遊戯王Arc-V~それはまるで虫が綺麗な花に吸い寄せられているようで~ 作:カイナ
「ふむ、君が泉幾人君だね。柚子と遊矢から話は聞いている。俺はこの遊勝塾の塾長、柊修造だ! よろしく頼む!」
「よろしくお願いします、柊さんのお父さん」
放課後、いきなり連れてこられた先で腕組みしているジャージ姿の男性と対面した幾人は、その男性──修造に礼儀正しく挨拶する。その瞬間修造の目がくわっと見開かれた。
「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!!!……が、柚子のお父さんと呼ぶなら許してやる!」
「そうじゃないでしょっ!!!」
娘の彼氏を前にした父親のお約束をかます修造の背後から、柚子がハリセンで父親をぶっ叩く親子漫才が始まった。
さて、こうなった経緯の説明には今日の朝まで時間を遡ることになる。
「ほんっとうにごめんなさい泉君! 今日の放課後、遊勝塾まで来て!」
「……どうしたの、柊さん?」
朝一、教室で柚子が深く頭を下げながら幾人にお願いを始め、当人もきょとんとしながら首を傾げて問い返す。
すると柚子は大きくため息をついた。
「実は昨日泉君達と別れて塾に行った時に、遊矢が私が泉君から告白されたって塾の皆にばらしちゃったの……」
「や~。昨日の柚子、授業に全然身が入ってなくって、顔も突発的に赤くなるから塾長が熱があるんじゃないかって大騒ぎしちゃって、それでつい……まあ、その、ごめんな、泉」
柚子の大きなため息交えの言葉に遊矢が引きつった笑みを浮かべながら事情を説明した後、知らない人にまで告白騒動の話題を広げてしまったことを謝罪する。
「ううん、別に構わないよ。で、放課後に柊さんのお父さんに会いに行けばいいんだよね?」
「まあ、そういうこと。そっちも忙しいのにごめんね? お父さんには私からしっかり言っておくから……」
柚子と遊矢の二人からの謝罪を受けながら、幾人は放課後に遊勝塾に行く事を承諾。
そして放課後、沢渡に今日はLDSを休むという件を伝えるのをお願いして幾人は柚子達の案内の元遊勝塾へと向かった訳であった。
「あてて……まあ、遊矢から話は聞いたよ。柚子に告白したそうだね」
「はい。柊さんはいつも元気で明るくて、一緒にいると元気が貰えるような。まるで太陽か、あるいは花のような人です」
「うんうん、分かってるじゃないか!」
ハリセンで叩かれた頭をさすりながら、柚子に告白した事を確認する修造と、それを二つ返事で認めて柚子の可愛いと思ったところをアピールする幾人。
それを聞いて上機嫌に頷く修造と何か通じ合っているようだが、それを聞かされている張本人は顔を真っ赤にして悶えており、隣の遊矢も苦笑を漏らしていた。
ちなみにさらにその隣ではぽっちゃりとした体形の男の子が「おー、あの兄ちゃんが柚子姉ちゃんに告白したの?」と言っていたり、赤い髪の女の子が目をキラキラさせながら「柚子お姉ちゃんすごいなー」と柚子に尊敬の目を向けており、小さな子の無邪気な言葉が柚子が悶える原因の一つなのは言うまでもなかった。
「ふむ。よし、気に入った! だがそう簡単に柚子を渡すわけにはいかないな」
修造はニヤリと笑ってそう言うと、どこからともなく取り出したデュエルディスクを左腕に装着する。
「デュエリストが言葉で語り合うだけで全てを分かり合えるはずがない。俺とデュエルだ!」
「望むところです!!」
「いい返事だ。熱血だ!! よし皆、今日は彼との実演授業だ! しっかり見学するように!!」
そう言って修造はさっそく準備に取り掛かり、真っ赤にした顔を隠すように両手で覆ってうずくまっている柚子は再起動に時間がかかりそうなため遊矢がその手伝いについて行った。
「すまないな、ちょっとシステムの調子が悪くてスタンディングデュエルになってしまった」
「いえ、構いません」
場がデュエルスペースに移る。しかしリアルソリッドビジョンシステムが妙に不調で──元々遊勝塾のものは旧式のため多少仕方ない面もあるが──アクションデュエルをして動き回っていたら突然システムが強制終了したなどの場合に事故に繋がる可能性もあり、スタンディングデュエルを余儀なくされていた。
だが幾人は問題ないと答え、修造もそれに頷くと二人はデュエルディスクを構える。一瞬視線が交錯し、目がデュエリストのものとなって鋭く研ぎ澄まされる。
「「デュエル!!!」」
そして二人の声が重なり合った。
「先攻後攻はそちらが決めていいぞ!」
「では遠慮なく、先攻いただきます!」
大人として先攻後攻の選択権を相手に与える修造と遠慮なく受け取って先攻を取る幾人。彼は五枚の手札をちらりと確認し、僅かに思考して戦略を練ると手札の一枚を取った。
「僕は永続魔法[補給部隊]を発動します。一ターンに一度、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動し、デッキから一枚ドローする。さらに僕はモンスターをセットしてターンエンドです」
「堅実な一手だな。では俺のターン、熱血ドロー!」
モンスターの守備表示とリカバリー型の永続魔法による堅実な一手を見た修造が勢いよくカードをドローし、六枚となった手札を見るとすぐさまその内の一枚をデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード[増援]を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター一体を手札に加える。俺が手札に加えるのは[
U.A.ファンタジスタ 攻撃力:1200
修造の場に現れるのは近未来的なプロテクターやヘルメットに身を包んだ、未来のスポーツ選手を思わせる格好のサッカー選手。すると修造が首から提げていたホイッスルを手に持つとピピーッと吹き鳴らし、まるでサッカーで審判がイエローカードやレッドカードを提示する時のように一枚のカードを掲げた。
「手札の[U.A.ドレッドノートダンカー]の効果! ドレッドノートダンカー以外の自分フィールドのU.A.を手札に戻し、手札から特殊召喚できる。ファンタジスタ、選手交代[U.A.ドレッドノートダンカー]!!」
U.A.ドレッドノートダンカー 攻撃力:2500
まるでスポーツチームの監督のようにてきぱきと指示を出す修造に従うようにファンタジスタが彼の下に向かうと、同じく近未来的なプロテクターやゴーグルを着用したモヒカンの男性がその先に出現。
二人は選手交代を示すようにハイタッチを行うとファンタジスタが消え、その代わりにというようにモヒカンの男性──ドレッドノートダンカーがフィールドに残り、どこからともなく取り出したバスケットボールでドリブルを開始した。
「ワンターン目ならこの程度かな。バトル! ドレッドノートダンカーで守備モンスターを攻撃!!」
[ウオオオォォォォッ!!]
修造の指示に従い、ドレッドノートダンカーは雄叫びを上げてドリブルしながら正体不明のモンスターにも勇猛果敢に突進、そのモンスターの眼前まで迫ると大きくジャンプしてバスケットボールを両手で抱えて両腕を振り上げるダンクシュートの構えを取る。
その時幾人の場のモンスターもその正体──緑色のバッタの姿を現すが、ドレッドノートダンカーの振り下ろすようなダンクシュートの勢いにそのまま押し潰されてしまった。
「ドレッドノートダンカーが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える! さらにこのカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、フィールドのカード一枚を破壊する! 俺が破壊するのは当然補給部隊!」
「ぐううっ! チェーンして破壊され墓地に送られた代打バッターの効果発動! このカードが自分フィールドから墓地へ送られた時に発動でき、手札から昆虫族モンスター一体を特殊召喚する! さらにチェーンして補給部隊の効果でカードを一枚ドローする!」LP4000→2700
ダンクシュートの勢いで発生した衝撃波が幾人のライフにダメージを与え、補給部隊のカードがビリビリと揺れる。
しかし幾人は冷静に効果処理を行ってデッキからカードを一枚ドローした後、別の手札を取ってデュエルディスクのブレードに叩き付けた。
「僕は代打バッターの効果で[クロスソード・ハンター]を特殊召喚!!」
クロスソード・ハンター 攻撃力:1800
代打バッターにより呼び出されたのは十字の顎を持つクワガタムシを思わせる昆虫。未だに彼の場を揺らすドレッドノートダンカーのダンクシュートの衝撃波を羽ばたいてかわしている姿に修造がぐぬっと声を漏らした。
「代打バッターの効果で戦線を維持したか……だがしかし、ドレッドノートダンカーの効果で補給部隊は破壊する! これで俺のバトルフェイズは終了、メインフェイズ2に入る!」
ビリビリと揺れていた補給部隊のカードが振動に耐えられず破壊され、それでようやく振動が治まる。すると修造が再びピピーッとホイッスルを鳴らして一枚のカードを掲げる。
「手札の[U.A.カストディアン]の効果! ドレッドノートダンカー、選手交代! [U.A.カストディアン]!」
U.A.カストディアン 守備力:2800
先ほどと同じくドレッドノートダンカーと交代してフィールドに現れるのは例によって近未来的なプロテクターやヘルメットを着用したサッカー選手。まるでゴールキーパーのように構えて攻撃に備えていた。
「特別に教えよう。カストディアンは相手ターンに一度、自分フィールドのU.A.一体を一度だけ戦闘・効果による破壊から守る効果がある。当然カストディアン自身もU.A.だ、この効果の対象内だぞ」
これも授業の一環という建前からか、別の塾とはいえ一応は教師と生徒という関係性からのハンデのつもりか、本来ならモンスターの効果を知らないのはデュエリストの知識の欠如として自己責任となるところを修造は丁寧に説明する。
しかしそこに相手を見下している様子はなく、むしろ教えた上でそれを乗り越えてこいという、幾人の意志を試す様子さえ伺わせていた。
「そして、カストディアンの守備力は泉の場のクロスソード・ハンター以上。このままじゃ突破できないってわけか……」
攻撃力が上回ってさえいれば一度の効果破壊を防がせた後に戦闘破壊を狙う、もしくはその逆というのがこの場合の王道。
しかし現状ではカストディアンの戦闘破壊すら不可能、効果破壊を二回続けるなどでごり押すしかない。と遊矢は分析した。
「ところで遊矢兄ちゃん、あの兄ちゃんって強いの?」
「遊勝塾には一度も遊びに来たことないよね?」
そこでぽっちゃりとした男の子──フトシと赤髪の女の子──アユが遊矢に尋ねる。
「まあ、何度か俺達と学校の放課後にデュエルした事はあるけど、なかなか強いよ。遊びに来た事ないっていうのは……」
遊勝塾に来た事がないだけでデュエル自体は何度も行っており、強いと彼の実力を評価する遊矢。続けてアユの遊びに来た事がないという発言に対して苦笑を漏らして頬をかいた。
「あいつLDSの所属だからさ、あまりよその塾に入り浸るのは外聞がよくないとか示しがつかないとかでうるさいらしいんだ」
「え? じゃあ今来てるの大丈夫なの?」
「ちょっとくらいなら大丈夫じゃないかってさ」
遊勝塾の場合、権現坂道場という別のデュエル塾の生徒どころか跡取りである権現坂がよく遊びに来ているため感覚が麻痺してる部分があるが、本来デュエル塾にそれと無関係の塾の生徒がやってくるのはその塾の生徒の実力を観察したり教育ノウハウを奪おうとするスパイだとか疑われてもおかしくはない。
遊勝塾と権現坂道場は、前塾長の息子である遊矢と現塾長の娘である柚子と道場の跡取りである権現坂というそれぞれの塾の関係者が親友の間柄であると共に、塾同士もまあまあ仲がいい付き合いをしているが故の例外だ。あとそもそも遊勝塾自体に奪われて困る程の教育ノウハウが存在しないのと塾長の修造が別の塾の生徒の出入りをそんなにうるさく言わないお人好しな性格というのもある。
加えてLDSの場合は、最高峰の教育を売り文句にしているのに別の塾に入り浸られてはLDSの教育に不満があると外部に思われかねないという外聞もあるのだろうと予想できる。
そんな遊矢の説明を受けたアユが今現在進行形で遊勝塾にいる件にツッコむが、別にそこまで厳しいわけじゃないから少しなら大丈夫だろうと言っていたと答えた。
なおその説明の間にもデュエルは進み、修造はカストディアンの守りを信頼しているのかリバースカードを出さないままターンエンド。次のターンプレイヤーである幾人がカードをドローしてメインフェイズに入っていた。
「守備力2800……今の僕の手札でその守備力を越える事は不可能です」
「君の力はその程度か? そんな事では柚子を任せることなんて到底出来んな!」
そこらの上級モンスターの攻撃をも防ぎきれる守備力のモンスターを前に超える事は不可能だと認めた幾人に修造が声を上げる。観客席の柚子が両手で真っ赤な顔を覆いながら「お父さん! 恥ずかしい事言わないで!!」と悲鳴を上げていた。
「でも、単純な攻撃力で越えるだけが芸じゃありません。僕は[
共鳴虫 攻撃力:1200
「攻撃力1200……それなら次のターン、ドレッドノートダンカーの餌食だぞ!」
「分かっています。狙いはこっちです! 魔法カード[強制転移]を発動! 互いのプレイヤーは自分の場のモンスターを一体選択し、選択したモンスターのコントロールを入れ替える! 僕が選択するのは共鳴虫!」
「ぬう! 俺の場にはカストディアンしか存在しない……」
幾人のコンボが決まり、幾人の場の共鳴虫が修造の場に、修造の場のカストディアンが幾人の場に移る。
「すごい! カストディアンをこんな手で突破するなんて!」
「痺れるぅ~!」
破壊ではなくコントロールの奪取による壁の突破。その上カストディアンの防御能力を今度はこっちが使用できるという一石二鳥のコンボにアユが歓声を上げ、フトシが身体をくねらせながら賞賛した。
「いや、あいつの狙いはまだ終わってない」
その横で遊矢は苦笑いを浮かべながら、そう漏らした。
「バトル! クロスソード・ハンターで共鳴虫を攻撃! クロスソード・バイト!」
「ぐあっ!」LP4000→3400
「戦闘によって破壊された共鳴虫の効果発動! デッキから攻撃力1500以下の昆虫族モンスター一体を特殊召喚する!」
「え? 共鳴虫って塾長の場で破壊されたんでしょ? なんでお兄ちゃんが効果を使ってるの?」
「共鳴虫のような戦闘破壊された時に後続を呼び出すモンスターの効果は墓地で発動するんだ。共鳴虫は元々泉のカードだから、当然泉の墓地に送られる。だから泉が効果を発動する事が出来るんだ……俺も何度かやられたよ」
幾人の宣言に疑問を持ったアユに遊矢が説明。その時にオッドアイズ・ドラゴンを奪われて押し付けられた共鳴虫を戦闘破壊され、戦闘ダメージとオッドアイズの効果ダメージを受けた上に後続のモンスターを呼び出された事を思い出して大きくため息をついた。
「一石二鳥、いや、このコンボを合わせて一石三鳥、ならぬ一石三虫か」
正面からでは除去不能なモンスターを相手の場から除去する一手、自分では除去不能だった強力モンスターを味方につける二手、そして押し付けたリクルーターの効果を利用して後続を呼び出す三手を無駄なく行ってみせる幾人のプレイングに、修造が一石二鳥の諺を幾人が昆虫族使いであることから言い直して評価してみせ、幾人もにこりと笑う。
「ありがとうございます。僕は攻撃力1000の昆虫族、[ゴキポール]を召喚し、追撃!!」
ゴキポール 攻撃力:1000
「ぐわあああぁぁぁぁっ!!」LP3400→2400
幾人の場に現れたのはボールのような丸い身体をしたゴキブリ──ゴキボールが四段に積み重なってまるでポールのようになっているモンスター。
その内の一番下のゴキボールがどこからともなく出現した丸めた新聞紙にまるでだるま落としのように打ち出されて修造に直撃、彼のライフを減らしていく。
「す、すっげー! 一気にライフが逆転した! 痺れるぅ~!」
ワンターンでライフポイントが逆転し、修造の場からモンスターが消える。対して幾人の場には高い防御能力を持つカストディアンに二体の昆虫族が存在。完全に状況が逆転しており、フトシがワンターンでの逆転に身体をくねらせる。
「僕はこれでターンエンドです」
「ふっ、なかなかやるじゃないか……俺のターン、このドローに全てを賭ける!! 超熱血ドロー!!!」
大逆転に己自身興奮を隠しきれないのか、冷静に見せながらも笑みやぎゅっと握る拳で興奮を示しながらターンエンドを宣言する幾人に、修造もふっと笑いながら、しかし負けじと気合を込めてカードをドローする。
「塾長の手札は六枚、だけど内二枚はファンタジスタとドレッドノートダンカー……」
「つまり、何か分かってないカードはあと四枚ってこと?」
遊矢が冷静に修造の状況を思い出し、アユが尋ねる。その四枚の未知のカードをどこまで駆使できるか、それが修造の勝機である。
「俺は[U.A.ファンタジスタ]を召喚! そしてリバースカードを一枚セット!」
U.A.ファンタジスタ 攻撃力:1200
再び彼の場に出現するファンタジスタ、その後ろに一枚のカードが伏せられ、さらに修造はこのターンドローしたカードをデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード[手札抹殺]! 互いのプレイヤーは全ての手札を捨て、新たにその枚数分ドローする! 俺の手札は三枚、これを捨てて三枚ドローする!」
「僕の手札は一枚、これを捨てて一枚ドローします!」
起点であるファンタジスタの召喚こそ行ったものの、ドレッドノートダンカーを捨ててまで三枚のドローに賭ける情熱に遊矢達がざわつく。
「超、超超熱血だぁ!!! ドロォー!!!」
修造の一気に三枚のカードを引き抜くドロー、その軌跡に炎が走ったかのようにも見えるほどの勢いに幾人もぞくりと震えながら捨てた手札の代わりの一枚のカードをドローする。
そして三枚の手札を見た修造がカッと目を見開いた。
「来た! 俺はリバースカード[戦士の生還]を発動! 墓地の戦士族、[U.A.ドレッドノートダンカー]を手札に加える! そしてファンタジスタ、選手交代! [U.A.ドレッドノートダンカー]を特殊召喚!」
U.A.ドレッドノートダンカー 攻撃力:2500
「すごい、保険を置いてたのか!」
ドレッドノートダンカーを捨てたのは仮の姿、実際はサルベージカードを保持しており、ファンタジスタとの交代で再びドレッドノートダンカーを呼び出すことに成功する。
熱血と声高に叫ぶもののその実冷静なプレイングに遊矢が歓声を上げ、そして修造は先ほど引いたカードの一枚をデュエルディスクに差し込む。
「これが俺の最後の切り札! 装備魔法[U.A.パワードギプス]をドレッドノートダンカーに装備!
このカードはU.A.専用の装備カード、装備モンスターの攻撃力・守備力は1000アップし、装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行う場合、相手に与える戦闘ダメージは倍になる。さらに装備モンスターの攻撃でモンスターを破壊した場合に発動でき、このバトルフェイズ中、装備モンスターはもう一度だけ攻撃できる! 他にも効果はあるが、そうすぐ必要な効果ではないから割愛させてもらおう」
U.A.ドレッドノートダンカー 攻撃力:2500→3500
「嘘でしょ!? こ、攻撃力3500!?」
「しかも戦闘ダメージ倍、ゴキポールに攻撃されたら連続攻撃されるまでもなく倍のダメージで泉は終わりだ!」
「また逆転!? すっげえぜ塾長! 超痺れるぅ~!」
アユが特大の攻撃力に驚き、遊矢がこのままでは幾人の敗北になると悲鳴を上げ、フトシが逆転に次ぐ逆転に興奮する。
「これで終わりだ! ドレッドノートダンカーでゴキポールを攻撃!! ドレッドノート・パワードダンクシュート!!!」
修造の指示を受けたドレッドノートダンカーが、パワードギプスによる強化を得てさらに大ジャンプ、両腕を掲げてダンクシュートの構えを取った。
そして振り下ろされた両手からバスケットボールが放たれ、まるで隕石のような勢いでゴキポールへと向かい、直撃したバスケットボールがポール状に積み重なっていたゴキポールを纏めて吹き飛ばした。
その衝撃波はデュエルスペース全てを包み込むほどの煙幕を生み出し、幾人達の姿を覆い隠す。
「泉ぃぃぃぃぃっ!!!」
思わず遊矢が悲鳴を上げる。その時、恥ずかしさから今まで顔を手で覆ってうつむいていた柚子が「え?」と声を漏らして顔を上げた。
「え、えと……遊矢……泉君、は?」
「泉は、塾長に……負けた……」
「そ……そんな……」
状況を把握してなかったのだろう、柚子が遊矢に問い、遊矢が歯を食いしばり悔しそうに答えると柚子は愕然とした表情になる。
実際は命を賭けているわけでもなんでもないデュエルなのだから別に負けたってなんでもないのだが、それでも真剣勝負のデュエルでの敗北はデュエリストとして悔しいものがあるのだろう。遊矢達はそれを案じていた。
しかし彼らは目を逸らすわけにはいかず、デュエルスペースを覆い隠していた煙幕が徐々に消え、デュエルスペースが確認できるようになる。
「はぁ……はぁ……」LP200
そこにはライフをギリギリで残している幾人の姿があり、遊矢達が「な」と声を漏らす。
「え……泉君、まだ負けてないじゃない?」
「いや、でも間違いなく……」
柚子も遊矢達の勘違いかと思うがダメージ計算上間違いなく幾人のライフは0になると遊矢も反論しようとする。
しかしそこで遊矢は、幾人の場に黒いシルクハットを被ってタキシードを着用したどこかコミカルな姿の蚊のようなモンスターがいる事に気づき、目を見開いた。
「あれは[スモーク・モスキート]!」
「知ってるの、遊矢兄ちゃん?」
「ああ。俺がこの前当てて、でも俺のデッキにはあまり合わなかったから泉とトレードしたんだ……イラストは結構好みなんだけどさ、
遊矢は納得いったようにうんうんと頷くが、柚子達は納得できないのかじろりと遊矢を見て無言のまま説明を求め、遊矢も両手を前に出して三人を抑え苦笑いしながら了解と頷いた。
「スモーク・モスキートは相手モンスターの攻撃で自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に手札から特殊召喚することで、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを半分にする効果があるんだ。
パワードギプスを装備したドレッドノートダンカーの攻撃力3500とゴキポールの攻撃力1000で戦闘を行えば、泉が受ける戦闘ダメージはその差、2500の倍、5000になるはずだった。だけどスモーク・モスキートの効果でその倍のダメージが結果的に相殺され、2500のダメージに軽減された。だから泉のライフは2700から2500引かれて200になったってわけさ」
「「「なるほどー」」」
遊矢の説明を受けたフトシ、アユ、柚子が納得したように頷く。
「なるほど、手札抹殺で切り札を引き込んだのは俺だけじゃなかったというわけか……だが、ゴキポールが戦闘破壊されたことは変わらない。よってパワードギプスの効果により、ドレッドノートダンカーはもう一度攻撃ができる!」
「いえ、スモーク・モスキートの効果はまだ続く。この効果で特殊召喚したダメージステップ終了後にバトルフェイズは終了する! バトルフェイズ自体が終了すれば連続攻撃効果も意味はない!」
スモーク・モスキート 守備力:0
「なに!?」
「さらに墓地に送られたゴキポールの効果発動! デッキからレベル4の昆虫族モンスター一体を手札に加える。僕は[
「なんだって!?」
「僕は手札に加えた[甲虫装甲騎士]を攻撃表示で特殊召喚し、その攻撃力1900以上の攻撃力、攻撃力3500のドレッドノートダンカーを破壊!!」
甲虫装甲騎士 攻撃力:1900
「ぐううぅぅぅっ!」
呼び出された昆虫騎士が剣を振るい、ドレッドノートダンカーを撃破。修造は唸り声を上げながら、強制的に入ったメインフェイズ2に出来る事は無いかと手札を見る。
(俺の手札は[U.A.ファンタジスタ]と[U.A.パーフェクトエース]と[U.A.ペナルティ]……ここまでか)
ここから逆転の手は残されていない。そう察した修造の心中に諦めが走る。
「……俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ!」
しかしデュエリストとして、そして娘の彼氏候補と父としての真剣勝負の中、
「僕のターン、ドロー!」
ターンプレイヤーの幾人がカードをドローし、キッと修造を睨みつける。
来る、と感じた修造も笑みを浮かべて頷いた。
「バトル! 全てのモンスターで一斉攻撃! 虫虫大行進!!」
「ぐああああぁぁぁぁぁっ!!!」LP2400→0
クロスソード・ハンターが十字の顎で修造を挟んで動きを止め、そこに甲虫装甲騎士の剣が修造を斬り裂く。
それと同時に修造のデュエルディスクから彼のライフがゼロになった事でブザーが鳴り響き、このデュエルの終結を示すのであった。
「いいデュエルだった!」
「こちらこそ、ありがとうございます」
修造と幾人はデュエルが終わり、歩み寄ると固く握手をして健闘を称えあう。フィールド外の遊矢やフトシ、アユもパチパチパチと惜しみない拍手を送っていた。
「それにしても、上級モンスターを全く使わずにここまでの実力とは思いもしなかったよ……どうだい、遊勝塾に来ないか? それなら君も柚子と一緒にいられるし、いいことずくめだと思うんだが」
「いいんですか!? ならぜひ──」
「やめなさい!!」
さらりと勧誘を始める修造と、柚子と一緒にいられるならと快諾しようとする幾人。しかしそれを柚子が遮り、ついでにハリセンで修造の頭をはたく。
「転塾なんてそう簡単に決めていいものじゃないでしょ! 親御さんとの相談とか色々しなきゃいけないし、大体泉君だって、LDSからこっちに移ってきても……こう言ったらなんだけど、授業のレベルとか下がるし……」
「僕は柊さんと一緒にいられれば、そっちの方が嬉しいんだけど……」
「っ……と、とにかく! その話はまた今度!!」
柚子はデュエル塾の転塾というデュエリストとしての将来が関わることを勝手に決めるなという正論の他、天下のLDSとボロの遊勝塾では受けられる授業のレベルだけでも段違いと正直認めたくない現実で説得を開始。
幾人のしょぼんとした、まるで捨てられた仔犬のような目を見せられて一瞬怯みつつも強引にこの話を締めさせた。
(大体、泉君と一緒の塾なんて心臓がもたないし……そもそもわざわざうちに来させてまでこの後振っちゃったりしたら責任取りようがないじゃない……)
自分に好意を持つと公言してる相手を自分を餌にわざわざLDSからレベルの劣る遊勝塾にまで来させておいて振ったりすれば完全に悪女である。
そうでなくとも告白されてから心なしか積極的にこっちの心臓にダイレクトアタックしてきてるような幾人の言動を塾でまで受けていては心臓がもたないと、柚子はある意味必死で幾人の転塾を諦めさせようとするのであった。
《後書き》
というわけで所謂後編的な第二話。お義父さんこと修造とのデュエル話でした。アニメで修造が使っていたガッツマスターだったかはOCG化されていないので、U.A.を使わせてみました。なんかこう選手と監督っぽいビジュアルで似合いそうだし。(雑)
ちなみにこのお話ですが、元々が「書いてたけど思いつかなくなって没にしてネタ帳纏めてるフォルダに放り込んでたのを発掘した」ものなので、めっちゃ昔に書いてたものです。入れてたWordの更新日時によれば「2019/12/04」となっているので、実際はそれよりも前の時点でお話は完成しててエタって場所を取るからとWordに放り込んだと見られます。
そのため「このカードよりこっちのカード使った方がよくない?」とか「なんでこのカード使わないの?」とかのご指摘を受けても、そのカードの登場時期によっては「書いてた時点ではそのカードがそもそも存在しなかった」という可能性がありますのでご了承ください。
流石に思いつきで「昔書いてエタった小説出してみよー」ってやったやつで完成してるデュエル構成練り直す余力はありません。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。もし好評だったら&もしこの後のネタが思いつけば、もしかしたら続きを書く可能性もありますが……あまり期待しないでもらえると嬉しいです。
基本としてはこのお話は今回で終わりだと思っていただければ幸いです。それでは。