かみさまのいうとおり   作:YouCan@毘

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かみさまのいうとおり

ウマ娘。

人に似た姿をしているが、その身体能力は人の何倍もある種族。

あるものはその身体能力を生かして力仕事に従事し、またあるものはその美貌をもってモデルや役者などの芸能関係で輝いている。

だが彼女たちの本当の魅力は「走る」ことにある。

レースにおいて互いに互いを高めあい、しのぎを削り、一つしかない栄光をつかみ取ろうとする。

その力強い走りは誰をも魅了し、白熱させ、人々の目を離さない。

 

日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園。

数多く存在するウマ娘達の中でも、特に優れた走りの才能を持った者だけが入学できる狭き門。

彼女たちはそこでトレーナーという育成担当者と共に、自分を鍛え、才能を開花し、大舞台へと立つことを夢見る。

 

 

何処にでもいる一般家庭の三人兄妹の長男として生まれた俺も、幼少の頃に観たウマ娘達のレースに完全にハマってしまった口であり、

当時は「俺も将来はウマ娘達とレースに出て一緒に走る!」などととんでもない勘違いをして、毎日公園を走り回ってたりしていた。

今思えば非常に恥ずかしい黒歴史だ。

その後はトレーナーという仕事を知り、中学から勉強を始めて、一浪したもののトレセン付属のトレーナー大学に入学。

一人暮らしの貧乏生活も経験して…

艱難辛苦の末、このトレセン学園の新米トレーナーになれた訳だ。

そんな俺が、今何をしているかというと…

 

 

「おろろろろろろろろろろろろろ」

 

トイレで口から虹を出していた。

 

 

自分が担当したウマ娘達が重賞レースを走り、見ている人たちを熱狂させ、果てはG1レースで優勝する…

そんな素晴らしく輝かしい未来が待っていると信じていたのだが、

選抜レース当日の土壇場になっていきなり怖気づいてしまったのだ。

 

…だってさ、自分の指導一つで彼女たちの人生が決まるんだよ?

希望に溢れた担当のウマ娘に自分がしょっぱいトレーニングをしたせいで、レースで一度も勝てず失意のまま学園を去っていく…

かといってレースに勝たせようと無理な指導をして、前途ある有望な子にケガをさせてしまい、一生走れない体にしてしまう…

そんな未来を想像をしてしまい、今になって不安と重圧と責任感が一気に襲い掛かってきた訳である。

当然、在学中にトレーナー科の教員に同じような事を何度も言われてた話なのだが、若気の至りか大して気にもしていなかった。

…いや、今でもまだまだ若いけどさ。

家族でもないのに人様の人生の手綱を引くんだぞ?自分の手腕一つで天国と地獄だよ?

真面目に考えてなかった当時の自分をぶん殴りたい気持ちでいっぱいだよ!

 

あ、マズイ、また色々とこみ上げてきた。

 

 

胃の中を空っぽにしてようやく落ち着いた。

そもそも今は就労時間、本来ならこんなところで口から汚い虹を作ってる場合ではないのだ。

選抜レースも見ない、スカウトもしない。そんな職務放棄してるトレーナーの居場所などココにはない。

給料を貰っている以上トレーナー職も立派なサラリーマン。

スカウトもトレーニング指導もトレーナーのお仕事。そう、国民の義務なのだ!!

そう自分に言い聞かせながら、選抜レース会場に無理矢理足を向ける事にした。

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

いやー、今回の選抜レースはすごい。すさまじい輝きを放つダイヤの原石がゴロゴロしてる。

素人に毛が生えた程度な新米の俺でもわかる、「彼女たちは本物だ。未来のスターだ」と。

さっきまでプレッシャーに押しつぶされそうだった自分が、思わず声を掛けてスカウトしようとしたぐらいだ。

まぁ、結果はお察し。世の中そんなに上手くいかないのだ。

 

 

─そんなスカウト風景の一部抜粋─

 

 

「私、日本一のウマ娘になるのが夢なんです!!」

 

「目指すは世界最強デース!」

 

(あ、無理、眩しい。声掛けるのもツライ)

 

「申し訳ございません。自分に納得がいっていませんので、

 今は誰のスカウトもお断りしています」

 

「アッハイ」

 

「この一流のキングのトレーナーになるのだから、当然貴方も一流のトレーナーなのよね?」

 

「え!?いや俺、今年トレーナーになりたての新米だから、いきなり一流とか無理無理!

 よくて二流、いや三流かなーハハハ」

 

「…このおばか!へっぽこ!」

 

 

 

いや、これ相手の夢や理想が大きすぎて、ビビッて自分から逃げ出しただけだ。

そりゃへっぽこと罵られて当然。逃げ腰及び腰、弱気でヘタレな自分がイヤになる。

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

「…さすがにこのままじゃマズいよなぁ…」

 

 

帰宅途中で思わず独り言をつぶやいてしまう。

あの後も何人かのウマ娘に声を掛けるも、怪しい薬の実験体にされそうになったり、赤ちゃんにされそうになったり、

見えない「おともだち」とやらが見てたり、海釣りに拉致られかけたり…まぁ、いろんな意味で散々な結果だった。

 

 

「いやー、さすがにこのままじゃマズいよなぁー」

 

 

同じ独り言を繰り返す。解かっている。全部自分が悪い事ぐらい。

彼女たちの夢を提示され、その大きすぎる夢に怖気づいて逃げてるだけだって。

 

だから自分が変わるしかない。

 

それこそ「俺は一流のトレーナーを目指す男!そしてその担当は一流のウマ娘、キングヘイローだ!」

と公衆の面前で堂々と宣言できるぐらいに!

…いや、コレは無理だろ。有マ記念でダート専門ウマ娘を優勝させるレベルの鬼畜難易度だ。

せめてこう…日本ダービーで勝ちたい!とか、春と秋の天皇賞を両方制覇したい!とか、その辺りの目標の子を…

ん?本来重賞で優勝するだけでも十分凄い事なのに、ダービーで勝たせる?新米の俺が?…出来るのか?

あ、またヘタレてきた。いかんいかん弱気になるな気合い入れろ俺。

そんな感じで頭の中をいろんな考え方でかき回しながら歩いていたところに、神社への道標看板が目に入った。

 

 

「…困ったときの神頼みっての、悪くないか…よし」

 

 

思い立ったが吉日と、道標通りにある山の上の神社に足を運ぶ事にしたのだが…。

今思えば、これも神様の思し召しだったのかもしれない。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

「その胸のバッヂはトレーナーの証拠!あなたが!あなたが私の運命の人ですね!?」

 

「………はい??」

 

 

鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした俺に向かって、ググッと距離を縮めてくる目の前の少女。

…よし、冷静になれ俺。現実から逃げるな。

どうしてこうなったのか少し前の記憶を整理しよう。

 

 

 

~十数分前~

 

神社に続く長い石段を昇り、膝に手をついて息を落ち着かせる。

…思った以上に高かった。

そんな場所にあるせいか、足を運ぶ人も少ないのだろう。神社の境内には誰もいなかった。

そもそも正月や祭り等の行事でもなければ、観光名所でもない神社に来る人も少ないか。

ようやく息も落ち着いたので、ふぅと一息入れて境内に向かう事にした。

 

鳥居の真ん中は神様の通り道なので端を通る。

手水舎の水で手を洗って、後の人の為にひしゃくも洗っておく。うひー、水が冷たい。

お賽銭箱にお賽銭を入れて…げ、500円玉しかない…えぇい持ってけ!

その後は鈴を鳴らして二礼二拍手一礼。

トレーナーとして強い心を持てますように。あと自分と相性のいいウマ娘の担当ができますように…。

都合のいい考えだとは思いつつも、自分の嘘偽りない本心をそのままお願いする。

 

さて、お参りも済んだし、あとはおみくじでも引くかなーと振り返った瞬間、

 

 

「・・・え?」

 

 

目の前に見知らぬ少女が立っていた。

 

 

そして冒頭のやり取りに戻る。

端的に整理すれば『神社にお参りしたら、知らない女の子が現れて運命の人だと声を掛けられた』だ。

うん、やっぱり理解が追い付かない。

 

 

「ああ、やはりシラオキ様のお告げは正しかったのですね。ここまで完全に一致する方が現れるとは!!」

 

「………や、人違いです。それじゃ」

 

 

関わったらヤバいと本能が告げたのでそそくさと逃げようと思ったが、残念ながらそう甘くはなかった。

 

 

「ああああああ!?待って!?待ってくださいトレーナーさぁーん!!」

 

 

がっしり手首を掴まれてしまい動けない…って力強っ!?

 

 

「お願いします!お話だけでも、少しだけでいいから聞いてくださぁい!!」

 

「わかった!わかったから手を離してくれ!痛い痛いマジでつぶれる!!」

 

「…あ、すみません!」

 

 

手を離した彼女は、少しバツの悪そうな顔で微笑んでる。笑ってごまかしてるとも言うが。

そんな彼女をよく見ると、オレンジ色の短めの髪の上にピンと立ってるとがった耳、腰のあたりで揺れる長い尻尾。

人懐っこそうな愛嬌のある顔、目は期待と希望に満ちてキラキラ輝いている。

そして何より昼間よく見たトレセン学園の藤色の制服。

なるほど、間違いなくウマ娘だ。そりゃ力も強い。間違いなく足も速い。うん、フィジカルでは絶対逃げられないな諦めよう。

危うく握り潰されそうになった手首をさする。ちょっと痣になるかも。

 

 

「…で、君は一体誰なの?あと運命の人ってどういう事?」

 

「申し遅れました!私の名前はマチカネフクキタルと申します。運命の人というのはもちろん貴方、トレーナーさんの事です!」

 

「うん、君の名前はわかった。だが運命の人についてはさっぱりわからん。詳細を希望する」

 

「それでは説明させていただきますね。あれは三日前の夜の事です…」

 

 

長くなりそうだ。

 

 

「私の夢の中にシラオキ様が現れて、

『三日後の夕方、

 この神社に鳥居の端を通り、

 手水舎の水で手を洗った後ひしゃくも洗い、

 お賽銭箱に500円を入れて、

 鈴を鳴らした後、

 二礼二拍手一礼するトレセン学園のトレーナーが現れます。

 その方こそ貴女の運命の人でしょう』

 というありがたいお告げを頂きました!」

 

 

それほど長くなかった。いやお告げの内容は長かったが。

 

 

「ずいぶん具体的なお告げだな」

 

「むっふっふー、何せシラオキ様のお告げですから!」

 

 

凄いなシラオキ様。一体何者なんだ。

 

 

「そしてお告げの日から三日後である今日の夕方、

 この神社に鳥居の端を通り、

 手水舎の水で手を洗った後ひしゃくも洗い、

 お賽銭箱に500円を入れて、

 鈴を鳴らした後、

 二礼二拍手一礼するトレセン学園のトレーナー、

 すなわちあなたが現れました。

 正にお告げの通り!これはもう運命としか言いようがありません!」

 

 

俺の行動の一部始終を見ていたかのようにぴったりと当てはまる。

お賽銭の金額まで的中してるのだ。予言というよりもはや予知だ。

…一部始終をこっそり見ていて、それをただ当てはめてただけなのでは?

そんな自分の考えなど何も知らないまま、マチカネフクキタルはこう言葉を続けてきた。

 

 

「なので是非とも、あなたに私の担当トレーナーになって欲しいのです!」

 

 

 

…今、この子はなんて言った?運命の人ってそういう意味か?

いやいや、俺に担当トレーナーになって欲しい?

そんな夢か妄想かもわからないお告げとやらを信じて?

ド素人に毛が生えた俺を、逆スカウトしているのか?

 

思考が渦巻いて軽い眩暈を覚えた。

もう一度彼女の顔を見る。

何の疑いもなく、後ろめたさもなく、まっすぐ期待に満ちた目で俺の返事を待っていた。

 

 

「あー、なんだ…百歩譲ってそのお告げが正しいとしよう」

 

「譲って下さらなくてもシラオキ様のお告げは正しいですよ」

 

 

よくわからない反論をされたがあえて無視。

 

 

「それで、君は俺に担当トレーナーになってもらいたいと」

 

「はい!その通りです!」

 

「…君はそれでいいのか?」

 

「…はい?」

 

「俺は今年からトレーナーになった、卵から生まれたばかりのひよっこ…

 いや、むしろ羽化もしてないトレーナーの卵なんだぞ?」

 

「はい」

 

「そんな俺に、君はこれからの…自分の将来を任せられるのか?」

 

「もちろんです!」

 

 

即答だった。何の迷いもなく肯定された。

…驚いた。このマチカネフクキタルという少女は、

自分の未来を左右する存在である担当トレーナーを、

なんとか様のお告げで決めようとしているのだ。

 

 

…正直なところ困惑している。

しかし、かたや神社に神頼みにやってきたトレーナー、かたやお告げのトレーナーを探していたウマ娘。

そして、どこまで本当なのかわからないが、お告げ通りの行動を完璧になぞっていた俺。

 

ここまで一致してるなら、運命だと思って乗っかってしまうのもアリかな。

そんな風に思えてきたのだ。

 

 

「…あの、トレーナーさん…何か言ってくれませんか?私、緊張で口からおみくじ出ちゃいそうです…」

 

 

どうやら少し考え込んでいたようで、不安な顔でアワアワしながらフクキタルはこちらを見ていた。

 

 

「おっと悪かった。そうだな、担当トレーナーの件、受けてもいい」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!んふー!これで怖いもの無しです!千客万来、果報は寝て待て、ハッピーカムカム福よこーい!」

 

「ただし!新米とはいえ俺もトレーナーだ。選抜レースに出場していないウマ娘のトレーナーにはなれないからな」

 

「ふぎゃー!?そんなぁー!……いやいや、それもそうですね。選抜レースに出ないとトレーナーと契約出来ませんし…」

 

 

顔を真っ青にしたと思ったら自分で勝手に納得して、また笑顔に戻る。コロコロと表情の変わる子だな。

 

 

「わっかりました!大安吉日、おみくじ大吉、星座占いで一番いい結果の日の選抜レースに出場しますのでそれまでお待ちください!」

 

「いやいやいやそれは待たせすぎだろ!?こういうのは思い立ったが吉日!直近のレースに出場してもらうからな」

 

「そそそそそんなぁ!?せめて、せめてラッキーナンバーである7のつく日とかで!なにとぞ、なにとぞぉー!」

 

 

 

この日、俺はマチカネフクキタルの担当トレーナーになった。

短期間でのやり取りだけだが、何となく彼女と一緒にいると楽しくなると感じている。

彼女の未来がどうなるのか、それは自分次第。プレッシャーは確かにあるが、以前ほどの苦しさは無い。

 

きっと大丈夫だ。

根拠はないけど、そんな自信がいつの間にか湧いて出てきていた。

 

 

 

「ところでさ、シラオキ様って何?」

 

「おおー!よくぞ聞いてくださいました!シラオキ様はですね、私の夢に現れてありがたいお告げを下さる素晴らしい神様なのです!」

 

 

シラオキ様、イマジナリー神様だった件。やっぱりこの子ヤバくない?

 

 

「幼い頃からよく夢に出てきてお告げを下さり、その通りに行動すれば順風満帆運気上昇…ってあ゛ー!そんな胡散臭いモノを見るような顔しないで下さいー!」

 

 

どうやら顔に出てたようだ。

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