僕がチルドレンのママになるんだよ!   作:はっぽーしゅ

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I'm baaaaaaaack!!(蜘蛛男)

調査隊員と決闘者の兼業してたら更新遅れました。シンオウ様のバカヤロー!

ウソです。ホントは仕事がしんどくてモチベが形状崩壊してました。許しは請わぬ(カーバンクル)


サボっててすみませんでした……(小声)





えぴそ〜ど6:おもてなし!楽しいお茶の間、平和は束の間?

 

 

 人間とは忘れる生き物、とは誰の言葉だっただろうか。

 

「おうコラ青毛」

「……」

「あ、あはは……」

 

 きっと高名な哲学者か博識な研究者が残したありがたい格言だろう。私の何倍も長い人生を歩んだ先人達が行き着いた、人間という生物の真理。

 そしてその真理は、私の様な紛い物の人間にも当てはまるらしい。

 

「イケメンはどこ、ここ?」

「……」

「お、お留守みたいだ……ね?」

 

 いや、むしろこれは私が真っ当な人間である事を逆説的に証明してくれているのかもしれない。そう、私は人間。他の人達よりちょっぴり寿命が短くて、ちょっぴりターミナルドグマで予備のクローン体が培養されている程度の、普通の女子中学生。碇司令や入江三尉と同じ普通のリリン。うん、それはとても喜ばしい事。やったわ。

 

「なぁ先生、どこだ?アタシのパツキン王子はどこにいんだ?おい聞いてんか青毛」

 

 でも今のこの状況はぜんぜん喜ばしくない。自宅のリビングでナイコさんに首筋をキュッと掴まれながら耳元で囁くように凄まれているこの状況は、誰がどう見たって喜ばしいとは言えないだろう。

 そう、私は忘れていた。

 

『僕今日はお昼からNERVに行くから、お留守番よろしくね!』

 

 朝食の席で聞いた———

 

『ん……(たくあんと白米はシンクロ率∞)』

 

 ———聞き流してしまった、入江三尉の言葉を。

 

(この状況は……不味い)

 

 そう、入江三尉風に言うと……

 

「……まずあじ」

 

 まずあじ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えぴそ〜ど6:おもてなし!楽しいお茶の間、平和は束の間?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マセン……」

「あぁん?」

「ココニハイマセン……」

「ほほぅ……」

「ナ、ナイコ穏やかに、穏やかに……!」

 

 不味い。非常に不味い。まずあじ。

 ナイコさんとヒカリさん曰く、入江三尉は『いけめん』で。そして二人はそのいけめん目当てで私の家まで着いてきた。それはもうウキウキで着いてきた。

 特にナイコさんは張り切っていた。スキップしながらリズムに合わせて『わたくしっ河田っナイコっですわぁっ♡趣味はっフルートとっ手芸っですわぁっ♡』と裏声でセリフの練習をするほど張り切っていた。ちなみに二つともウソらしい。ヒカリさん曰くフルートどころかリコーダーも吹けないうえ、手先も不器用でスナック菓子の袋を開けたら三袋に一つは絶対爆発させる程なので手芸なんて夢のまた夢とのこと。彼女に必要なのはセリフの練習じゃなくて自分を見つめ直す時間だと思う……

 

「いないってのはおかしいよなぁ綾波くん?キミ言ったねぇ?放課後キミんち行けばさぁ、パツキンのイケメンがチヤホヤしてくれるってさぁ、キミそう言わなかったかい?おい青いの」

 

 ……なんて指摘が出来る雰囲気ではなかった。私が答えに窮すれば窮するほど、首筋を掴むナイコさんの握力が上がっていく。そして私の呼び方もどんどん雑になる。青いの……(不服)

 そもそも私は彼がチヤホヤしてくれるなんて一言も言ってない。三尉の写真を見た二人が勝手に盛り上がって妄想を爆発させただけ……まぁ三尉なら子供の客人が来たら死ぬほどチヤホヤしそうだけど。

 しかし今の彼女にそんな反論なんてしようものなら、私の首は昨日おやつで食べたポッキーの様にポキッとへし折られてしまうだろう。

 うん、まずあじ。ポッキーと違って私の首にはNERVの機密情報がポッキーどころかトッポ並みにたっぷりなのでそれはまずあじ。

 というわけで、謝りましょう。悪い事をしたら謝る、それはとても大切なコト(生存本能)

 

「かくかくしかじか」

「「まるまるうまうま」」

 

 三尉から留守番頼まれてたけど完全に忘れてました許して下さいなんでもしますから(要約)。

 そんな内容で震えながら二人に謝罪した。正直なんでこんなコトしてるんだろう釈然としないわ、という気持ちはかなりあるけど、背に腹(首?)は代えられない。命の危険はもちろんだが、そもそも首——背後からうなじの辺りをキュッと摘まれてるだけだが——を絞められるコト自体にかなりの恐怖と抵抗を感じる。何故かはわからないけれど……。

 私は青い顔で二人の様子を伺う。ヒカリさんは笑顔を浮かべてアッサリ許してくれた。

 

「気にしないでレイさん。こういうこと忘れちゃうのって、誰にでもあるから」

 

 私たちも勝手に盛り上がってごめんね?と逆に申し訳なさそうにするヒカリさん。心なしか左右のおさげもシュンとしている気がする。

 

「……ありがとう」

 

 許してくれたヒカリさんの優しさに感謝を伝えると、嬉しそうにニコリと微笑んでくれた。それに合わせておさげもふわりと活気を取り戻した様に見える。かわいい。

 

「ほら、ナイコもいい加減機嫌直しなさいって」

「ぬぅ……」

 

 ヒカリさんに促されて渋々といった様子で私を解放するナイコさん。首筋の圧迫感が消えて心底ホッとする。助かった……生きてるって素晴らしい。

 

「ちくしょお……やっとアタシにも春が来たと思ったのによぉ……常夏だけどぉ……」

「あの……ごめんなさい」

「ほんとだよお前……朝飯に夢中で親の言いつけ忘れるとかガバガバにも限度あり……しかしその食い意地誉れ高い……ブツブツ……」

 

 ナイコさんは三尉に会えなかった事が相当残念だった様で、顔を老人の様にシワシワにして悔しがっていた。そのうえ言語野にも深刻なダメージを負っている様で、頭を抱えて何やらブツブツと意味不明な言葉を漏らし続けておりかなり気味が悪い。というか気持ち悪い。

 そしてそのまま座り込んでしまうナイコさん。はぁ〜とこれ見よがしに大きなため息をつきながら膝を抱え、時折「チラッ…………チラッ」と声に出しながら私をチラチラ見てくる彼女の姿を見て、申し訳なさ以上に腹立たしさを覚えるのは何故だろう。ひょっとしてこれが『ウザい』という感情なのだろうか。

 

「はぁ……会いたかったなぁ…….チラッ」

「」イラッ

 

 うん、ウザい。碇司令、私また新しい感情を覚えました。ナイコさんはウザいです。

 

「ナイコ、つらいのは分かるけど友達の家のリビングで頭抱えて体育座りはやめましょうヒドイ絵面だから」

「ん、じゃあ頭は出す(ニョキッ)……はぁ……」

「(イラッ)あーもうほら立って!また今度都合が合った時にお邪魔すれば良いでしょ?」

「やーだぁ!今日会えるって思ったんだもん!アタシの運命のヒトとの運命の出会いの日だと思ったんだもん!」

「ワガママ言わないの!あともん!とか言わないで気持ち悪い!気持ち悪い!」

「ハァー!?気持ち悪くねーし!てか二回も言うなコラ!女の子やぞ!」

「やかましい!いいから立て!」

「おっふ!?」

 

 私と同じイラつきを覚えたらしいヒカリさんがナイコさんの両手をグイーっと引っ張り、ナイコさんも負けじとヒカリさんを引っ張って抵抗する。でもナイコさんの方が力負けしている様で、

 

「ぉぉぅふ……ぉぉぅふ……」

 

 プルプルと震えながら徐々に立ち上がっていく様は、テレビで見た産まれたての動物みたいでちょっと可愛かった。

 

「……お茶、淹れるわ」

 

 ヒカリさんのおかげでナイコさんのウザモードが解除されたので、気持ちを入れ替えて二人をおもてなしする事にした。おもてなし、これも三尉に教わったコト。

 

「ありがとうレイさん!それまでにコッチもどうにかしておくね!ふんっ!」

「んおっふ!?」

 

 お茶はパックの紅茶で……緑茶の方がいいのかしら。それともほうじ———

 

「ほら、オーエス!オーエス!」

「おぉぉぉぉぉぉぅふ!おぉぉぉぉぉぉぉぉぅふ!!!!」

 

 ———紅茶にしましょう。紅茶にはリラックス効果があるそうだから、今の二人には紅茶が良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、レイちゃんったらすごいんですよ!こーんなおっきいカエルを手掴みで」

「えぇ、えぇ、わかったわ入江くん。もう報告は結構よ」

「えー」

「えーじゃありません。私だってヒマじゃないの。あなたの娘自慢を聞くことだけが私の仕事だとでもお思い?」

「でも僕、はかせともっとお話を……」

「結構です。あとそのはかせはかせ言うのもやめなさい。あなたが言うとなんだかマヌケに聞こえるわ」

「そんなぁ」

 

 NERV本部内にある赤木リツコ博士の部屋で、僕ははかせにレイちゃんの最近の様子を報告していた。健康状態や精神状態はもちろん、どんな食べ物が好きかとか何をした時楽しそうだったとか何が得意で何が苦手かとか、僕がわかる範囲の事を定期的にはかせに報告する事になっているのだ。

 でもウンザリした顔のはかせに途中で話を遮られてしまった。なんでですかはかせ!報告しろって言ったのははかせじゃないですか!まだ半分も終わってないのに!僕まだまだ話足りないです!

 

「ふぅ……」

 

 はかせは疲れた様に小さくため息をついて、目線は手元のチェックボードに残したままマグカップのコーヒーを一口啜った。白いマグにはちっちゃくネコちゃんのイラストがプリントされている。かわいい!

 部屋をよく見ると所々にネコちゃん関連の小物があるし、ひょっとしてはかせもネコちゃん好きなのかな?もしそうなら嬉しいなぁ。一緒にネコカフェ行きましょうって誘ったら来てくれるかな?

 

「それにしても、まさかレイがここまで急成長するなんて、思ってもみなかったわ」

 

 はかせとネコカフェデートしたいな〜なんてふわふわ考えていると急に真面目な話が始まったので、慌てて姿勢を正した。

 

「急成長?」

「えぇ。あなたの報告が確かなら、この一週間でレイの自我は普通の人間とほぼ変わらないレベルにまで育ったと言えるわ。以前までのあの子とは比べものにならない程成熟した状態……入江くん、あなた一体どんな魔法を使ったの?」

 

 眼鏡の奥でスッと目を細めて問いかけてくるはかせ。口調自体は柔らかいものだけど、話す言葉一つ一つに込められているプレッシャーが、なんというか、すごい。クワトロ大尉だったら絶対メガバズーカランチャー外すだろうなって感じのイヤなプレッシャーを感じる……なんでぇ?

 

「魔法ってそんな……僕はフツーに」

「普通、という表現は禁止よ。あなたの普通は参考になりません」

「ひどいこと言われてる!?」

 

 はかせひどい!ほんとにフツーに生活してただけなのに!

 ボールペンでチェックボードをトントン突きながら、変わらない調子ではかせは続ける。

 

「もっと具体的に話して頂戴?私はあなたじゃないの。自分と同じ感覚を赤の他人に求めるのは傲慢よ」

「う、それは仰る通りです……」

 

 はかせのもっともなお説教にシュンとしてしまう。た、確かにフツーってだけじゃ説明にはならないよね……でもなぁ。

 

「そもそも僕、レイちゃんの自我が弱いとか薄いとか、その辺の話からしてピンと来てないというか……」

「……続けて?」

 

 僕の言葉に眉毛をクイッとして続きを促すはかせ。髪の毛は金色だけど眉毛は黒いあたり、きっと地毛は黒なんだろうな。黒髪のはかせかぁ……ちょっと見てみたいかも。

 っていうのは置いといて、レイちゃんの自我がどうとかって話。さっきはかせに普通って言葉はやめろって言われたけど、僕は家族としてふつ〜に暮らしてるだけだし、レイちゃんだってふつ〜の子供だ。ちょっぴり世間知らずだったり言葉足らずなトコはあるけど、それだけ。お味噌汁と可愛いモノとお父さん(碇司令)が大好きな、素直で可愛い女の子。それがウチの子だ。自我が弱いとか薄いとか、そんな事は全く無いと思う。

 

「確かに出会った初日と今なら、今の方が楽しくお話出来てるな〜とは感じますけど。でもレイちゃん、全然普通の子ですよ?ご飯の時に好きなおかずがあったらすっごく美味しそうに食べるし、可愛いモノとか大好きで葛城さん家のペンペンとはすっかり仲良しだし」

 

 飼い主と一緒に我が家の夕飯をたかりにくる温泉ペンギンのペンペン。丸っこくて愛らしい彼をナデナデギュッギュして可愛がるレイちゃんの姿を思い出して、思わず顔が綻ぶ。ペンペンの可愛さとそれを愛でるレイちゃんの可愛さ、そしてその両者に「私をノケモノにしないでよぉ!」とジャンピングハグをかます葛城さんの可愛さ。ペンペンが遊びに来てくれる日は、一口で三度もカワイイを堪能できる僕の密かな楽しみの一つだ。

 

「……なるほどね」

 

 はかせはふぅ、と溜め息を一つ吐いてからチェックボードに目線を落とし、

 

「……調教の秘訣は餌付けとアニマルセラピー、と」

 

 なにやら如何わしい単語を呟きながらカリカリとボードに記入し始めた!

 

「ちょっと!?」

 

 僕は思わず立ち上がって抗議の声をあげる。調教ってなんですか調教って!

 

「フフッ、冗談よ」

 

 ボードから顔を上げたはかせにさっきまでのプレッシャーは無く、手元のペンをクルクルと弄びながら悪戯っぽく笑っていた。その仕草は普段のクールな表情とのギャップがあってすっごく可愛いけど、ジョークの内容は全っ然可愛くないよ!

 

「そうカッカしないの。シワが増えるわよ母さん?」

「誰が母さんですか!もうっ!」

 

 クスクスと笑いながら僕をからかうはかせ。くそぉ遊ばれてる!歳上女性の手の上でコロッコロに弄ばれてるよ!流石はエヴァンゲリオンなんてトンデモロボを作った人!一筋縄ではいかないってことか!

 

「とにかくっ!」

「?」

 

 このままいじられ続けたら悔しさで泣いてしまいそうなので、声を張って無理やり話題を軌道修正する。はい、僕いじめ終わり!閉廷!

 

「僕もレイちゃんも、特別な事はなにもしてな——」

「じゃあコレはどういう事かしらね?」

 

 ……って勢いよく話し出したら即止められちゃった。はかせに対して会話のイニシアチブは絶対にとれないみたいです……。

 僕の言葉をズバッと遮ったはかせは、デスクの上から一枚の紙をぴらっと拾い上げて僕に手渡してきた。A4サイズの紙には、青色のラインで引かれた複雑な折れ線グラフが……

 

「レイと初号機のシンクロ率よ」

「シンクロ率って、あのオーラ力みたいなやつでしたっけ」

「おーらちから……?」

 

 シンクロ率。エヴァンゲリオンの起動及び操縦に必要な数値。なんでもエヴァはほとんどの動作をパイロットの『意思』によって実行するというオーラバトラーみたいなロボらしく、機体とパイロットの精神が上手く同調しないと動かせないんだとか。

 シミュレーターや実機訓練で実際にエヴァ初号機を動かしてるレイちゃんによるとこうだ。

 

『……自分をエヴァに見立てて、歩く自分をイメージすれば、歩く』

『歩けーっ!て感じじゃなくて、歩くーっ!て感じってこと?』

『多分、そう』

 

 って感じらしい。大きなロボットを動かすってよりは、大きなヒーローに変身するって感覚に近いのかな?ガンダムとかマジンガーとかゲッターじゃなくて、むしろウルトラマンとかミラーマンみたいな。もしくはその中間?う〜ん想像しか出来ないのがもどかしい!

 で、いざその人造ウルトラマンを動かすぞって時にとっても重要になるのがシンクロ率という数値。シンクロ率が高ければ高い程、エヴァを素早く正確に動かせるらしい。厄介なのは具体的にどうすれば上がるっていうハッキリしたマニュアルが無い事で、ドイツにいるセカンドチルドレンのアスカちゃんって子もシンクロ率の伸び縮みに四苦八苦してるとのことだ。

 

「そのグラフの最後の部分が、昨日実施したシンクロテストの結果よ。よく見て頂戴」

「え。ま、まさか前と比べてすんごい下がってるとかじゃ!?」

 

 はかせに促されて、ビクビクしながらグラフに注目する。もし僕のせいで数値が悪くなってるとかだったらどうしよう……そうなったら僕はレイちゃんとお別れしなきゃならないのかな……なんてイヤな考えが浮かぶ。でも、その心配は杞憂だった。

 

「……なんか、すんごい上がってますね?」

「凄い?いいえ、凄すぎよ。たった数日間を空けただけで、ここまで急上昇するなんて。ミサトは呑気に喜んでたけど、ハッキリ言ってコレは異常ね」

 

 小さくギザギザを刻みながら少しずつ右肩上がりに進んでいた折れ線が、昨日の日付のところでいきなりドビューン!っと跳ね上がっていた。数値にすると11.5%の昇り幅。

 数字だけ聞いても僕にはそれがどの程度なのかわからないけど、こうしてグラフで見るとよくわかる。ほんとにすごい上がり方だ。

 

「入江くん。これを見てもまだあなたは"自分は何もしてない"なんて言い張るつもり?」

「えぇ?……いやいや、僕にはホントにさっぱり」

 

 確かにこのグラフを見れば、レイちゃんの身体か精神に何かが起きたんだって事はわかるけど。

 でも僕がこの一週間した事と言えばさ?

 

『いただきまーす』

『……いただきます」

 

 一緒にご飯食べて。

 

『このクッションどう?ネコちゃんクッション』

『……かわいい』

 

 一緒にお買い物して。

 

『ポッキーとトッポどっち食べたい?』

『……わからない』

『じゃあどっちも食べちゃおっか』

 

 一緒におやつ食べて。

 

『ぎゅ〜』

『……ぎゅ〜』

『クェ〜』

 

 一緒にペンペンと遊んで。

 

『よ〜しよしよしよしよしよし!』

『……』

 

 ナデナデして。

 

『……よしよし』

『わぁい^ ^……ってこらー!』

 

 ナデナデされ……これは納得してないけども!

 

『おやすみー』

『……おやすみなさい』

 

 で、寝ると。うん、思い当たる節が無さすぎる。こんなのんびり過ごしてるだけでシンクロ率上がるなら僕だって乗れちゃうよエヴァンゲリオン。

 

「私からすれば、あの子が普通にお菓子食べたり動物と戯れたりしてる事自体が驚きなのだけど」

「そうなんですか……きっと碇司令が厳しかったんでしょうね……」

「……」

「でもウチはウチですからね!入江家は甘いモノOKなお家なんです!あ、そうそう!甘いモノと言えば一昨日レイちゃんと一緒にホットケーキを作っ」

「はいストップ」

「えー」

「えーじゃない。何か無いの?エヴァとのシンクロに直接影響しそうなコトは」

「う〜ん……」

 

 って言われてもなぁ……そもそもエヴァンゲリオンってどんなロボなんだっけ。

 おっきくて、人型で、子供しか乗れなくって、電気駆動で、機械に見えるけど実は使徒の肉体のコピーで、頑丈な装甲の内側には生きた筋肉やら内臓やらが……ん?生きてる?

 

「はかせ、エヴァって生き物なんですよね?」

「正確には違うけど、まぁそうとも言えるわね」

「じゃあ、仲良くなれたってことじゃないですか?」

「仲良く?誰が?」

「そりゃ、レイちゃんと初号機ですよ」

 

 もしかしてだけど、エヴァンゲリオンって動けないだけで意識はあるのかも。だって使徒のコピーなんだよね?なら脳みそだって心臓だってあるハズだし、心だってあるかもしれない。

 レイちゃんが零号機の暴走事故で入院してから、しばらく初号機とは離ればなれだったもんね。久しぶりにレイちゃんに会えて嬉しかったんじゃないかなぁ初号機も。それでウキウキでシンクロしたらすごい数値出たぁ!みたいな感じだったりして。

 ふふっ、そう考えるとなんだか初号機が可愛いく見えてくるなぁ。見た目は厳つくて怖い系だけど、ほんとは寂しがりやな甘えんぼ……あれ、エヴァって実は萌えキャラ?

 

「仲良く……レイがあの人に心を?……もしくはあの人がレイを受け入れ……」

「はかせ?」

「……まさかね。ごめんなさい、独り言よ」

「はぁ」

 

 小声で何か言ってたけど、どうしたんだろう?理屈っぽいはかせの事だから、エヴァと仲良く〜なんて鼻で笑われちゃうかと思ったけど、案外いい線いってたのかな?

 

「確かに、エヴァには意識と言えるモノが宿っているわ。普通の生き物の様な確固とした自我ではないけどね」

 

 やっぱり!そうだと思ってた!じゃなきゃ暴走なんてしっこないもんね!

 

「そっかぁやっぱり生きてるんだぁ……よかったぁ」

「よかった?どうして?」

「だって嬉しいじゃないですか!僕ずうっとお礼を言いたかったんです、エヴァンゲリオン達に!」

 

 山吹色の零号機も紫色の初号機も、ドイツに居る赤い弐号機も。みんな僕たち人類の為にこれから大変な闘いをする事になるんだもんね。

 冷たい装甲に覆われて表情はわからないけど、ホントは闘いなんてイヤだって、自分達の仲間の使徒と傷付け合うなんてツラいって、心の中ではそう思ってるかもしれない。零号機の暴走だって、そんな彼(彼女?)の気持ちの表れだったのかも、なんて考えてしまう。

 

「こんなの僕の勝手な想像だし、ホントはそんな意識までは無いのかも知れないですけど……それでも伝えたいんです。勝手な事してゴメンね、いつもありがとうって」

「そう……」

 

 はかせはカチリとボールペンをノックして、表情の見えない目で僕を見た。

 

「貴方ってロマンチストで、残酷なのね」

「え……」

「でもそんな貴方だから、あの子の在り方も簡単に変えてしまうのかしら。ありがとう入江くん、少し答えが見えてきたわ」

「あの……?」

 

 腑に落ちた、って表情でボードとペンを仕舞うはかせ。対する僕は、はかせの言葉の意味が飲み込めず困惑してしまう。残酷、僕が残酷って……?

 そんな僕を意に介さず、スッと眼鏡を外して軽く伸びをするはかせ。どうやら真面目な話は終わりらしい。

 

「ふぅ、今日はこれくらいにしておきましょう。一応最後に聞くけど、本当に変わった事は無い?どんな小さな事でもいいの」

「えっ、は、はい……そうですね……」

 

 正直少しモヤモヤするけど、はかせが終わりって言うならしょうがないよね。今の事は家に帰ってお風呂に入りながらでも考えよう!

 さて、変わった事か。何かあるかな?至ってノーマルで平和そのものな入江家の生活の中で、他のお宅とは明確に違うモノといえば……

 

『クェ〜』

 

 ……ハッ!?(天啓)

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉすっげ!この冷蔵庫CMで見たやつだ!真空だ真空!宇宙かよ!」

「ホントねすごい!ウチも新しい冷蔵庫欲しいなぁ!」

「なぁレイ開けていいか?いいよな!オラァひらけギャラクシー!」

「わ、すごいキレイに整頓されてる!マメな人なんだなぁ」

「あん?思ったより普通だな。宇宙じゃねぇじゃん」

「……」

 

 

「テレビが薄すぎるっピ!」

「レイさんコレいくらしたの!?」

「しかもアマプラ観れんじゃん!なんか観ようぜ!」

「いいなぁウチこんなおっきいテレビ置ける場所ないもん!」

「ウォーキングwithダイナソーだ!リオプレウロドンのトコ観よっ!」

「え〜恐竜?もっと普通に映画とか観ようよ」

「ヒカリィ!リオプレさんは恐竜じゃねぇ海棲爬虫類だ!お前ジュラ紀エアプか?」

「……」

 

 

「イケメンのベッドにダーイブ!ひゃっほぉぉう!」

「ちょっとなにやってんの!?」

「ウヘヘヘヘ、おっほ!良い匂いするぅ!なんかわかんねぇけどめっちゃ良い匂いするっフッフゥ!」

「こらぁゴロゴロしない!あぁこんなにシワ作っちゃって!」

「スゥーッハァーッ!スゥーッハァーッ!」

「直さなきゃ……」

「とか言ってちゃっかり嗅いでんのバレバレだぞむっつり委員長!」

「直さなきゃ(使命感)」

「……」

 

 

 全然落ち着かないわこの二人……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です!皆さん休憩ですか?」

「あ、入江さん。お疲れ様です」

「ミナトじゃん。今日は主夫じゃないんだな」

「お疲れ様。ご覧の通りブレイクタイムだよ」

 

 はかせに『ペンペンの新世紀温泉ペンギンパワーでレイちゃんのシンクロ率がバビビッとカチ上がったんですよッッ!』って力説したら部屋から叩き出されたので、指令部の皆さんに挨拶しにきた。仕事中にお邪魔して大丈夫かなってちょっぴり心配だったけど、皆さんちょうど休み時間だったみたいで一安心!

 

「あ、コレ良かったらどうぞ!甘くて美味しいですよ」

「おぉサンキュー。なにこれバームクーヘン?洒落てんなぁ」

 

 長髪がトレードマークのシゲルさんに差し入れのお菓子を手渡す。次いで両隣に座っている伊吹さんと日向さんにも同じ物を。昨日とーさんから引越し祝いで送られてきた老舗メーカーのバームクーヘンだ。しっとりした甘さが売りの人気商品なんだよね!

 

「甘さしっとり虹屋のばあむ、だって。高そ〜」

「ふふ、ビールの方が良かったですか?」

「ばっか、仕事中だよ!葛城さんじゃないっつの」

「あ、陰口だ!葛城さんに言っちゃおっと!」

「ちょ、お前待てよ!ダメだかんな絶対言うなよ!」

「あははっ!どうしよっかな〜♪」

「くっそ〜生意気な後輩め!そらっ、こうしてやるっ!」

「わっ!?ちょっと待ってワシャワシャしないで!?」

 

「……シゲルとミナトって妙に仲良いよな」ヒソヒソ

「……どっちが攻めなんでしょう」ヒソヒソ

「……え、攻め?」ヒソヒソ

「……んんっ、何でもないです」ヒソヒソ

 

 シゲルさんとは指令部の三人組の中では一番話す機会が多い。というのも、シゲルさんは以前から僕のヘアスタイルに強い共感を持っていたらしく、最初に皆さんと対面したその日に

 

『同じロン毛同士仲良くしようぜ!今日から俺たちロン毛同盟だ!』

『ロン毛同盟!?』

 

 と謎の同盟(現在2名)に加盟させられ、そのまま勢いで連絡先も交換。仕事の愚痴や世間話、音楽の話等でちょくちょく盛り上がるようになった。いきなり同盟とか言われて最初はびっくりしたけど、あれもシゲルさんなりに新入りの僕を気遣ってくれたって事なんだろうな。陽気で気配りが出来て仕事でも優秀、そんな尊敬できる先輩で上官なのが青葉シゲル二尉だ。

 

「(攻めって何だろう……まぁいいか)ほらシゲルその辺でな。差し入れありがとうミナト、有り難くいただくよ」

「はぁはぁ……はい日向さん!甘いモノ食べて午後もファイトです!」

 

 知的な眼鏡がキラリと光る日向さんがシゲルさんのワシャワシャ攻撃から助けてくれた。シゲルさんと比べれば落ち着いたタイプの人だけど、真面目一本に見えてこうして僕らの遊びに付き合ってくれたりする良い人だ。

 

「(青葉さんは明るいけど強気攻めってタイプじゃないしやっぱり入江さんの誘い受けかしら……)」ブツブツ

「伊吹さんは好きですか?」

「……えっ!?好きっ!?青葉さんが!?」

「え?いやあの、甘いモノの話なんですけど……伊吹さん?」

「あ、あぁ!甘いモノですね!?ももももちろん大好きです!差し入れありがとうございます!」

「?……はい!いっぱい食べてくださいね!」

 

 ショートカットの女性士官、伊吹さんも甘いモノが好きみたい。伊吹さんは言葉遣いがとっても丁寧で、小柄で童顔なのもあってNERVの後輩キャラとして皆んなに可愛がられてる愛されキャラだ。噂では本部の内外に隠れファンクラブが出来ている程の人気なんだとか。うんうん、伊吹さん可愛いもんね。たま〜に変な世界にトリップしてるけど。

 

「はかせも美味しいって言ってましたから、味は保証できますよ!」

「先輩が!?先輩の好きなお菓子……!」キラキラ

 

 あとはかせが大好き。

 

「そういえば、レイとは上手くやれてるのかい?」

 

 箱の包装を丁寧に剥がしながら日向さんが言った。

 

「他所の子供でパイロット、それに年頃の女の子だもんな。色々大変なんじゃないか?」

 

 キレイに剥がそうとして途中で諦めた包装をビリビリと破りながらシゲルさんも続く。ふふっ、なんだか最近会う人皆に同じ事聞かれるなぁ。

 

「楽しいですよ。レイちゃんが来てくれてから、毎日がホントに楽しいです。家族がいるって良いなぁ幸せだなぁって感じで」

「お、すげー余裕」

 

 パイロットの身柄を預かるってプレッシャーは確かにあるけど、それ以上にやっぱり家族が出来た喜びが大きい。施設の大所帯から独り立ちしてしばらく、一緒に家を温めてくれる人なんて居なかったから。まだまだ本当の家族にはなれてないかもしれないけど、それでも僕は今幸せだって、ハッキリ言える。レイちゃんもそうだったら嬉しいな……もし違うなら、これから必ず幸せにしてみせるからね、レイちゃん。

 

「でも入江さん、育児の経験なんてあるんですか?やっぱりいきなり中学生を養うなんて大変なんじゃ……」

 

 日向さんと同じく綺麗に包装紙を剥がした伊吹さんが心配そうに眉をひそめる。困り顔と上目遣いが合わさって、20代とは思えない可愛らしさだ。なんだか施設のマナちゃんを思い出すなぁ。ふふっ、あの子はもうちょっとあざとい感じだったっけ。

 

「育児って程じゃないですけど、施設で色々手伝ってましたから。赤ちゃんから高校生までなら、面倒見れますよ!」

「ほぼクリアじゃん!」

「はは、そうか。それは頼もしいね」

 

 頑張れよ、と爽やかに笑う日向さん。シゲルさんは何故か得意げな顔でウンウン頷いている。いやなんでシゲルさんがちょっと得意げなの?

 

「入江さん、施設育ちだったんですね」

「はい、10歳の時から。9.20で……」

「それって……」

 

 あ、しまった。9.20なんて言っちゃったら皆気を遣っちゃうかも……あぁやっぱり!伊吹さんがみるみる申し訳なさそうな顔になってく!?

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!私、全然気づかなくて……!」

「あぁいえ!僕は全然大丈夫ですから!こちらこそすみません余計な事言っちゃって!あぁほら顔上げて!?」

 

 9.20っていうのは、セカンドインパクトの丁度一週間後、西暦2000年9月20日に起きた災害の事だ。当時の首都東京に何処の誰が落としたのかも分からない新型爆弾が放たれ、大勢の人々が命を落とした大災害。僕の両親もその被害で——僕の目の前で息を引き取った。奇跡的に生き残った僕を残して……

 ……って、あーあー僕のバカバカ!なんでこんな和やかな空間でそれをぶち壊す様なコトしちゃうかな!?ホントすみません伊吹さん!今度はかせの生写真とかプレゼントしますね!撮らせてもらえるか分かんないけど!

 

「ウオッホン!なぁミナト、その施設ってどんなトコだったんだ?」

 

 と、ここでシゲルさんの助け舟が!?ありがとうシゲルさん!そのわざとらしい咳払いが今は天からの福音に聞こえます!

 さぁ(重い空気を)振り切るぜ!

 

「はい!山の中にある施設で、自然がいっぱいで良い所でした!かぶらやハウスって言うんですけどね!?」

 

 ちょっと大げさにテンション上げて!わぁっと身ぶり手ぶりも付けて!

 

「そうかぁ山ん中かぁ!そりゃあアレだな!マイナスイオンとかめっちゃアレだな!」

 

 そしてシゲルさんの更なるフォローが光る!そのテキトーなコメントが今は神様からのお赦しに聞こえます!

 

「前に言ってた、とーさんって言うのはそこの責任者なのかな?」

 

 そして日向さんもエントリーだ!ありがとうございます日向さんすっごく頼もしいです!モビルスーツで言うとカイさんが乗ってるガンキャノンくらい頼もしいです!

 よし、後は勢いで!

 

「はい!かぶらやって名前もとーさんの名前なんです!」

「かぶらやかぁ!かぶらやってどんな字ぃ書くんだ!?」

「鏑矢……こうかな?」

「はい正確!日向さん10ポイント!」

「あ、マコトずりー!一回5ポイントの約束だろ!」

「(何の約束だよ……)大丈夫さ、最後の問題は一気に100ポイント入るから」

「なんだそりゃ!セカパク前のクイズ番組かよ!」

「それでは最後のクエスチョン!」

「「草野仁!?」」

 

 いい感じ!いい感じだよ!いい感じに盛り上がってきたよ!ちょっと無理矢理感は否めないけど、安っぽいバラエティー番組的安心感を感じるよ!

 さぁ伊吹さんの反応は……!?

 

「……」

 

(((いけるか……?)))

 

「……ぷっ。ふふふっ!」

 

(((やったぜ。)))

 

 成し遂げたぜ(安堵)。

 

「うし、じゃあラストクエスチョンの前にコレ食べちゃおうぜ!」

「ふふ、そうですね。入江さん、いただきます」

「はい!どうぞどうぞ!」

 

 良かった、シゲルさんと日向さんのおかげで無駄に悪くなった空気を元に戻せた……。うぅ、休憩中にお邪魔してこんな迷惑までかけるなんて、ホントに悪いことしちゃったなぁ……反省しなきゃ……。

 

「ありがとう、ミナト」

「え?」

 

 勝手に盛り下げて勝手に盛り上がって勝手に沈む、と勝手し放題で消沈している僕に、日向さんがこっそり顔を近づけて耳打ちしてきた。ありがとうって……日向さん?

 

「最近、上からの指示がどんどん厳しくなってきててさ、正直ちょっと参ってたんだよ。今日はミナトと話せて、良い気分転換になった。二人も同じ気持ちの筈さ」

 

 耳元に感じる優しい声色に、沈んでいた心が温まっていく。で、でも日向さん、僕が無神経なせいで伊吹さんがイヤな思いを……それにお二人にもご迷惑を……

 

「気にしてないさ。あの二人も大人だ、ミナトに悪気が無い事くらいわかってるよ。それに言ったろ?気分転換になったって」

 

 ふふ、と小さく笑いながら日向さんが続ける。

 

「ミナトは作戦部だけど、普段はこっちに居ないだろ?俺たち思ってたんだ、もっとミナトと話がしたいって。だから今日はありがとう、俺たちに会いに来てくれて」

「日向さん……!」

「マコトでいいよ」

「はい、マコトさん!」

 

 ふわぁ、すごい……!マコトさんの優しさがすごい……!ありがとうございます、マコトさん!こんな、こんな僕なんかになんて温かい言葉をかけてくれるんだ……!

 

「はは、こんなちょっとした事でそんなにシュンとするなよ?やっぱり子供だなミナトって。そんな調子でホントにレイちゃんの世話ができるのか?」

 

 う"っ!?た、確かに僕はまだまだお子ちゃまですけど……でも、それでも!

 

「できます!僕はレイちゃんが大好きですから!」

 

 今日みたいに他の人達に迷惑かけたり、レイちゃんにもイヤな思いをさせる事があるかもしれない。ううん、きっとあるだろう。僕はまだまだ子供、身体ばっかり大きくなっただけの、大人になり切れない半人前だ。きっとこれからも色々な人達に苦労や迷惑をかけてしまうに違いない。

 でも、それでも僕は辞めない、辞めたくない。今ごろ家でお留守番してるであろうあの子の帰るべき場所として、大好きなあの子とこれからもずうっと一緒に居たい。もっともっと自分を磨いて、あの子が将来独り立ちするまでしっかり親としての責任を果たしたい、それが僕の気持ち。身勝手で身の程知らずで傲慢な、でも決して揺らぐ事の無い僕の想いだ。

 

「そっか、よし!じゃあこれからも頼んだよ、ファーストチルドレン保護監督責任者代行、入江ミナト三尉?」

「はい!精一杯頑張ります!」

「うんうん、その意気だ」

 

 最後にぽんぽん、と僕の頭を軽く撫でてニッと微笑んでから、日向さんは僕から身体を離して席についた。

 頭、撫でられちゃった。でもレイちゃんに撫でられた時みたいな悔しさは感じない。感じるのはちょっとむず痒くてあったかい、じんわり胸に広がってくる様な喜び。うぅ、でもちょっと恥ずかしいかも……顔があっついや。

 

「マコト、あーんしてやろうか?」

「そういうのはミナトとやってろよ」

「青葉さん、入江さんにあーんして欲しいんですか!?」

「は?いや違う違う違うそうじゃないそうじゃ……」

「そうなんですか?じゃぁはい、あーん♡」

「あーん♡じゃねぇよ!やめろ気色悪ぃ!」

「あーーーーん♡」

「ちょっやめっ、グイグイ来るっ、めっちゃグイグイ来るっ!?」

「諦めろシゲル。お前の負けだよ」

「キテル…シゲミナキテル…イヤ、ミナシゲ…?」

 

 陽気に僕に構ってくれるシゲルさん、爽やかな優しさをくれるマコトさん、そして伊吹さん。あまり一緒になる機会は無いけれど、こうして新入りの僕を温かく迎えてくれる素晴らしい先輩兼上官方。

 

 (ありがとうございます、皆さん、碇司令。ありがとう、レイちゃん)

 

 沢山の人達との色々な巡り合わせがあって、この素晴らしい人達と共に過ごせる様になった。その全ての人達に改めて、感謝を。

 

 (これからも一所懸命!で頑張るよ。見守っててね、お父さん、お母さん)

 

 

 

 

 

 

 家主の居ない入江家で、私ははじめての『おもてなし』に依然奮闘していた。

 三尉のベッドを存分に堪能した件の二人はようやく落ち着いた様で、今はリビングのテーブルでクッキーを茶受けに紅茶を飲みつつ、取り留めもない談笑を続けている。紅茶にリラックス作用が有るというのは本当のようだ。でも少し効くのが遅い……遅くない?(疲労困憊)

 カップの紅茶にクッキーを浸し(紅茶が染みて美味しいらしい)ながら、つーかさぁ〜と弛んだ声でナイコさんが私に話題を振ってきた。

 

「ひょっとして、つーかひょっとしなくてもだけどさ。レイってやっぱ金持ち?」

 

 右手の親指と人差し指で輪っかを作り、どうなん?と聞いてくる。

 

「金、持ち?」

「そうだよ。こんな立派な部屋住んで、家電は最新家具はピカピカ。その新しい保護者様って、どっかの社長かなんか?」

「私もそれ気になってた。それにお掃除もすごく丁寧にしてるみたいだし……家政婦さんがいるの?」

 

 金持ち。大衆よりも多く収入を得て裕福な暮らしをしている人。

 三尉はどうなんだろう。彼の元々の年収は恐らく特筆する程高額では無いだろう。でも碇司令の部屋で最初に彼に会った時、司令が彼には特別手当が付くと言っていた。

 

『パイロットの身柄を預ける事の重要性を踏まえ、君には特別手当を付ける。額は———程だ』

『( ゚д゚)』ポカーン

 

 あの時の三尉の唖然とした表情……今思い出すと少し面白い。

 その手当を含めれば、恐らく三尉は高収入……所謂金持ちに該当するだろう。そしてその彼に養われており、かつパイロットとして個人的な収入もある私は。

 

「……金持ち」

「ん?」

「私、金持ちだわ」

「お、おう、そうか」

「うわぁレイさん清々しい……」

 

 二人は揃って引き攣った表情をして、ははは……と力無く笑いながらクッキーをもそりと口に含んだ。どうかしたんだろうか。

 

「あと、三尉はNERVの三尉で経営者じゃない。家政婦も居ないわ」

 

 私も紅茶を一口飲んでから会話を続ける……砂糖が少し多かったかもしれない。次淹れる時は減らそう。

 

「あ、やっぱりNERVの人なんだ。どんなお仕事してるの?」

「仕事?」

 

 気を取り直したらしいヒカリさんの質問に、少し考える。守秘義務に反しない範囲で答えるなら、彼の仕事は……

 

「……主夫」

「え?」

「この家で家事をして、私の世話をするのが、三尉の仕事。だから、主夫」

「え、なにそれは……つまり三尉さん自身が家政婦って事?」

「自分ちの家事やって金稼ぐ家政婦とか、なんか時空歪んでね?」

「……」

 

 時空は歪んで無いけど、言われてみれば不自然かもしれない。でもこれ以上踏み込んで話すと、私がエヴァのパイロットで彼がその監督者という所まで明かしてしまう恐れがあり、それは守秘義務に反する。だから言えない。

 

「ま、いいや。こんな時代だし色々あるよな〜どこの家もさ。ウチなんてさぁ、新しく来たオカアサマがさぁ〜」

 

 私の沈黙に何かを感じとったのか、ナイコさんはさらりと流して彼女自身の話に切り替えた。いい加減でガサツ(辛辣)に見えて、実はよく人を見ている少女なのかもしれない。ヒカリさんもそれが分かっているから、ああもいい加減でガサツ(念押し)な彼女と親しい友人でいられるんだろう。

 

「ナイコ、まだ新しいお母さんに冷たくしてるの?」

「別に冷たくはしてないって。ただいちいち絡んでくんのがウザいって言ってんのに、聞かねぇからさ」

 

 ナイコさんも新しい保護者が出来たらしい。でも彼女はそれを良く思っていない様だ。

 

「飯食ってる時とかさ、うるせーっつってんのにどーでもいい話を……」

「嫌いなの?」

「え?」

「その人の事、嫌いなの?」

「嫌いって……」

「レイさん?」

 

 嫌いなら、離れれば良い。その人を追い出すか、自分が抜け出すか。住む所なら、この街ならどうとでもなる筈だ。

 

「この家なら、部屋に空きがあるわ。三尉もきっと許可してくれる。嫌なら、ここに居れば良い」

「……」

 

 ……でも、そうするとこの人がずっと家にいるのか。今朝の獣化した様子を思い出して、少し身震いする。

 

「……」

「ナイコ?」

「……はぁ。あーもうっ」

 

 ナイコさんは、グイっと紅茶を飲み干し、ぷはーっと息を吐いてから真っ直ぐ私を見た。

 

「別に、嫌いじゃねぇよ。ただ気に入らないってだけさ」

「気に、入らない?」

 

 嫌いじゃない。なのに、気に入らない?

 

「あぁ、気に入らねぇ。いきなりウチに来たくせに、自分がホントの母親だーって勝手に思い込んでやがる。テメェで腹痛めて産んだ訳でも無いくせにな。アタシのおふくろは、おふくろだけだ」

 

 そう迷い無く言い切るナイコさんに、私の胸が一瞬、ドクンと大きく動いた。

 

「ホントの、親……」

 

 本当の親とは、どんな存在なんだろう。私の親とは、誰なんだろう。脳裏に浮かぶのは、巨大な十字架に磔にされた醜い巨人。そして胸の中に感じる……私が、そうあって欲しいと感じる人物は、一人の男性。

 

 

『よくやったな、レイ』

 

       『レイちゃんは良い子だね』

 

 

 ……一人じゃ、ない?

 

 

『体調は問題ないか?』

 

       『痛いトコ無い?』

 

『おいで、食事にしよう』

 

       『いっぱい食べてね』

 

『時間だ、また来る』

 

       『おやすみ、レイちゃん』

 

 

 三尉……私は、三尉にも親を求めている?でも、三尉は親じゃない。つい一週間前に会ったばかりの、他人……。

 

『レイ』

『レイちゃん』

『レイ』

『レイちゃん』

 

 ……私、は………………

 

 

 

 

 

「レイ、レイ?おいレイ!」

「っ、な、なに」

「いや、なにじゃねーよボーッとすんな!ヒトが真面目な話してんのにさぁ!アタシだけバカみてーじゃんか!」

「レイさん、大丈夫?具合悪くない?」

 

 いけない、ナイコさんの言葉に動揺してしまった様だ。ヒカリさんは心配そうに私の顔を覗き込んできているし、ナイコさんは顔を真っ赤にしてフンスフンスと鼻息を荒くしている。

 

「……ごめんなさい、大丈夫」

「そう?ならいいけど……」

「よくねーよ、ったく……」

 

 気持ちを落ち着かせる為に、私も紅茶をクイッと多めに飲む。少し入れ過ぎた砂糖の甘さが、今は心地よく感じた。

 そんな私の様子を見て、ナイコさんはワシワシと頭を掻きながら話に戻った。やはり彼女は人をよく見ている。

 

「とにかく、アタシはあの人の事は嫌ってない。おやじが惚れた女だ、いい女には違いないさ」

 

 それに家出なんてダセぇマネできねーよ、と続けて、フフンと楽しげに笑った。嫌いじゃない、というのは本当の様だ。それにそこまで思い詰めている訳でも無いらしい。

 

「レイさんはどう?」

「え?」

 

 そんなナイコさんを微笑みと共に見つめていたヒカリさんが、その優しい表情を私に向けて問いかけてきた。

 

「三尉さん、だっけ。新しい保護者さんと、上手くやれてる?」

「そうだよ、アタシよりそっちの聞かせろよ。あのイケメン大丈夫か?男は狼ってピンクレディーも言ってんぞ?」

「そうそう!男は狼!」

「男は、狼?ぴんくれでぃー?」

 

 狼……三尉が、狼…………?

 

『うわはー♪』

 

 …………子犬では?

 

「三尉は、狼じゃないと思う」

「んだよ、つまんねーな!」

「ふぅ、良かった!ちょっと強引な歳上とかだったら、私ヤバかったかも!」

「え……?」

「ヒカリ?」

「んん"っ、なんでもない!」

 

 なんだろう、一瞬だけど、ヒカリさんが少し危険な目をしていた気がする。気のせいだろうか。

 

「でも真面目な話どーよ?その保護者って最近来たんだろ?変に付き纏われたりしてねーか?」

 

 ナイコさんが少し心配そうに聞いてくる。今日初めてまともに話したのに、色々な表情の彼女を見た気がする。この表情の豊かさは、少し三尉に似ているかもしれない。

 三尉、私の新しい保護者。現状、彼に対して不満は無いし不安も無い……酒さえ飲ませなければ(一敗)。

 

「問題ないわ」

「そっか。なら良いさ」

 

 そう短く言って、ナイコさんは小さく笑った。優しい笑みだった。

 

「あ、やだ、もうこんな時間……」

 

 と、その時、壁掛け時計を見たヒカリさんが残念そうな声を上げた。釣られて時計を見ると確かにもう夕刻、学生は帰宅が推奨される時間だ。

 

「えーやだーアタシここいるー。リビング広ーいテレビでかーい」

「もうバカ言ってないで、ほらっ!起きろ!」

「おうふ!?」

 

 残念がりつつも帰り支度を始める二人を見て、何故か急に胸が苦しくなってきた。

 

「……待って」

「お?」

「レイさん?」

 

 そして気付くと、二人の手を握って引き留めていた。

 

「こっち」

「おぉ?」

「え、ちょっと!?」

 

 そのまま二人を引っ張り、開けていた窓を跨いでベランダに出る。

 

「見て」

「ん?……おぉ、いい眺め」

「ホントだ、キレイな夕陽……」

 

 この部屋は地上11階、ベランダに出れば、近所の様子をそれなりに見渡す事が出来る。初めてこの部屋に来た日、酔い潰れた三尉を葛城一尉から借りた布団に投げ飛ばした(ついでに一発ひっぱたいた)後、ふと外の空気を吸いたくなってベランダに出た時、この景色に気付いた。

 

「はは、これを見せたかったのか?」

「ありがとうレイさん……レイさん?」

 

 喜んではいるようだ。でも、それだけ。二人とも帰る気持ちは変わらないらしい。

 

「……、の?」

「ん?」

 

 帰ってしまう、らしい。

 

「帰って、しまうの……?」

「レイ……」

 

 おかしい、分からない。自分の心がわからない。二人とは今日出会ったばかりなのに、その二人が居なくなってしまう事が、すごく悲しい。

 

「ひょっとして、寂しいのか?」

「寂、しい?これが……寂しい?」

 

 居て欲しい人達との別れで、胸が苦しくなる……そうか、これが寂しい、なんだ。

 

「レイ、明日も会える」

「そうよレイさん。今日で終わりじゃない」

 

 ナイコさんとヒカリさんは、繋いだ手をキュッと握り直して私に微笑みかけた。

 

「よく言うだろ?さよならは……」

「また会う為のおまじないって、ね?また明日学校で会おう?そしてまた、おはようって言うの。それが友達でしょ?」

「また会う為……明日も、会える?」

「あぁ。イヤって言っても、会いに行く」

「うん。また一緒にお昼食べよ」

 

 握った両手から、彼女達の温かさが流れてくる。左右の耳からは二人の言葉が入り込み、未知の歓喜に脳が震える。これが、三尉の言っていた『おともだち』という存在なんだろうか。たった一日でここまで心を揺さぶられるなんて、思ってもみなかった。

 私は二人の手を離した。もう胸の痛みは消えていた。

 

「ありがとう……また、明日」

「あぁ、またな」

「またね、レイさん」

 

 ゆっくりとした足取りで玄関に向かう二人に、最後まで付き添う。この家を出るまでの間は、一緒にいたいから。

 

 輝く夕陽を背に家路を進む二人を見送りながら、私も一歩、何かに踏み出した気がした。

 

 

……つづく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

「「え"っ」」

「あ」

 

「あれお客さん?あっ、ひょっとしてレイちゃんのお友達!?うわはー!すごいすごい!レイちゃんもうお友達出来たんだね!」

「おかえりなさい」

「あ、あの、どうもおじゃましてます……あ、しました?」

「おぉ……?おぉ………!?」

「ん、帰っちゃうの?ってもうこんな時間かぁしょうがないね。あ、僕は入江ミナト!レイちゃんの保護者やってます!よろしくね!」

「は、はい!洞木ヒカリです!よろしくお願いします!」

「君も、よろしくね?」

「……イケメンだ、イケメンがいる……実在していたとは……」ブツブツ

「ちょ、ちょっとナイコ?」

「ナイコちゃんっていうんだね。大丈夫?熱とか……」オデコピトッ

「ヌッッッッッッッッッッッッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……グッドスメル(気絶)」

「えぇ!?」

「ナイコぉ!?」

「ヒカリちゃん救急車呼んで!レイちゃんはAEDを!僕は胸骨圧迫と人工呼吸を……!」

「人工呼吸!?フケツよぉぉぉぉッ!」

「ヒカリちゃん!?どうしたの急に!?」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なにこれ」

 

 

………つづく。

 

 




第三使徒「すいまっへぇんサキエルですけどぉまぁだ(登場まで)時間かかりそうですかねぇ?」
第三新東京市「あばれんなよ……あばれんな……(切実)」

次回からようやっと原作1話が始まる予定(始まるとは言ってない)


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