遊戯王Arc-V~それはまるで虫が綺麗な花に吸い寄せられているようで~ 作:カイナ
「僕、柊さんの事が好きなんだ」
「「「ぶーっ!!!」」」
喫茶店の四人掛けのテーブルで、にこりと微笑んで一人の少年が言う。
愛の告白、あまりにも唐突なそれを聞いた三人の少年少女が飲んでいたジュースを噴き出し、少年の体面に座っていた少女は少年にジュースを浴びせまいと咄嗟に顔を逸らすが、その少年の隣に座っていた別の少年に半ば霧状と化した、まるで毒霧のようなジュースを思いっきり浴びせてしまう。
さらに少女の隣に座っていた少年はそこまでする余裕がなく、体面に座っていた少年目掛けて毒霧ジュースを浴びせつつ、同じようにその少年が噴き出したものを浴びた相討ちのような形になる。
結果として告白した少年と紅一点の少女以外の二人の少年がびしょ濡れになる羽目になった。
「……榊遊矢! 柊柚子! いきなり俺にジュース浴びせるとはどういう了見だ!?」
「わ、悪い沢渡! でもお前だって俺にコーラ浴びせたんだからおあいこだろ!?」
「ご、ごめんね沢渡君! つい咄嗟に……で、でもその、えぇっと……」
ぽたぽたとジュースの雫を滴らせる身体を怒りに震わせ、怒髪冠を衝くといわんばかりに怒鳴り声を上げるのは、少年少女二人からジュース──ちなみに少年がトマトジュース、少女がピーチジュースだった──を浴びせられる羽目になりびしょ濡れになった少年。
その姿に少年からコーラを浴びせられた、赤と緑のまるでトマトのような髪色をした少年が謝罪しつつ、自分はお前からコーラ浴びせられたんだからおあいこだと自己弁護。
続けてピンク色の髪をツインテールにした可愛らしい少女が沢渡と呼ばれた少年に謝罪しつつも、結果的にこの惨状を引き起こした張本人であるにも関わらずニコニコとした笑みを浮かべている少年をおろおろと見る。
「い、
「言葉の通りだよ、柊さん。僕、柊さんの事が好きなんだ」
少女──どうやら彼女が柊柚子らしい──のおろおろとした言葉に泉と呼ばれた少年はさらりとさっきの言葉を繰り返し、聞き間違いでもなんでもないと改めて理解した柚子の顔が真っ赤に染まり上がる。
ちなみにその間にこの異常に気付いた店員が「お客様、大丈夫ですか?」と声掛けしながらタオルを二人分持ってきており、榊遊矢と呼ばれた少年が「ありがとうございます」と、沢渡と呼ばれた少年が「サンキュ」とお礼を言いながらタオルを受け取ってびしょ濡れになった顔や頭を拭いていた。
「って、おいおいおい待て待て待て!
「何って、愛の告白?」
がしがしと乱暴に頭を拭きながら沢渡が叫ぶ。フルネームで呼ぶ遊矢や柚子とは違って名前だけで呼ぶのは同じ学校というだけではなく、同じデュエル塾の同じコースに通う友人であるがゆえの気安さと言えよう。
そんな友人の驚愕が表に出た叫びに対しても少年──
「いや待ってよ!」
それに異を唱えるのはこっちもコーラでべとついた髪を拭いている遊矢。ちなみに柚子とは幼馴染で同じ塾にも通う長い付き合い、そんな彼の唱える異論に柚子の視線が何かに期待するようにそっちに向かう。
「柚子はやめとけって! こんなガサツなストロング女! 泉は優しいから尻に敷かれちまうって!」
「そうだそうだ。俺はお前とはまあまあ長い付き合いだと思ってたけど、まさか女を見る目がないなんて思わなかったぜ……」
「……」
しかし遊矢はあろうことか柚子のことをガサツなストロング女呼ばわりしてやめておけと説得を開始、しかも沢渡も腕を組んでうんうんと頷いて同意した上にどこか嘆くような様子に柚子の額に怒りマークが浮かび、彼女はどこからともなくハリセンを取り出すと二人の頭をスパーンとブッ叩いた。
「そんな事ないよ。柊さんは活発で、いつも元気で明るい可愛い子じゃないか」
「や、ちょ、泉君……」
そんな二人の評価が不服なのか、幾人は唇を尖らせながら遊矢のいうガサツなストロングという部分をいつも元気で明るい活発な子と言い換える。そんな手放しで褒められると弱いのか柚子は顔を赤くしてもじもじと身体を揺らしていた。
柚子からしたら中学に上がってから遊矢の友達になったから友達の友達という感じで付き合い始めたという、まだ一年にも満たない友人関係だがここまで褒められるどころか告白されるほどまでに好意を持たれているとは思えなかった故である。
(……ん?)
しかしそんな思考が頭を走った瞬間、柚子の中に嫌な仮説が立てられる。
「ねえ、泉君……一つ聞いていい?」
「お、おいどうしたんだよ柊柚子、んな怖ぇ顔して……」
「沢渡君は黙ってて」
「アッハイ」
その嫌な仮説の内容を考えると幾人を睨まないわけにもいかず、それを指摘してきた沢渡を一言で黙らせると幾人を見た。
「あなたが遊矢と友達になったのって……まさか遊矢を利用したんじゃないわよね?」
その言葉に隣の遊矢が息を飲んだ。
遊矢は柚子の幼馴染であると同時に親友と言ってもいい関係。柚子に近づくなら遊矢を利用するのが一番手っ取り早いだろう、そんな自意識過剰にも程がある仮説。
しかしもしそれが事実ならば、小さな頃から父親の事情で苦労してきた遊矢の友情を利用しようとしたのなら許すわけにはいかない。
「……見くびらないでほしいな、柊さん」
その言葉を、幾人は彼女を真正面から見返して否定してみせた。
「順番が逆だよ。僕は遊矢を面白い子だと思って、友達になりたいと思って友達になった。それから柊さんと知り合って、いつも元気で、明るくって、優しくって、世話好きなところを見て、好きになったんだ」
「え、あう……」
幾人からすれば遊矢と友達になった結果として柚子と知り合い、その結果柚子が好きになったのだという主張。まるで深いそれでいて澄み切った湖のような青い瞳で見られながらそう言われてしまい、逆に柚子の方が照れて言葉に詰まってしまっていた。
「……幾人のやつ、よくそこまで柊柚子のことを好意的に見れるな」
「いや、あながち間違っちゃいないんだけど……」
沢渡からすればいつも怒ってこっちをハリセンではたいてくる女扱いなのだろう。そんな彼女を元気で明るく優しくて世話好きと好意的に言い切る幾人が不思議なのか遊矢に囁くように話しかけ、遊矢は苦笑を交えながらそれも柚子の一面だと返答していた。
「え、あの、その、気持ちは嬉しい、ん、だけど、でも、えと……」
ここまで真っ直ぐに好意を伝えられると、柚子としても返答したいのにどうすればいいのか分からない。
己の顔に熱が集まっていくのが分かり、今の自分の顔は真っ赤なのだろうと確信させる程。ドクンドクンと心臓が鼓動を響かせ、グルグルと頭の中で気持ちの無限ループが開始される。
「気持ちは嬉しい。それだけ分かれば今は充分だよ」
「へ?」
しかし幾人はにこっと微笑んで柚子に告げ、柚子が目を点にする。
「返事を急かそうなんて思ってない。ただ、僕の気持ちを柊さんに分かってほしかっただけ」
そう続ける幾人に、柚子が返事を急がなくていいと言われてほっと安堵の息をつく。
すると幾人は小さく首を傾げ、その時に新緑色の短く整えた髪が、まるで葉が風に揺らされたようにさらりと揺れる。そして深い湖のような青色の瞳が再び柚子を見据えた。
「だからさ……これから、柊さんに僕を好きになってもらえるように頑張るからね」
直後「これ、早くどうにかしなきゃ私の身体がもたない」と、柚子は天を仰ぎながら思ったのだった。
《後書き》
最近リアルの方が忙しいのと、ちょっとネタが思いついて書き溜めてるものがあるんですが。
そのせいで即で出せる作品がないまま数ヶ月があっという間に経過。その中でネタ帳探ってたら「思いついて書いてたのはいいけど途中で思いつかなくなって没にしたままエタったオリ主×柚子もの」を見つけたので、書いてる分だけでも投稿してみようかなと思いました。感想貰えたら書く気になるかもだし。
そんな感じで柚子のことが大好きなオリ主君のお話。のっけから告白スタートというぶっ飛んだ野郎です。(笑)
なお、もう一話デュエルある話があるんですが、これまた思い付きでその所謂後編は本日の午後六時頃に投稿してみる事にしようかなと思ってますのでお楽しみに。
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。