桜才学園での生活   作:猫林13世

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まだ他の人にも可能性が……


意識し合う二人

 とんでもない光景を私は見てしまった。あの津田副会長が英稜の副会長である森さんに強引にキスをし、その後風紀委員長に密着されている光景を……

 

「これは、これは売れる!」

 

「何が売れるんでしょうね?」

 

「………」

 

 

 恐る恐る背後を確認すると、そこには張りつけたような――実際そうなんでしょうが――笑みを浮かべた津田副会長が仁王立ちしていました。

 

「先ほどの映像、そして写真を載せた桜才新聞特別号です……」

 

「もちろん、検閲はしますからね?」

 

「……諦めます」

 

 

 津田副会長には私でも逆らえない。影の長とも言われる新聞部部長である私でも、あの津田副会長に逆らう事は出来ない。なぜなら、彼こそが真の影の長だからだ。

 

「くだらない事考えてないで、少しは遊んだらどうですか? 会長たちも遊んでますし」

 

「くだらないとは失礼な! 私は、皆さんが喜んでくれそうなゴシップをねつ造……じゃなかった。日々探しているんですよ!」

 

「ねつ造の時点でくだらないじゃないですか!」

 

 

 当然の反論を喰らってしまい、私は大人しく会長たちの下に向かう事にした。だけど、一つだけ気になった事を津田副会長に聞く事にした。

 

「さっきのキス、あれから意識したりしないんでか?」

 

 

 さっきまで普通に指導していたので、私は津田副会長にとってキスとはその程度なのかと考えたのだ。だが、この質問に津田副会長は少し答えるまで間があった。

 

「意識しない訳無いでしょうが。そもそも、初めてだったんですから……」

 

「ほぅ」

 

 

 あの津田副会長が、こんな顔をするなんて……隠し撮りが可能なら写真を撮って裏ルートで売りさばくのですが、津田副会長が相手じゃ無理ですね。せめて私の心のアルバムに保存しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちの目の前には今、タカ君の唇に触れたサクラっちの唇がある。もし今サクラっちの唇を奪えば、間接的にタカ君の唇を奪った事になるのではないだろうか?

 

「何考えてるのかは分かりませんが、人の唇をジロジロと見るのは止めて下さい」

 

「まさかタカ君のファーストキスが、あんな形で失われるとは思って無かったものでして」

 

「ファースト……」

 

 

 感触を思い出したのか、サクラっちの顔は急激に赤くなっていく。

 

「森! 津田の唇を奪うためとはいえ、あんな演技は認めないぞ!」

 

「シノちゃん、呼び方が元に戻ってる」

 

「そんな事今は関係ない! アリア、お前だって見ただろ! 目の前で津田の初めてが失われたんだぞ!」

 

「公開NTRだね!」

 

「何だか興奮しますね!」

 

「……私の感性がズレてるのか?」

 

「いえ、会長の感性が正しいと思いますよ」

 

 

 私とアリアさんが興奮していると、何時の間にか来ていたタカ君がシノッチに賛同した。

 

「タカ君!」

 

「なんでしょう?」

 

「私にもキスしてください!」

 

「あー良いなー! タカトシ君、私にもして?」

 

「……あれは緊急事態だったからでして」

 

 

 言いながらタカ君はゆっくりサクラっちから視線を逸らす。これは完全に意識しちゃってるのでしょうか? この表情のタカ君で、三日は自家発電出来ますね。

 

「それとも、カエデちゃんみたいに密着しても良い?」

 

「私もカエデさんに負けないくらいはありますよ?」

 

「何を対抗してるんですか?」

 

「もちろんオッパイですよ!」

 

「わ、私だってあるぞ!」

 

 

 完全に見栄を張っているシノッチに、私とアリアさんは可哀想な者を見る目を向けた。

 

「な、なんだよぅ……チッパイだってオッパイだろ……」

 

「まぁ、貧乳好きでも無い限り、シノちゃんでは興奮しないよ~」

 

「ですがアリアさん、シノッチのように大人びた女性がチッパイを気にしてると言うのは、それはそれで興奮するのではないでしょうか?」

 

「その辺りはタカトシ君を交えて……って?」

 

「えっと……タカ君、その握りしめた拳はいったい?」

 

「今すぐ黙るか、殴られて黙るか、選ばせてあげますよ?」

 

 

 百パーセント裏のある笑みを浮かべたタカ君を前に、私たちは押し黙るしかなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が足を攣って慌てたから仕方ないのだけども、あれ以降津田さんとの間に気まずい空気が流れている。私もだけども、津田さんも意識してしまってるらしいのだ。

 

「サクラ先輩」

 

「コトミちゃん? 何か用ですか?」

 

「サクラお義姉ちゃんって呼んでも良いですか~?」

 

「っ!?」

 

 

 冗談でも今はそんな事を言ってほしく無かった。コトミちゃんのお義姉ちゃんになると言う事は、それはつまりそう言う事だから……

 普段なら軽く流して終わりなんですけども、さっきの事を考えるとどうしても考えがそっちに向かってしまう。

 

「コトミ、お前余計な事を言うな!」

 

「え~だってあのタカ兄が意識してる女性なんだからさ~……ごめんなさい」

 

 

 津田さんの鋭い眼光に怯えたのか、コトミちゃんはあっさりと私の前から逃げて行きました――いえ、津田さんの前、と言った方が正しいかもしれません。

 

「えっと……」

 

「はい……」

 

 

 コトミちゃんがいなくなった事で訪れる気まずい空気……これが女性として意識されて無かったらこんな事にはならない、と言う事は私でも分かります。

 つまり津田さんは、私の事を少なからず女性として意識してくれていると言う事なのであって、それが更に私の気持ちに細波を起こす。つまり落ち着けないのです。

 

「さっきは本当にすみませんでした。落ち着かせる為とはいえ、無理矢理……」

 

「いえ、それほど嫌ではありませんでしたし……」

 

「え?」

 

「あっ! 何言ってるんでしょうね、私」

 

 

 変な子だって思われたらどうしよう……

 

「とりあえず、ごめんなさい。それだけは言っておきたかったんで」

 

 

 それだけ言い残して、津田さんはものすごい速度で私の前から逃げて行ってしまいました。

 

「あれって、津田さんも私を意識してる、って事なんでしょうか……」

 

 

 普段女性に無関心、あるいは関心より先に呆れが来る津田さんが、私の事を異性として意識してくれている。これは私にとって嬉しい事です。

 

「それに、津田さんのファーストキスの相手は私で、私のファーストキスの相手は津田さんなんですよね」

 

 

 別の人のファーストキスの相手が津田さんになる可能性はありますが、津田さんのファーストキスの相手が私以外の人になる事は、絶対に無いのです。

 

「カナ会長たちには悪いですけど、泳げなくて良かった」

 

 

 怪我の功名――では無いにしても、何がどう転ぶかなんて分からないものなんですね。




そもそも、この作品のメインヒロインって誰だ?

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