かみさまのいうとおり   作:YouCan@毘

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妄想は出来ているけど、アウトプットの時間が足りない…

不定期ですが頑張ります。


しょせん しんまいトレーナー

 

眠れない。

 

フクキタルのメイクデビュー戦前夜、俺はホテルのベッドの中で何十回目の寝返りをうった。

 

彼女のデビュー戦は阪神レース場で、当日移動でもなんとかなる距離ではあるが、万全を期して前泊を慣行。

宿泊代は必要経費としてトレセン学園に申請できる。ありがたい事だ。

 

フクキタルの調子は悪くない、むしろ上々の仕上がりになったと思っている。

本番前にケガをさせないため、また疲労を残さない為に、

数日前から彼女へのトレーニング指示を軽めの調整メニューにしていたが…。

 

(本当にこれで万全なのか?まだ何か足りない事、出来ることは無いか?)

 

頭の中で膨れ上がっていく不安と焦りに押しつぶされそうになっていく。

 

(トレーニングもあれでよかったのか?もっと効果のあるやり方があったんじゃないか?)

 

今までやってきた事への猜疑と後悔も上乗せされていく。

 

…だめだ。一睡もできそうにない。

一度出てきた負の感情は簡単には消えてくれない。

このまま布団に包まっていても、不安が雪だるま式に膨れ上がってしまうだけだ。

 

ならば、フクキタルの為に出来ることをやろう。

 

思い立ったら即行動。被っていた布団を跳ね上げ、部屋の明かりを点け、仕事に使っているノートPCを立ち上げる。

出走レースのコース確認、トレーニングの成果のデータ整理、今後の為の新しいトレーニングの研究…

トレーナーとしての仕事をしている時だけは、この押しつぶされそうな焦燥感に打ち勝つことが出来る。

 

ははははは!

足りないと思うなら、今この時間で埋めてしまえばいいのだ!

今俺は出来ることをやっている、不安なんてあるものか!

もう何も怖くない!!

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

朝日はとうに昇りきり、待ち合わせ15分前になった午前8時15分。

俺はキーボードの跡を顔に付ける作業を続けていた。

焦燥感に勝利するも、その後の睡魔に敗北した結果がコレある。

 

 

「うひひ…よくやったぞ…フクキタルぅ…お前がナンバーワンだ…むにゃむにゃ」

 

 

スマホの目覚ましアラームにも気付かず幸せな寝言を垂れ流す俺。

このままだとナンバーワンどころか出走取消になるぞ。

モニターには今も意味不明な文字列が撃ち込まれ続けている…

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

「おぉう、トレーナーさんの髪スゴイ事になってますね。新しいゲン担ぎですか?」

 

「…ただの寝癖だから気にしないでくれ」

 

「寝癖ですか…そんな強烈な寝癖を放置したって事は…ははぁ、さてはお寝坊ですね?」

 

「…待ち合わせ時間には間に合ったからセーフ」

 

「うーん、長時間審議ランプが点灯しそうなセーフですねぇ」

 

「…返す言葉もない…」

 

 

俺たちは今、タクシーに乗ってレース場に向かっている。

今朝の件については、結論から言うと待ち合わせ時間には間に合った。

ただ時間に間に合ったってだけで、身支度は完全に省略。

故に髭は剃れてないし、髪は寝癖で漫画の主人公みたく跳ね上がってるしでかなり見苦しい。

辛うじて顔を洗えただけでも良しとしよう。イヤよくないけど。

 

 

「…すまん。せっかくのメイクデビューの日にトレーナーの俺がこんな体たらくで…」

 

「いえいえ問題ありません!本日は六曜で言う先負なので午前中はパッとしないのは仕方ないです。

 レースは午後ですし、後半から運気が上がる先負は運気的にもバッチリです!」

 

「…そう言ってくれると助かるよ」

 

 

そもそも余裕を持った会場入りを目指してたし、よほどの事故でも起きない限り現場入りに遅れる事は無い。

今の俺は大切な日に寝坊したという自己嫌悪で凹んでるだけだ。

 

 

「そうです!学園に戻ったら絶対に寝坊しないお守りをご用意しましょう!」

 

「えぇ!?また俺の部屋にガラクタを増やすつもりか!?」

 

 

お守りと聞いて思わず身構えてしまう。

彼女の用意する代物は、色々とアレなのだ。

 

 

「がががガラクタなんかじゃありません!!今度のは本当に効果抜群、お目覚めバッチリな目覚まし時計ですから!」

 

「意外と普通なモノが出てきた」

 

「まぁ…アラーム音が大きすぎて寮で使うと隣三部屋先からもクレームが来てしまうんですけどね」

 

「騒音公害過ぎて何処で使えるんだよソレ…やっぱり今までと同じガラクタじゃないか」

 

「そんなことありませんよ!今までお渡ししたのも霊験あらたかな開運グッズなんですよ!?」

 

 

こんな感じで、事あるごとに俺に謎の開運アイテムを押し付け…もとい、プレゼントしてくれる。

どこからどう見てもガラクタでしかないモノまで渡してくるので部屋がカオスな事になってきているのだ。

100%善意なんだろうし、彼女にとっては大切なものなのだろうが…。

ちなみに以前話してた黒猫除けのお守りとやらは、某宅急便の不在者通知書だった。

黒猫除けというか、呼んどいて追い返したというか…。

 

 

「その大切な開運アイテムとやらが寮の自室に置ききれなくなって、ルームメイトに怒られたらしいな」

 

「うぐっ!?ど…どこからその話を…」

 

「そして処分するのも気が引けるから、幸運のおすそ分けだのなんだのと言って友達に配ってると」

 

「ひいいいい!?もしやトレーナーさんは千里眼の持ち主!?」

 

 

生徒会室の隅に鎮座している信楽焼の狸、パワートレーニングで使うタイヤの上で輝いてる大きな金色の鯛の置物…

最近になって増えたこれらは、全部フクキタルの「幸運のおすそ分け」の品々だ。

なぜ知ってるかって?受け取った方々が自分に相談しに来ましたから。

 

 

信楽焼の狸については生徒会長のシンボリルドルフが

 

「せっかくの友人の好意を無下にするのも失礼だ。生徒会室に飾っておけばいい」

 

と、器の広い解決案を出してくれたのでお言葉に甘えることにした。

…狸を受け取った本人、生徒会副会長のエアグルーヴは最後まで渋い顔をしていたけど。

 

「他を抜きんでるべし、狸だけに…ウマ娘にぴったりではないか。フフッ」

 

退室時に生徒会長様が何か言ってた気がするが気のせいだろう。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「そもそも狸だの鯛だのなんでそんな代物を買ってくるんだ?」

 

「それはもちろん開運アイテムですから!今日のラッキーアイテムは信楽焼の狸!金色の鯛は非常にめでたい!

 この程度の出費で運気が上がってレースに勝てるなら安いものです!」

 

「うん、今後は大きいものや高いものを買う前に相談してくれ。いや、しなさい」

 

「ほほう?なるほどなるほど…トレーナーさんも開運グッズに興味があるのですね?」

 

「違う!」

 

 

この子、そのうち変なツボとか買わされないか心配だ。もう鯛の時点で手遅れかもしれないけど。

雑誌の裏表紙によくある幸運アクセサリ等の広告は極力見せないように気を付けよう…。

 

そんな事を決意してる間に、タクシーは目的に到着した。

 

 

阪神レース場。今日のメイクデビュー戦の会場、フクキタルの初陣。

ここでの結果によって、彼女の道が大きく変わっていくのだ。

…否が応でも緊張感が高まってくる。

それは隣にいるフクキタルも同じだろう。

 

 

「おほー!?トレーナーさん!今日のおみくじアプリの結果は一回目で豪華絢爛超特大吉です!

 今日のメイクデビューは勝ったも同然ですね!」

 

 

同じ…じゃないかもしれない。

 

とにかく決選である。ここまで来たら今更ジタバタしても仕方ない。

 

 

「レース、頑張って来いよ」

 

「はい!宝船に乗ったつもりでいてください!!」

 

 

後は、彼女を信じるだけだ。




余談

金色の鯛の置物のゆくえ


「ゴールドシップさん!!何なんですのこの鯛の置物は!?」

「おーマックちゃん。どよ?ゴルシちゃん特性のパワートレーニング用タイヤカスタムの出来映えは」

「訳が分かりませんわ!?どうして鯛の置物がタイヤの上に乗っかってるんですの!?」

「いやな?スズカがあの鯛の置物どうするか悩んでたからよ、このゴルシ様が一肌脱いであげたってワケよ。
 やだーゴルシちゃんったらやっさしぃ~」

「わたくしは!その鯛の置物がなんでタイヤの上にしっかり固定されてるのか聞いてますの!!」

「いやー、苦労したんだぜー?特に夜になると七色に光るカスタマイズとかさー。
 ホントは変形機能も付けようと思ったんだけどよ、途中で飽きた」

「話を聞きなさい!!」

「なになにどうしたのマックイーン?うわーなにこれー!カッコイー!!」

「うわ、なんだコレ!超カッケーじゃん!!」

「珍しく意見が合うじゃない。やっぱり一番になるには他と違うってところがないと」

「ですね!!」

「よーし多数決!このゴルシ様スペシャルタイヤはこのままにけってーい!!」

「ウソでしょ…?」



「何でタイヤの上にタイやねん?いや、他意はない…フフッ」

「会長…」



チームスピカのパワートレーニングのLvが上がった!
シンボリルドルフのやる気が上がった!
エアグルーヴのやる気はこれ以上下がらない!
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