僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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メリークリスマス(遅漏)
シンカリオンZ観ながらシャイニングパールやってたら投稿遅れました。パルキアのバカヤロー!(冤罪)

今回新しいオリキャラが一人増えます。苦手な方はご注意下さい。
といってもただの賑やかしです。原作で女の子の同級生キャラがヒカリちゃんしか居なかったので、レイちゃんの友人枠としてパパっと作りました。名前の元ネタは某漫画家コンビの片割れとそのコンビの作品に登場するキャラから取ってます。さぁ何のマンガでしょうか。

正確は本文の後(草野仁)










えぴそ〜ど5:あいさつの魔法!おはようシャイニングデイ

 

———NERV本部 第2実験場

 

 

 

 「パルス逆流!」

 

 「第3ステージに異常発生!」

 

 「中枢神経素子にも拒絶が始まっています!」

 

 「停止信号、届きません!」

 

 『グゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!』

 

 

 冷たい防護壁と強化ガラスに囲まれた独房の様な実験場で、苦し気に唸り声を上げながら身を捩らせる山吹色の巨人。赤い単眼を持つのその巨人の名は、エヴァンゲリオン零号機。いずれこの地に襲来する超常の敵性体『使徒』を撃滅する為に生み出された究極の巨大兵器『汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン』、その試作実験機である。だがその試作機はいまや作り手たる人間たちの制御を離れ、暴走状態に陥っていた。

 

 

 「零号機、制御不能!」

 

 

 両肩と両腕の拘束具を力づくで破壊し、頭痛を訴える病人の様に頭を抱えフラフラと歩き出す零号機。全長40mにもなる巨体が固定もされずに動き回っている状況は、NERVのスタッフ達に少なくない恐怖を与えた。分厚い防護壁に守られてはいるが、巨人が本気で暴れ出せばこの壁もどうなるかわからない。

 

 

 「実験中止、電源を落とせ!」

 

 「はい!」

 

 

 最高司令官碇ゲンドウの鋭い指示が飛び、零号機に電力を供給する巨大なケーブルが強制的にパージされる。

 

 

 「零号機、予備電源に切り替わりました!」

 

 「完全停止まであと35秒!」

 

 『グォォォォォォ……ッ!』

 

 

 この様な事態に備えて予備電源への電力供給は最小限に抑えていた。が、それでもあと30秒。あと30秒もの間、この巨大なサイクロプスは動き続けるのだ。

 

 

 『…………ッ!』

 

 

 よろめきながら少しずつ前進してくる零号機。やがて観測室の前に辿り着くと零号機はグッと両手を硬く握り込み、眼前の人間たちに向けて忌々しげにその拳を打ちつけ始めた。

 

 

 『……ッ!……ッ!……ッ!』

 

 

 ガシンッ!ガシンッ!ガシンッ!零号機の鉄拳が絶え間なく観測室に打ち込まれ、特殊強化ガラスを容赦なく破壊していく。それまでガラス面の目前で直立不動を貫いていたゲンドウも、防護壁やフレームごと強化ガラスを粉砕していく山吹色の暴威に思わず身を引いた。

 

 

 「危険です!下がってください!」

 

 

 エヴァンゲリオン開発責任者の赤木リツコがたまらず叫ぶが、ゲンドウにその声が届いた様子はなかった。ゲンドウはただまっすぐに零号機を見つめつづける。

 

 

 『グゥ、グゥゥゥゥゥゥ……ッ!』

 

 

 ふたたび頭を抱えて悶え始める零号機。すると突然背中の装甲板が弾け飛び、それを認めた瞬間ゲンドウの顔色が変わった。

 

 

 「オートイジェクション、作動します!」

 

 「いかん!」

 

 

 露わになったその背中から、白い円筒が勢いよく射出される。ロケットブースターの青白い光を走らせながら飛び出したそれは、エヴァンゲリオンのエントリープラグ———パイロットである綾波レイが乗っているコックピットだった。

 

 天井に激突し、そのままガリガリと機体を擦り付けながら向かい側の壁に突き進むエントリープラグ。当然中にいるパイロットには凄まじい衝撃が襲い掛かっていた。打撲、骨折、頭部からの出血……そのまま激突を繰り返した末にブースターの推力が切れ、何十メートルも下の床面に墜落、結果パイロットは緊急オペと長期間の入院を余儀なくされる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———本来の正しい歴史では、そうなるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……ッ!』

 

 

 プラグが射出された瞬間、零号機の特徴的な赤い単眼がカッと光を放ったかと思うと、突然慌てた様に身を翻してプラグが突き進む方へドタドタと駆け寄り……

 

 

 「なにを……!?」

 

 「レイっ!」

 

 

 両手を挙げて落下する直前のプラグを受け止め、そのまま身を屈めて膝をつき、そして……

 

 

 『ウウウウウウ、ウウウウウウウウウウウウッ!』

 

 

 決して離さないとでも言う様に背中を丸め、己の懐にエントリープラグを隠しはじめた。大切なモノを取られたくないと必死になって地面にうずくまる、幼いヒトの子供の様に。

 

 

 「か、完全停止まであと10秒!」

 

 「先輩、ベークライトは!?」

 

 「ダメよ、パイロットまで生き埋めになるわ!」

 

 「……っ!」

 

 「碇司令!?」

 

 

 ゲンドウは観測室を飛び出してレイの元に急いだ。落下の衝撃が無かったとはいえ油断は出来ない。一刻も早く彼女を迎えに行きたかった。

 

 

 「3、2、1、ゼロ!」

 

 

 スタッフのカウントと同時に零号機の電源が切れ、糸が切れた人形の様にフッと力を無くす。弛んだ両手からはエントリープラグがゴトンと落とされた。

 

 

 (今のは一体……零号機の自我が目覚めた?)

 

 

 リツコは零号機が起こした不可解な行動に動揺を隠せなかった。同じエヴァンゲリオンでも初号機や弐号機と違い、零号機には明確な『魂』は宿っていないはず……それが何故あぁも生々しい挙動を示したのか?

 

 

 (エヴァは使徒をコピーして作った人造人間……それが本当の人間になったとでも言うの?ありえないわ!)

 

 

 眼下の実験場では、ゲンドウが零号機の懐に駆けつけてエントリープラグのハッチをこじ開けている。ブースターの炎で熱された金属製のレバーに両手を焼かれる事も構わず少女の救助を急ぐ想い人の背中を見て、リツコの胸中に複雑な感情が渦巻いた。

 

 

 (……いっそ落としてしまえば良かったのに、なんて思う私は科学者としても大人としても失格よね……母さん)

 

 

 自身の女としての醜さを自覚し自己嫌悪に陥るリツコ。だがその間も頭の片隅では絶えず零号機の分析を続けていた。彼女自身が思うほど、科学者としての赤木リツコは落ちぶれてはいなかった。

 

 

 (元より人の手には余る存在だもの。予想外の行動をとるなんて、それこそ予想の範囲内だわ)

 

 

 己のプライドにかけて、必ず原因を究明してみせる。自分はNERVの技術開発部を率いる存在で、E計画の開発責任者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———科学者として零号機の秘密を解き明かすと誓ったリツコ。だがその真相は、彼女のロジカルな思考では決して辿り着けないオカルトチックかつ不条理なモノであった———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———いい?この世界のあらゆるモノには、必ず魂が宿るんだ。神様って表現することもあるね———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えぴそ〜ど5:あいさつの魔法!おはようシャイニングデイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いただきまーす!」

 

 「……いただきます」

 

 

 全身の包帯が取れてスッキリしたレイちゃんと二人、ホカホカと湯気をたてる食卓にまずは一礼。お箸を手に取ってお味噌汁をずずっと一口……

 

 

 「……ほぅ〜」

 

 「……ふぅ」

 

 

 ……うん、今日の出来栄えもバッチグー!

 

 

 「さっ、しっかり食べるんだよ〜今日は始業式なんだから!」

 

 「ずずっ…ずずっ……」

 

 「中学二年生最初の一日、シャキッと迎えないとね!」

 

 「ずずっ…ずずっ……」

 

 「あ、今日の卵焼きね?ちょっと赤色入ってるでしょ?んふふ、なんだと思う?」

 

 「ずずっ…ずずっ……」

 

 「コレね、紅しょうが!コレがけっこうイケるんだぁ〜」

 

 「味噌汁、おかわり」

 

 「はぁーい!どれくらい盛るー?」

 

 「いっぱい」

 

 

 レイちゃんとの新しい生活が始まって一週間、こうやって隣に座って朝ごはんを食べるのもすっかり当たり前の日常になった。

 

 

 「はいどーぞ!」

 

 「ん」

 

 

 駆けつけ一杯!てな勢いでお味噌汁を飲み干して、追加の一杯をおかわりしてからようやくおかずに手をつけるレイちゃん。これもいつもの朝の風景だ。レイちゃんは毎朝決まった時間にスパッと起きてくれるから、こうして朝ごはんをゆっくりじっくり食べられるんだよね。

 

 

 「レイちゃんはエラいねぇ」

 

 「……どうして?」

 

 

 焼き鮭をほぐしながら不思議そうに小首をかしげるレイちゃん。どうしてってそれはもちろん早寝早起きのことですよ!レイちゃんくらいの年頃の子はとにかく夜更かし大好きっ子が多いんだから!

 

 

 「毎朝ちゃーんと起きて、ちゃーんと朝ごはん食べて。う〜んいい子いい子♪」

 

 「別に、スケジュールだもの」

 

 「そのスケジュールをしっかり守れてるから、レイちゃんはエラいねってこと!」

 

 「……そう」

 

 

 こんな感じでつい毎朝褒めちゃうんだよね。だってホントにしっかり起きてくれるんだもん!毎朝大声で怒鳴りながらお布団ひっぺがさなくても起きてくれるんだもん!『ママもいっしょにおやすみにゃ〜ん』とか言って僕をベッドに引き摺り込もうともしてこないもん!こんなの毎朝褒めるに決まってるよ最高にいい子だよむしろ毎秒褒めてあげたいよ!

 

 

 「……」

 

 

 でもレイちゃんは至って平静。この一週間レイちゃんのいい子っぷりに感激しまくりな僕は、それはもうムツゴロウさんレベルで毎日褒めに褒めまくっていた。が、レイちゃん本人はどうもいまいちピンときてないご様子。レイちゃん的には決まった時間に起きるなんて当たり前過ぎて何がえらいのか分からないみたい。うーん、歯痒い!どうにかレイちゃんに伝えてあげたい僕のこの気持ち!

 

 

 「……」

 

 

 ……うん、まだあんまりしつこく構うのはやめとこうかな。なんせ僕たちはまだなりたてほやほやの家族。お互いの価値観とか適切な距離感とか、わかってないことがいっぱいだもん。こういうのはじっくりゆっくり時間をかけないといけない、とってもデリケートなトコだからね。焦らない焦らない……でも子供がいっしょだとつい構っちゃうんだよなぁ。可愛い!とか、いい子!って感じるとつい我を忘れてヨシヨシしてしまう、僕の悪いクセ(右京さん)

 

 

 (でもまぁ、あんまり深く考えてもしょーがないよね!)

 

 

 時間はたっぷりあるんだし、僕は僕なりにレイちゃんを精一杯愛していこう!僕たちの生活はまだ始まったばっかりなんだから!

 

 

 「ん、やっぱり紅しょうがは正解だね!おいしい!」

 

 「……」

 

 「……あ、微妙?」

 

 「ん……おいしい」

 

 「やった!」

 

 

 ほら、今また一つわかった。レイちゃんも紅しょうが卵焼きを好きになってくれたってことが。こうやって一歩一歩少しずつお互いを知っていけば、僕たちはきっと上手くいく。そうだよね、とーさん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、お弁当どーぞ!忘れ物は大丈夫?」

 

 「ん……大丈夫」

 

 

 食後の緑茶を飲んでひと心地ついてたらぼちぼちいい時間になったので、レイちゃんにお弁当を渡して玄関までお見送りする。今日は始業式の他には新しい授業の説明やクラスの話し合いしかないらしいから、特に教科書とかはいらないみたい。こういう日って普段より妙にカバンが軽くってちょっぴり変な感じになるんだよねぇ〜懐かしいなぁ〜……

 

 っと、いけないいけない!まだ大事なモノが残ってるんだ!これは絶対忘れちゃダメなモノだからね!しっかり確認しないと!

 

 

 「レイちゃん、行く前にもういっかいおさらいね!」

 

 「おさらい?」

 

 

 身体を屈めて目線をレイちゃんに合わせながら、ここ2、3日で教えた大事なコトを改めて確認する。

 

 

 「まず、朝みんなに会ったらなんて言う?」

 

 「あ……おはよう」

 

 「そう、おはよう!」

 

 

 はいそうです、『あいさつ』です!これはね、うん、ちょっと本気で教えないとマズイと思ってだいぶ熱心に教えたよ!お引越しの作業がひと段落した後かな?レイちゃんと一緒にNERV本部に行って色々な人と会ったりすれ違ったりしたんだけど、全っ然あいさつしないのよねレイちゃん!かくいう僕もついこないだまでガン無視されてたし!う〜んよくないこれはよくない!

 

 流石に目に余ったのでお家に帰った後に『人に会ったらちゃんとご挨拶しなきゃめっ!でしょっ!』と注意したら、その時のレイちゃんの反応が

 

 

 『(´ー`)ドウシテ?』

 

 『(´ー`)ヒツヨウナイモノ』

 

 『(´ー`)ソンナコトヨリミソシルノミタイ』

 

 

 みたいな感じで、そもそも何故あいさつが必要なのか自体を知らないみたいだった。いやはやあの時はびっくりしたなぁ……そんなことってあるんですかどんな教育してんですか碇司令!?って驚きと憤りを隠せなかったもんなぁ……

 

 そんな調子で学校生活は大丈夫だったのかと心配になって、事前に学校に行って担任の先生にレイちゃんの話を聞いたら思った通り。クラス内では浮いた存在で誰とも関わらず一人ぼっちでいたらしい。

 

 ……本当に、本当に悲しいけど無理も無い。あんな塩対応を全方位に振り撒いてたら誰もレイちゃんに寄りつこうなんて思わないし、それが同い年の子供達なら尚更だ。挨拶はコミュニケーションの第一歩、その一歩めで人の第一印象は決まってしまう。そこでつまずいて立ち直す様子もない他人に興味を持ち続けられるほど、思春期の少年少女達は我慢強くないから。

 

 他所の家では『お邪魔します』と言ってちゃんと靴を揃えたりとか、ごはんを食べる時は『いただきます』と『ごちそうさま』とかその辺はしっかりしてるんだけど、今回みたいに挨拶についてはサッパリだったり、その他にも色々と無知な所がレイちゃんにはあった。例えばお風呂あがりに素っ裸でタオルだけ羽織ってペタペタリビングに戻ってきたりとか。いやおっさんか!とツッコむのを我慢して冷静にパジャマを着せた僕はえらいと思う。その後『女の子がそんなはしたないコトしちゃいけません!』と注意したけど、その時のリアクションもやっぱり

 

 

 『(´ー`)ドウシテ?』

 

 

 みたいな感じだったので、30分くらいかけて念入りに『たとえ家族でも人前で全裸はマズいですよ!(要約)』という常識を伝えた。あの時はだいぶ疲れた……疲れたっていうかもう、チカレタ……(遠い目)

 

 こういう当たり前の常識を知らない事もあれば、逆にビックリするくらいしっかりしてたり物知りだったりする事もある。レイちゃんはそういうちょっとチグハグなトコがある女の子だった。

 

 それなら僕がやることは一つ!レイちゃんが知らない、知らなければならない事を一つずつしっかり教えていく!僕がお父さんやお母さん、とーさんや先生達から教わった事を僕なりの言葉でレイちゃんに伝えていかなきゃ!悔しいけど、僕はエヴァンゲリオンに関する事では全く役に立てないからね。せめて親として、大人として出来る事は全部やりたいんだ。

 

 

 「誰かが親切にしてくれたときは?」

 

 「……ありがとう」

 

 (レイちゃんは知らない事がたくさんある。でもきっと大丈夫)

 

 

 今はまだ形だけでもいいんだ。最初は誰だって形から入るんだもん。挨拶だってそう。毎日毎日、何回も何回も繰り返していつの間にかそれが当たり前になって、そして気づいたら他の誰かとの繋がりが出来てるんだ。そうなれば自然と分かってくるはずだよ。挨拶は、人と人が繋がる為の最初の一歩だって事が。

 

 

 「お別れのときは?」

 

 「さようなら……また、あした」

 

 「はい、よくできました!エラいエラい♪」

 

 「ん……」

 

 

 見事全問正解したレイちゃんを、もはや恒例となりつつあるナデナデ&ヨシヨシで思う存分可愛がる。ちゃーんと覚えててくれたね。やっぱりレイちゃんはいい子いい子!

 

 

 「……」

 

 

 くすぐったそうに目を細めながら視線を下に落としているレイちゃん。そして頬っぺたがちょっぴり赤い。レイちゃんは頭を撫でられるのが照れくさいみたいで、ナデナデタイムに入ると毎回こんな感じのリアクションになるんだよね。う〜ん可愛い。もうほんとウチの子ったら非常に可愛くて非常に可愛い。(親バカ)

 

 

 「よしよし。今日からは学校のみんなにちゃーんとご挨拶できるね?」

 

 「……それは、命令?」

 

 

 チラチラと目線を僕に向けながらそう聞いてくる。この命令って単語もよく出てくるんだけど、もちろん命令なんかじゃない。

 

 

 「命令じゃなくて、僕からのお願い。レイちゃんがしっかりご挨拶できるいい子になってくれたら、僕はとっても嬉しいなぁ」

 

 「嬉しい……どうして?」

 

 

 どうしてって、そんなの決まってるじゃない。

 

 僕はナデナデを中断して両手をレイちゃんの両肩に乗せ、ただ正直に想いを伝える。

 

 

 「僕はレイちゃんの……お父さん?かはわかんないけど、レイちゃんの親代わりだから。レイちゃんが何か一つでも成長すれば、それだけで僕はすっごく嬉しい気持ちになるんだ」

 

 「親……」

 

 

 レイちゃんは親というワードに反応してか、ほんの少し暗い表情になってしまう。両親が居ないからなのか、父親の様に慕ってる碇司令が近くに居ないからなのかは分からないけど、とりあえず僕がまだ親として見られてない事は分かる。それはそうだよ、まだ出会って一週間だもん。そう簡単に赤の他人を自分の親だなんて思えやしない。昔の僕がそうだったみたいに。

 

 

 「あはは、まだそんな風には見れないよね。でも……」

 

 「……三尉は、子どもっぽいもの」

 

 「あ、そっち!?」

 

 

 フイッとそっぽを向きながら毒を吐くレイちゃん。表情に大きな変化は見えないけど、なんとなく悪戯っぽい雰囲気を醸し出している。そうそう、案外レイちゃんはこういうジョークが好きな女の子なんだよね。普段のクールな感じとのギャップがスゴくてコレが中々面白い。うん、絶対友達いっぱい作れるよこの子。

 

 ……っていうか、え?ジョークだよね?ジョークなんだよね!?確かに僕ってちょっと子どもっぽいトコあるなぁって自覚はあるけど、それが理由でお前なんか親じゃねぇ!ってコトは無いでしょ!?なんかもっとこう、触れ合う時間の積み重ねがまだ足りないとか、ホントはそういう真面目な理由があるんだよね!?そうだよね!?そうだと言ってよレイちゃん!

 

 

 「?……あぁ、はい。よしよし」ナデナデ

 

 「わぁい^ ^ ……ってちがーう!」

 

 

 僕の不安気な表情を見たレイちゃんが、何を勘違いしてか『全くしょうがないわね』みたいな感じでサラッと僕の頭をナデナデし始めたので慌ててその手を遮る!いけません!子どもが軽々しく大人の頭をナデナデしてはいけません!(必死)

 

 

 「撫でなくていいの?」

 

 「いいの!僕は撫でられても嬉しくないの!」

 

 「でも、わぁい^ ^ って言ったわ」

 

 「ぬぐっ!?い、いや言っ……」

 

 「言ったわ」

 

 「……ったかもしれないけどぉ!」

 

 

 やっぱりだ!こないだの引越しでいろいろやらかしたからかなぁ!?なんかレイちゃん、僕の事を小さい弟かなんかと勘違いしてない!?いやいや違うから僕成人だから!あともうちょいでアラサーの仲間入りしちゃうくらいの立派な成人男性だから!もうナデナデされて喜ぶ様な歳じゃないからぁ!くそぉ、いくら自業自得とはいえ流石にこれには全力で抵抗するよ!僕はレイちゃんより10コも歳上の大人なんですー!ナデナデされても悲しいだけですー!頭を撫でるレイちゃんが妙に母性的で一瞬わぁい^ ^ ってなっちゃったけど、断じて受け入れてはないですぅーっ!

 

 

 「とにかく僕にはナデナデ禁止!いいね!?」

 

 「イヤ」

 

 「なんでさ!?」

 

 「よしよし」ナデナデ

 

 「わぁい^ ^ってやめんかぁ!」シュパッ!

 

 

 頑な!ウチの子妙なトコで頑な!なんで!?なんでそんなナデナデに人生賭けてるの!?ひょっとして僕が毎日ナデナデしてるから!?撫でられたら撫で返す倍返しだ!(半沢直樹)ってコト!?いつからうちの子は堺雅人になったの!?それじゃ僕は香川照之か!?大和田ァなのか!?

 

 

 「ダメったらダメ!ほら、もう行かなきゃ遅刻するよっ!」

 

 「そう、ダメなのね、もう……」

 

 

 ふぅ、と静かに落ち込むレイちゃん。え、なにその執着は……(困惑)

 

 

 「帰ってきたらいくらでも撫でいいから!

今は学校いくのっ!」

 

 「わかったわ」

 

 

 ヤケクソでナデナデを許可したらスンッと活気を取り戻して元気にお返事してきた。いやどんだけナデナデに執念燃やしてるのこの子……ムツゴロウさんの生霊か何かに取り憑かれた……?

 

 

 「じゃ、行くから」

 

 

 僕の困惑なんて気にせずサラッと出て行こうとするレイちゃん。ほんと図太いったらないよ子は!こーいうトコは正に碇司令の娘って感じだよもう!微笑ましいといえば微笑ましいけどねっ!

 

 

 「レイちゃん!」

 

 「?」

 

 

 僕はスタスタと歩き出す我が子を呼び止めて、レイちゃんが忘れている大事な挨拶を思い出させる。

 

 

 「いってらっしゃい!」

 

 「あ」

 

 

 お家を出るときは、家族になんていうのかな?

 

 

 「……いってきます」

 

 「うん!」

 

 

 しっかり覚えてたレイちゃんにフリフリと手を振る。ハイ、よくできましたっ!世間知らずでちょっぴり悪戯っ子だけど、やっぱりいい子だね!

 

 

 「車に気をつけてねー!」

 

 

 玄関から出てレイちゃんがエレベーターホールに消えるまでその背中を見送る。久しぶりの学校、目いっぱい楽しんでおいで!

 

 

 「さ、お掃除でもしよっ♪」

 

 

 エプロンの紐をキュッと締め直して、入江家の主夫として仕事に取り掛かる。よーし、今日も一日頑張るゾイ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おはよーさん。なんや、変わり映えせん顔ぶれやなぁ」

 

 「おはようトウジ。そりゃそうさ、ウチの学校クラス替えないし」

 

 「ヒカリー!会いたかったぜぇーっ!」

 

 「ふふっ、春休みもしょっちゅう遊んだじゃない。おはようナイコ」

 

 

 第3新東京市立第壱中学校2年A組の教室では、少年少女達が久々に会う級友達と会話の花を咲かせていた。男子も女子も関係なくそれぞれが思い思いの相手と近況を報告し合い、やれお前は背が伸びたとか、やれアンタ髪切ったの?とか、他愛も無い雑談を楽しむ穏やかで微笑ましい空間がそこにはあった。

 

 ———その時であるッ!(cv.政宗一成)

 

 

 「……」

 

 

 ガラリと教室のドアが開き、気付いた数人が目を向ける。そこにいたのは、空色の美しい髪をボブカットにした色白の美少女。

 

 

 (あぁ、綾波レイか)

 

 

 その姿を認めた瞬間、ほとんどの者が興味を失った。一年生のある時期に転校してきた彼女は、その非常に優れた容姿とミステリアスな雰囲気で確かに一時は多いに注目されていたが、今やその時の熱気は見る影も無かった。誰に会っても目線すら合わせず、どんなにフレンドリーに話しかけても碌に会話を続けず返事すらまともに返さない彼女を、いまや誰一人として『クラスの仲間』とは認めていなかった。それはクラス委員長を務める洞木ヒカリとて例外ではなく、表向きは別け隔てなく接していたが内心では「感じ悪い子だなぁ」と少なからず反感を抱いていた。

 

 そんな訳で、今年度も綾波レイは誰とも交友を持つ事なく孤独な学校生活を送ることになるだろう……そう、今までの彼女ならば。だが———!

 

 

 「おぅ河田ぁ!春休みでちったぁ乳デカくなったんかぁ?」

 

 「んだコラァ!朝からご挨拶じゃねぇかクソジャージ!」

 

 「もう鈴原!また朝からサイテーこと言って!」

 

 「そうだよ河田にムネの話はかわいそうだって。ハハハ!」

 

 「オメーもうっせぇぞ相田ァ!そばかすの数かぞえんぞコラァ!」

 

 

 ———その時、不思議なコトが起こったッ!(cv.政宗一成)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おはよう」

 

 

 開いたドアから、凛とした鈴の音の様な声が教室に響き渡り———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「…………?」」」」

 

 

 え?今のは誰だ?まさか?喧騒に包まれていた教室は一瞬にして静まり返り———

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(´ー`)?」スタスタ…

 

 

 声を発した張本人である綾波レイは、突然静まり返った同級生達を少々怪訝に思いつつ自分の席へと向かい、クラスメイト達はそんなレイを見て今の美しい声は彼女のモノだと徐々に確信していき———

 

 

 「「「「…………ッ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「ファッッッッ!!??」」」」

 

 

 誰だお前!?誰だァお前ッ!?とクラス全員が一丸となって驚愕し、謎の奇声を上げながらガタガタっと立ち上がったッ!!それほどまでに『挨拶する綾波レイ』というのは異常な存在だったのだ…………ッ!

 

 そして、渦中の人物である綾波レイ本人は…………ッ!?

 

 

 「(´ー`)……?」

 

 

 変な人たち、なんてぼんやり考えながら窓の外をほけ〜っと眺めていた。圧倒的無自覚であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入江三尉はウソつきかもしれない。クラスメイト達におはようって挨拶したのに、皆んな不思議な顔で不思議な声を上げただけ。挨拶されれば誰だって喜ぶと、ちゃんとできれば碇司令も喜ぶと言っていたのに。

 

 

 「「「「ざわ……ざわ……」」」」

 

 

 ざわざわしてる。何故かみんながざわざわしてる。やっぱりウソみたいだ。ウソをついたらバチが当たると三尉は言っていたから、きっと今頃三尉はひどい目にあってるに違いない。少しかわいそうだけど今日は帰ったらお仕置きしないと。悪い子にはお仕置き、古事記にもそう書いてある(書いてない)。さてどう折檻したものか……三尉だけ3日間味噌汁抜きとか?いやそれは流石にやり過ぎか……というか料理してるのは三尉だからコッソリつまみ食いするかもしれない……むむむ。

 

 

 「あの……綾波さん、だよね?」

 

 

 あの子(三尉)へのお仕置きメニューを考えながら空を眺めていると、私の名を呼ぶ声がした。呼ばれたらきちんと返事をしないといけない、これも三尉の教え。私は声が聞こえた方に顔を向ける。おさげ髪とそばかす顔の女の子。名前は知らない。

 

 

 「なに?」

 

 「わ、返事してくれた……」(小声)

 

 「……?」

 

 

 おかしい。返事をしたのに会話が続かない。まさかこれも三尉のウソなんだろうか。いけない、これではバチが当たり過ぎて三尉が死んでしまう。だとしたら大変。三尉が死んだら私は味噌汁が飲めなくなる。それはイヤ。

 

 

 「返事をしたわ。用件を話して」ズイッ

 

 「え!?あ、ごめんなさいっ!あ、あのね!?」

 

 

 三尉をウソつきにしない為には、なんとしてもこの女子と会話を続けないといけない。死守するのだ、三尉の命(味噌汁)を。

 

 

 「その、綾波さん、なんだか雰囲気変わったなぁと思って……」

 

 「雰囲気?」ズイッ

 

 「あ、変な意味じゃないの!ただなんというか……」

 

 「わからないわ、どういうこと?」ズズイッ

 

 「うぃっ!?い、いや私はその……」

 

 

 いまいち要領を得ないおさげの子に、私は軽く焦りを覚える。お願いだから会話を続けて欲しい。そうしなければ三尉はウソつきになってバチが当たって死んでしまう。私と違って三尉は死んだら代わりがいないもの。あの味噌汁を作れるのは三尉だけなのだから、私は絶対に三尉を死なせるわけにはいかない。

 

 

 「待ちなっ!」

 

 

 おさげさん(仮称)を逃すまいと詰め寄っていると、するどい声が飛んできた。今度は黒いショートカットの女子だ。こちらも名前は知らない。

 

 

 「なに?」

 

 「え、ちょ、ちょっとナイコ?」

 

 

 目を丸くしておさげさん(仮称)が名前を呼ぶ。どうやらナイコという名前らしい。

 

 

 「おぅ綾波さんよぉ、お前なにうちのヒカリによぉ意地悪してんだよぉお前よぉなぁ?」

 

 

 スカートのポケットに両手を突っ込みながらズンズンと歩いてくるナイコさん(仮称)。意地悪ってなんのことだろう。私はただ話がしたいだけ。あとおさげの子はヒカリというらしい。

 

 

 「意地悪なんてしてないわ」

 

 「ウソつけ絶対してたゾ」

 

 「ナイコやめなさいって!綾波さんはそんなつもりじゃ……」

 

 「ヒカリは黙っときな。コイツとはアタシが話してやる」

 

 

 そう言ってナイコさん(仮称)はフンスッと鼻息荒く私の前に仁王立ちする。ここからは彼女が会話を引き継いでくれるらしい。でも、このままじゃ埒があかない。私が意地悪というのがどういう意味なのか教えてもらわないと、三尉の言う『ちゃんとしたお話し』が出来ない。

 

 

 「どうして私が意地悪なの?」

 

 「あん?そんなんお前決まってんだろ」

 

 

 私の率直な質問にナイコさん(仮称)はハンッと鼻で笑いながらつらつらと答える。

 

 

 「綾波がいきなりおはよーなんて言うからよ、みんなビックリしてんだよ。んでよ、なんでそんなコトになってんのか気になってよ、ヒカリはお前にどしたーって聞いてんのによ?お前ときたらやたらズイズイ詰め寄ってヒカリのことビビらしてよぉ。これが意地悪じゃなかったらなんだよオイ?」

 

 「……」

 

 

 なるほど。ヒカリさん(仮称)は私が朝の挨拶をした事について疑問を抱き、それが知りたくて話しかけてきたようだ。それなら最初からそう聞けばいいのに。雰囲気がどうとか意味深な事を聞いてきたから、私はその意味を問うただけだ。

 でも、この二人からすると私の対応はあまり良くなかったらしい。良くない、それはつまり悪いこと。

 

 

 「ごめんなさい。そんなつもりは無かった」ペコリ

 

 

 私はヒカリさん(仮称)に頭を下げた。悪いことをしたら謝る。これも三尉から教わったこと。

 

 

 「う、ううん気にしないで!私の聞き方も悪かったから!」

 

 「お、なんだよちゃんと謝れんのかよ。お前やっぱ変わったよなぁ、なんか」

 

 

 笑顔でパタパタと手を振るヒカリさん(仮称)と、怒気を収めてはぇ〜っと感心したような声を漏らすナイコさん(仮称)。どうやら許してもらえたらしい。つまり今回の『悪いことをしたら謝る』はウソじゃなかったということ。よかった、これ以上三尉のバチが加算されなくて本当によかった。入江ミナトの余罪カウンターが増えずに済んで私は少しホッとした。

 

 

 「でも、わからない」

 

 「え?」

 

 「んー?」

 

 

 悪い事をしたのは認める。認めるけどわからないコトが一つある。

 

 

 「どうして私が挨拶したらビックリするの?」

 

 「「ゑ?」」

 

 「(´ー`)?」

 

 

 ヒトに会ったら挨拶をする。それは誰もがやっている当たり前の事だと三尉は言っていた。その当たり前を実行しただけなのに、なんでビックリされるんだろう? 

 

 

 「なんでってお前なぁ……自分の胸に手ェ当てて聞いてみ?」

 

 「胸に……?」

 

 

 そう呆れたようにナイコさん(仮称)が言うので、言われた通り自分の胸を両手で触る。

 むぎゅ。

 

 

 「は……」

 

 「え……」

 

 「「「「エッッッッッッッッ!!」」」」

 

 

 ……?胸を触っても何も聞こえない。聞こえるのは男子生徒達の奇声だけ。もっとしっかり触らないといけないの?

 むぎゅむぎゅ。

 

 

 「( ゚д゚)……」ポカーン

 

 「ちょっと綾波さん!?」

 

 「「「「ユニバァァァァァァァァスッ!」」」」

 

 「「「「我が世の春が来たぁぁぁぁ!」」」」

 

 「えぇぞ!えぇぞ!」

 

 「うおぉシャッターチャンス!スゴいスゴいスゴすぎるぅ!」

 

 「こら男子やめなさい!ていうか綾波さんもそれやめてっ!?」

 

 「(´ー`)?」ムギュムギュ

 

 「( ゚д゚)……」ナンダアノデッカイモノ…

 

 

 どれだけ丹念に触っても私の胸は何も教えてくれない。そして何故か男子達は私が手を動かす度に雄叫びをあげ、それに気づいたヒカリさん(仮称)が慌てて私の手を掴んで胸との対話を強制終了させた。ひょっとして私の触り方は間違えてるんだろうか。

 

 

 「何も聞こえないわ」

 

 「聞こえるわけないでしょぉ!?」

 

 

 信じられない!とでも言いたげな顔で金切り声をあげるヒカリさん(仮称)。少しうるさい。

 

 

 「おい綾波ぃ……」

 

 「あ、まず……」

 

 「?」

 

 

 私に掴みかかるヒカリさん(仮称)を押し退けて、胸を触れと指示した張本人のナイコさん(仮称)がユラリと眼前に現れた。俯いた姿勢のせいで表情は読み取れないが、さっきまで霧散していた怒気が再び彼女の全身から発せられている気がする。

 

 

 「てめぇ、アタシの前で自慢げにデカ乳揉みしだくたぁいい度胸してるじゃねぇかぁ……なぁおぃ?」

 

 

 怒ってる、つまり私はまた何か悪いコトをしたらしい。

 なら謝らなきゃ。

 

 

 「ごめんなさい、触り方がわからない」

 

 「触り方だぁ……?」

 

 「貴方は普段、どうやって触ってるの?」

 

 「ほほぅ……」ビキビキ

 

 「はわわ……ナイコ抑えて、抑えて……!」

 

 

 青筋を立てて更に威圧感を増す黒髪少女と、それを必死に宥める焦げ茶髪少女。これは相当怒らせてしまったらしい。そう、失敗したのね、私。

 失敗したなら挽回しないといけないとも三尉は言ってた。その為にはまず失敗の原因を突きとめる事が第一とも。今回の場合は胸の触り方を知らなかった事だ。なら目の前のナイコさん(仮称)に教えてもらおう。私に指示を出した彼女なら、きっと正しい触り方を知っているはずだもの(名推理)

 

 

 「教えて。こう?」ペタッ

 

 「」

 

 「あ"っ……」

 

 

 ナイコさん(仮称)の胸に両手を当てて教えを乞う。

 ぺたぺた。

 

 

 「「「「……………………」」」」

 

 

 やはり何も聞こえなかった。しかも今回は男子達の奇声も聞こえない。聞こえてくるのは「やべぇよやべぇよ…」とか「オイオイオイ死んだわアイツ」みたいなよくわからない囁き声だけ。一体どう触るのが正解なんだろう。

 と、いうか……

 

 

 「……ない」ペタペタ

 

 

 無い。ある筈のモノがそこには無い。私にはあるのに、彼女には無い。そんなバカな。これでは触りようがないではないか。一体彼女はどうやって触っているというの?だって、ここには……

 

 

 「……」プルプル

 

 「あ、綾波さんまさか……ダメ、ダメよ、それを言っては……ッ!?」

 

 「胸が、ない……」

 

 「」ブチッ

 

 「あっ……」(絶望)

 

 

 ———この後、私はヒカリさんに教えてもらった。『胸に手を当てる』とは、それまでの自分の行いを振り返る事であり、決して文字通り胸を触る事ではないと。そして———

 

 

 「……巨乳死すべし、慈悲はない」ユラッ

 

 「あぁ…もうダメよぉ…おしまいよぉ……」

 

 「……?」

 

 

 ———もう一つ学んだ。胸=乳房ではないこと。そしてナイコさんに対して乳房の話題は厳禁であり、その逆鱗に触れたら最後———

 

 

 「ッ!」カッ‼︎

 

 「っ」ビクッ

 

 

 ———対象を完膚なきまで蹂躙する野獣、ビーストモードへ移行してしまうと。

 

 

 「エントリィィィィィィィィッ!!」ガバッ!

 

 「ッ!?」

 

 「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 「ッ!?!?!?!?!?!?!?」

 

 「キャー!ナイコだめぇぇぇぇ!」

 

 

 オーガニック的なシャウトを響かせながら私に飛びかかってくるナイコさん。この時の彼女を私は一生忘れることが出来なかった。むしろ偶に夢に出て来るようになった。というか生まれて初めて見た夢がこの日の夜に見たビーストナイコさんの夢だった。インマイドリーム(絶望)

 当然恐怖で夜中に目が覚めてしまい、もう一度あの野獣に襲われるのが怖くて眠れないと三尉に話したら快く添い寝してくれた。あったかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おう綾波。メシ食おうぜメシ」

 

 「っ」ビクッ

 

 

 時間は流れて昼休み。朝からクラス全体を巻き込む大騒動を引き起こした河田ナイコさんが、自分の席でひとり静かに弁当を広げていた私の前席にドカッと腰掛けながら食事を共にしようと誘ってきた。隣には今朝の騒動で私を守ってくれた洞木ヒカリさんもいる。

 ちなみに二人のフルネームは始業式の後のクラス内挨拶で覚えた。メンバーは変わらないけど折角の新学期だからという事で担任の先生が主催した自己紹介タイムで、私は全てのクラスメイトの顔と名前を覚えておいた。友達いっぱい作って碇司令に自慢しようね!と三尉が言ってたから。

 

 

 「ナイコ、まず朝のことちゃんと謝んなさいったら」

 

 「ぉん?あー悪い悪い。ちょっとはしゃぎすぎたわ、たはははは。メンゴメンゴ!ごめんナスって!」

 

 「もう……ごめんね綾波さん。ご一緒してもいい?」

 

 「別に……構わないわ」

 

 

 申し訳なさそうに苦笑を浮かべる洞木さんが、空いていた隣の席を動かして私の机とくっつける。よかった。河田さんと一対一になったらどうしようかと思った。朝の一件で私は初めてヒトに対して苦手意識というものを抱いていた。

 

 

 「そういえば、綾波さんがお弁当食べてるの初めてじゃない?」

 

 「え?」

 

 

 私の弁当箱を見た洞木さんが、自分の弁当を用意しながら興味深そうに聞いてくる。

 

 

 「あーなんか非常食みたいなヤツ食ってたよな。それがこんなンマそうな弁当に変わるってか」

 

 

 河田さんも同じ事を思ったらしく、菓子パンの袋をビリビリと大雑把に開封しながらほほぉ〜うと値踏みする様に弁当を眺めている。二人に釣られて私も自分の弁当に目を向けた。

 ピンク色の弁当箱の中には、色とりどりのおかずが詰まっていた。焼き鮭と卵焼きとほうれん草の和え物、これは朝食と同じ。その他にもポテトサラダ、レタス、ブロッコリー、ミニトマト等々数種類の具材が少しずつ綺麗に並んでいる。この小さな揚げ物は多分白身魚のフライ。確か冷凍食品という温めるだけで調理が完了するタイプの食材で、三尉とスーパーに買い物に行った時に『これ美味しいんだよ!冷食でいちばん美味しいと思う!』と嬉しそうに買い物カゴに放り込んでいた。

 そんなおかず達の隣、仕切り板を挟んだ対岸には白ごはんが詰まっている。でもただ白いだけじゃなくて、細く切った海苔を並べてネコの顔が描かれていた。かわいい。

 

 

 「わぁかわいい!綾波さんお料理上手なのね!」

 

 

 海苔のネコを見た洞木さんがきゃ〜っと頬に手を当てる。

 でも。

 

 

 「私じゃない」

 

 「え?」

 

 「これを作ったの、私じゃないわ」

 

 

 そう、この弁当を作ったのは三尉。三尉と生活を始めてから、私の胃袋に入る物ははほとんど三尉の手料理になっている。その他は精々赤木博士に渡されている錠剤くらいだ。

 

 

 「んじゃあ親の手作り弁当ってトコか」

 

 

 うらやましいねぇ〜とぼやきながらパンを齧る河田さん。

 親…三尉は私の……

 

 

 

 

 

 

 

 

 『うわはー!みてみてこの冷蔵庫!真空だって真空!』

 『レイちゃんレイちゃんっ!』

 『あ、ネコちゃん発見!野良ネコちゃんかなぁ?おいでおいで〜♪』

 『だから僕の頭は撫でちゃだめだってばもうっ!』

 『わぁい^ ^』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「親……?」

 

 「いや知らんけど」

 

 「え、えーっと?」

 

 

 親、なんだろうかあの人は?正直ピンとこない。普段の無邪気な様子を見ていると、むしろ子どもとか、弟とか、そんな存在に感じることの方が多い気がする。

 でも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『おはよう、レイちゃん』

 『レイちゃんはいい子だね、よしよし』

 『こーら、ちゃんとご挨拶しなさい』

 『ひとりで包帯取り替えたの?スゴいねぇ』

 『さ、おいで。体拭いてあげる』

 『おやすみ、レイちゃん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「親かも……?」

 

 「どっちだよ」

 

 「親かもって……えぇ?」

 

 

 親、かもしれない……そう思う時も確かにあった。碇司令みたいな威厳は無いけれど、でもなんというか、安心感というか、包容力というか……暖かさ、みたいなものを感じる事は多々ある。

 子どもなのか大人なのかわからない、入江三尉はそういう少しチグハグなところがある男性だった。

 私が答えに窮していると、河田さんがぶっきらぼうに助け舟を出してくれた。

 

 

 「あー、とりあえずなんかアレだろ?保護者っぽいのが新しくきたってトコだろ?知らんけど」

 

 「保護者……そうね」

 

 

 河田さんの言葉でひとまず納得する。保護者、そう保護者だ。三尉は私の身の周りの世話をして、私の健康と成長の為に行動している。大人か子どもかは置いておいて、とりあえず今は保護者とだけ認識しておけばいいだろう。あと味噌汁。味噌汁作る人。

 腑に落ちたところで私も箸を進める。まずは卵焼きをひとつ。うん、確かに紅しょうがが効いていて美味しい。三尉が得意気になるのもわかる味だ。

 

 

 「……ふふっ」

 

 「……?」

 

 

 黙々と弁当を食べていると、洞木さんがクスッと笑った。優しげに目を細めて微笑する洞木さんは、どこか三尉に似ている気がする。

 ……どうして笑ったんだろう?

 

 

 「どしたんヒカリ?」

 

 「……なに?」

 

 「あ、ごめんなさい。綾波さん、とっても美味しそうに食べるから」

 

 「え……」

 

 

 美味しそうに……そこまで顔に出ていたんだろうか?確かにこの卵焼きは美味しいし、鮭や和え物も美味しい。でも、なんでそれで洞木さんが笑うんだろう。私の食べ方がおかしいんだろうか?

 頭を悩ませながらごはんネコのヒゲ部分を食べる。美味しいけど少し心が痛んだ。ネコ……(´ー`)

 

 

 「……うん、やっぱり変わったね。綾波さん」

 

 「あぁ。変わった変わった」

 

 「……変わった?」

 

 

 今度は河田さんも笑っていた。こっちは優しい微笑というより、何か面白いモノ見つけてそれを楽しく眺めている様な、カラッとした笑顔だ。

 変わった?私の何が変わったの?

 

 

 「そのお弁当もそうだし、朝の挨拶だってそう。綾波さん、すっごく柔らかくなったと思う」

 

 「柔らかい?」

 

 「あぁ。最初はビックリしたけどさ、やっぱ朝イチでおはよーって言われると気持ちーよな。お前、今までそんなん無かったじゃん?」

 

 「そうそう。今だってこうして普通におしゃべりできてるし。私、嬉しいな」

 

 「……どうして?」

 

 「綾波さんが楽しい人だってわかったから。あの、気を悪くしないでね?前の綾波さんって、その、ちょっと話しかけづらくて……」

 

 「まぁぶっちゃけ感じわりーヤツだったわな」

 

 「ちょっとナイコ!?」

 

 「んだよ、いいだろもうダチになったんだから」

 

 「そう……そうだったのね」

 

 

 洞木さんと河田さんの話を聞いて、なんとなくだけど色々と理解できた。

 私が挨拶して皆んなが驚いたのは、今までの私が全くしていないことだったから。そして二人がこうして話しかけてきたきっかけは、朝私が『おはよう』と言ったから。

 

 

 (三尉は、ウソつきじゃなかった)

 

 

 挨拶をされて喜ばない人はいない。朝おはようって言うことが、友達作りの第一歩。三尉に教わった通りだった。

 

 

 「そうだ。なぁなぁ、アタシのコトさ、今日からナイコって呼べよな。アタシもレイって呼ぶからさ」

 

 「あ、私も!私もヒカリってよんでほしいな、レイさん!」

 

 「……ナイコ、さん。ヒカリさん?」

 

 「おぅ!これでアタシらちゃんとダチだな!」

 

 「ふふっ、今日からよろしくね?」

 

 

 友達……友達というのがどんなものなのかは、あまり分からない。これは私にとって本当に必要なものなんだろうか?三尉が言った様に、これで本当に碇司令は喜んでくれるだろうか?その答えには、きっとまだまだ辿り着けないと思う。でも。

 

 

 「……よろしく、お願いします」

 

 「ははっ!んだよソレ、カタすぎだっつの!」

 

 「ふふっ、レイさんかわいいっ」

 

 

 トモダチと食べる弁当は、とても美味しい。今はそれだけで十分だと、そう思った。

 

 

 「……美味しい」

 

 

 つづく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「にしても、レイがこんだけ取っ付きやすくなるってことはアレだよな、よっぽどその保護者サマのキョーイクがいいってこったよな?」

 

 「……挨拶とか、返事とか、大事だって教わった」

 

 「うんうん。それにこんなかわいいお弁当作ってくれるんでしょ?いいなぁ〜そんなステキな女の人!」

 

 「え?」

 

 「へ?」

 

 「あん?」

 

 「女じゃないわ」

 

 「おぉっとぉ?」

 

 「れ、レイさん?女じゃないってどういう……」

 

 「三尉は男性だもの」

 

 「だ、だ、だ……え?」

 

 「あーひょっとしてアレか?じーさんか?ベルタースオリジナルのアレみたいな?」

 

 「あ……そうなの?なんだ、ビックリした……わたし、てっきり若ry」

 

 「じーさんじゃない。20代だもの」

 

 「にじゅっ……っ!?」

 

 「え、マジで?オッさんでもなくて?マジで20代?」

 

 「えぇ」

 

 「あ、あわわわ、あわわわわわ」

 

 「マジか、マジかマジか!うわーマジか!イケメンか?イケメンなのか!?」

 

 「いけめん?」

 

 「そうだよ!なんか写真とかねーの!?」

 

 「写真……」スマホイジイジ

 

 「おいやべーぞヒカリ!あたしらのダチはマジで少女マンガの住人かもしれねーぞオイ!」

 

 「ふぅ、ふぅ……いけ、いけめん……?いけめんと、どうせい……?」

 

 「あった。この人」

 

 「どれどれ……ファッ!?」

 

 「……ッ!!!!?」

 

 「(´ー`)?」

 

 「なんだこのイケメン!?……なんだこのイケメンッ!?!?」

 

 「いけめんなの?」

 

 「イケメンダルルォ!?」(半ギレ)

 

 「っ」ビクッ

 

 「……ふぅ………ふっ……………」プルプル

 

 「うわーマジ?え?やば……」

 

 「……て………るの………?」プルプル

 

 「え?」

 

 「このパツキン王子と同居とか、いややばいやばいやばいって……」

 

 「なんて……よばれて、るの?そのひとに……レイさん?」プルプル

 

 「ヒカリさん……?」

 

 「こたえて……?」プルプル

 

 「あ、それアタシも聞きたい!」

 

 「……レイちゃん」

 

 「ちゃんづけ!?やばー!!!!」

 

 「ッッッッッッッッッッッッ!!」ブチッ‼︎

 

 「二人とも、どうし———」

 

 「ふ、ふ、ふ………」プルプル

 

 「うわーやばいやばいやば……って、あ」

 

 「ナイコさん?」

 

 「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、……」プルプルプルプル

 

 「よーしレイ。何も聞かずに耳ふさいどけ。いいか、絶対手ェ離すなよ」ギュムッ

 

 「え?……わかったわ」ギュムッ

 

 「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ………ッ!!」

 

 「くるぜ……!」

 

 「……?」

 

 「ッ!」カッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フケツよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

 

 

 

 「なんやぁ!?どないしたんやいいんちょ!?」

 

 「フケツよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 「あーあ。まーた誰か委員長にエサ与えたな?面白いからいいけど」パシャパシャ

 

 「フケツよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 「やかましいっ!」

 

 

 

 

 「どうだ、すげーだろヒカリのバインドボイス」

 

 「( ゚д゚)」ポカーン

 

 「うわ、お前そんな顔もすんだ。やっぱ面白ぇやつだなレイは」

 

 「……ヒカリさん、すごいのね」

 

 「……いっとくけど、お前のせいだからな?」

 

 「え?」

 

 「つーことで、今日はアタシらお前ん家遊び行くから。責任持ってあのイケメン紹介しろ。な?」

 

 「え?え?」

 

 「はいけってー!ヒカリー!放課後はイケメンパラダイスだぜー!」

 

 「え?え?え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……えぇ(困惑)」

 

 

 

 

 ……つづく。

 

 

 




というわけで新オリキャラの河田ナイコちゃんでした。
苗字は私がエヴァの関連作品で一番好きな「ピコピコ中学生伝説」の作者である河田雄志&行徒コンビの河田先生から、名前は同コンビの作品「もぎたて☆アイドル人間」の藤ナイ子から取りました。はい、どうでもいいですね。

容姿ももぎたて☆のナイ子をイメージしてますが、ウチの子は絶望的にとある部位が平坦です。なんでかというと、レイちゃんもアスカちゃんもその部位が豊満だからです。合理的だな!

レイ「胸はどこ……ここ……?」
ナイコ「ナメてっとやっちまうよ!?」

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