僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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グーテンモルゲン。
今回短いってか薄いかもです。すみません。

久しぶりにウルトラマンコスモスを見返してると、
とある回で「スクラップ」という単語が出てきまして。
それで思い出したのが、
「あぁ自分がスクラップって言葉を初めて知ったのはコスモスだったな」
というしょーもない事でした。
でもこういう発見ってなんだか楽しいですね。
久しぶりに童心に帰れた気がして心が穏やかになりました。

みんなもウルトラサブスクに登録、しよう!(提案)



えぴそ〜ど3:ミナトの怒り!ゲンドウとレイ

 

 「しかし、本当にお前が他人に彼女を預けるとはな……。改めて聞くが、いったいどんな心境の変化なのかね、碇」

 

 

 夜の暗闇に包まれたNERV本部、その最上層に広がる司令官専用執務室。

 

 室内は外界の闇をそのまま写したかのように真っ暗で、申し訳程度に設けられた間接照明が部屋の主とその腹心たる人物の姿のみを照らしており、そこ以外はひたすらに暗い闇、闇、闇。黒く暗く陰鬱なその部屋は、人類の平和を守る秘密組織の基地というより、むしろ世界を破滅させようと暗躍する秘密結社のアジトと言われた方が納得できるような怪しげな空間だった。

 

 冬月コウゾウは、その空間の主であり自身の教え子でもある中年の男、NERV最高司令官碇ゲンドウに対し世間話でもするような気軽さで今日の出来事について尋ねる。

 

 ゲンドウは、彼の腹心でありかつての師でもある老齢の副司令官からの問いに、普段と変わらない淡々とした口調で言葉少なに答えた。

 

 

 「計画に支障は無い」

 

 「……支障は無い、か。そうだと良いがな」

 

 

 自分が投げた質問からさりげなく内容を逸らしたゲンドウの返答に、冬月は少々の呆れを込めつつ投げやりに応じた。都合の悪い質問に対しては決して素直に答えず、難解な日本語をこねくり回し雰囲気で相手を押さえ込み話題を躱す、それがゲンドウの会話術だからだ。最初のやりとりでまともな答えが返ってこなかった時点で、このままこの話題を続けても意味が無いと冬月は判断した。

 

 

 (綾波レイ。『彼女』の似姿。その身柄を他人に、それも男に預けるのにはやはり抵抗があるか)

 

 

 綾波レイという少女は、碇ゲンドウという男にとって色々な意味で特別な存在である。何故特別なのかは分かりきった事なので今さらそこは気にしない。冬月が気になっているのは、その彼女をなぜああも易々と入江ミナトに引き渡したのか、その一点だった。

 

 常日頃から決して他人に表情を見せないゲンドウが唯一笑顔を向ける少女。いくら『替え』が効くとはいえ、その少女にとって一番身近な保護者というポジションを、あんなにもあっさりと他人に譲った事が冬月には解せない。いくらMAGIの後押しがあったとはいえ、それだけでこの様な判断をこの男が下すだろうか?なにかゲンドウの心を大きく動かす様な出来事があったのか?そう思って今日まで同じ様な質問を何度となく繰り返してきたが、やはり返ってきたのは同じ様な返答ばかりだった。

 

 

 (碇の彼女に対する感情は変わっていない。ならば何故)

 

 

 わからない。だから知りたい。知りたいから調べる。冬月の老いてなお衰えない研究者らしい好奇心が、彼の頭と口を突き動かしていた。

 

 冬月は先程とは少し話し方を変え、より実務的な側面からゲンドウに問いを投げる。

 

 

 「入江君の様な情緒豊かな若者の元で暮らせば、少なからず彼女も影響を受けるだろう。今はまだ脆弱な自我しか持っていないようだが、二、三ヶ月もすれば普通の少女と変わらぬ自我を得ているかもしれん。そうなった彼女が果たしてお前の手駒足り得るのかね?お前は彼女を自身の思い通りに動く操り人形にしたかった筈だ」

 

 

 だからゲンドウはレイに対して必要最低限の物しか与えず、碌な情操教育もしない。碇ゲンドウという存在のみが価値ある物だと感じる様に幼い彼女の精神を誘導しているのだと冬月は推測していた。

 

 レイをモノとしか見ていない様なゲンドウの考えとそれを冷たく分析する自分の物言いに吐き気がするが、彼や『委員会』と悪行を共にしている自分にそんな偽善を感じる資格は無い。それにこうでもしないとこの頑固者は口を開かないだろう。

 

 遠慮というものが一切含まれない冬月の物言いに対し、ゲンドウは気にした風も無く変わらぬ調子で答える。

 

 

 「彼に預けようが預けまいが、じきにシンジが来る。少々過程が変わるだけに過ぎんよ」

 

 「シンジ君か。たしかにあの少年はレイを気にかけるだろうな……」

 

 

 碇シンジ。碇ゲンドウの一人息子であり、幼少期にその父親に捨てられた哀れな少年。エヴァンゲリオン初号機のパイロットとして、人類存亡をかけて戦う事を運命づけられた悲しきサードチルドレン。

 

 近々このNERVに呼びつける予定の息子の未来の動向すらゲンドウは予測していた。その境遇故に他者との繋がりに飢え、かつ他者を恐れているであろう碇シンジは、亡き母親の面影を強く残す綾波レイを本能的に欲する筈。そしてレイもまた、自覚が無くともヒトである以上他者を求める。ゲンドウの息子であり同じパイロットでもある同い年の少年との接触は、彼女の自我を大きく成長させるだろう。ならば、今レイを入江ミナトに預けたところで結果は変わらない。どの道時が来れば『リセット』する事になるのだから。

 

 これは肉親故の精神的な繋がりから生まれた考え等では無く、彼の鋭く冷徹な思考力によって導かれた只の演算結果に過ぎない。ゲンドウにとっては、実の息子であるシンジですら盤上の駒に過ぎないのだ。

 

 だが、そんなゲンドウでもやはりレイを他所の男に預けるのには少なからず思うところがあるらしい。では何故その『思うところ』を曲げてまで今回の判断を下したのか?それを冬月は知りたかった。

 

 (さてどう口を割らせたものか)

 

 肝心なところを決して明かしてくれない元教え子に対する作戦を冬月が脳内で練っていたその時、ふいにけたたましい電子音が室内に流れた。ゲンドウのデスクに設けられた電話機からだった。

 

 NERVの最高司令官であるゲンドウに電話が繋がるのは、余程の緊急事態が起きた際に部下から報告が上がる時か、もしくは彼と直接話すに相応しい身分の者が用件を話してくる時かのどちらかだ。それ以外の些末ごとは電話を受けた職員がゲンドウに繋げる前に全て対応してしまう。

 

 そういう訳なので、夜だからなんて理由で電話を取らない訳にはいかない。どんな面倒事だと少々気怠い雰囲気を醸し出しつつ、ゲンドウは受話器を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———この時の体験について、後にゲンドウは関係者達にこう語った。『この時点で彼は間違い無く綾波レイの母親だった』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 受話器を取ったゲンドウは、いつも通りの堂々とした態度で電話に応じる。

 

 「私だ」

 

 『碇司令。保安部の入江隊員より緊急連絡。ファーストチルドレンの現状について至急話がしたいとの申し出です。お手数ですが、ご対応願います』

 

 受話器からは事務職員の冷静な声が返ってくる。が、普段とは少々様子が違った。

 

 (対応願う、か)

 

 平時であれば、ミナトの様な一職員からの連絡をいちいちゲンドウには伝えない。仮に一度繋げたとしても、要点のみをゲンドウに伝えたうえで『いかが致しますか』と対応の指示を乞うのが通常のやりとりだった。だが今回は有無を言わせぬ『ご対応願います』である。これは入江ミナトへの対応は自分には出来ないと判断した事務員が、それをゲンドウに丸投げしているという事だった。

 

 だがゲンドウには、ミナトの訴えについて大まかな予想が付いていた。恐らくレイの住まいを初めて目にしてその劣悪な環境に憤り、文句の一つも言わねばならぬと息巻いて苦情の電話を入れてきたのだろう。彼の経歴と人柄を考えれば当然の反応だ、予想は付く。そしてその様な些末ごとに時間を割くほど自分は寛容ではない。

 

 ゲンドウは普段通りの冷たい声で事務員に指示を下す。

 

 「こう伝えろ。ファーストチルドレンの管理については君に一任している、好きにしろ、と」

 

 こう言って速攻通話を切ってしまえばこちらのモノだ。電話対応としては失礼極まりない内容だが、司令官直々の命令とあらば事務員も心置き無く対処できるだろう。

 

 だがゲンドウの考えに反して、その女性事務員は頑なにミナトと直接話して欲しいと懇願してきた。半泣きで。

 

 『いえ、それが、その……。とにかくお願い、お願いします碇司令!も、もう私には無理です…彼の話を聞いたらもう私は……私はっ……うぅっ、うぅ"ぅぅぅ……グスッ』

 

 「……」

 

 電話越しに若い事務員の嗚咽がはっきり聞こえて来る。表情には出さなかったが、これには流石のゲンドウも少々困惑した。若く優秀な人材が揃うこのNERV本部の中でも彼女は取り分け優秀な職員の一人だったからだ。どんな事態でも常に冷静さを失わない強靭なメンタルと正解無比な処理能力を持った彼女は、NERV本部の運営を陰ながら支える裏のエースとして周囲の尊敬を集めていた。その彼女がこのザマである。一体どんな言葉をぶつけられたのか。

 

 「……わかった。繋げ」

 

 『はい、すみ"ま"せん"……グスッ』

 

 ゲンドウは渋々自分に繋げる事を許可した。入江ミナトの人柄的に、所謂クレーマー染みた悪質な難癖や暴言を吐いてくるとは考えづらいが……?

 

 電話が繋がった事を確認し、ゲンドウは改めて不遜な声色を作りミナトとの通話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……わたしd」

 

 『いかりしれえぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!!!』

 

 「ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 だが、その余裕は一緒で崩される事になった。『私だ』の一言すら最後まで言う事を許さず、電話の相手は凄まじい怒気を纏った声で組織の最高権力者であるゲンドウの鼓膜を破壊せんと怒涛の勢いで怒鳴り始めた!

 

 

 『なんなんですかコレは!?なんでレイちゃんをこんな潰れかけの団地に住まわせてるんです!?外壁は割れてて今にも崩れそうだしカギは壊れてるし中はコンクリ剥き出しだし!こんなところにレイちゃんを一人で住まわせるなんて!あなた子供をなんだと思ってるんですか!泥棒がきたらどうするの!?建物が崩れたらどうするの、えぇ!?エヴァのパイロットがどうとかそれ以前にですよ!?こんな危ない場所に子供を押し込むなんてヒトがやる事じゃありませんよ!!司令!明日からなんて言わず今晩からレイちゃんはウチに泊めますからねっ!こんな危ないところにウチの子は金輪際来させませんっ!全くいい大人が情けない!ここまでレイちゃんを良い子に育てた立派な人だと思ってたのに!あなたはレイちゃんのお父さんなんですよ!?大好きなお父さんなんですッ!!ちゃんと責任もって父親をやってください!ちょっと聞いてますか司令ッ!?司令ッ!!!!!!』

 

 

 あまりの声量にゲンドウは思わず受話器を耳から離したが、それでもハッキリと聞こえて来るミナトの怒声。当然隣に居る冬月にも聞こえており、普段は穏やかに細めている両目をまん丸に開いて驚きを示していた。

 

 確かに内容は概ね予想通りだったが、温度感が高すぎる。子供好きで正義感の強い人物だという事は彼の経歴とMAGIの分析により分かってはいたが、まさかここまでヒートアップするとは思わなかった。実の子でも無い少女の、それも今まで彼に対してあまりに失礼な対応(主に本部内での挨拶ガン無視)を取っていたその少女の為に何故そこまで怒れるのか、ゲンドウには理解出来なかった。

 

 だがそんな事は自分には関係ない。気を取り直してゲンドウは一方的に会話を打ち切るべく言葉を発する。

 

 

 「……綾波レイの生活については君に一任した筈だ。今後の処置については君が判断s……」

 

 『僕はそんな事を言ってるんじゃありませんっ!』

 

 

 が、再び途中で遮られ電話を切るタイミングを逃してしまった。そんな事お構いなしに一方的に受話器を置く事も出来たが、何故かそれは出来なかった。そうさせない『圧』がミナトにはあった。

 

 受話器越しにミナトは続ける。

 

 

 『司令知ってましたか!?レイちゃんが司令の事をどんなに大好きか!どんなに愛してるか!レイちゃん言ってましたよ!碇司令はいつも私を見てくれるって!私に笑顔をくれるって!できるならずっと……っ!……ずっと、一緒にいたいって!レイちゃんがそう言ってるんです!本当に貴方の事が大好きなんですよ!碇司令!』

 

 「……」

 

 『お忙しい事はわかってます!だから僕にレイちゃんを預けた、それはいいんです!ただもっとレイちゃんの心を大切にしてください!レイちゃんの好きって気持ちに、ちゃんと応えてやってください!レイちゃんと同じように、司令もレイちゃんを愛してるんだよって伝えてやってください!どんな形でもいいから、伝えてやって欲しいんです!こんな、こんなガレキの部屋にこの子を閉じ込めてたんじゃ、貴方の愛は伝わらない!伝わらないんですっ!』

 

 

 それはどこまでも真摯な訴えだった。住居がどうこうと言った単純な話ではなく、レイに父親としてもっとわかりやすく愛情を示して欲しいというその訴えは、ミナトがレイの孤独を心から案じている事の証であり、そしてゲンドウをレイの父親として信用している事の現れでもあった。

 

 「……」

 

 正直ゲンドウからすれば、ミナトの言葉には的外れな部分が多々あった。

 

 まず安全面に関しては何の問題もない。たしかに築年数は高く外見も頼り無い団地だが、強度や耐震性は確認済みだし、無機質な部屋の内装も『ドグマ』の水槽や各種実験室で幼少期から過ごしてきたレイの深層心理を考えてのものだ。防犯についても同様で、仮に強盗やら誘拐犯やらが来ようものなら、NERVの保安諜報部員達があらゆる手段を使って其奴ら始末する。そもそもそういった不審者を団地に近づける事すら彼らは許さない。

 

 そして、レイの愛情とそれに応えて欲しい、という点。

 

 レイが自分に懐いている事は当然承知している。むしろそうなる様にある程度誘導していた。そうでなくては計画に支障をきたす。だが……

 

 

 

 ——大好きなお父さんなんです!

 

 

 ——ずっと一緒にいたいって!

 

 

 ——本当に貴方の事が大好きなんですよ!碇司令!

 

 

 「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲンドウは受話器を手にしたまま何も言わず黙っている。しかし冬月は、ミナトの言葉にゲンドウが確かに反応している事を雰囲気で読みとっていた。

 

 ヒトは幾つになっても自身に対する好意には弱いものだ。その対象が自身の好いている相手なら尚更である。入江ミナトの人格からして、その場のでっちあげや単純な思い込みでレイの好意をゲンドウに訴えているとも考えられない。きっとレイの口から直接、彼女のゲンドウを慕う気持ちを聞かされたのだろう。だからこそミナトは憤り、こうしてゲンドウに直接文句を言いに来ているのだ。そしてゲンドウ自身にもそこまで分析出来てしまうからこそ、彼はミナトが語るレイの純粋な好意を真なるモノとして受け入れてしまい、動揺している。

 

 (しかし彼女はそこまで簡単に自分のココロを口に出来る人間だったか……この短時間でそれ程までに彼女のココロを開いたという事か、入江君が)

 

 冬月が感心したのはそこだった。これまでゲンドウ以外の者達には決して心を開かなかった綾波レイの口をこうも簡単に割ってみせるとは。あの中性的なコーカソイド系の青年は、一体どんな手品を使って彼女のココロのトビラを開けたのだろう?誘導尋問や催眠術といった如何わしい手段を使ったわけでは断じて無いだろう。なんせ彼を選んだのはMAGIだ。都市一つを丸ごと運営出来るスーパーコンピュータが保護者として人選したのだ、そんな危険要素がある人物な訳が無い。

 

 (また一つ、知りたい事が増えたな)

 

 新たな研究対象が自身の身近に現れた事を内心で喜びつつ、冬月はただ事の行く末を見守る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——時間は少し遡り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——————————————————

 

 

 

 

 

 「すっかり遅くなっちゃったね。着いたら早く寝なきゃダメだよ〜?明日はお引越しだからね!」

 

 

 「……ん、はい」

 

 

 狭くも暖かいマイホームでささやかなパーティーを終えて一休みしたら、もう21時を回ってすっかり夜中になってしまっていた。レイちゃんを自宅まで送る為、僕は再びケーちゃんの手綱を握って夜の第3新東京市をゆったりと走っていた。

 

 レイちゃんは僕の予想よりも沢山おにぎりを食べてくれて、最後は通算三杯目になるお味噌汁をゆっくりと飲み干して満足気に

 

 『……ごちそうさまでした』

 

 と言ってくれた。今は助手席でウトウトと頭でフネを漕ぎ始めている。きっとNERVの仕事で疲れてたんだね。お腹いっぱいになって余計眠くなっちゃったのかな?ふふっ、沢山食べてくれてありがとう、レイちゃん。今日はゆっくり休んでね。

 

 赤信号で停止した隙にちらりとレイちゃんの様子を伺う。もし本格的に眠そうだったら、あんまり話しかけない方がいいかもしれない。

 

 レイちゃんはゆっくりとした動作でカバンを開き、中から黒っぽいナニかを取り出してぼんやりとソレを眺めていた。

 

 

 (男物の、眼鏡ケース?視力悪いのかな……おっと)

 

 

 信号が青になったので、意識を運転に向け直す。ゆるやかにアクセルを踏み込みながら、僕はレイちゃんにその眼鏡ケースについて聞いてみることにした。

 

 

 「そのケース、好きなんだね」

 

 「……え?あ…………」

 

 

 僕からの問いにレイちゃんは眠そうな声でふわふわと聞き返してくる。どうやら自分がケースを取り出した自覚が無いようだった。寝ぼけ半分で無意識に取り出したって事は、きっとレイちゃんにとって安心できる大切なモノなんだね。

 

 僕も子供の頃はウルトラ怪獣『ピグモン』の小さなぬいぐるみがお気に入りで、夜寝るときはぎゅっと両手で握って離さなかった記憶がある。『施設』の子供達もみんなそれぞれお気に入りの品があった。僕みたいなぬいぐるみ派もいれば、タオルやハンカチ、中にはガーゼや包帯を好む子もいた。あぁいう好みは本当に人それぞれで、そういう違いを観察するだけでも僕はとっても楽しかった。

 

 この無骨な眼鏡ケースが、レイちゃんにとってのタオルやガーゼなのかもしれない。でもなんで男物なんだろ?

 

 そんな事を考えていると、レイちゃんがか細い声で小さく、

 

 

 「いかりしれい……」

 

 

 と、そう呟いた。

 

 

 「碇司令?」

 

 

 僕は思わず聞き返し、そして納得した。きっとこのケースは元々碇司令の持ち物で、なにかのきっかけでレイちゃんに譲ったんだろう。それを愛おしげに見つめるレイちゃんからは、碇司令への親愛がひしひしと伝わってくる。きっと二人は、血の繋がり以上の固いキズナで結ばれているに違いない。

 

 親と子供が愛し愛される事に、血の繋がりというのは必ずしも不可欠な訳では無い。それは僕が一番よく知っている。両親を『爆撃』で亡くした僕を『とーさん』は心から愛してくれたし、僕もとーさんを心から愛している。他の子供たちだってそうだ。みんなとーさんから愛され、そしてとーさんを愛している。そのキズナは血ではなく、僕たちみんなのココロで繋がっているんだ。レイちゃんと碇司令も、そんな心の絆で繋がっているんだね。

 

 

 「…….そっか。レイちゃんは、碇司令の事が大好きなんだね」

 

 「……好き?」

 

 

 レイちゃんは相変わらずぼんやりとしているが、好き、という単語に反応してか、初めて僕の方に顔を向けてきた。

 

 丁度また信号が赤になったので、僕もレイちゃんに目線を合わせて言葉を続ける。

 

 

 「うん。それって司令の眼鏡だよね。それを見てるレイちゃん、とっても幸せそうだったから」

 

 「幸せ……好き……」

 

 

 眠そうな声はそのまま、心なしか表情に影を差すレイちゃん。そして、

 

 

 「……わからない」

 

 「え?」

 

 「好きって、なに?」

 

 

 予想外の質問が飛んできた。これはどういう意図で聞いてるんだろう?

 

 レイちゃんの年齢で考えれば、好きとか嫌いみたいな言葉が持つ複雑な要素について考え込んでしまい、結果わけがわからなくなって大人に助言を求める、という思春期の過敏な感受性から生じた突拍子も無い質問と考えるのが自然かもしれない。でも……

 

 (なんでかな、それは違う気がする……)

 

 ……幸い信号は赤のまま。僕はレイちゃんの質問の意味を考えながら、好きとは何かを伝えるため逆にレイちゃんに質問してみた。

 

 

 「ねぇレイちゃん。碇司令ってどんな人なの?優しい人?怖い人?」

 

 「……碇司令?……碇司令は……」

 

 

 僕の問いに対し素直に考えるレイちゃん。よ、よかった。質問に質問で返すなァーッ!とか言われなくてホントによかった……!

 

 レイちゃんは小さな声で、ポツリポツリと囁くように司令への想いを言葉にしていく。

 

 

 「碇司令は、優しい人……見守ってくれる人。私を見て、笑ってくれる……私も、碇司令を見ると、嬉しいって、感じる……そばにいると、あたたかくて、心地良くて……」

 

 

 寝言を漏らすように、少しずつ言葉を綴るレイちゃん。もしかしたら本当に半分寝てるのかもしれない。それでもこれだけ言葉が出てくるんだから、その愛情は本物だろう。

 

 言葉を続けるレイちゃんだが、眠気が限界に近かったみたいで、最後は消え入る様な声で————

 

 

 「ずっと……いっしょに……いっしょがいい……いかりしれい…………」

 

 

 そう囁きを残してバックレストにコテンと頭を預けたと思うと、スースーと寝息をたてて眠ってしまった。

 

 (……ホントにお父さんなんですね、碇司令)

 

 ここまで真摯に娘から愛されている父親が、果たして世界に何人いるだろう。ここまで真摯に親を愛せる子供が、果たして世界に何人いるだろう。レイちゃんのあまりに純粋で真っ直ぐな好意に、僕は思わず目頭が熱くなった。

 

 レイちゃんは眠ってしまった。結局彼女の質問に答える事は出来ていない。でも、きっと大丈夫。いつか必ずレイちゃんは、自分自身で答えを見つけられる筈だ。だって————

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……その気持ちが、好きって気持ちなんだよ。レイちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 ———こんなにも強く、誰かを好きになれる子なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして僕はそのままカーナビに従い、安全運転でレイちゃんの自宅まで穏やかな気持ちでケーちゃんを走らせ、そして。

 

 

 「……なに、この廃墟は」

 

 

 見るからにボロボロなコンクリートの塊がレイちゃんの住む団地だと知って愕然とし、

 

 

 「カギ、こわれてるね……?」

 

 

 カギのかからない玄関ドアとそれを当たり前の様に受け入れているレイちゃんに呆然とし、

 

 

 「この部屋は……一体」

 

 

 ……コンクリうちっぱなしの内装、パイプベッドと冷蔵庫くらいしか置いてない寒々しく殺風景な部屋を見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………(* ゚д゚)ブチッッッッッ‼︎‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が認識する中で過去最高のバチギレ状態になった僕は、夜分遅くとか役職が違い過ぎるとか一切の事を切り捨てて碇司令に怒りのキレ電を掛けたのだった!

 

 

 

 

 こ、こ、この………っ!ダメ親父ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!

 

 




冬月(どうやって心開かせたんやろなぁ)
 
↑腹一杯おにぎり食ってウトウトっとしてたらなんか喋ってた。以上。

こんなんでいいのかエヴァ小説。
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