かみさまのいうとおり   作:YouCan@毘

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このあたりから史実もゲームのルートもがっつり無視しはじめます。
お許しくだされ。

評価、お気に入り、本当にありがとうございます。
遅筆で申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いします。


まちかねた かちきたる

歓声が聞こえる。

決して大きくはないが、勝者を称える祝福の声。

 

だけどそれはとても遠く、まるで俺とは関係のない事のように感じた。

 

歓声は続いている。

 

それを向けられているターフの彼女は、とても嬉しそうに手を振っている。

だがそれすら、俺は他人事の様に感じていた。

 

 

マチカネフクキタルは、勝った。

 

メイクデビュー戦、阪神レース場芝2000m。

前半は後方で足をためて、最終直線の上り坂の前から一気に加速、その勢いのまま勾配を上り切り、

坂でスピードが落ちた先行集団をあっと今に抜き去っていった。

結果は二着との4バ身差の圧勝。

最終コーナーを曲がりきる時に、下がってくる先頭集団に飲まれない様外に出たのも功を奏した。

 

誰もいない外ラチを、一気に駆け抜けていくフクキタルの姿に、多くの人が驚き、歓声を上げた。

そんな中、俺は何をしていたのか…

ただひたすら手と手を握りこみ祈っていたのか、喉が枯れるような大声を出していたのか、

正直なところ全く覚えていなかった。

 

 

マチカネフクキタルは、勝った。

 

自分が初めて担当したウマ娘が、デビュー戦で他を圧倒して勝利したのに、正直なところ全く実感が湧いていない。

実はこれは夢の中の出来事で、今でも自分はまだホテルの自室でキーボードに顔を埋めて寝ているんじゃないか?

 

だが、レースの間に強く握り過ぎた両手の痛みが、

ターフからの風が運んでくる芝と土の臭いが、

これが夢ではなく現実だと絶え間なく伝えてくる。

 

 

マチカネフクキタルは、勝ったんだ。

 

じわじわと熱いものが胸の中に広がってくる。

強い喜びが体を揺さぶる。

手が震える、涙があふれてくる、思いっきり叫びたくなる。

ようやく彼女が勝ったと実感した俺は、思わず今の感情をそのまま外に出していた。

 

 

「わああああああ!!かっ!!!ああああああ!やっわあああああああああ!!!!!」

 

 

口から出てきた意味不明な激情は、会場の歓声の中に混ざってもっと訳が分からなくなった。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

「やりました!やってやりましたよ、トレーナーさん!!」

 

 

控室に戻ってきたフクキタル、お互い何も言わずに手を掲げてハイタッチをした。

 

 

「ああ!よくやった…ホントよくやったよフクキタル!お前はすごいウマ娘だよ!!」

 

「いえいえ今日は本当に運がよかったんですよー。何せ第7レース、7枠7番スリーセブンでの出走でしたからね!

 ここまでお膳立てされてたら負けるなんてありえません!ラッキークッキー大歓喜ー!」

 

「…お、おう…そうだな…」

 

「むっふっふー!この調子で次のレースも運の向いてる縁起のいい日で出走しましょう!」

 

「………」

 

 

運がよかったから勝てた?そんな訳はない。

今までのウマ娘達のレースの数多くの勝利中に、運によるものも当然あるだろうが、

今日のレースで彼女が勝ったのは、今までの努力、彼女の実力による結果だったのは一目瞭然だ。

 

控室に行くまでに他の出走ウマ娘達とすれ違ったが、

泣いていたり、己の不甲斐なさに激昂していたり、担当トレーナーに次のレースを打診したりと様々で、

全て「悔しい」「勝ちたかった」「次は負けない」という感情によるものだ。

「運がよかったから勝った」なんて、それは相手の努力や才能の否定でしかない。

 

…これは、良くない。対戦相手にも、フクキタルにも。

 

 

「あの、トレーナーさん?どうしたんですか難しい顔をして…」

 

「え?あ、ああ…その、次のレースはどうするかなーって考えててな」

 

「えーもう次のレースの事ですかぁ?あー、でもトレーナーとして大事な事ですよねー」

 

 

思わず口から出まかせを言ってしまった。

本来ならしっかり釘を差すべき事なのかもしれないが、せっかくの初勝利に水を差すのも悪いし…

 

 

「そんなに悩むのでしたら、ここは一つおみくじで決めちゃいませんか?」

 

「…え???…自分が出走するレースだぞ?いいのかそれで?」

 

「いやー、私としてはいきなりG1とかでなければ、どんなレースでもいいかなーと思ったりしてますので…

 それに私らしいじゃないですか!おみくじレース!」

 

「いいんだそれで…」

 

「ではトレーナーさん、ここに用意しましたおみくじボックスから一枚、くじを引てください!」

 

「…いつの間にそんなものを用意してたんだよ」

 

「日頃からコツコツと…いえそんな事はどうでもいいんです!ささ、ずずいっと一枚!」

 

 

くじ引きの箱を目前に突き付けられてしまった。これはもう逃げられないゾ。

 

 

「ほんとに俺が引いて、これで決めちゃっていいの?」

 

「大丈夫です!トレーナーさんはシラオキ様のお告げの運命の人!その人の運で決めたレースなんですから間違いはありません!」

 

「じゃあ…これ!」

 

 

完全に無造作に一枚くじを引いて開けてみる。いきなり有マ記念とか入ってないよな………げ。

 

 

「トレーナーさん、トレーナーさぁん!何を引いたんですか!?見せてくださいよぉー!」

 

「…ほれ、運命の人が選んだのはコレだ」

 

 

持ってるクジをフクキタルに見せる。

そこには見事に「G1 ホープフルステークス」と書かれていた。

 

 

「ほんぎゃー!?なんでよりによって数少ないジュニアクラスG1を引くんですかぁー!?」

 

「流石運命の人、俺持ってるなー…」

 

「うにゅにゅにゅにゅにゅ……これもシラオキ様の試練とでも言うのですか…」

 

「まぁそもそもデビュー戦で勝っただけでいきなりG1に出れる訳もないし、その前に何か重賞で勝たないとな!」

 

「あ゛あ゛ー!!おみくじのレースに出るために、さらに重賞レースに出るハメに!?救いは無いのですかぁー!?」

 

 

絶望顔で奇声を上げるフクキタル。

いかん、ちょっと楽しくなってきた。クジの結果とはいえ、こうなったら俺も腹を括るか。

 

 

「ふぐぐぐぐぐ…しかしこれもおみくじの結果、すなわち神様の試練…!こうなったらやってやりますとも!

 

「よし、トレセンに戻ったらホープフルに向けてのトレーニングだな!頑張ろう!」

 

「あ、帰る前に寄り道してもいいですか?ビリケンさんの足を触って運気をアップさせたいので!」

 

「ならせっかくの大阪だし、食い倒れていくか?祝勝会って事で」

 

「おぉーいいですねぇー!ゴチになります!たこ焼きイカ焼き明石焼き♪」

 

「ハハ…手加減してくれよ」

 

 

こうして次に目指すレースが12月末に開催される、ジュニアクラスG1レースのホープフルステークスに決まってしまった。

結局、運や神頼みに依存してる件は言うタイミングを逃してしまったな…

…いや、次はG1レースだ。ここで勝てば「運がよかっただけ」なんて思わないだろう。

一欠片の不安を抱えつつも、デビュー戦初勝利の一日は終わりを迎えた。




帰り支度をしていた控室にノックの音が響く。
「どうぞ」と声を掛けると阪神URA職員が入ってきた。


「失礼します。…あれ?まだ準備してないんです?」

「え?準備?」

「はい、ウイニングライブの」

「ういにんぐらいぶ」

「まだ時間には余裕はありますけど、ギリギリになってこないで下さいね。段取りとかもありますんで」

「ハイ」

「それじゃお待ちしてますんで。準備出来たら会場まで来てくださいね。宜しくお願いします」


職員は頭を下げて退室していった。
部屋に残った俺とフクキタル、二人顔を見合わせてしばらくの沈黙。
お互いの血の気の下がる音が聞こえそうなぐらい、どんどん顔が青ざめていく。


「なぁフクキタル」

「はい」

「ウイニングライブのトレーニングってやってたっけ」

「やってませんねー」

「…一応聞いとくけど、自主練とかやってたり…してないよな?」

「はい、まったくこれっぽっちも」

「………ああああああやってしまったあああああああああああああああ!!」

「どどどどどどどどどうしましょうトレーナーさああああああん!!」


そう!俺たちは、勝った後のウイニングライブの事を、完全に失念していたのである!

レースで1着から3着までのウマ娘達は、レース後に開催されるウイニングライブに出演する事になるのは知っての通り。
見目麗しいウマ娘達が美声とダンスを披露する、観客達はレースと同等にこのライブも楽しみにしているのだ。
当然いきなりぶっつけ本番で歌って踊ってなんて出来る訳が無いので、事前に練習する必要があるワケなのだが…。

道理で今日のレース、フクキタルは他の子たちより一回り良く仕上がってた訳だよ!
ライブのトレーニングの時間を全部レースのトレーニングに回してたんだから!

そう!俺たちは、ウイニングライブのトレーニングを、全くやっていなかったのである!

マズい、非常にマズい!このままでは折角の勝利も赤っ恥ライブで台無しだ!


「と、とにかく今できる事を…!!ライブの曲目は…Makedebut?知ってるか?」

「それなら授業で一通りやりました!」

「よし、念のため歌詞のカンペ用意して最前列に待機しておく!ダンスは!?」

「そっちはさっぱりです!」

「だよなー…。何か今すぐ踊れるダンスとか無いか?この際盆踊りでもブレイクダンスでもいいから!」

「えーと…巫女神楽ならなんとか!」

「巫女神楽って…神社で踊る奉納の舞いみたいなヤツだっけ?なんでそんなレアな踊りを…」

「あれ?言ってませんでしたっけ?私神社生まれなんですよ」

「なるほど…よし、それでいこう。そのままだと動きがスローだろうから曲のテンポに合わせて踊る感じで!」

「い、いいんですかねぇ…?みょうちきりんなライブになりませんか?」

「棒立ちライブより億倍マシだ!!」


急ごしらえのウイニングライブが、今始まる!!



・ ・ ・ ・ ・ ・



次の日、『ウイニングライブで雅なダンス!会場が厳かに!?』という見出しで新聞の片隅に乗る事になり、
斬新だったという評価を貰ったフクキタルの人気は少し増える事になった。

良かったのかコレで?


『ファンの人数が500人増えた!』
『臨機応変のヒントがLv1になった!』
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