桜才学園での生活   作:猫林13世

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恋する乙女たちが思考を凝らす……


それぞれの部屋で

 タカ兄の部屋に潜入していたランコ先輩が、何だかションボリした感じで部屋に戻ってきた。

 

「ランコ先輩、成果は?」

 

「駄目ですね……あの人のガードは鉄壁です」

 

「まぁ、タカ兄ですからね~。人の気配は察知出来ますし、心の裡まで読めますからね~」

 

 

 本人は否定しているけども、あれは完全に読心術をマスターしている。我が兄ながらなかなかの逸材だろう。

 

「あの、大人しく寝ませんか?」

 

「駄目ですよ~スズ先輩。タカ兄が大人の階段を上るかもしれないのに、おちおちと寝てられる訳ないじゃないですか~」

 

「津田副会長の爛れた夜の生活、見出しはこれで決まってるんですけどね~。あとは証拠写真だけ手に入ればいくらでもねつ造……じゃなかった、記事を作れるんですけどねー」

 

 

 海で酸素ボンベまで使って失敗、ベッドの下で息を殺して隠れたけど失敗。ランコ先輩が気合いを入れても、その上をタカ兄が行っているのだ。

 

「こうなったら壁伝いに副会長の部屋を監視するしか……」

 

「ロープならアリア先輩が持ってるかもしれませんよ~?」

 

「あんたらは何に全力を注いでるんだ……」

 

 

 スズ先輩のツッコミなんて、タカ兄と比べればまるで子供。見た目通りのツッコミでは私やランコ先輩のパッションは止められないのだ。

 

「念のために申しますが、この旅行での負傷は自己負担となりますのでお気を付けください」

 

「……出島さん、貴女何処から……」

 

「何と、私でも気付かなかったとは……これでも修羅場は結構くぐって来たんですがねー」

 

「貴女とは年季が違うのです。お嬢様のソロプレイを覗き見する為に、気配を完全に殺す事に全力を注いできた私とではね!」

 

「アンタもくだらない事に全力を注ぐな!」

 

「もしかして、出島さんならタカ兄の部屋にも潜入出来るんじゃないですか?」

 

 

 私が発した当然の疑問に、出島さんは悲しそうに首を左右に振った。

 

「残念ですが、私の気配遮断をもってしても津田さんには敵いません。あの人は私以上に気配を殺せますし、わずかでも動揺すれば全て終わってしまいますので」

 

「さすが我が兄だけある」

 

「アンタはいったいなんなのよ……」

 

 

 スズ先輩のツッコミをスルーして、私たちはタカ兄の部屋に忍び込む良い方法は無いかを考えあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 津田君と森さんの提案で、部屋の中では普段通りに呼んで良い、という事になったので、私は幾分か緊張せずに過ごせている。

 男子と同じ部屋で生活しなければいけないなんて、ちょっと前までの私には苦行でしかなかっただろうけども、津田君なら安心出来るし、津田君になら触れられても発作は出ないと確信しているので問題は無い。

 

「何だか二つ隣の部屋が五月蠅いですね」

 

「私には何も聞こえませんけど……」

 

「私もです……」

 

 

 津田君がポツリと呟いた言葉に、私と森さんが返事をした。このホテルの壁は完全防音が施されているので、二つ隣どころか隣の部屋の音すら聞こえないはずなのに……

 

「出島さん、畑さん、コトミの三人だな。萩村も可哀想に……」

 

「くじ運って大切なんですね……」

 

「この部屋が一番まともですしね」

 

 

 津田君に森さんは優秀な副会長であり優秀なツッコミ、私も風紀委員長としてしっかりしていると自負しているので、この部屋では三人が三人とも落ち着いた時間を過ごせると考えているのだ。

 

「しかし、良く気が付きましたね。私、畑さんが部屋にいたなんて全く気が付きませんでした」

 

「私もです。畑先輩はスクープの為には何でもする、とは訊いていましたけども」

 

「あの人は努力の方向が間違ってるんですよ。それに、あれだけ気配があれば気づけます」

 

「私たちはまず、他人の気配を察知するなんて事は出来ませんよ」

 

 

 津田君が人並み外れた能力を持っているのは私も森さんも知っている。だけどまさか気配察知まで出来るとは思ってなかったのだ……そもそもこんな隙間に隠れていた畑さんを見つける方が難しい。

 

「会長たちは珍しく大人しいな……いや、あっちはあっちで騒がしいのか」

 

「天草会長、七条さん、魚見さん……あの空間に加わるなんて私には無理ですね」

 

「いや、今は横島先生も一緒のようですよ」

 

 

 ますます嫌な空間だ、そんな感想がピッタリな感じが私の中でしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 津田にどうやって名前で呼ばせるかと計画をアリアとカナと話しあっていたら、横島先生が部屋を間違えて入ってきた。

 

「横島先生、ここは先生の部屋じゃないですよ?」

 

「五月蠅いわねー細かい事はいいじゃないか!」

 

「完全に酔っ払ってますね」

 

「あたしゃねぇ、津田に命令されなきゃ動かないわよー」

 

 

 朝、津田に命令され呼び捨てられたのが効いたのか、横島先生は完全に津田の雌に成り下がっている。まぁ、津田本人が相手をしていないので、完全なる放置プレイなのだが。

 

「シノちゃん、モノローグでも『津田』って呼んじゃ駄目よ?」

 

「そうだったな! ……何で私のモノローグをアリアが知ってるんだ?」

 

「さぁ? それは気にしちゃダメよ」

 

「そうだな!」

 

 

 細かい事は気にしない、それが私の最近の決めごとなのだ。つ……タカトシに如何やったら私たちを常時名前で呼び捨てにさせる事が出来るのだろうか。

 

「やはり全裸で部屋に突入して、『名前で呼び捨て無ければ襲う』って作戦は如何でしょう?」

 

「でも、タカトシ君にはそんな脅しは効かないと思うよ? 普通に追い返される光景が見えるもん」

 

「確かにな……つ、タカトシは主夫だからな。我々の下着も当たり前のように洗濯していたし」

 

「じゃあ逆に『名前で呼んでくれたら処女をあげる』作戦は如何でしょう?」

 

「タカトシ君は一般の高校生男子と比べると性欲が無いからね。それも駄目だと思う。だって普段から誘惑しても全然手を出してくれないし」

 

「アリアさんが誘惑しても駄目じゃ、シノッチが誘惑しても駄目ですね」

 

「如何いう意味だ?」

 

「巨乳のアリアさんが誘惑しても駄目なのに、貧乳のシノッチが誘惑しても意味は無いって事ですよ。あっ、津田さんが貧乳好きな場合は別ですけどね」

 

「よっし、朝までケンカだ!」

 

「タカトシ様、私を躾けてくださ……グー」

 

 

 この酔っ払い教師は廊下に捨てておくとして、カナは如何やら私とケンカがしたいらしいからな。アリアには悪いが、今日の話合いはこれで終了だ!




タカトシが意識する光景が思い浮かばないのは何故だ……

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