広大な乾燥地帯、ペイント弾をバラ撒きながら緩やかな丘陵の一つに着地して身を屈めるハイザック、その光景をリアルタイムでホバートラックからシリュウはモニタリングしていた。
ユアン・タラッゾ中尉、先の襲撃で命を救われたハイザックのパイロットであり、今作戦でシリュウが預かる《地球連邦第64特別編成特務小隊〉通称シムーン隊のMS部隊長である。
彼の経歴は素晴らしいとシリュウは手元の資料を横目に思った。
一年戦争時、ティアンム艦隊所属のMS小隊としてソロモンを戦い抜き、再編成された後、後詰としてア・バオア・クーの残党掃討作戦にも参加、着実な功績を持っている。
本来ならばこういった経歴の持ち主はティターンズから招聘される事も珍しくないし、彼もそれを望んでいた。
しかしそうはならなかった。
理由は明確でないが、ティターンズ内部で白人主義が横行していた、そして彼の肌は浅黒い。
彼は試験すら受けさせてもらえない事に抗議したがそれが帰って事を悪化させてしまい、彼はこの2年、MSに乗ることも満足に出来ない状況下に置かれていた。
2年のブランク、対象はティターンズ。今作戦にはうってつけの駒をアイゼンワー少将は用意してくれたとシリュウは素直に感じていた。
事実、ユアン中尉の動きは素晴らしい。
彼の駆るハイザックは今現在における地球連邦軍の最新主力量産型の後期生産モデルであり、ジェネレータの換装やマイナーチェンジを施された優秀な機体だ。
演習項目を次々とクリアして、最後の目標をペイント弾の赤が塗り潰した。
「ユアン中尉、模擬戦闘の項目に移行します。速やかにホブ軍曹と合流を。」
『こちらユアン、了解した。』
シムーン隊の任務、それはジオン残党狩りを目的として設立された精鋭部隊ティターンズの討伐である。
その為にアイゼンワー少将は持ちうる限りの駒を集め並べ、ごく短期間の間に編成した。
アイゼンワー少将が言う様に今の連邦軍にティターンズに対抗し得る人材はほんの一握りであり、かなりの訳ありだろう。彼ホブ・ロイジャーもその一人である。
『こちらホブ、了解した。』
けだる気な青年の声が無線から聞こえた。
ホブ・ロイジャー軍曹は東南アジア戦線に配属され、ジオン残党との戦闘において、戦後において目覚ましい戦績を残していたがUC0083年に変化が生じた。彼の任務及び獲物を横取りするジオン残党狩り部隊ティターンズである。
彼の所属する部隊が長期間追い続けていたジオン残党の追撃はティターンズに横取りされる形となり、追撃の任を退くよう命令された。
しかしホブは単身、敵の拠点に強襲をかけ、ティターンズの部隊がその拠点に到着した時には既にジオン残党の拠点は壊滅させられていた、このホブ・ロイジャー軍曹駆る一機によってである。
彼の苛烈な戦闘機動と彼によって撃破された機体の損傷が凄まじい事から彼はしばしば《人喰い鰐》の二つ名で呼ばれる事になった。
しかしその後、彼はティターンズを支援するという名目の使い走りの連邦部隊へ転属となりここ数年かなり屈辱的な日々を強いられて来た様だ。
彼の駆る機体、ジムストライカーは後期型ジムの改装機でかなり特殊な近接戦闘に特化した機体である。
彼の希望によって機体と共にここに搬入されたものだが…ビームライフルやSFSが飛び交う今の戦場でMS同士の格闘戦が起こる事など稀だ。
過去の栄光にすがる事ほど愚かな事はない、彼はそれに気付いているのだろうか。
2機のMSに注目している間、もう一方の2機には焦点を向けていた。