 

「近接格闘モードアクティブ。ミサトさん」

 

 肩部ウェポンラックに増設されたマウントからフルメタルランスを引き抜き、初号機の足腰に力を溜める。

 

「合図を」

『…了解。カウント開始』

 

 私の意を汲んでくれたミサトさんが、先の戦闘の時と同じ様にカウントを開始する。

 宙に浮いた第4使徒が、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

 私の不安にシンクロしてか、槍を握る初号機の右手がグググ、グググと力む。

 

(…大丈夫)

 

 口の中で初号機に囁く。自分自身にも呼びかける様に。唇の端から漏れた小さな気泡がLCLに溶け、初号機の震えがピタリと止まった。エヴァンゲリオンの音無き鼓動が、エントリープラグを通して私の鼓動と同調する。

 頼もしい音。力強い音。

 

『3、2、1——』

 

 刻まれるカウント。ミサトさんの声。勇ましい声。

 瞬間、目を閉じる。空いた左腕に意識を集中。

 

「ATフィールド——」

 

 イメージするのは、あらゆる矛を弾き返す最強の"盾"。

 

『今ッ!!』

「——ッ!!」

 

 ミサトさんの怒号に押し出され、低い姿勢のまま初号機と共にビルを飛び出す。

 足元のアスファルトを粉々に砕けさせながら、私は初号機の左腕を使徒の顎先へ勢いよく振り上げさせた。

 

「——全開ッ!!」

 

 強固なATフィールドを纏った初号機の裏拳が顎先に直撃し、使徒の頭部が思い切りのけ反る。

 コの字に折れ曲がっていた使徒の全身が空に向かって垂直に伸び、隠されていた赤い球体が露わになった。

 赤く明滅するコアに向け、右手に握ったフルメタルランスを全力で突き出す——!

 

(とったッ!)

 

 ストロー状の穂先が使徒の弱点を刺し貫くかに思われた、その刹那。

 

「キャッ!?」

 

 私の視界はぐるりと反転し、初号機と共に遥か後方へと吹き飛ばされていた。

 一体、何が…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴原くんたちが戻ってこない?」

「そうなんです、お手洗いに行くって言って出てってから、それきり…」

 

 そう心配そうに口元に手を当てたヒカリちゃんの言葉に、僕はインカムでシェルター防災室に報告を入れつつ避難所を後にした。

 

「マスでもかいてんじゃねぇの?」

「ナイコッ!」

「あべしっ!」

 

 …流石にそれは無いと思いたいけど、とにかく心配だ。もし万が一急病だったとしたら一大事だからね。

 

「鈴原くん、相田くん?」

 

 しかし、男子トイレはも抜けの殻。個室も含めて人っこ一人いやしない。

 

「まさかね…BC動哨入江より防災室——」

 

 まさかと思い女性隊員の応援を呼んで女子トイレも確認してもらったけど、やっぱり無人。鈴原くんも相田くんも、完全に行方不明になってしまった。

 

「入れ違いでは?」

「うーん…」

 

 防弾チョッキを着込んだ正規の女性隊員と二人首を捻る。

 

『防災室より入江三尉。念の為シェルター入り口から順に点検してくれ』

「入江三尉了解しました。監視カメラはやっぱり?」

『依然故障中だ!まったくどいつだ取り付けでやらかしたバカは!』

「あらら…了解です」

 

 この非常時に監視カメラの故障だなんてちょっと笑えない粗雑さだけど、文句を言ってる暇に脚を動かした方が良い。四方に視線を動かしつつ、指示通りにシェルターの入り口まで向かう。

 

(まさかね…)

 

 頭をよぎるのは、二人がシェルターを抜け出してエヴァを見に行ったという可能性。

 確かにさっき話した時はちょっとやんちゃそうな子たちだな〜とは思ったけど、いくらなんでも上でドンパチやってる中に飛び出していくとはとても思えないし、流石に思いたくない。

 …もし仮にそうだとしたら、それってちょっとやんちゃの範疇を超えちゃってる…

 

「…風?」

 

 ふと足を止めて登り坂になっている通路を見上げる。

 ひゅうと可愛らしい音が小さく聞こえ、生温い微風が僕の頬をそっと撫でた。

 

「っ…!」

 

 僕は弾かれた様にスロープを駆け上がった。

 バクバクと心臓が早鐘をうつ。すごくすごくイヤな予感がする。

 

「なっ…!?」

 

 駆け上がったその先で、僕はすぐさまインカムをマイクスイッチを握りしめた。

 

「入江三尉より防災室!シェルターが、第1ゲートが開いています!」

 

 重たい鉄の扉の向こうの土手には、二人分の小さな足跡が慌ただしく散らばっていた。

 

「子どもたちは今、外です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『初号機被弾!シンクロ率2パーセントダウン!』

『損傷は軽微、作戦続行に支障なし!』

『パイロットのバイタルは正常値です!』

『レイッ!大丈夫!?』

 

 騒然とする発令所。私は反射的に倒れた初号機をローリングさせ、紫色の巨体を手近な兵装ビルの陰に滑り込ませた。

 次の瞬間、私が倒れていた交差点に二筋の先行が走り、黒いアスファルトの表明を赤々と焼き切っていった。

 ——カラン、カラン、カラン——

 使徒の攻撃で細切れにされたと思わしきフルメタルランスが、ごく短いいくつもの円筒へと姿を変えて交差点に散らばる。

 黒光りする残骸が街の車やショーウィンドウを押しつぶしていく様を視界の端に認めながら、私はモニターにポップした使徒の姿にぐっと唇を噛んだ。

 両脇から光の触手を生やした第4使徒が、私と初号機の無様を嘲笑うかの様に触手をくねらせ、弄んでいる。

 アレだ。あの光の鞭に私と初号機は吹き飛ばされたのだ。

 

「あんな武器が…」

『迂闊に近づくのは危険ね…次のライフルを出すわ!ビルを遮蔽にしつつ一度距離を』

「はっ!?」

『レイッ!?』

 

 濃厚な死の気配に思わず初号機と共に地を跳び、転がる。

 ミサトさんの指示を聞いている暇は無かった。使徒の触手が鞭の様に一瞬で迫り、私が隠れていたビルを一撃で真っ二つにしたのだ。

 凄まじい切れ味。しかし慄く暇すら使徒は与えてくれない。無防備になった私と初号機に向け、目にも止まらぬ光の斬撃が次々と襲いかかる。

 

「くぅっ!!」

 

 全力でフィールドを展開しなんとか攻撃をいなそうとするが、防ぎきれない。クロスした初号機の腕が斬り付けられ、特殊装甲がみるみる傷だらけになっていく。焼けつく様な痛みが私の両腕に襲いかかり、耳の裏の血管がドクドクと激しく脈動する。

 ——いたい、いたい、あつい、アツイ——

 鋭い痛みに怯んだ私の隙を、第4使徒は見逃さない。

 気づけば初号機の両手首は使徒の触手に巻き取られ、細長く頼りない形状からは想像も出来ない剛力でギリギリと捻じ上げられていた。

 

「ぅああッ!!」

『レイ!!』

 

 両手を縛られた初号機の身体が宙に浮き、要塞都市の上空に無様なその姿を晒す。

 

(い、たい——いたい、いたい——!!)

 

 捻じ切られそうな腕。へし折られそうな腕。関節を脅かされる根源的な恐怖に集中力が一気に削がれ、初号機とのシンクロ率がどんどん下がっていく。

 しかし、手首を襲う激痛は一切薄れない。

 

『援護射撃急いで!!』

 

 遠くに聞こえるミサトさんの声。チカチカする視界の先、眼下に映る第4使徒の異形に、いくつもの爆炎が炸裂している。周囲に展開しているVTOL機と要塞都市による援護射撃だ。

 

"——————"

 

 しかし、やはり使徒には通用しない。

 四方から降り注ぐ破壊の雨に特段怯んだ様子も見せず、使徒は光の触手をグインと振るい、私と初号機を遥か彼方へと投げ飛ばした。

 

「くぁッ!?」

 

 ぐるぐると視界がかき混ぜられ、口から内臓が飛び出しそうになる。

 

「カッ、ハッ…!!」

 

 郊外に広がる山の中腹に背中を叩きつけられ、私は目を向いて黄色い胃液を吐き出した。

 音もなくLCLに浄化される私の汚物。必死に体勢を立て直そうとするが、息が詰まって集中できない。

 奇怪に触手をくねらせた使徒が、集中砲火をものともせずに私に迫る。

 

「くっ、ぅぅッ…ハァ、ハァッ…」

 

 ありったけの気力を振り絞り、初号機の身体を持ち上げる。

 幸い背中のアンビリカルケーブルは無事だ。命の綱は繋がっている。

 なら、まだやれる。

 

「ハーッ、ハーッ…アクティブ…ッ!」

 

 両肩のウェポンラックを同時に起動。フルメタルランス用のマウントをパージし、右肩部に備えられた7発のニードルガンを発射体勢にする。左肩部からはプログナイフを抜き放ち、超振動を発する鋼の刃を腰溜めに構える。

 鞭をしならせ迫る使徒。熱と殺意を帯びた二筋の光。

 迎え撃つ。今度こそ、あの猛攻を突破する…!

 

「ATフィールド…!」

『レイ待って!!』

「ッ、ミサトさ…」

 

 ミサトさんの悲鳴と共に、新たにポップするウィンドウ。

 そこに映った小さな二つの影に、私の呼吸は再び止まった。

 

「なっ——」

 

 初号機の左足元、緑色の靴底のすぐ側に。

 ヒカリさんの大切なヒト、鈴原くんの姿があった。

 

(なぜ——どうしてッ!?)

 

 腰を抜かして地べたにへたり込み、ひどく怯えた様子で私を見上げる鈴原くんと相田くん。

 頭が真っ白になって思わずフリーズしてしまった私めがけて、使徒の触手が再び迫る。

 

「ッ、ダメ!」

 

 私は咄嗟にナイフを放り捨てて、使徒に背中を向けて初号機を四つん這いにし、鈴原くんたちを胸の下へと囲い込んだ。

 

「くぅぅっ!?」

 

 灼熱の触手に背中を鞭打たれ、堪え難い痛みと熱に脳を焼かれる。

 

『アンビリカルケーブル断線!』

『機体損傷率危険域に突入!』

『ATフィールドは!?』

『ダメです!完全に中和されています!』

 

 けたたましいアラートと共にプラグ内が警告表示で乱れ、活動限界へのカウントダウンが開始される。

 

(この、ままじゃ…でも)

 

 胸の下の鈴原くんたちは、腰を抜かしたまま動けないでいる。

 

「…ッ、逃げて!」

 

 初号機の外部スピーカーをオンにし、地べたで震える二人に向かってしゃにむに叫ぶ。

 

『逃げてッ!はやくッ!!』

「あ、綾波…?なんでや、なんで綾波が…!?」

「転校生じゃなかったんだ…!」

 

 へたり込んだまま動けない二人。やはり腰を抜かしてしまっている。

 

「くっ…ぅぁッ!…くっ…、逃げてッ!!」

 

 叫ぶ事しか出来ない自分に酷く苛立つ。焦る。冷や汗がとぶ。

 ヒカリさんの大切なヒトの命が今、目の前で消えようとしている。

 

(今ここで彼らを見捨てたら、私は…私は…!)

 

 先の戦闘で、私は彼の妹を傷つけた。傷つけてしまった。あの時と同じ過ちを、私は…

 

『綾波、綾波ーッ!!』

 

 碇くんの悲鳴が聞こえる。私を心配する家族の声。弟の声。

 …でも、ダメ。鈴原くんたちを踏み潰して使徒に立ち向かう勇気を、私は…私は…

 

(私、は…)

 

 その時だった。初号機の外部マイクが、聞こえる筈の無い男の声を拾い上げた。

 

『大丈夫ッ!?』

「はぁ…はぁ…え…?」

 

 絶え間なく続く激痛に喘ぎながら見下ろした視線の先。

 へたり込む鈴原くんたちの元に駆け寄り、慌ただしくその腕を彼らの脇に差し込んでいたのは。

 

『っ、入江三尉です!入江三尉が現着しました!』

『でかしたぁ!!』

 

 巨大な初号機の身体の下で、思いもよらぬパワフルな腕力を発揮した入江三尉が、鈴原くんたち二人の身体を軽々と片腕で持ち上げ、小脇に抱えていた。

 

「さん、い…?」

 

 スピーカーから発せられた私の声に顔をあげる三尉。私の意思に反応してか、三尉の姿がポップウィンドウにアップで映る。

 私の声に一瞬だけ立ち止まった三尉は、鈴原くんたちを脇に抱えたままコクンと頷き、ニッと力強く笑ってみせた。

 

「三尉…」

 

 自然と頷きを返す私と初号機。

 私たちの頷きを認め、すぐさま踵を返してその場を走り去っていく三尉の背中を視界の端に残しながら、私は初号機のインダクションレバーをしっかりと握り直した。

 

(三尉…)

 

 間が悪いなんて間違いだった。私が守りたくても守れなかった大切なモノを、三尉は身を挺して守ってくれた。助けてくれた。

 

(はじめて見た顔…つよい笑顔…)

 

 優しい顔と気の抜けた顔しか知らなかった私にはじめて見せた、入江三尉の力強い笑顔。

 あれが三尉の…入江ミナトの、戦士としての顔であるというのなら。

 

(私も、戦う——)

 

 彼に保護されている者の一人として、私も気概を見せなければならない。

 憂いは失せた。迷いもない。内部電源も私の気力も、エヴァの気力も充分だ。

 

"グゥゥゥ…ッ!"

 

 四つん這いの姿勢から片膝を立て、低く唸る私と初号機。シンクログラフが跳ね上がり、初号機の顎部装甲がバキンと音をたてて解放される。

 

「…ふッ!!」

 

 漲る闘志を爆発させた私と初号機が、土煙をあげてその場から大きく跳躍する。

 ジャンプと同時に肩部ユニットをパージ。照りつける太陽を背に悪魔の影となった私たちは、空中でぐるぐると錐揉み回転しながら触手の追撃を躱し、使徒の背後に轟音をたてて着地した。

 

"——ッ!!"

 

 砕けたアスファルトの噴煙を纏う私たちに向け、振り向きざまに振るわれる光の鞭。

 ——見切った!

 

「ふっ!!」

 

 音速で迫る灼熱の触手を掴み取る。掌を焼く熱も無視して、そのままグイと使徒の身体を引っ張り、振り回す。

 

"グウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!"

"——————ッ!!!!?"

 

 大きく足を開いて大地を踏み締めたまま、腕と腰の力で使徒の巨体を何度も何度もスイングする。

 ——ブォン——ブォン——ブォン——

 空を裂く第4使徒の巨体がソニックブームを発生させ、林立する兵装ビル群の外壁を砂の様に吹き飛ばしていく。腰を捻らせスイングを重ねる毎に、初号機の全身の筋肉がボコボコと隆起し、その身に秘めた超常的なフィジカルを覚醒させていく。

 

「くうぅぅぅ…ッ、ぁぁぁああああッ!!」

"グオァァァァァァァァァァァァァッ!!"

 

 咆哮と共に使徒を放り投げ、彼方へ吹き飛ぶその巨体を追い再び大地を蹴って跳ぶ。

 空中で身動きが取れない第4使徒の、今度こそガラ空きになった赤いコア。

 ——捉えた!逃がさない!

 

「ATフィールド、全開ッッ!!」

 

 眩いオレンジ色のエネルギーを纏った初号機必殺のボレーキックが、赤く明滅するコアの中央に炸裂する!

 

"——————!!!!!"

 

 一撃でコアを破壊された第4使徒。

 使徒はそのまま要塞都市へと蹴り落とされ、凄まじい轟音と共に周囲の兵装ビルを粉砕し、鈍色の噴煙をキノコ雲状に撒き散らした。

 

『パターン青消失!目標は完全に沈黙しました!』

 

 ワーッ!っと沸き立つ発令所の仲間たち。

 言葉にならない感慨を胸に抱き、思い、感じ入りながら、私は大地に降り立った初号機の中で大きく深呼吸をして、襲いくる睡魔の誘惑に身を任せた。

 間を置かずして活動限界を迎えた初号機は、しかしその場で倒れる様な事もなく、鳴る筈のない心の鼓動を揺籠にして、意識を手放した私の眠りを黙然と見守り続けるのだった。

 

 

 

(第4使徒シャムシエル、殲滅)

 

 

 





綾波さん強すぎひん?(今更)
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