そして結局更新遅れちゃいました。しかもその割に本文が短い内容が薄い!ホントは使徒とエヴァの怪獣プロレスまで書くつもりだったのに!シンジくんとレイちゃんの描写だけで力尽きてしまった!でも人間描写の下積みが無いと怪獣プロレスにドラマが生まれないからね!しょうがないね!
そろそろ見苦しい言い訳をしない立派な大人になりたい、そんな事を考えながら前書きを書く午前三時。
時に、西暦2015年!
かつて世界を襲った地軸を揺るがす大災害『セカンドインパクト』から、早15年!
劇的な環境変化に耐えられず死に絶えたかつての生態系は、大自然がもたらす神秘的な生命力と人類の科学力により、徐々に元の形を取り戻しつつあった!そして人々の心に深く暗く刻まれた凄惨な傷跡もまた、少しずつ、一歩ずつではあるものの、着実に癒えはじめていた!そんな時代である!
「————————————」
その平和な時代を葬り去らんとする巨大な影が、コバルトに光る大海原に突如として現れた!
「————————————」
40メートルはあろうかという圧倒的な巨体を持つヒト型のソレは、しかしヒト型と言い切るには些か歪な姿をしていた!
大木の様に太く頑強な胴体を持つ一方、その手脚は萎びた枯れ木の様に細く頼りない!なのに両肩は不自然な程に怒り肩!その細腕で彼は一体何をそんなに息巻いているのか!?
大腿に備わったエラの様な形のヒレは、ライダースーツのプロテクターの様にも見える!手脚を一切動かさず、そのヒレをバクリバクリと動かす事で水を掻くソレは、俯いた姿勢で寝そべる様に海中を突き進んでいた!これだけでもヒト型生物としては奇妙な生態だ!せっかく生えている手脚を使わないのだから!何故使わないのか!?ヒレがあるから使う必要がないのだ!なんてズルい生物!
だが!何よりも奇妙なのはその頭部!ソレにはそもそも首と頭が存在せず!虚な眼をした仮面の様な顔面が!首元に当たる部分に!ただペタリと貼り付けられていた!黒死病が蔓延したかつてのヨーロッパで医師達が装着していた、あのペストマスクの様な形の!細長いクチバシを備えた無機質な相貌!白眼の存在しない真っ黒な両目も相まって、本当に只の仮面にしか見えない!だが!時折思い出した様にパチリと瞬きをしたりもする!もはやヒト型がどうこう以前に!この地球の生物としてあまりにも異質!
「————————————」
そんなソレには明確な意志や知性は無く!ただ本能に突き動かされるままに『何か』を目指し進んでいた!自分が目指す『何か』が何なのかすら分からないまま、とにかく真っ直ぐ!一点のみを見据えて進む!
彼が目指す一点、そこには一体何が眠っているのか!?どんな神秘を起こそうとしているのか!?
それは壮大な浪漫とSFに満ちた現代の神話!その神話にはこの世界をこの世界たらしめている、重大で神秘的な秘密が隠されているのだろう!
だがこの物語において、そんな神話は重要ではない!今この物語を見守る我々が、真に意識を向けるべき事実はたったの一つ!
ソレが現れたということは!
「————————————」
『エヴァ』がはじまる、ということだ!
えぴそ〜ど7:使徒、襲来!迷える少年と絆の少女
◇
ガタンゴトン、ガタンゴトン。電車が揺れる、揺れる、揺れる。
リュックサックとボストンバッグを膝に抱え、イヤホンから流れる音楽を無感動に聴き流しながら、僕は陰鬱な気持ちで座席に縮こまっていた。
今日は朝から食欲が無く、駅で買った軽食も結局喉を通らなかった。そのせいか道中電車の揺れと人混みにやられ、途中の駅で嘔吐までしてしまった。乗り換え駅まで我慢した事、ちゃんとトイレで吐いた事、乗り換えの時間にしっかり間に合った事。イヤな事ばかりの人生だけど、この3つに関してはちょっとだけラッキーかも……いや、そんな事ないかな。吐いちゃったし。やっぱり今日は厄日だ。
(バカみたいだな、こんな惨めな思いまでして……)
便器にぶちまけた水っぽくて中身の無い吐瀉物を思い出してゲンナリしながら、リュックサックのチャックを開けて一枚の紙を取り出す。一度ビリビリに破り裂いてからセロテープで継ぎ接ぎにした、シワと嫌悪に塗れたクシャクシャの紙。そこに書いてあるのは、『碇シンジ』という自分の名前と数桁の数字。そして、自分をとある施設に迎え入れる事を認める旨の———むしゃくしゃして黒ペンで塗り潰してしまったからもう読めない———文章。更にその余白の部分には……
(父さん……)
『来い 碇ゲンドウ』
マジックペンで雑に殴り書きされた『来い』の二文字。この二文字の為に僕はここに居る。幼い頃に僕を捨てた、大嫌いな父に会う為に。
『間もなく第三新東京市、第三新東京市。お出口は……』
『The next station is……』
なんで僕を捨てたの、なんで一度も会いに来てくれなかったの、なんで今まで手紙の一つも寄越さなかったの、なんで今になっていきなり呼び付けてきたの、なんで、なんで、なんで……
(なんでなんだよ、父さん……)
父さんに聞きたい色んな『なんで』がぼこぼこと泡立つみたいに頭に浮かんでは、そのまま消えずにぐるぐるグツグツと煮詰まっていく。もうぐちゃぐちゃだ、煮過ぎて崩れた野菜みたいだ、頭の中が。
(今さら、父さんに会いたくなんかない。僕を粗大ゴミみたいに捨てた父さんになんか。でも……)
『足元にご注意ください』
電車の揺れが止まる。プシュ、と軽い音をたててドアが開く。僕はプリントをリュックに押し込んで、普段より随分と重く感じる腰をのそりと座席から上げた。
(……会わなきゃならない。聞きたい事が山ほどあるんだ、父さんに)
会いたくない、関わりたくない、顔を見るのも声を聞くのもごめん被りたい。でも、それでも僕は……やっぱり、父さんに会いたい?
(僕は……)
会いたくない、会いたい、会いたくない、会いたい……僕は一体どうしたい?
どっちつかずで落ち着かない自分と、そんな自分を冷めた目で見ている自分。心が二つに割れたみたいなざわざわして落ち着かない感覚を胸に抱えながら、僕は電車を降りた。父に会う為に。
◇
NERV本部の一画に設けられた広々とした休憩スペース。私はその片隅の席に一人腰掛け、テーブルに置かれた紙コップから昇る薄い湯気を意味もなく見つめていた。地肌と一体化しそうなほどタイトに形成された専用の白いパイロットスーツ、プラグスーツに身を包んで。
(来たのね、遂に)
この日の為に今まで実験と訓練を繰り返してきた。最初は操縦どころか起動すらままならなかったエヴァ初号機も、今は問題なく動かせる。一ヶ月程前に生活環境が一変してから、何故か私は初号機と高度にシンクロできる様になっていた。エヴァ用の武装の準備が間に合わず、急造品の無骨な槍が数本と、唯一の正規品であるプログレッシブ・ナイフしか武装が無いのは不安要素だが、今の自分と初号機なら問題ない。懸念されていたATフィールドの展開にも成功した。準備は出来ている。
(始まる。使徒との闘いが、碇司令の計画が)
でも、この闘いは始まりの始まりに過ぎない。今日あの使徒を殲滅しても、また次が。次を屠ればその次が。これから使徒は、何度となく現れる。それら全ての使徒を一掃したその時こそが、碇司令にとっての本当の始まり、スタートライン。そして私はそれを手伝う為に生まれた存在で、その為に私は———
「お、いたいた!」
———エヴァに乗る、筈だった。
「よう嬢ちゃん、ついに本番だな!」
「整備はバッチリだから安心してよ!」
「ちょっとくらい壊したっていい、ちゃんと帰ってくるんだぞ」
赤いツナギの男達が、私の元に集まってガヤガヤと騒ぎ始める。彼らはエヴァンゲリオンの整備を担当するエンジニア達で、最近は訓練やテストの前後によく話すようになっていた。でも、何故彼らがここに?
「仕事はいいの?」
「仕事ぉ?初号機の準備は万全だ!いつでもあのバケモンをぶっ叩ける!」
「でもお偉いさんが許可してくれないんじゃ動かしようも無い。動かせないんで俺らはヒマだ。てーことで、もっとヒマしてそうな我らのお姫様にご挨拶をって思ってな」
現在、対使徒戦の指揮は国連軍が執っている。国連の下位組織であるNERVは、その指揮官達が許可を出さない限り何の作戦行動にも移れないのだ。
「しかし遂に実戦かぁ……うっ、なんか緊張してきた……」
一番若いエンジニアがツナギのチャックを緩めながら顔をしかめて小さく呟く。
「アホ!お前がびびってどうすんだ!」
その彼の隣りに立つ大柄な中年エンジニアが、弱気な青年の背中をバシッと叩き、叩かれた青年はヴッ!と苦しげな声を漏らしてよろめいた。
「この中で一番怖い思いすんのは誰だ?嬢ちゃんだろうが!」
中年エンジニアが青年に檄を飛ばしながら、私の頭にぼふっと手を置いた。岩のようにゴツゴツとして硬いその手の感触は、私の保護者のソレとは比べ物にならない程力強く男性的だ。同じ男性なのに何故こうも違うのか。
「お前がイモひいてちゃ、姫様の方が不安になるだろうが。こんなんでホントに初号機大丈夫か?ってな。男なら、根性みせな」
白い無精髭を生やした細身の男性が、青年の肩をトンと叩く。二人ともかける言葉は丁寧とは言い難いが、これが彼らのコミュニケーションだ。青年も素直に二人の言葉を受け入れ、先程弱音を吐いた時より幾分晴れやかな顔でツナギのチャックを締め直した。
「へへ、情け無いトコ見せちゃったな。安心してくれ綾波さん!俺たちの初号機は完璧な状態さ!今ならゴジラだって倒せちゃうもんね!」
そしてさっきの弱音はウソだったのかと思う程ビシッと力強くサムズアップを決める青年。彼は調子に乗り易い性格なのだ。
「調子いいやつだなぁお前は!流石にゴジラにゃ勝てっこねぇよ!」
「いや頑張ればいけますって!」
「ゴロザウルスくらいなら倒せるかもなぁ」
「……ゴジラって、なに?」
「「「はぁっ!?」」」
ワイワイと盛り上がるチームメイト達。
そう、私達はチームで、運命共同体。エヴァンゲリオンという巨大な絆で結ばれた今の私達に、大人と子供、パイロットとエンジニアなんて区別は無い。
(エヴァは、みんなとの絆。絆の為に、私は闘う)
「ゴジラを知らねぇ!?そんな日本人いるのかよ!?」
「え、じゃあまさかガメラも!?ウルトラマンも!?なんも知らないの!?」
「いやぁ女の子でも聞いたことくらいはあるだろ……え、ほんとにないの?」
「ない」
「「「それはよくないッ!!」」」
私は男達の、トクサツ?談義を聞きながら紙コップを手にとり、少しぬるくなった紅茶で喉を潤した。心地良いぬるさだった。
◇
駅の入口を出ると、すぐそばに白い軽自動車が停まっていた。そしてその軽の前には、ベージュの制服に身を包んだ金髪の男性が立っている。
(あの人かな)
手元の写真と前方の人物を見比べる。金色の髪に白い肌、中性的どころか女性的とすら言える程に可憐な顔立ち。あの人が入江ミナトさん、だよね?
「……あっ、シンジくん!よかったぁ〜ちゃんと合流できて!電車止まってるんじゃないかってヒヤヒヤしたよ!」
僕に気づいてパタパタと走り寄ってくる入江さん。手紙に同封されていた彼の写真を見たときは、どう見ても西洋人なその容姿にちゃんと言葉が通じるかな?って少し心配したけど、名前の通り僕と同じ日本人みたいでホッとした。
「長旅お疲れ様!僕は入江ミナト、よろしくね!」
僕の身長に合わせて少し身を屈めた入江さんが、弾ける様な笑顔で右手を差し出してき
た。その勢いに釣られて、反射的に僕もその手を握り返す。細くて柔らかくて、でも少しだけカサついた感触。洗い物をしてる人の手だ。
「あ、あの、よろしくお願いします、入江さん」
緊張しつつ挨拶を返すと、入江さんは嬉しそうに空いた左手を僕の右手にぎゅっと重ねた。
「うん、よろしくっ!あ、僕の事はミナトでいいよ!名前で呼ばれる方が好きなんだ!」
両手で包み込むみたいに握手を続けながら青い瞳をキラキラさせる入江———ミナトさん。間近で見るとやっぱり外国の女性って感じがして、ちょっとドギマギしてしまう。身長が高いからまだ男性だって納得できるけど、もう少し小柄だったらいよいよわかんなくなりそうだ。
でも、話し易そうな人で良かった。あの父さんの部下って話だから、映画に出てくるエージェントとかSPみたいな冷たい人物を想像してたけど、この人は見た目通りの優しい人みたいだ。
そう内心で胸を撫で下ろしていると、ミナトさんはその形の良い眉を困ったようにひそめて、神妙な様子で口を開いた。
「ごめんシンジくん、出来ればゆっくりお話したいんだけど、ちょっと急がなきゃなんだ」
「え?」
急ぐって、待ち合わせの時間より30分も早く着いたのに……なにかあったの?
「ワケは車で話すよ。さ、乗って!」
「え、あ、ちょっと……!?」
疑問を口にする暇もなく白い軽の助手席に押し込められて、爽やかな芳香剤の控えめな香りと、それに見合わないミリタリーチックな外付けの無線機とが僕を迎えいれた。
「ベルトを!」
「は、はい!すみません、今……」
素早く運転席に乗り込んだミナトさんの声に促されて、慌ててシートベルトを締める。何が何だかわからないけど、ホントに緊急事態みたいだ。
「急かしてごめんね!」
そう短く言ってミナトさんは軽やかに車を発進させた。急発進って程の衝撃はなく、でも確かにスピーディな動き出し。車の運転なんてした事ないからわからないけど、きっと上手な運転っていうのはこんな感じなんだろう。
「びっくりしてるよね?ホントにごめん、こんなハズじゃなかったんだけど……」
申し訳なさそうなミナトさんの声。本当にどうしたんだろう?さっき握手をした時は歌でも歌いだしそうなくらい楽しそうだったのに。
事態がまるで飲み込めない僕は、あてもなくミナトさんの表情を伺った。ハンドルを握り油断なくフロントガラスに目を向けるミナトさんは、その長いまつ毛を悲しげに伏せて今の状況を憂いていてる。その儚げな横顔が何だかどこかの深窓の令嬢みたいに見えて、僕は思わず『画になる人だな』なんて場違いな感想を抱いた。どう考えてもそんなこと言ってる場合じゃなさそうのに、さっきから僕の頭はどうにも呑気だ。今なにが起きていてなにが危ないのか、それがわからないから何の実感も湧かないのかもしれない。
「あの、なにがあったんですか?」
とにかく教えてもらわなきゃ。朝からイヤな気持ちを目一杯我慢してここに来たのに、訳もわからないまま車に放り込まれて何の説明もないんじゃ、事態を飲み込むも何もないじゃないか。そんなのは納得がいかない。
ミナトさんはちらりと僕を見て、変わらず深刻な様子で『信じてもらえないかもしれないけど』と前置きしてから、本当に信じ難い事を口にした。
「……もうすぐここに、怪獣が来るんだ」
「……は?」
怪獣。怪獣って、ウルトラマンとかに出てくる……あの怪獣?
「なんですかそれ……からかってるんですか?」
なんだかバカにされてるみたいな気がしてムッときた僕は、不満と少しの怒りを込めてミナトさんを睨め付けた。こっちは真剣に聞いてるのに、なんだよそれ。子供だからってバカにしてるのか。
でも、そんな僕に対するミナトさんの返答は真剣そのもので。
「うん、バカみたいな話だよね。でも……ウソじゃない」
お姫様みたいな憂い顔が、強い意志を持った大人の顔に変わった。
「アレはもうすぐそこまで来てる。周りをごらん?街の人たちはもうみんな避難してる」
「え……」
そう言われて、僕は初めてこの街を包む強烈な違和感に気がついた。こんな大きな街なのに、人の気配が全く無い。路肩には乗り捨てられた車が何台も並んでいるし、道沿いに並ぶ商業施設はどこもシャッターをおろしている。最先端の科学技術で造られた先進都市のメインストリートが、うらびれた田舎の商店街みたいに静まり返っていた。
更に追いうちをかけるように、狭い車内に無線機からの通信が響いた。
『指令室より入江三尉へ。目標が間も無く上陸する。対象は保護できたか』
「入江より指令室。対象を保護しました。現在本部へ向け移動中です」
ザラリとした音質の冷たい声に、通話機を手にしたミナトさんが同じく冷たい声で答える。表情といい声といい、この人はいくつの『顔』を持ってるんだろう。
『指令室了解。寄り道しないで帰ってこいよー』
「あはは、シゲルさんと一緒にしないでくださーい!はい通信終わり!」
そして最後には明るい笑顔のミナトさんに戻った。無線機の向こうの声も、終わりの方は随分と砕けた喋りだった。なんだろう、父さんの組織って結構緩いトコなのかな……?
って、そんなことより今の無線だよ。目標の上陸がどうこうとかって怪しい会話をしてた。上陸。上陸って事は、ホントに海から怪獣が来るってこと?ゴジラみたいに?
「あの、これってホントに……?」
「……うん。ホントのホントに、怪獣騒ぎ」
困った様に小さく笑うミナトさん。その顔と、さっきの無線と、ゴーストタウンと化した大都会。そこまで目にして僕はようやくミナトさんの言葉を、現実を受け入れはじめた。第三新東京市は世界で最も進んだ街だ。僕ひとりを騙す為に、この街全体がグルになるなんてあり得ない。
(今日は、ホントに厄日だ……)
父さんから突然呼び出されて、頭がおかしくなるくらい悩んで悩んで悩み続けて、やっとの想いでこの街に出てきた。なのにその街が、あろうことか怪獣に襲われる?そんな、そんなバカみたいな話、ある?
「そんなのって、ないよ……」
「そうだね……」
「おかしいよ……」
「うん……」
感情の行き場を無くして一人泣き言をこぼし続ける僕。ミナトさんの気づかわしげな相槌は、窓辺の風鈴の様だった。
◇
男達が仕事場に戻り再び静寂に包まれた休憩室で一人、空になった紙コップをなんとなく潰したり広げたりしていると、カツカツとヒールを鳴らしながら一人の女性が現れた。
「ヒマそうね」
赤木博士だ。白衣のポケットに両手を突っ込み、いつも通り表情の見えない目で私を見ている。
ヒマ、確かにヒマだ。私はエヴァのパイロットで、そのエヴァは今動かせないのだから。
「はい」
「ふふっ……そうよね、ヒマよね」
私の返事を聞いて可笑そうに笑う赤木博士。なぜ笑うんだろう。ヒマかと聞かれてヒマだと答えただけなのに。
「ちょっと様子を見に来たの。あなたが緊張してるんじゃないかって、気になってね」
そう言いながらテーブルを挟んで対面に腰掛ける博士の声は、確かに優しい声だった。でも、表情は相変わらず分からない。そんな事気にする必要は無いハズなのに、どうして今日は博士の表情が気になるんだろう。
「問題ありません」
緊張は無い。初号機が問題なく動く、その事実があるだけで私は大きな安心感を得られていた。
「その返事は変わらないのね……」
「え?」
「なんでもないわ」
コホンと咳払いをしてから、博士は黒いストッキングに包まれた長い脚をスラリと組んで、意味深な流し目を私に向けた。
「じゃあ、どうしてそんな寂しそうな目をしているのかしら?」
「……寂、しい?」
探る様に私を見る赤木博士。寂しい?私は今、寂しそうな目をしている?どうして?
「入江くん」
「っ」
赤木博士の口から不意に三尉の名前が飛び出し、何故だか一瞬胸が詰まった。何故赤木博士が、この場で三尉の名を?
「彼がいまどこで何をしてるのか、知っていて?」
「……それは」
知っている。碇司令の息子、碇シンジを迎えに行ったのだ。私を置いて。使徒との戦いに備えて準備をしている、三尉の保護対象であるハズの、私を置いて。
(……私を、置いて)
何故?何故、私の保護者である三尉が碇シンジを迎えに行くの?私を置いて。三尉は私の側に居なければならないのに。
三尉自身もこの件には大層乗り気だったのが私の不満に拍車をかける。あれは確か先週の夜、いつもの様に夕飯をたかりに来た葛城一尉から、
『いやぁホントは私が行きたいんだけど副司令にさぁ———君は対使徒戦の準備があるだろう。ここは他の人員に任せた方がいいと思うがね。そうだ、入江くんはどうかね?偶には主夫以外の仕事も任せないと、あの若者も張り合いがないだろう———なぁんて言われちゃってね?ってなわけで入江くん、シンジくんの送迎シクヨロ!』
とビール片手に任務を丸投げされ、子供好きの三尉は二つ返事でこれを了承。大役を任せられたと浮かれに浮かれ、いつもの1.5倍くらい喧しく『うわはー!』と大喜びしながら追加のおつまみを調理していた。
そして当日、まさかの使徒襲来。私はてっきり、三尉は出撃に備える私の側を離れず、碇シンジの送迎は他の人員に任せるものだと思っていた。何故だかわからないけどそう確信していた。本当に何故だかわからないけれど。
そんな私の予想に反して三尉は、
『大変だ!はやく迎えにいかなきゃシンジくんが危ない!レイちゃん待っててすぐ戻るから!イテキマース!』
と、どこからか調達してきた無線機を抱えて車に飛び込み、そのままカートレインで地上へと旅立って行った。私を置いて。
「ふふ、ひどい男よね。自分の娘をほったらかして、ミサトからのお使いに夢中なんて」
赤木博士は楽しそうだ。さっきまでとはなんというか、表情が違う。小さな笑顔ではあるけれど、しっかり顔全体で笑っている。そんな気がした。
……ひどい、確かにひどいかもしれない。三尉はいつも私が大事だと、大好きだと全身でアピールしていた。綾波レイという存在は、入江ミナトの生活において間違いなく最優先の存在だったハズ。なのに三尉はそんな重要な私を一人ここに残し、他所の子を迎えに行った。おかしい。私の側に居る事は碇司令からの命令。だから葛城一尉からの命令よりも優先すべき。つまり私の側に居るべき。居るべき。
「……やっぱり、自覚が無いだけね」
「え?」
そう言って、ふぅ、と小さく息を吐く赤木博士。自覚が、無い?
「あなた、ホントは不安なのよ。初号機と自分のコンディションが万全でも、それでも不安。だから安心できる入江くんの側に居たいと、側に居て欲しいと感じているのよ」
「……!」
そう赤木博士に指摘されて、ようやく今の自分の心理が理解できた。博士の言う通り自覚が無いだけで、本当は不安だったのだ。初めての実戦で使徒を倒せるのか、碇司令の期待に応えられるのか、大切な友達やチームメイトを守れるのか。そんな見えないプレッシャーに、気づかないうちに負けそうになっていたのだ。
だからこの場に居ない三尉に対して、こんなにも不平不満が溢れていた。きっと私は三尉に甘えたいのだ。大丈夫だよ、上手くいくよと優しい言葉をかけて貰いたいのだ。あの柔らかい手で頭を撫でて欲しいのだ。抱き締められたいのだ。
「気づいたみたいね」
「……はい」
私は、弱くなってしまった。前まではこんな事は無かった。他人の温もりが欲しいだなんて、考えた事も無かった。
(……ホントは、欲しかったのかもしれない。自覚が無かっただけで)
この一月、私は三尉の夕陽の様な温かさに照らされ続け、それが当たり前の生活をしていた。三尉だけじゃない。ヒカリさんも、ナイコさんも、葛城一尉もペンペンも整備士達も、みんなみんな温かかった。だから今、余計にその温かさが恋しい。生まれて初めて自分の心が弱りはじめて、私は甘えさせてくれる誰かを無意識に求めていたのだ。だから三尉に居て欲しかった。きっと私にとって入江ミナト三尉は、『甘やかしてくれる人』の代表なのだ。
入江三尉はその年齢に反してかなり幼稚な人物で、年長者としての威厳なんて欠片もない男だ。正直私は彼を尊敬できる父親とは———碇司令の様な人物とは全く認識していない。むしろ背の高い同級生か弟か何かだ。だってバカだもの、あの子。
でも、そんな隙だらけで底抜けに明るく優しい人物だから、私も気負わず甘えられるのかもしれない。期待に応えたいとか、失望させたくないとか、そんな想いを抱く事が無いから。例え私がどんな失敗をしたとしても、彼はただ『いいんだよ』と甘い言葉をかけながら柔らかく微笑むのだろう。その砂糖菓子の様な甘さに、私は甘えたいのだ。
「……成長したわね、レイ」
私がそこまで自己分析を済ませた所で、再び赤木博士が口を開いた。きっと私が自分の心を飲み込むのを待っていたんだろう。
「……成長?」
「えぇ。この一月で、あなたは多くの他人の優しさに触れた。甘える事を覚えた。確かにそれは弱さかもしれない。でもね」
一度言葉を切る博士。私は目を逸らさず続きを待った。逸らしてはいけない気がした。
「その弱さは、強さに変える事が出来るのよレイ。あなたは、あなたに優しい人達が好き?」
真剣な博士の目。初めて見る目だ。その目に宿る不思議な力に促されて、自然と私も自分の心を口にした。
「好きです」
好き。言ってから自分でも驚くほどスルリとその言葉が出た。意味も良くわかっていない筈なのに、それでも迷わず私は好きだと言っていた。
そう、私は好き。美味しい料理と優しい笑顔で甘やかしてくれる三尉が好き。楽しくて刺激的な毎日をくれる友達が好き。いつも私を応援してくれるNERVの人達が好き。私に初めて生きる目的と居場所をくれた碇司令が好き。
そんな私の答えに、博士は満足気に微笑んだ。
「それならきっと大丈夫、レイはちゃんと強い子よ。好きな人達を守りたい、それだけで人はどこまでも強くなれるの。レイ、あなたはただ、守りたい人を守る為にエヴァに乗りなさい。そんなあなたを、私達も守るわ」
「……博、士」
私は面食らってしまった。今まで赤木博士から、こんな言葉を送られた事は無かったからだ。いつも無表情で私を置き物か何かの様に見ているか、もしくはどこか忌々しそうに小さく睨んでいるかのどちらかだったのに。そんな人が私を守ると、感情のこもった声で言っている。入江三尉や葛城一尉の様に。
「……はい、赤木博士」
私はこの時、はじめて赤木リツコという人物に好感を抱いた。この人の事も、守りたい。私の弱さを、自分でも気づけなかった脆さを受け入れ、導いてくれたこの人を。
と、その時。館内放送のスピーカーから絶妙に気の抜けたアナウンスが流れた。
『ぴんぽんぱんぽーん!作戦部長からどっかで油売ってるリツコとレイに通達!ようやっと国連軍からコッチに指揮権が移ったわ!砲爆撃もN 2地雷も効果なし!相手にとって不足なし!早速ブリーフィングをはじめるわよ!40秒で会議室に来なさい!ぴんぽんぱんぽーん!あ、そうだレイ!入江くんさっき帰ってきたから!出撃前にしっかり甘えとくのよん♪』
「……台無しね」
「……」
葛城一尉のなんとも言えない呼び出しに、なんとも言えない空気になってしまった。
でも、これで舞台は整った。遂にNERVが、エヴァンゲリオンが動く時がきた。
火砲もN2兵器も通用しない、想定内だ。使徒が持つATフィールドは、エヴァのATフィールドでしか破れない。全ては私と初号機にかかっている。
(……負けられない、みんなの為に)
再び私の胸に不安の影が差す。自覚を持った事で、その影はより色濃く私を塗り潰そうとする。
「大丈夫よ」
赤木博士が、私の頭にそっと手を置いた。どこかぎこちない動きで、ゆっくりと私の髪を撫で付ける。少し冷たい手だけれど、その冷えた感触がどうしようもなく温かい。
「大丈夫」
「……はい」
その一言が、私の不安を掻き消してくれた。言葉とは不思議だ。欲しい言葉を受け取っただけで、何でも出来そうな気持ちになれる。大丈夫、私は大丈夫だ。
「行きましょう」
「はい」
私は赤木博士と連れ立って会議室へと向かった。もう三尉が居なくても大丈夫だ。むしろ会ったらお説教しなければ。次私を置いていったら、私は赤木博士の子になるぞと。そう言ったら彼はどんな顔をするだろう。きっと涙を流してごめんなさいと私に縋り付くに違いない。そしたら頭を撫でてあげよう。男はアメとムチで躾なさいと、葛城一尉が言っていたもの。
……こんな他愛も無いじゃれ合いを求めている時点で私は三尉に甘えっぱなしだという事に気がつくのは、もう少し先の事だった。
シンジくん「半年スタンバッてたのにエヴァに乗れなかった男がいたんですよ!」
サキエルくん「半年スタンバッてたのにヒレの動きしか描写されなかった使徒がいたんですよ!」
初号機くん「半年スタンバッ(以下略)」
零号機くん「なぁーにぃー!?やっちまったなぁ!(登場済)」
弐号機くん「ぼくは?」
はじめてのミナトくん視点ゼロ回。主人公とは。
なんか完結どころかアスカ来日すら危ぶまれるペースになってきました。でも島本和彦先生の漫画を読むとモチベーションが上がる事に気がついたので大丈夫です。次回、エヴァ初号機の必殺・綾波キックに乞うご期待!もしくは綾波国電パンチ!