〜UC0087 11月 ダカール基地にて〜
「まずい、この状況はマズすぎる…」
連邦政府根幹部のここダカールの発着場のジープの上で身なりのいい青年連邦士官は後部座席で呟く。
「シリュウ君、上層部の指令に対してマズいとはなんだね、マズイとは。」
そう呼ばれた東洋系のその士官はしかめっ面でうつむいたまま横に座るでっぷり太った上司の顔を横目に見る。
シリュウ・カモダ少佐が辞令を受け取ったのはつい先程、突然基地司令室に呼びつけられてこの横のアイゼンワー少将がそそくさと辞令の内容を伝えてよこしたからにほかならない。
「何故自分なのですか?私は貴方の為に一年戦争以来から献身的に尽くしてきたつもりですが…」
「勿論、君は良く働いてくれている。」
「なら近辺の基地司令の席を頂くならまだしも前線送りとは一体どういうお考えで?」
「エゥーゴのシャアの演説、君は聞いたかね?」
「どのチャンネルもそれしか映ってませんよ」
「つい4日前、私はゴップ大将から相談を受けたよ、その日は晴れて絶好のゴルフ日和だったな。お前も顔を出すくらいしたら良かったのに。」
「それで?」
「我々はエゥーゴの側に付く事になったが…奴等に何かしらの手土産を用意したい。」
官僚共はいつもこれだ、シリュウはダカールの照りつける陽射しに嫌悪感を示しながら深く息を吐く。
「確かに、今のエゥーゴが勢いづけば数年と経たず議会の席は総入れ替えでしょうね。」
「それに、今の連邦軍に君以上に適任のものは恐らく居ない。少なくとも私の手持ちのカードにはな。」
無理もない。ティターンズの発足後、エゥーゴに参加せず連邦軍に残ったのは自分含め連邦議会の利権目的と軍を職業訓練校と勘違いしている馬鹿共くらいのものだとシリュウは内心ぼやく。
「サラミス級を預かり、ソロモン、ア・バオア・クーの戦を生き延びた君が私の現状のベストだ。」
「成功の暁には…?」
「エアコンの効いた快適なオフィスでの勤務を今度こそ約束するよ、必ずだ。」
砂漠のうだる熱波が吹き、波打つ景色の前方に平べったい高速連絡機が見える、終着だ。
「そう願いたいですな。」
ジープのドアを閉め、見送りのアイゼンワー少将に緩く敬礼すると踵を返し、連絡機のタラップに足をかける。
「シリュウ君。」
ふいに呼び掛ける上官に振り返る。
「まだ義手を使わないつもりか?AEのいい義肢士も今度紹介してやる。」
その見当違いな気遣いにシリュウが薄い笑みを浮かべると同時に砂漠からの突風が吹き上がり、シリュウの通されていない左袖を荒々しくたなびかせた。