桜才の風紀委員長、五十嵐さんにつれられて、私はホテルの売店で水着を購入する事になった。
「えっと……森さんのサイズはどのくらいでしょう?」
「えっと……あっ、これで大丈夫です」
「むっ……結構大きいですね」
「え、あの……」
そんなに見られると同性だとしても恥ずかしいんですけど……
「おや~風紀委員長が英稜の副会長の胸を視○してますね~」
「まぁあの大きさじゃ○姦したくなるのもしょうがないよね~」
「ち、違いますからね!」
桜才新聞部の畑さんと、七条さんが五十嵐さんの背後で何かを呟いたらしい。五十嵐さんが大慌てで二人を追いかけまわしている。
「あれで年下だと……」
「あれで同い年だと……」
「まぁシノッチとスズポンは発育不足ですものね」
「「よっし、喧嘩だ!」」
今度は魚見会長と天草会長、そして萩村さんが現れて、またしても私の胸を見ている……何でみんな私の胸ばかり見るのでしょうか……
「この揉みごたえ……お主、なかなかやりおるな」
「ちょ!? 止めてください!」
「良いではないか、口では止めろと言っていても身体は正直……ガァ!?」
「お前は何やってるんだ……すみません、森さん。愚妹が変な事を……」
「い、いえ……」
あっ、危なかった……もう少しで大声で叫ぶところでしたよ……
「おっ、キャットファイトなら私も交ざるぜ!」
「では、僭越ながら私も……」
「あんたらも引率ならもう少ししっかりとしろよな……」
津田さんが周りを全て引き受けてくれたおかげで、私は冷静さを取り戻す時間を確保する事が出来ました。
「あっ、そういえば森さん」
「はい?」
「部屋で生徒手帳を拾ったんですが、とりあえず分かる所に置いておいたので」
「ありがとうございます。すみません、なんか色々と……」
既にツッコミを一手に引き受けてくれているだけでもありがたいのに……
「ではこの旅行中のルールを発表するぞ!」
「なんですか、それ?」
「この旅行中の間は、我々は名前で呼び合う事になった!」
「……何時決まったんだよぅ」
「さっきウオミーとアリアと着替えている時にだ!」
それはつまり先輩命令という事なのでしょうか……
「皆さんは兎も角、俺は如何すれば良いんですか?」
「無論、津田も我々の事を名前で呼ぶに決まってるだろ!」
「そうだよ~。津田君……じゃなかった。タカトシ君も私たちを名前で呼ぶんだよ~。なんなら、呼び捨てでも良いから」
「いえ……それは無理です……」
「あの~、私魚見さんと森さんの名前を知らないんですが……」
「あっ、俺も知らないですね」
そういえば名乗った記憶が無いですね……
「英稜高校生徒会長魚見カナとは私の事です!」
「よっ、カナ会長!」
「お前はホントノリが良いな……」
「えっと、その名乗り方じゃなきゃ駄目なんですか?」
「普通で大丈夫です」
津田さんに確認を取って、私はあくまで普通に名乗る事にした。
「森サクラです」
「よっ! おっぱいサクラせんぱ……アギ!?」
「お前は一度みっちり説教したほうがよさそうだな……」
「じょ、冗談だよ~……」
コトミさんの脳天に拳骨を振り下ろした津田さんの目は、かなり本気で怒ってる感じがしました。そういえば、津田さんは私だけではなく他の女性の胸にも興味を示してないですね……去年のプールの授業では男子生徒に見られてた覚えがあるんですが……
「では津田! ……じゃなかった。タカトシ! 我々を呼んでみるんだ!」
「私は何時も通りで良いですよ」
「えっと……シノ会長。アリアさん。スズ。カエデさん。カナさん。サクラさん」
「おい! 何故私の名前を呼ばない!」
「だって先生は引率ですよね? 学生気分じゃ困りますよ」
「では私を呼んでください。もちろん呼び捨て希望!」
「えっと……サヤカ?」
「むほっ!」
津田さんに呼び捨てにされた出島さんは、鼻血を吹きだして倒れそうになった。
「なんて破壊力……これではお嬢様がMに目覚めるのも納得です」
「でしょ~」
「何故出島さんは良くて私は駄目なんだ! 津田、不公平だぞ! 私も呼び捨てろ! さもないとお前の童○奪うぞ!」
「……少し黙れ、ナルコ!」
「はぅ! 分かりました、タカトシ様」
「ほぅ、あの横島先生が屈服とは……やはり桜才の影の帝王と名高い……あっ」
「その事、詳しく教えてもらえますかね?」
「え、えっと……見逃してくれたりは……あっ、駄目ですよねはい……」
津田さんに引きずられて行き、畑さんが無念そうな目を私たちに向けていた。
「……ではウオミー! じゃなかった、カナ! さっそく泳ぎに行くぞ!」
「了解だぜ、シノッチ!」
「スズちゃん、浮き輪使う?」
「子供扱いしないでください!」
スズさんの言葉に、私はかなり動揺した……そっか、浮き輪使うのは子供なんだよね……
「森さん? 如何かしましたか?」
「い、いえ……」
畑さんを粛清し終えた津田さんが戻ってきて、そうそうに私の挙動がおかしい事に気がついた。この人に隠し事をするのは難しそうですね……
「前にも言いましたけど……私、泳げないんですよ」
「そういえば聞きましたね。でも、全く泳げないんですか?」
「は、はい……」
「あの!」
「はい?」
「た、た、タカトシ……は泳げるんですよね?」
「五十嵐さん、無理に名前で呼ばなくても」
「だ、大丈夫よ……それで、最近私水難事故に遭う回数が多い気がするのよね……だからもう一度一から泳ぎを習いたいんだけど……教えてくれる?」
「別に構いませんが……触っても大丈夫なんですか?」
津田さんの言葉で思いだしたけども、五十嵐さんって確か男性恐怖症だったような……それなら津田さん……タカトシさんに習うんじゃなく他の人に習った方が良いような……
「た、タカトシなら大丈夫だから……それに、サクラさんにも教えるんでしょ?」
「まぁそのつもりですが……分かりました。それじゃあ二人同時に教えますよ」
タカトシさんに泳ぎを教えてもらうのは嬉しいですけど、ホントに泳げないから見られるのも恥ずかしいです。でも、もし泳げるようになれば学校のプールの授業でも周りを見返すチャンスかもしれませんね。気合いを入れて頑張らなきゃ!
魚見カナ、森サクラ、ホントテキトーだな……