僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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グーテンモルゲン。
みなさんお酒は好きですか?私は好きです。
休日前にはよく発泡酒や安物のワインを飲んでいます。
困るのはおつまみですね。
欲望に忠実になるならポテチとかピザとか食べたいんですけど、夜中にんなもん食ったら大変な事になりますからね。
でもおつまみ無いと悪酔いしちゃって頭痛くなっちゃうんですね。
なんでいきなりこんな話をするのかというと、ミサトさんが出るからです。

あと先に謝ります。ペンペン出すの忘れてました。
冷蔵庫で寝てるということで、どうかお慈悲を……






えぴそ〜ど4:よろしく新居!お隣さんは残念美人

 「でねぇ!?そん時あたし思ったのよ!この怪しいオッサン、そのうち目からビームでも撃つんじゃないのって!」

 

 「ぶっ……!」

 

 「あのグラサンをバッと取ってこう、ヒゲビーーーーームッって!」

 

 「アハハハハハハ!ひ、ひげびーむってなにー!?ぅふははははははは!」

 

 「………」(げっそり)

 

 

 新たな保護者と共に新たな住居へと引越してきて、そのお祝いとして招待された隣人の部屋。そこで私はベロベロに酔っ払った男女二人が撒き散らす酒臭い騒音の餌食になっていた。ちなみに笑い転げている男の方が私の保護者だ。うるさい。

 

 「総員、第一種戦闘配置!碇ゲンドウ発進!リフトオフ!そんでヒゲビィィィィィィィィィィィィィィィム!」

 

 「ゥハハハハハハハハハハハ!」

 

 「ちゅどーん!使徒、殲滅ッ!」

 

 「強スギィ!」

 

 「「あっはははははははは!」」

 

 缶ビールを片手に意味不明な会話を繰り広げる葛城ミサトと入江ミナト。葛城一尉はひたすら陽気にベラベラ喋りまくり、入江三尉はその白い肌を真っ赤に染めながらお腹を抱えてケラケラ笑い続けている。今朝までは絹の様に滑らかに流れていた金髪も、今や汗に濡れてバラバラになっている。そこまで汗ばむ程笑い続けているということだ。どうやら三尉は所謂笑い上戸らしい。

 

 この得体の知れないやりとりの何がそんなに面白いんだろう。碇司令は目からビームなんて撃たないしそもそも人類の眼球にそんな機能はない。あとなんで碇司令が出撃するんだ。司令がエヴァ用のリフトに固定されて勢いよく射出されていく光景なんて見たら私は絶対発狂する。というかNERVのスタッフ全員が発狂すると思う。

 

 「ねぇねぇレイぃ〜?レイもわかるわよねぇ〜?碇司令はビーム撃つわよねぇ〜?」

 

 「アッハハハハハ!うつわよねーって!あははははは!」

 

 「……碇司令はビームなんて撃たn」

 

 「はいヒゲビィィィィムッ!びびびびびびびびびびびびび!」

 

 「アハハハハハハハハハハハ!アハハハハハハハハハハハハハハハハ!ひぃーっ、ひぃーっ!ぅふははははは!」

 

 「」イラッ

 

 この時私は誓った。仮にこの身体が成人レベルまで成長したとしても、絶対に酒は飲まないと。

 

 「はいっ、はぁーい!かつらぎさぁん!ぼくもびーむ!びーむうちたーい!」

 

 ただ経口摂取するだけで大人達をこんなアホアホな状態にしてしまう様な危険なモノは決して口にしないと、そう心に強く誓ったのだった。

 

 「いいわよぉうっていいわよぉ〜!そんであたしもいっしょにうつー!」

 

 「やったぁー!じゃぁせーのでうちましょー!」

 

 「よしきたぁ!二人で碇司令を超えるわよぉ!」

 

 「「はい、せーのっ!」」

 

 「………」 

 

 「「ミサ(ミナ)トビィィィィム!びびびびびびびびびびびびっ!」」

 

 「「ぶふははははははっ!」」

 

 「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ビームなんて、撃たない」

 

 

 

 

 

 

 

 碇司令は目からビームなんて撃たない。

 これだけははっきりと真実を伝えたかった。この酔っ払い達に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えぴそ〜ど4:よろしく新居!お隣さんは残念美人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「楽しみだね、新しいおうち!」

 

 「……」

 

 

 碇司令に全力全開でキレ電をかけた翌日。

 僕は再び愛車にレイちゃんを乗せて朝の国道をのんびり走っていた。目指すはNERVが僕たちの為に用意してくれたというピッカピカの新居!しかも最新式の生活設備が整ったそりゃもう立派なマンションなんだって!いやぁこの歳で新築マンション住まいなんて、まるでスーパースターになったみたいだよ!テンションあがるなぁ!

 

 

 「……」

 

 

 ……レイちゃんはあんまりあがってないみたいだなぁ!う〜ん非常にクールで非常にさみしい!

 

 相変わらず無表情なレイちゃんを見てついそう思ってしまったけど、すぐにそれは僕の身勝手な決め付けだと感じて考え直した。

 

 

 (あの廃墟みたいな団地も殺風景な部屋も、レイちゃんにとっては大事なマイホームだもんね。愛着だってあったかもしれない)

 

 

 僕から見たら、というか誰が見たってあのオンボロ団地に子供一人で住まわせるのはおかしいと思う。でもレイちゃんがあの部屋をどう感じていたのかはレイちゃん本人にしか分からない。僕だって自分が住んでたアパートと今日でお別れになってしまって、正直すごく寂しい。大学時代に住んでいた超オンボロ物件からあのアパートに引っ越して、それから今日までずぅっとお世話になった大切な場所だ、寂しくないわけがない。もしレイちゃんもあの部屋に対して同じ様に感じてるなら、その感傷は他人が邪魔していいものじゃない……なんて、これも僕の勝手な想像だけどね。

 

 

 (というか昨日はすっごい失礼なことしちゃったなぁ……うぅ、休み明けが怖い)

 

 

 国連直属組織の最高司令官に対して、やれ情け無いだのやれしっかりしろだのと、とんでもない暴言の数々をぶちまけてしまった。ヒェッ……

 

 

 (碇司令、途中からめっちゃ無言だったもんなぁ……怒ってたよぉ、あれ絶対怒ってたよぉ……)

 

 

 そう、僕が端末越しに言いたい放題怒鳴りたい放題しまくりまくった結果、碇司令は物言わぬサイレント碇司令と化し1分ほど無言電話になってしまったのだ。きっと僕の失言の数々に言葉を失う程ウルトラ激怒させてしまったに違いない。もしあの後冬月副司令が電話を代わってくれなかったら、一体僕はどうなっていたんだろう……恐怖心、僕の心に恐怖心……ッ!

 

 

 言い訳すると、あの時はレイちゃんの生活環境のあまりの粗悪さにバチギレして完全に頭に血がのぼってしまい、目上の人に対する言葉遣いがなってないとか、そもそも夜中にいきなり電話をするのはスゴイ・シツレイ!といった当たり前の事すら分からなくなっていた。うん、普通に大人失格だコレ!?

 

 

 (情け無いのは僕の方だ…こんなんで親代わりなんて、レイちゃんに申し訳なくなるな……)

 

 

 感情を処理できん人類はゴミだってザビーネ様も言ってたもんなぁ……これからは気をつけないといけない。もう僕一人の人生じゃないんだから。

 

 

 (……よしっ、反省会終わりっ!)

 

 

 でも今は一旦考えないようにしよう!今日は新しいマイホームにお引越し!レイちゃんとの新生活が本格的に始まるとってもおめでたい日なんだから、ちゃんと楽しまないとね!くよくよタイムは5秒でじゅうぶん!前向き前向き!そしてレイちゃんにも届け、僕のこの想い!はい、ハッピー!

 

 

 「すっごく広い部屋みたいだからなんでも置けちゃうよ!テーブルとかソファーとか、かわいいやついっぱい買おうね!」

 

 

 「……」

 

 

 ……きっと届いてるよね、ヨシッ!(前向き)

 

 僕は心のギアを無理やりポジティブに切り替えてケーちゃんのアクセルを踏み込んだ。僕の心もこのコみたいにオートマ制御だったら楽チンなのになぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、目的の場所に到着した僕たち。

 

 

 「わぁ……!」

 

 「……」

 

 

 そこには想像以上にご立派な高級マンションが輝く朝日を背に悠然と建っていた。タワーマンションみたいな高層建築ではなく広い敷地内に余裕を持って作られた幅広のマンションは、無機質なRC造ながらどこか西洋のお屋敷を思わせる美しい姿をしている。ここが僕たちの新しいハウスね!

 

 

 「すごいよレイちゃん!みてこれ、オートロックだよオートロック!これぞ都会って感じ!」

 

 「……そう」

 

 事前に貰っておいた暗証番号を打ち込みエントランスに入る。うん、これならセキュリティ面も大丈夫そう!

 

 「え〜と僕らの部屋は……11階のA3号室!」

 

 はい、聞きましたか皆さん!?11階!僕ら今日から11階に住むんですよ!しかもA棟!よくわかんないけどAとBなら多分Aのが良い部屋なんでしょ!?こんなんテンションあがるって!(無知)

 

 

 「A3はこっちのエレベーターだって!いこいこ!」

 

 「……はい」

 

 「そ〜れのりこめ〜♪」

 

 

 今いち乗り気じゃなさそうなレイちゃんの背中をぐいぐい押しつつ直通用のエレベーターにのりこめー^ ^する。もう早く部屋が見たくて待ちきれないよ!さぁさぁどんな部屋かな〜♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「Aの3!この部屋だね!」

 

 「……」

 

 

 入江三尉に連れられて新しい住居に着いた私は、ただ無感動にその部屋の扉を見つめていた。NERV関連組織の高級士官用に作られた最新式の電子ロックドア。三尉は電子キーを眼前にかざしながら『カードキーとかホテルみたいだよね〜♪』と子供の様に無邪気な笑みを浮かべている。

 

 新居について特別興味が湧かない私とは対照的に、入江三尉は今朝起きた時から随分と楽しそうにしている……何故?もしかして自分の部屋に不満があったんだろうか。昨夜私が夕食を食べて一泊したあの部屋に。

 

 (あの部屋は……あったかかった)

 

 別に室温が高いという意味ではない。確かに彼から振る舞われた味噌汁やおにぎりは温かくて美味だったが、そういう物理的な温度ではなくもっと別のスピリチュアルな温度とでも言うべきか、何か超自然的な暖かさがあの部屋にはあった気がする。それが何に起因するものかは分からないけれど、仮に私があの部屋の主だったとしたら決して不満は覚えないだろう。入江三尉はとても欲張りなヒトなのかもしれない。

 

 「レイちゃんレイちゃん、僕が最初に開けてもいい?」

 

 「?」

 

 キラキラと瞳を輝かせてそう聞いてくる三尉。どうやらカードキーでの解錠を相当楽しみにしていたらしい。

 

 「(*´▽`*)」ワクワク♪

 

 「……」

 

 ……別に私は一向に構わないのだが、何をそんなにワクワクしているんだろう。三尉は本部の警備隊員だったのだから、電子ロックの解錠・施錠なんて日常茶飯事だった筈なのに。

 

 少し気になるが無下にする必要もない。やりたいというならやればいい。

 

 「問題ありません」

 

 「(*゚▽゚*)」ヤッター‼︎

 

 私の許可を受けて花の咲く様な満開の笑顔を見せる三尉。昨日から思っていたが、この人は年齢の割に随分と幼い印象を受ける。正直親というより背の高い同級生と言われた方がしっくりくる感じだ。中学生でこの身長——多分碇司令より少し低いくらい——は少し高過ぎるけれど。

 

 「ありがとレイちゃん!よーしじゃぁ開けるよ!ほいっ!」

 

 三尉は意気揚々とカードリーダーにキーを読み込ませた。ピッと電子音が鳴り、その後1秒と間を開けずにドアが自動でスライドする。

 

 「おぉ……!これが最新式の、ハウスね!」

 

 明るい表情はそのままにやたら感慨深い声で呟く三尉。何故かハウスの部分を特に強調していた。家という単語をわざわざ英語に言い換えた意味は果たして何か。この人の言動は本当に謎めいていると思う。

 

 ウキウキした様子でそのまま部屋に入ろうとした三尉は、玄関に足を踏み入れる直前でふいに動きを止めた。どうかしたのだろうか?さっきエレベーターに乗った時みたいに『のりこめー^ ^』と陽気に突入すると思っていたのに。

 

 「三尉?」

 

 怪訝に思い三尉の顔を見ると、先ほどまでより幾分か大人しい表情をしていた。笑顔は笑顔なのだが電子キーを開けるときに見せた弾けるようなソレではなく、どこまでも穏やかで落ち着いた微笑。昨夜私との食事中に浮かべていたのと同じ笑顔だった。

 

 三尉は夕陽の様に柔らかな笑みを浮かべながら、歳相応に落ち着いた声色で私に言った。

 

 「入る前に、挨拶しよっか」

 

 「挨拶?……誰に、ですか?」

 

 「この部屋に」

 

 「部屋に……?」

 

 穏やかにそう言う三尉。部屋に挨拶?何故?挨拶とはヒトがヒトに対してするものであり、生命を持たないモノに向ける作法ではない筈。

 

 そんな私の疑問を見透かしてか、三尉は変わらぬ調子で私に語りかける。

 

 「いい?この世界のあらゆるモノには、必ず魂が宿るんだ。神様って表現することもあるね」

 

 「魂、神……」

 

 三尉の言葉を聞いて私の脳内にそれらしい知識が浮かび上がる。確か八百万の神というのだったか。この国に古くから伝わる考えだと何かの書籍で目にした記憶がある。日本は多神教の国で、諸外国で広く伝わっている所謂アブラハムの宗教の様な一神教とは異なる信仰が各地に根付いてる。恐らく三尉もその影響を受けているんだろう。

 

 「生き物はもちろん、木、花、海、山、それに街。僕の車やバイクだってそう。色んなモノに色んな神様が宿ってて、みんなで支え合ってこの世界は回ってるんだ」

 

 正直、他人の信仰を語られても特に関心は湧かない。信じたい神はヒトそれぞれだろうから否定はしないけれど、かといって肯定する気もない。私は知っている。神や天使と呼ばれる様な超常の存在が、実際にはその子たる人類に滅びをもたらす悪神であることを。

 

 ……でも。

 

 「レイちゃん、あのケースは持ってる?」

 

 「ケース?」

 

 「碇司令の眼鏡」

 

 「……!」

 

 「レイちゃんはあれをとっても大切にしてるよね。その気持ちも、きっと彼の魂に伝わってる。だからしっかり持っておくんだよ。必ずレイちゃんを守ってくれるから」

 

 「私を……」

 

 碇司令官から貰ったモノが、私を守る神になる。それはとても素敵なことだと感じた。

 

 そして。

 

 「だから、ね?僕たちが今日から住むこの部屋にも、ちゃーんと気持ちを伝えないと。しっかりご挨拶して、床も窓も水周りも毎日ちゃんとお掃除してね。そうやって愛情を込めて接すれば、きっとこの部屋も僕たちを愛してくれる。世の中に沢山ある怖〜いモノとかイヤ〜なモノから、必ず僕たちを守ってくれるよ」

 

 私の目線に合わせる様に身を屈めてそう語る三尉の顔は、どこまでも穏やかで包容的で。

 

 「……」(こくっ)

 

 気づけば私は自然と彼に頷いていた。彼の言葉は単なる信仰から出ているのではないと感じたからだ。では何かと聞かれたらそれは分からないけれど、それでも確かに信ずるに足る言葉だと、安心できる言葉だと感じた。

 

 「ん、いい子♪」

 

 三尉は私の肯首を見て嬉しそうにニッコリと笑みを深めると、腕を伸ばして私の頭に手を置き、緩やかな手つきでゆっくりと撫で始めた。

 

 「ん……」

 

 白い手のひらが頭頂部から後頭部にかけてを優しく撫でつけ、細く長い指がするりと髪を梳く。その度にむずむずした心地良さとポカポカした暖かさが私の頭から全身にじわじわと伝わっていく。唐突に与えられた未体験の優しい快感に、私の心は大いに戸惑った。そしてそんな私を愛おしげに見つめる三尉の笑顔は、男性的な碇司令の笑顔とはどこか違った頼もしさに満ちていて。

 

 「……う」

 

 その笑顔に安心感を感じ始めている自分を自覚し、思わず視線を下に逃がしてしまう。体温が上がり、頬が紅潮していくのが分かる。理由は分からないけれど、今顔を見られるのはとても恥ずかしいと感じた。

 

 (恥ずかしい……ムズムズする。でも)

 

 直視しない程度にチラリと一瞬彼に目を合わせると、そこには変わらず笑みを浮かべて私を愛で続ける彼がいて。そしてその笑顔は、まるで優しい波と柔らかい風に包まれた穏やかな浅瀬の海の様で。

 

 (ポカポカ、する……?)

 

 ……昨夜あの部屋が暖かく感じられたのは、入江三尉が愛した部屋だからなのかもしれないと、そう思った。

 

 これから彼と共に暮らすこの新しい部屋も、同じ様に暖かくなるだろうか……?

 

 (……なると、いいな)

 

 三尉の柔和な笑顔をちらちらと盗み見つつ、私は頭を撫でる彼の手を受け入れ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでは、良かったのに……(遠い目)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃ、一緒にご挨拶しよっか」

 

 「……はい」

 

 人類史上最高に素直で可愛くて良い子なレイちゃん(親バカ)を心ゆくまでナデナデした僕は改めて玄関に向き直って、これからお世話になる新居にご挨拶を始めた。

 

 両手を合わせて合掌の形を作り、頭を下げる。

 

 「……よろしくお願いします」

 

 「……お願いします」

 

 横目でチラッとレイちゃんの様子を伺うと、僕の見様見真似で同じ様に手のひらを合わせてぺこりとお辞儀をしていた。うん、初めて神社にお参りに来た子供みたいで非常に可愛くて非常に可愛い(超親バカ)

 

 そのまま目を閉じて、心の中で新しい家に祈りを捧げる。

 

 (今日からお世話になります。どうかレイちゃんを守ってください。怪我や病気、地震や台風、他者との諍い、そして使徒…………この世のあらゆる災いから、どうかこの子をお守りください……)

 

 ただ祈る。この想いがしっかりと目の前の部屋に届く様に、強く強く祈る。

 

 「……」

 

 「……」

 

 「……うん、これでよしっ!」

 

 1分くらいお祈りしてから合掌を解くと、レイちゃんも同じ様に手を下ろした。初日の挨拶で長々やり過ぎてもしょうがないからね。明日にでも神棚を買いに行って、それで毎日お祈りすることにしよう。

 

 では気を取り直して!見せて貰おうか!僕らの新しいおうちの性能とやらを!

 

 「ぃよっし!じゃぁ入ろっか!そーれのりこめー♪」

 

 「……のりこめー?」

 

 のりこめー^ ^

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわはー!広い広い!」

 

 「……」

 

 この部屋すごいよぉ!流石は葛城一尉のお隣さん!(御大将)

 

 リビングとダイニングは合わせてざっと20畳はあるよ!キッチンはそりゃもう立派なシステムキッチンでなんでも作れそうだよ!ベランダもおっきいよ!ガーデニングとか日光浴とかバーベキューとか焼き芋とか!もうなんでもできちゃいそうだよぉ!そして広い分お掃除がとっても大変そうだよぉ!でも頑張るよぉ!

 

 「超スーパーすごいどすばい……!」

 

 「(どこの方言…?)」

 

 正直凄すぎて僕たち二人では持て余すくらいだよ!あと一人、二人くらい増えても全然大丈夫そう!いやまぁ増える予定は無いけども!あ、ペットを飼ってみるのもいいかも!施設でもネコの『にゃんだば』を皆んなで飼ってたし、可愛い動物が家族になればレイちゃんも喜んでくれるかもしれない!……今ごろ元気にしてるかな〜にゃんだば!ふふっ、またマリちゃんの抱き枕にされてるんだろうなぁ♪

 

 予想以上に広々とした新しいおうちに感動しつつ、今も施設のどこかでゴロゴロと喉を鳴らしているであろう皆んなの愛猫と、そんなネコちゃんを誰よりも可愛がっていた眼鏡少女に想いを馳せる。あの子はネコ以外の可愛いモノも大好きだから、いつかレイちゃんを紹介してあげよう。きっと大喜びで飛びついてすんすんと鼻を鳴らす筈だ……うん、レイちゃんは怖がるかもしれないけど。あの子はなんというか野生的というか……そう!無邪気なところが可愛い子だから!(オブラート)

 

 「個室はどうかな?あ、ドアじゃなくて襖なんだね!」

 

 部屋の奥側と手間側にそれぞれ一つずつ個室があって、あとは収納部屋が一つ。その収納部屋だってそれだけで4畳半はある広さで押し入れだってある。これなら本当に4人家族くらいなら余裕で暮らせそうだね!レイちゃんのお友達を呼んでお泊まり会とかしても楽しいかも!

 

 「こっちはお風呂場かな?……うわはー!湯船おっきー!」

 

 アコーディオンカーテンで仕切られた先には脱衣所があって、その奥にある浴室もこれまたご立派!大人一人が余裕で脚を伸ばせるサイズの湯船がある!すごいすごい!湯船があるだけでもありがたいのにこんなにおっきいのがあるなんて!これは……豪邸じゃな!?(再認識)

 

 「すごいねレイちゃん!ここに僕たち住めるんだよ!夢みたいだね!」

 

 部屋を散策する僕の後ろをトテトテと追従していたレイちゃんに振り返ってそういうと、レイちゃんは何も言わずに僕の顔をじっと見つめてくる。

 

 「……」

 

 「……?」

 

 微動だにせず僕を凝視し続けるレイちゃん。え、なんでそんな真剣な顔……?僕なんか変なこと言った……?

 

 「……そう」

 

 レイちゃんは湯船に手をついてしゃがみこんでいる僕にそっと歩み寄り、

 

 「……それは」

 

 包帯が巻かれていない左腕をゆっくりと伸ばして、その小さな手を僕の頭に置き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……よかったわね」

 

 なでなでなでなで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無表情のまま、僕の頭を優しくなでなでしてくれました。わぁい^ ^

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……Why!?」

 

 「?」

 

 不思議そうに首をかしげるレイちゃん。いやいや、なんで!?なんで僕歳下の女の子に頭なでなでされてるの!?わぁい^ ^じゃないよwhyだよ!子供の頃を思い出してつい嬉しくなっちゃったけど、わぁい^ ^じゃないよこらぁおかしいよ!僕これでも24歳なんだけど!?

 

 

 

 

 

 

 「前に、本で読んだわ」

 

 「ゑ?」

 

 

 

 

 

 

 本?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「子供は、頭を撫でたり、抱き締めてあげると、喜ぶ」

 

 「( ゚д゚)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今の三尉は、子供」

 

 「( ゚д゚)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「( ゚д゚)」

 

 「(´ー`)?」

 

 

 表情を変えず当たり前の様につらつらと話すレイちゃん。そっか、新しいおうちにおおはしゃぎしてる僕を見て、レイちゃんは僕を子供だと思ったわけか。それでさっき僕がレイちゃんにしたみたいに頭をなでなでしてくれたと。なるほどなるほど、なるほどざわーるど。

 

 

 「そ、そっかぁ。ありがとうレイちゃん。いやぁレイちゃんに撫でて貰えて僕うれしいな〜あははは、は……」

 

 「そう、よかった」

 

 

 僕のお礼を聞いて満足したのか、踵を返してリビングに戻るレイちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……うわはー………………」

 

 

 僕は彼女の予想の斜め上を行く優しい対応にメンタルをボキボキにへし折られ、浴室の床にぺたんと座りこんだ。お父さんお母さん、貴方達の息子は自分より10コくらい歳下の女の子に子供扱いされて頭をよしよしされてしまいました……ちょっと本気で泣きそうです……

 

 ……そしていいかいレイちゃん。優しさっていうのはね、時にヒトを深々と傷つけるナイフにもなるんだよ……これからゆっくり、お勉強しようね……(満身創痍)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい!僕、復活!」

 

 「?」

 

 さ、いつまでも凹んじゃいられない!色々準備する事はあるけど、まず最初にやるべき事は!

 

 「お隣さんにご挨拶しにいこう!」

 

 「お隣さん?」

 

 そう、お隣さん!それも只のお隣さんじゃぁない!相手は今日から僕の直属の上司になるあのお方!作戦部長の葛城ミサト一尉です!なんでも今日の為に自分の仕事を部下にぜーんぶ丸投げしてお休みを取ってくれたそうな!う〜んありがたい!そしてこれからの仕事が不安でしょうがなくなるね!マジで!

 

 まだ午前中だからちょっと早いかもしれないけど、だからってあんまり遅いとそれはそれで一尉の機嫌を損ねちゃうかもしれないからね!遅れるくらいなら早くいく!悲しいけどぼく、社会人なのよね!

 

 「はいレイちゃん、服装チェック!ブラウス!」

 

 「……よし」

 

 「リボン!」

 

 「……よし」

 

 「スカート!」

 

 「……よし」

 

 「ヨシッ!」

 

 レイちゃんの制服を確認しつつ、僕も自分の士官服を入念にチェック!上官への最初のご挨拶なんだから、たとえ休日でもしっかり正装していかないと!その為に朝からこの窮屈なベージュの制服を着て来たんだから!あぁもう暑いほんとに暑い!この気温で長袖の上着を羽織るなんて暑さで頭がフットーしそうだよぉっっ!

 

 「服装点検おーるぐりーん!発進準備ヨシッ!」

 

 「(……発進?)」

 

 とにかくこれで準備ヨシッ!対お隣さん用万能兵装『菓子折り』と『お蕎麦』もしっかり装備!いざ行かん、葛城一尉の待つA2号室へ!

 

 「イクゾー!」

 

 「(……のりこめーじゃなかった)」

 

 イクゾー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぴんぽーん♪

 

 『はぁーい!入江くんねー!?悪いんだけどぉ、ちょ〜っち待っててもらえるー!?』

 

 

 緊張でぷるぷると震える指でなんとかインターホンを押すと、中から葛城一尉のどこか焦った様な声が響いてきた。閉じられたドアの向こう側で何が起きてるのか分からないけど、ドサドサっとかガタガタっみたいな慌ただしい音が微かに漏れ聞こえてくる。

 

 「や、やっぱり朝から来るのは早過ぎたかな?」

 

 「……」

 

 上官に迷惑をかけているんじゃないかと不安になる僕と、特に動揺した様子も無く平然と構えているレイちゃん。うぅ、もしかしてほんとに僕の方がお子様なのかも……(後遺症)

 

 しばらくドアの前で待っているとようやく中は落ち着いたみたいで、僕らが立つドアの前に近づいてくる葛城一尉の気配を感じた。

 

 「っ!」

 

 「……」

 

 僕は改めて姿勢を正し、一尉が出てきた瞬間に完璧な敬礼が出来るよう心の準備を整える!よぉし、保安警備隊でみっちり仕込まれたビシッとした敬礼!葛城一尉におみまいするぞぉ!(ビストロ大泉)

 

 そしてついに自動ドアがシューンッとスライドする!今だ!撃ち抜くぞぉ!撃ち抜くぞぉ!(ピストル大泉)

 

 

 「おはようございまっ……!?」

 

 「おまたせー!いやぁ悪いわねぇ朝から来てもらっちゃって!いらっしゃ〜い♪」

 

 

 そこにいたのはタンクトップとホットパンツという殺人的にラフな服装をしたスタイルぐんばつ(死語)な美女。

 

 「….…あ!?は、はい!朝から申し訳ごじゃいませんっ!?」

 

 その肌色面積の多さに僕は一瞬心を奪われてしまい、正気に戻って慌てて挨拶をしたがあんまり慌てすぎて思いっきり舌を噛んでしまった!痛い!

 

 「……」

 

 隣のレイちゃんから『なにやってんだこいつ』みたいな視線を感じる!ちゃうねん!これはちゃうねんなレイちゃん!まさか上司がこんなセクスィーな格好で現れるなんて思わなかったんだって!罠だよ罠!僕は葛城一尉が仕掛けた悪辣な罠にハマったんだよ!it's a trap!!(アクバー提督)

 

 

 「あぁこれ?いやぁ昨日すんごい遅くなっちゃって。だってリツコったら全然帰してくれないのよぉ?んでさっき起きて慌てて準備してたから着替えもなんも出来てないのよねぇ〜ごみんごみん!」

 

 「さ、左様でございますか!大変失礼致しました!出直して参りますっ!」

 

 やっぱり朝から突撃は早過ぎたみたいだ!うわぁやっちゃった!良かれと思って早めに来たのが完全に裏目になっちゃったよぉ……!

 

 僕が一礼して回れ右で帰ろうとすると、葛城一尉は慌てた様子で引き留めてきた。

 

 「あぁ待った待った!そんなの気にしないで上がってきなさい!お祝いだって用意してるわよ!ほらレイもそんなとこ突っ立ってないで、入江くん中に入れてやって!」

 

 「……了解しました」ぐいっ

 

 「あっ、ちょっと!?よろしいんですか、って葛城一尉ひっぱらないで!?レイちゃんも待って待って押さないで!?入る入る入るからって力つよっ!?」

 

 前後から引っ張られ押し込まれの挟撃を受けて、僕はよろめきながら葛城一尉の部屋にお邪魔した。なんか思ってたご挨拶とちがーう!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「では、改めてご挨拶を!本日付けで作戦部に配属となりました、入江ミナト三尉であります!」

 

 「ええ、よろしく入江三尉。パイロットの管理はエヴァの運用において最も重要な要素の一つよ。貴方のミス一つで、世界中の人々が命を落とす事にもなりかねない。その自覚と責任を持って、抜かり無く使命を果たしなさい。いいわね?」

 

 「はっ!全力を尽くします!」

 

 「ん、よろしい」

 

 

 ダイニングの食卓テーブルでお茶をいただいて一息ついてから、気を取り直して葛城一尉に挨拶をした。一尉は相変わらずラフな格好だったけど、その表情と眼光にはさっき玄関で見せたおちゃらけた雰囲気は一切なく、迫る人類滅亡を回避すべく最前線で指揮を取る作戦部長としての厳格なオーラを纏っていた。

 

 うん、すっごい緊張した。本当にゾッとするほど冷たい眼をしていたから。これがエヴァンゲリオンと共に使徒と闘う人々を束ねるリーダーの覚悟ということか。僕も改めて気を引き締め無ければならない。レイちゃんを養うということは即ち、エヴァンゲリオンという巨大兵器の最も替えの聞かないパーツを管理する事でもある。冷たい言い方だけどそれが現実だ。僕は自分の体が急激に重くなっていくような錯覚に陥った。エヴァンゲリオンの巨大な両手が僕の両肩をがっしりと押さえて、『お前はもう逃げらない』と耳元で囁いている気がした。

 

 (……逃げないよ、僕は逃げない。レイちゃんからも、エヴァからも)

 

 これから本格的に使徒との闘いが始まれば、必ずレイちゃんは出撃するだろう。僕はその度にその小さな背中を見送らなければならない。愛する我が子が死地に向かうのを止める事も出来ず、『御国の為に行ってきなさい』と背中を押す事しか出来ない……想像するだけで胸が苦しくなって泣き出しそうになる。

 

 でも、その辛さから逃げてはいけない。レイちゃんが自分の意思でエヴァに乗るなら、僕はそれを全力でサポートする。特務機関NERVの入江ミナト三尉として。

 

 そして、その辛さに逃げてもいけない。僕はあくまで親としてレイちゃんを愛する。もしもレイちゃんがエヴァを降りたい、どこか遠くに逃げたいと言うのなら、僕は世界の何処にでも彼女を連れて行く。それで僕が殺されたって構わない。世界が滅びたって関係ない。ただ親として、入江さんちのミナトさんとして娘の意思を守る。

 

 

 「(……しょっぱい)」モグモグ

 

 

 隣の席で菓子折りの中身をちまちまと食べているレイちゃんを見つめながら、僕は何があっても絶対にこの子の幸せを守り抜く覚悟を決めた。

 

 

 「……はいっ、硬っ苦しい話しゅーりょー!入江くん、今日からはお隣さんなんだから、仕事中以外はラク〜にいきましょ!ラク〜に♪」

 

 ぱんっ、と手を叩いてふにゃりと表情を崩す葛城一尉。さっきまでの威圧感は一瞬で霧散し、元の気さくなご近所のお姉さんに戻っていた。それに釣られて僕も気が緩んだのか、両肩に感じていた鉛の様な重さがフッと消えた。

 

 (葛城一尉って、すごい人だ)

 

 彼女が笑えば場は和み、本気の時はそれに合わせて周りの空気も研ぎ澄まされる。きっとそうやって一尉は作戦部の精鋭達を率いているんだろう。カリスマってきっとこう人の事を言うんだろうな。

 

 「よろしくね、入江くん。レイもね」

 

 「……はいっ!よろしくお願いします、葛城さん!」

 

 「……」(ぺこり)

 

 この人になら、安心してレイちゃんを任せられる。葛城一尉の覚悟と優しさに触れて、僕はこの人の部下としてふさわしい立派な士官になろうと心に決めた。これからお世話になります、葛城さん!

 

 

 

 ……ただ、ちょっと気になる事がありまして!

 

 

 「ところで葛城さん……?」

 

 「んー?」

 

 「このゴミの山はいったい……?」

 

 「山って失礼ね〜これでもけっこう片付けたのよぉ?」

 

 「片付けてコレですかぁ!?」

 

 

 そう、廊下とダイニング周りだけはそれなりに整頓——ホコリや小さなゴミがちょこちょこ落ちているので綺麗とは言えない——されているが、それ以外のスペースには所狭しと大量のゴミ袋が積み上げられていた。きっと僕たちを招待する為に慌てて片付けたんだろう。ちなみにさっきシリアスな話をしていた時は意識して視界から外していた。そりゃそうだよあんなの見てたら気になって話どころじゃなくなるもの!ほんっとになんだこのゴミ屋敷!?(驚愕)

 

 「うわはー……」(ドン引き)

 

 「ちょ、ちょっと入江く〜ん?そこまでガッツリ引かれると、流石にお姉さん傷つくんだけどな〜?」

 

 いくら上司で綺麗なお姉さんでもこれは無い。『作戦部長の葛城一尉』は信用できるけど、『お隣の葛城おねーさん』は決してアテにしないと硬く誓った。うん、これは無い(念押し)

 

 「レ、レイはど〜お?たしかに普通のお家と比べてちょ〜〜〜〜〜〜っち散らかってるけどぉ、そんなドン引きするほd」

 

 「きたない」(直球)

 

 「ヌッ!?」

 

 「くさい」(無慈悲)

 

 「ヌ"ッッッッッッッッ……!?」

 

 往生際悪くレイちゃんに縋った葛城さんは、遠慮というものを知らないレイちゃんの言葉のナイフでざっくりと切り刻まれ、そのままテーブルに突っ伏し沈黙した。大胆なマジレスは女の子の特権であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい!私、復活!」

 

 「おかえりなさい!」

 

 「おかえりなさい」(適当)

 

 

 心の傷を癒した葛城さんが復活し、ようやく和やかな時間が訪れた。そして気づけば時間はもう11時を回っている。そろそろお昼の準備をしないとなぁ……

 

 「あらやだ、もうこんな時間!ふたりとも、お昼食べてきなさい!とっておきのやつ用意してるわよ〜!」

 

 「え、いいんですか!?ありがとうございます!」

 

 僕の考えを読んだみたいにお昼に誘ってくれる葛城さん。うん、ガサツはガサツだけどやっぱり優しくて素敵な人だ!

 

 「あらよっと!」

 

 漢らしい掛け声と共にダンボールをドサッとテーブルに置く葛城さん。中身を覗くと、出来合いのお惣菜やらレトルト食品やらがそれはもうみっちりと隙間なく詰まっていた。

 

 「……」

 

 「……」

 

 「んふふ〜。あたしのお気に入りランク上位の猛者達を更に厳しく選別して結成された究極のドリームチーム!名付けてミサトオールスター!たーんと召し上がれ♪」

 

 茶目っ気たっぷりにウィンクまで決めてみせる葛城さん。と、とっておきってそういうことかぁ……どんな凄い食材が来るのかとドキドキしちゃったけど、思ってたよりずっと庶民的な内容でちょっと安心した……いや、ガッカリなんてしてないよ?ホントホント。ミナトクン、ウソツカナイ(棒読み)

 

 「じゃ、じゃあ僕たちも準備手伝いますね!みんなで作ってみんなで食べましょう!」

 

 「そうね、みんなでやりましょ!なんかキャンプみたいで楽しくなってきたわね〜♪」

 

 まぁ、お湯沸かすくらいしかやることないけどね!レトルトだし!

 

 「……私、料理できません」

 

 「大丈夫だよレイちゃん、これレトルトだから!」

 

 「レトルト?」

 

 レイちゃんはレトルト触ったことないみたい。じゃあいい機会だしいっしょに作ってみよう!これもお勉強だね!

 

 

 こうして皆んなでレンチンしたりお湯沸かしたりレンチンしたりレンチンしたり湯煎したりレンチンしたりして、途中ちょっとしたトラブル(レイちゃんがお湯の分量を間違えてパックお粥がパック雑炊にジョブチェンジした)はあったものの、無事葛城家の食卓に温かい料理が並んだ。

 

 で、問題はここからだった。

 

 

 「よーしじゃあ乾杯するわよん♪」

 

 「え"」

 

 

 手を洗って食卓についた僕の前にドン☆と置かれる350mlの缶ビール。すご〜いエビチュだぁ発泡酒じゃないちゃんとしたビールだわぁい^ ^

 

 ……じゃない!

 

 「ちょっとダメですよ昼間からお酒なんて!」

 

 「はい真面目なセリフいただきました〜でも却下!今日は引越し祝いなんだからパァ〜っとやらないと!」

 

 「いやでもレイちゃんもいるし……」

 

 「どーせ隣なんだから潰れたってヘーキよヘーキ!それにこれからきっと忙しくなるわよ?ゆっくり飲めるうちに飲んどかないと、むしろバチが当たるってもんよ!」

 

 めちゃくちゃ言って僕に飲ませようとしてくる葛城さん。まだ出会ってちょっとしか経ってないけど僕には分かる!この人ただ飲み相手が欲しいだけだ!これはアルハラですよアルハラ!碇司令に言いつけてやる!

 

 僕が反抗の意思を見せると、葛城さんはスッと姿勢を正してキリッとした顔になり、

 

 「入江三尉、私の酒が飲めないというの?」キリッ!

 

 「なっ….!?」

 

 「(`・ω・´)」キリッ!

 

 「ぐぬぬ……!」

 

 作戦部長の葛城一尉として堂々とアルハラしてきた!さ、逆らえない!愉快な葛城おねーさんのお誘いなら断れるけど、厳格な上官からのお酌とあれば断るわけにはいかないっ!悲しいけどぼく、社会人なのよねェ……ッ!

 

 「……お言葉に、甘えさせて頂きますッ!」

 

 「そうこなくっちゃ♪」

 

 「(お腹すいた……)」

 

 一杯だけ、一杯だけいただこう!子供をほったらかして酔っ払うわけにはいかない!僕そんなにお酒強くないんだから!学生時代に何度友達に酔い潰されてお持ち帰りされかけたことか!(恐怖体験)

 

 一杯だけ……一杯だけだ………っ!(ゴクッ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、美味しい♡」

 

 

 

 

 ——そして、冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うみゅ〜……」

 

 「しっかし見事に潰れたわねぇ。大して飲ませてないのに」

 

 4本目のビールを飲み干した辺りで三尉はぐったりとテーブルに突っ伏し、ふにゃふにゃと声にならない声で唸るだけの置物になってしまった。対する葛城一尉はそんな三尉を見ながら楽しそうに6本目のビールを開けている。この人の肝臓はどうなっているんだろう。

 

 「ごめんねレイぃ〜後でちゃぁんと入江くん運ぶからぁ、もう一杯だけ飲ませて♪」

 

 特に悪びれる様子も無く新しいビールを口にする葛城一尉は、本当に幸せそうだ。ビールの味が好きなのか、それともアルコールで酩酊するのが好きなのか。部屋に散乱する日本酒や洋酒の空き瓶を見るに、恐らく後者が正確だろう。

 

 「……楽しい、ですか?」

 

 「ん〜?」

 

 「お酒って……楽しいですか?」

 

 つい気になって聞いてしまった。自分は今後何があっても絶対に酒なんて飲まない(鋼の意思)けれど、もし飲酒という行為がそこまで楽しいものなら……碇司令も、好きかもしれない。碇司令も大人だから。そう考えると、酒を飲むことの何が楽しいのかを知っておきたいと思った。

 

 「そうね……これは人それぞれだけど」

 

 葛城一尉は一度ビールを置き、私の隣でぐでぐでに形状崩壊している三尉に目を向けながら、

 

 「誰かと一緒にお酒を飲むのは、とっても楽しいわ」

 

 そう言って、ふふっと小さく微笑んだ。落ち着いた大人の顔だった。どこか三尉に似てる笑顔だとも思った。

 

 「ま、もうちょいスタミナつけてほしいけどね〜ん♪」

 

 「ふみゅ〜……」

 

 「……」

 

 一尉は再びビールを手にして、そのままグイッと一気に飲み干した。一気飲みは急性アルコール中毒を引き起こす恐れがあると医学書で読んだが、多分この人は大丈夫な人なんだろう。

 

 「よし、じゃあこのぐでぐでパンダくんを運びますか!ほーら入江くん帰るわよー。寝るならお家で寝なさーい」

 

 「んみゅ〜……んぁぃ……」

 

 「よっこら、せっと!ったくだらしないわね〜普通男女逆よコレ?」

 

 文句を言いつつ、でも何処か楽しそうに三尉に肩を貸す葛城一尉と共に、私は自分の新たな部屋へと戻った。

 

 玄関ドアを開けて一尉と三尉を中に入れる。リビングへの廊下を歩きながら、葛城一尉が私に話しかける。

 

 「レイ、これまではただのパイロットと指揮官だったけど、今日からはあなたもお隣さんなのよ。困った事があったらなんでも言いなさい。力になるわ」

 

 「……はい」

 

 そう言う一尉の声は、やはり三尉と似た感じの暖かさを持っていた。今まで訓練以外で話す機会が無かったから分からなかったけれど、とても心地良い暖かさだった。

 

 (葛城一尉は……お隣さん)

 

 碇司令とも入江三尉とも違う暖かさを持った、第三の大人。これからは、もっとこの人と話してみても良いかも知れないと、そう思った。

 

 (……ポカポカ、する?)

 

……つづく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ところで、お布団どこ?」

 

 「あ」

 

 「え?」

 

 「……」

 

 「……もしかして、まだ届いてない?」

 

 「……葛城一尉」

 

 「ん?」

 

 「……布団、貸して下さい」

 

 「あ、あはは……りょーかい」

 

 「うみゅ〜……ひげびーむぅ、んふふ」

 

 「」イラッ

 

 「んふふぅ……びーm」

 

 「……っ!」ペシッ!

 

 「へぷっ!?」

 

 

 

 

……つづく。

 

 

 




ミサト「困った事があったら言うのよ!」キリッ!
レイ「既に困ってんだよなぁ」
ミナト「ひげびーむ!」
ネブカドネザルの鍵「目からビームとか草」

シンエヴァの例のシーンはマジで観客の腹筋を破壊しにきてたと思う(被害者の会)



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