かみさまのいうとおり   作:YouCan@毘

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ご無沙汰してました。
ひと月ぶりの投稿です。お待たせして申し訳ありません。


きがつけば いつもどおり

男というのは基本的に頭が悪い生き物である。人生経験が浅い頃の青少年時代は特に。

上手くいったら調子に乗る。優しくされて勘違いをする。いいところを見せようと格好をつける。素直になれずに突っぱねる。等々…

そんな謎のプライドや自意識過剰の結果、痛い目を見たり辛い思いをしたり…苦い思い出は男なら誰しもあるだろう。あると思いたい。

特に女性が関わるとこの傾向が顕著に現れると思う。

 

 

 

日曜の朝のトレセン学園前、フクキタルとの待ち合わせの30分前から俺は一人でソワソワしていた。

補習回避による「ごほうび」

フクキタルが提示してきたのが「休みの日に出かけるので付き合ってほしい」という内容で、今日がその約束の日である。

所謂、お出かけというヤツである。どこに出かけるか詳しい話は聞いてないが、男女が一緒に外出するのだ。

あー!思春期の中学生の初デートか!?なにを意識してる!落ち着け!保護者同伴の外出だと考えろ!!

 

本来自主練などでそこそこ人通りがあるハズの学園前だが、夏休み真っ只中、しかも日曜日だからか、人影はそんなに多くない。

そんな所に一人、落ち着き無く慌てている男の姿は傍から見てもヤバいかもしれない。

校門前にいるトレセン学園の警備員(ウマ娘)がさっきから不審者か何かかとこちらを伺ってるし…。

 

そもそも俺はトレセン学園所属のトレーナーなんだから大手を振って中に入って待っていればいいのではないか?

わざわざ人目に付くところで待つ必要も無いよな。うん、そうしよう。一旦敷地内に入ってそこで待つことにしよう。

さっきからこっちを見てる警備員の視線が怖いとかそういう訳ではないぞ。うん。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

「それで職務質問されたというコトですか」

 

「何故だ!?俺は悪くねぇ!!」

 

「お休みの学園の前で男性が挙動不審な動きをしつつ中に入ろうとしてたら私でも止めますよ?」

 

「はい、私が悪かったです。あー危うく警察沙汰だったー…持っててよかったトレーナーバッヂ」

 

 

えー、見事に不審者と思われて危うくとっつかまるハメになるところでした。

トレーナーバッヂを見せたのと同時に、担当であるフクキタルが来てくれたので、何とか自分の身分を証明出来てお咎めなしで無事解放。

警備員には「今後は紛らわしい事をしないで下さい」とクギを刺されはしたけど。

今は三女神の像の広場でフクと一緒にベンチに座って一休み中である。

 

 

「よし、今回の件は忘れよう。それでこれから何処にお付き合いすればいいですかね?制服姿のお嬢様」

 

 

そう、フクキタルの服装はトレセン学園指定夏の制服。これから学園の外に出かけるような服装とはとても思えない。

俺が学生だった頃には「学生は休みに外出する時でも制服だ!」という生真面目なヤツは極々少数はいたけれど…。

まーフクキタルがそんなタイプじゃない事はこの半年で理解しているつもりだ。

それにトレセン学園というのは言わずもがな非常に知名度が高く、制服姿で私的な外出なんてすればあっという間に注目の的だろう。折角のプライベートも台無しになりかねない。

 

つまり自分が(勝手に)思い描いていたような外出ではなく、今日の用事は学園内だという事。

追試前後からずっと泡食ってテンパって無駄に気合入れてた俺は一人壮大に空回りしてたって訳だ。

勝手に勘違いして調子のってドジ踏んで本当男ってバカよねハハハ泣けてきた。

 

 

「おっとそうでした!今日の目的地はですね…ちょっとお耳を拝借」

 

 

広場には俺ら以外には誰も居ないのに何故耳打ちをしてくるんだ?

 

 

「…生徒会室?」

 

「あわわわわ!?声が、声が大きいですよトレーナーさん!!」

 

「いや周りに誰も居ないだろ」

 

「いえいえ油断は禁物、壁に耳あり障子にメアリー。誰が何処で聞いているかわかりませんよ!」

 

「そもそも生徒会室に行くだけなら何も問題ないだろ?聞かれたら不味い事でもあるのか?」

 

 

そう聞くと、フクは答え辛そうに「あー…えっと、そのー…」と言葉を濁している。

うーん、嫌な予感しかしない。

 

そして意を決したのか再度「実はですね…」と耳打ちをしてくるが…

 

 

 

「…は!?無断で忍び込む!?」

 

「ほぎゃー!?トレーナーさん!!声が!声が大きいですよー!!」

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

トレセン学園生徒会。

「全てのウマ娘の為に」をモットーとした生徒会長シンボリルドルフを中心に活動する、学園でも大きな権力を持った団体である。

副会長にはエアグルーヴとナリタブライアンの二名。生徒会長を含め全員「知らないヤツはモグリ」ってレベルのウマ娘達だ。

 

現在、そんな生徒会の会室前で俺とフクキタルはキョロキョロしながら周りに誰も居ない事を確認している。

こんな姿を見られたらまた職務質問されそう…。

生徒が生徒会室に入るのは別段問題ないとは思う。

呼ばれて行く事もあるだろうし、用事があって訪問する場合もあるだろう。

しかしだ、それらはあくまで正規の入室。今回のは…

 

 

「やっぱ無断入室って何かしら問題になるだろ…」

 

「そこは運試しってヤツです。それに生徒会室に飾られてる学園随一のパワースポットを拝むだけで、それ以外は何も悪い事とかしませんから!」

 

「いや無断入室がそもそも悪い事だからな」

 

 

彼女の目的は「生徒会室にあるありがたい何か」を拝んで運気爆発絶好調になりたいんだとか。

そのパワースポットとやらを拝むだけにしろ、無断入室した事には変わりない。

 

もし生徒会室で盗難事件等があれば、犯人でなくとも真っ先に疑われる事になるだろう。

変なリスクを背負って欲しくないんだが…と言葉にすると、フクキタルのヤツは悪い顔をしながら

 

 

「フッフッフッフッ…トレーナーさん、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ?」

 

 

そんなどこかで聞いた事のあるセリフで返してきたので、無言で脳天にチョップを叩き込んでやった。

 

 

「酷いですよトレーナーさぁん!軽いジョークじゃないですかー!」

 

「重いわ!」

 

「うー…そもそも生徒会室は結構来るもの拒まずな状態で、よくテイオーさんも無断で侵入してるんですよ!」

 

「テイオーって…あのトウカイテイオーか?希代の天才児の」

 

 

トウカイテイオー。まだ選抜レースにも出走していないが、その噂は俺みたいな末端トレーナーにも届いている。

「無敗の三冠ウマ娘」を目標に掲げ、その目標に違わぬ才能の持ち主だとか。

…こう言っちゃなんだけど、フクの同期でなくて本当に良かったと心底思う。

 

 

「なんでもテイオーさん、生徒会長のシンボリルドルフさんに憧れてるらしく隙あらば遊びに行ってるトカで」

 

「はー…物好きな…」

 

 

生徒会だの職員室だのお堅い場所なんて、呼ばれる事はあれ進んで行くような場所じゃないと思うんだけどなぁ。

 

(ナンカモンクアルー?)

 

なにか聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 

 

「なので、私が生徒会室に入っても何も問題ないという事です」

 

「そりゃ詭弁ってヤツだろ。生徒会の仕事の邪魔になるだろうし」

 

「いや、私としてはテイオーだけでなく他の生徒たちにも気軽に訪問してもらいたいのだがな」

 

「ホラホラ、生徒会長様もこう言ってるんですし」

 

「しかしなぁ…」

 

「なに、余程の事が無い限り生徒会の門は生徒達の為に開けている。是非とも遊びに来てくれたまえ」

 

「はぁ…そこまで言うのなら、お言葉に甘えて失礼しまーーーーえ?」

 

「…ぴゃーーー!?せせせせせせせせせ生徒会長シンボリルドルフさん!?!?!?!?」

 

 

いつの間にか生徒会室の扉は開かれており、そこには部屋の主であるシンボリルドルフが立っていた。

無敗の七冠ウマ娘にてトレセン学園生徒会会長シンボリルドルフ。その名は知らない人は居ないと言われるレジェンドウマ娘の一人。

 

…いや何最初から居た感じでサラッと会話に加わってんのこのカイチョー?

 

 

「なぜ!?どうして生徒会長様がココに!?」

 

「落ち着けフク!生徒会長が生徒会室にいるのは至極当然だ!!」

 

「ですが今日は夏休みの日曜日ですよ!?」

 

「ああ、片付け忘れた仕事が残っていたので自主トレ前に済ませておこうかと思ってね」

 

 

彼女はサラリと答えているが、そんな簡単に出来るコトか?

思わず関心してしまうが、ひょっとして生徒会長様はワーカーホリックなのでは?という疑惑も生まれてしまう。

そのうち疲労だの心労でぶっ倒れないか心配だよ。休める日には休むのも大切なんだけどな。

…疲れてPCの前で寝落ちするシンボリルドルフ…やべぇ、全く想像出来ない。

 

 

「それでマチカネフクキタル君にそのトレーナー君、生徒会室で見たいものがあるのだろう?」

 

「うぇ!?ななななななんでソレをご存知なんですかぁ!?」

 

「君たちの話し声は部屋の中にも聞こえていたよ。知己朋友なのは結構だが、共用の場所で喧嘩囂躁は控えた方がいい」

 

 

マジか。そんな簡単に外から音が入ってくるとか扉薄くない?それともフクの奇声がよほど大きかったのか…

ふと横を見ると「トレーナーさんの声が大きかったんですよ」と非難のジト目でこちらを見てるフクがいた。

とりあえず「お前が言うなお前が」という目で睨み返しておいた。おそらくお互い様だろうが。

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

「ははーありがたやありがたやーはんにゃかふんにゃかはっぴーかむかむ…」

 

 

手を合わせて一心不乱に祈ってるフクキタル。その目前には「Eclipse first, the rest nowhere」と書かれた額縁。

コレが彼女の言う学園伝統のパワースポットらしい。

書いてる内容は学園の教訓としても有名な言葉だが、この書いた人物が著名人だとかそういう何かしら縁起の良いモノなのだろう。

俺には幸運パワーだとか伝統エネルギーだとか何も感じないけど、本人がありがたがっているんだから何も言うまい。

 

結局俺たちは会長に誘われるままホイホイ入室し、これといった障害もなく目的のものにご対面と相成った訳である。

何製かわからないけどデカくて立派な黒い仕事机。来客をもてなす為の高級そうなソファ。壁紙やらカーテンやらもまた高級そうな代物で染みの一つもない。

そんな「生徒会室」と言わんばかりの固い雰囲気の室内だったが、そんな中窓際の柱に鎮座している信楽焼の狸が何とも言えない異彩を放っていた。

アレ、フクキタルがエアグルーヴに上げたヤツだよな…すげえな信楽焼の狸。ここまで雰囲気をぶっ壊す存在はなかなか無いぞ。

いや狸の事はどうでもいいけど。

 

 

「ところでフクキタル君、君はこの言葉の意味を知っているかい」

 

「らーめんれんこんほーれんsひゃわぉ!?ももももももちろんご存知でありますよ生徒会長様!!」

 

「落ち着け日本語がおかしい」

 

 

不意に会長に話しかけられて全力で慌てふためくフクキタルの姿は「存じ上げておりません!」と公言しているようなものだった。

Eclipse first, the rest nowhere.昔、海外に向かう所敵なしのウマ娘が居た。

そのトレーナーがレースで勝った彼女の事を「彼女が一番だ。それ以外は誰もいない」と評したのがこの言葉の起源だったハズだ。

 

 

「えくりぷすふぁーすと、ざ、れすとのーうぇあー。ですよね!えくりぷすふぁーすと、ざ、れすとのーうぇあー!」

 

「『唯一抜きん出て並ぶ者なし』ですよね。海外のことわざで」

 

「そうそうそれです!唯一抜きん出て並ぶ者なし!」

 

 

フクは案の定知らなくてアタフタしていたので助け舟を出したらすぐ乗っかってきた。調子のいい奴め。そういうところだぞそういうところ。

生徒会長殿は、トレーナー君には釈迦に説法だったかな、と苦笑しながら言葉を続ける。

 

 

「私は全てのウマ娘達に、この言葉のように誰にも誇れる唯一のものを持ってもらいたい、そう思っている。君たちの今後にも期待しているよ」

 

「はい、お任せ下さい!今日もありがたいお言葉の書かれたこの額縁から幸運パゥワーを十分に頂きましたので大吉大安絶好調です!」

 

「ただし、運にかまけて努力を惜しむ輩には、勝利の女神も愛想を尽かすだろう。日々精進を忘れないようにしたまえ」

 

「…あっはい」

 

「それと生徒会室に来るなら誰かが居る時に来るといい。無断入室はいらぬ嫌疑がかけられることもあるからね」

 

「は、は、はいぃ…」

 

 

やーい思いっきり釘を差されてやんの。たまには幸運の為に暴走するところも反省するといい。

…まぁ、止めなかった自分も同罪だよなぁ…反省せねば。

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

「いやー、生徒会長様に見つかった時はそうなる事かと思いましたよ」

 

「いや他人事みたいに言うなよ。最悪停学処分とか食らってもおかしくないレベルの事をやろうとしてたんだからな」

 

「まぁまぁ、何事もなく済んだので結果良ければ問題なしです!」

 

「…言っとくけどアレはサッカーで言うイエローカードだぞ。次は無いと思えってヤツな」

 

「…あ、あははははは…まぁ何とかなりますよ!幸運パワーで乗り切れます!きっと!」

 

「運にかまけて努力を惜しむ輩には、勝利の女神も愛想を尽かすだろう。日々精進を忘れないようにしたまえ。って言われたのは何処の誰だ?」

 

「うぅぅ…今日のトレーナーさんは意地悪ですよぉ」

 

 

俺たちは無事(?)生徒会室から退室し、そのまま何となくトレーナー室で二人で駄弁っていた。

とりあえず釘はさされたけど何とかお咎めなしで済んでホッとしているが、今後また何かやらかそうとしたらきっと今日みたく甘い裁定は下されないだろう。

ちゃんと肝に銘じておきたいので俺からもフクに容赦なく釘を差しているのだ。

 

 

「そういうワケだから、明日からもしっかりトレーニングに打ち込もうな。運試しってのは勝つための準備を全て行ったうえで初めて成り立つモノだぞ」

 

「はぁい…」

 

 

…さすがにちょっと言い過ぎたかもしれん。いや、ここは多少強めに言っとかないとまた暴走しかねないからな。

 

 

「…ところでトレーナーさん、私一つ気になった事があったんですけど」

 

「…どうした?」

 

 

急に神妙な顔つきになったフクに、思わず自分も真面目な顔になる。

今日の出来事で何か不穏な点でもあったのだろうか?それとも…

ほんの1秒もしない間が長く感じる。部屋のエアコンの音だけがやたらと煩く感じた頃にようやく彼女は口を開いた。

 

 

「…なんで生徒会室に信楽焼の狸があったんですかね?あまりにもミスマッチだと思うんですけど」

 

 

 

ツッコミを入れる気力すらなくなったので無言で頭をはたいてやった。

 

 

 

 

その時、ふと閃いた!これはフクキタルのトレーニングに生かせるかもしれない!

 

『ラッキーセブンのヒントがLv1になった!』




生徒会長は動かしづらい…難しい…
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