かみさまのいうとおり   作:YouCan@毘

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すぎたるは およばざるがごとし

「トレーナーさん!G1ですよG1!!」

 

 

大きな音を立ててトレーナー室の扉が開いた瞬間飛び込んできたフクキタルの爆音声に思わずむせる。

いつも以上に目を輝かせてやってきた昼食中の来訪者は、涙目の俺にも構わず口から言葉の弾丸をガトリング砲の如く浴びせかけてきた。

 

 

「まさかまさかの私ごときがジュニア期G1デビュー…!あぁ、まるで夢のよう…これもトレーナーさんとシラオキ様と、あと沢山の開運グッズのおかげ!もう色々と足を向けて寝られません!あー、でもそれじゃ直立不動じゃないと眠れないですねー。それでですねトレーナさんトレーナーさん!今日はレース当日の運勢を占う所から…って、聞いてますかトレーナーさぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「でっけぇ声出すな!聞こえてるわ!!」

 

 

気管に入ったうどんとの激闘を終えてようやく声が出せた。

あー…うどんの欠片が鼻の奥に残ってて気持ち悪い…ティッシュティッシュ。

 

ジュニア期唯一の中距離G1レース、ホープフルステークス。

前回の京都ジュニアステークスの掲示板入着もあり、フクキタルの出走は割と優先的に進める事が出来た。

現実的な話をすれば、他の上位勢のウマ娘達が出走を見送ったのも助け船になったところもある。

特にハッピーミークの欠場が大きかった。

誰もが年末の芝G1への出場を信じて疑わなかったところに、まさかのダートレース、全日本ジュニア優駿への挑戦を発表。

おそらく今後の海外レースに目を向けたものだろうと今も話題になっている。

 

まぁ、何はともあれフクキタルのG1出場は確定。新人トレーナーとしては快挙の出来事であり、フクキタルと併せて俺自身もちょっとした渦中の人となっていた。

なもんで雑誌の取材やらインタビューやらテレビやラジオの出演やら…様々な依頼が少なからず飛んでくる現状である。

ただトレーニングに集中させたいからと一つを除いて全部断っている。

正直なところ実感がない。なにやらとんとん拍子に進んでしまって地に足付かず雲の上でふわふわと漂ってる気分である。

実感が湧き次第プレッシャーでガッチガチになりそうだが、現状もふわふわタイム実施中なのだ。

同僚や先輩方の視線がちょくちょく痛いけど。

 

そんな自分の考えも知ってか知らずか、目の前の担当ウマ娘は一人でふんにゃかはんにゃか口走っているんだが…

 

 

「なぁフク、一つ気になる事があるんだが」

 

「はい?」

 

「何で今日こんなテンション高いんだ?」

 

 

フクキタルには数日前既にホープフルへの出走決定は伝えてるのだが、その時の返事は『おぉー、やりましたねぇー』程度であった。

互いに実感があまりない者同士なのだろうかなどと考えていたのだが、今日になってこのとんでもないテンションである。

時間が経って実感が湧いてきたのか…?いや、この興奮度的に見ても別の何かあったに違いない。

 

 

「むっふっふっふ~、それはですねぇ…昨日の夢にシラオキ様が現れまして、

『次走のホープフルステークス、さらなる試練が待ち構えている。その試練を乗り越えれば、きっと新たな自分の力に目覚められるだろう』

 といったお告げを頂きました!」

 

「マジか」

 

「大マジです!」

 

「そっかー」

 

「シラオキ様からのありがたいお言葉!これはもうトレーナーさんに是非とも伝えたいと思いましてですね!…試練については、あっちに置いておいて」

 

 

その『あっち』の方向は俺の机なんだが。…まぁいいか。

俺の机の上に置いておかれた試練を横目に興奮冷めやらぬフクは、それまで大事に抱えていた紙袋をこちら出してきた。

 

 

「そうですそうです、お告げの話だけではなくてですね?今日の今のこのタイミングで来たんですよ来ちゃったんですよコレが!」

 

「何だソレ?」

 

「デザイン考案私!細部修正職人様!GOサイントレーナーさんによる、私の!私だけの勝負服でございますよー!!」

 

「おぉ!完成したのか!」

 

「いえいえ、今届いたのは試作品でして、コレで問題なければ本作成といった感じみたいですね」

 

「なるほど…いきなり完成作で出して『コレジャナイ』ってな事になったら大変だからな。流石プロだ、違うなぁ…」

 

 

勝負服。G1レースに出場するウマ娘だけが袖を通せる特別な衣装。

それはレースを走るウマ娘達の憧れの一つだ。

たった1度でもこの服を着て走れるウマ娘は全体の一握り。それだけでも名誉ある勲章と同等の物。

レースを引退したウマ娘が大事に額に入れて飾っているところを一度だけ見たことがある。

なるほど、フクがテンション爆上げになるのも無理はないな。

 

勝負服の作成についてはホープフルステークスへの出走が決まってから直ぐに話が飛んできた。

デザインやら素材やら硬さ柔らかさ、はたまた装飾品だのなんだの事細かに決められる至れり尽くせりな状況!

…その癖に期間が短いからって理由で、2日でデザインを出してくれというまさかのデスマーチだったのだが。

 

あの時あーだこーだと大騒ぎしてデザインした勝負服を着て、年末のレースを俺の担当が走るのか…

…うーん、まだ実感が湧かない。夢とかドッキリじゃないのコレ?

 

 

「それでですねトレーナーさん、今から試着してみたいんですけど…」

 

「…おう、そんじゃ外にいるから着替えたら呼んでくれな」

 

 

そう言いながら俺は外への扉に手を掛けた。

…そろそろ更衣スペース作るか?いや年頃の少女がすぐ横で着替えとかやっぱりマズいよな、うん。

俺が出ていけばいいんだから問題ない問題ない。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

「トレーナーさん、お化粧直し終わりましたー!」

 

 

待つこと数十分、扉の向こうから元気な声が飛んできた。

化粧直しって…披露宴かよ。いやある意味お披露目会ではあるか。

それにしても長かった。女性の着替えってのはこんなにも時間が掛かるのだろうか。

男なら正装でも下着着てシャツ着てズボンはいてネクタイ締めて上着を羽織ってハイお終いなんだが。

……色々とあるんだろうきっと。

 

 

「それじゃ入るぞー。大丈夫かー?」

 

「はい!何も問題ありません!」

 

 

返事はあったが一応ノックしてもしもししながら扉を開けると、そこには

 

問題しかない格好の担当バがドヤ顔で謎のポーズを決めていた。

 

 

「おい」

 

「ハイ!何でしょうか!」

 

「なんだその恰好は?」

 

「もちろん見ての通り私の勝負服姿ですが」

 

「違うだろ!?元はシンプルなセーラー服風だっただろ!そんで上着の襟と同じ青色のベースに赤と白のラインが入ったプリーツスカートだったハズだ!」

 

 

元のデザインは間違いなくそんなデザインだった。何度も見直して手直しして締め切りギリギリに提出したんだから疑いようもない。

それが何をどう間違えたのか、腰回りには絵馬だのキーホルダーだのがこれでもかとくっ付いていて、まるで甲冑の腰鎧みたくガチャガチャ言っている。

首には水晶のような透明な丸い球を数珠のようにつないだネックレスが三重に連なってるし、上着のセーラー服にも開運と書かれたバッヂだの大吉と描かれたワッペンだの所せましと付いている。

肩口からは謎の紐が垂れており、そこにはこれまた謎のお札だの大吉のおみくじだのがヒラヒラと。

パッと目に付いたのを並べただけだが、それ以外にも何だかよくわからないモノが色々付いており、何とも言えないカオスな恰好となっている。

おまけに背中には招き猫を背負ってて…

もはや「発見!トレセン学園に現れた珍生物!!」状態だ。

 

 

「元のデザインは確かにそうです。ムッフッフー…ですがこれらがマチカネフクキタル流なんです!」

 

「…要はその勝負服をベースに好き勝手色々くっ付けたという事だろ」

 

「流石はトレーナーさん、ご理解が早い!これらは私が厳選に厳選を重ねて選び抜いた名誉ある開運グッズの数々でして」

 

 

頭が痛くなる。

何が悲しくてこんなデッドウェイトを大量に身にまとってG1レースに出さにゃならんのだと。

問題はそれだけじゃない。お手製の外付けパーツは当然素人のフクが付けたモノ。ウマ娘のレースに耐えられるとは到底思えない。

それらがレース中に外れて他の走者に影響が出たら一大事だ。

降格処分は免れないし、下手すりゃ怪我を負わせてしまう可能性だってある。

 

 

「却下だ。外せ外せ」

 

「なんと!?」

 

「理由その一、素人の外付けグッズジャラジャラな衣装が査定を通る訳ないだろ。その二、その改造で勝負服の重量いくつになった?漫画の修行道着じゃないんだぞ。

 その三、レース中にその開運グッズが外れて後ろの走者に当たったらどうする?その四、そもそも見苦しい。その五…」

 

 

俺がその改造勝負服の問題点を一つずつ挙げていく度、フクはヘンな声を上げてダメージを受けていく。

その八辺りを言おうとした頃にはグロッキーな表情となっていた。

 

 

「ぐにゃあああ…トレーナーさぁん、これ以上の正論パンチはもう許してくださいぃ…」

 

「だったらそんだけツッコまれるような改造をするな!」

 

「で、ですけど!それらを補って余りある開運パワーが身についているので、きっとデメリットは帳消し、いやそれ以上に…」

 

 

それでも尚食い下がろうとするフクキタルの言葉の最中に

 

 

 

『パチンッ』

 

 

 

と何かが弾ける音が部屋に響いた。

何の音かと二人して顔を合わせ頭に?を浮かべていたら、ジャラッと音を立てて

 

フクのスカートが落ちた。

 

 

「…あー、さっきの音はボタンかフックだかが重量オーバーで弾けた音か?無茶な改造が祟ったんだな」

 

「あ、あ、あ、あ、あ」

 

「ほらアレだ、レギンス履いててよかったな、うん。やっぱりグッズは減らさないとマズいだろ?全部とは言わないけどせめて2、3個ぐらいにしておいてだな…」

 

 

俺のフォローになってない必死のフォローの甲斐も無く、どんどん顔が真っ赤になっていくフク。

俺は俺で大丈夫普段も短パンで走ってるしそれがレギンスになっただけだから卑猥じゃない助平な事はないと必死に冷静さを保とうとしていて、正直何言ってるかよくわかってなかったり。

そしてフクキタルはそのまま羞恥の限界に達したのか

 

 

「ふんぎゃーー!!トレーナーさんのバカぁー!!」

 

「理不尽ッ!?」

 

 

思いっきり両手で突き飛ばされノーバウンドで部屋から追い出された。というか、吹き飛ばされた。

そのまま廊下の柱に背中を強かに打って悶絶する。

 

…こ、これ…俺、悪くないよな…?

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

その後は冷静さを取り戻したフクキタルの謝罪を受けつつ、勝負服の開運グッズの数や付ける場所についての話し合いを続行。

背負った招き猫(フクキタル曰く「幸運を招く守り神リュックのニャーさんです!」との事)でさらに一悶着あったものの、ようやくマトモな勝負服が完成した事を記しておく。

 

 

 

 

『八方睨みのヒントがLv1になった!』




幕間と合わせるつもりが長くなったので分割
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