タカ君とペアで脅かす側を楽しんでいたら、最後のグループがやってきた。
『何で私たちは三人ペアなんでしょう?』
『人数的な問題では? もしくは一人は可哀想だと考えたのかもしれませんね』
『私は一人でも問題ないですけどねー』
『貴女は脅かす側が向いてると思いますよ、畑さん』
『それは光栄です』
サクラっちとカエデっちと畑さんのペアは、特に怖がる素振りも無く、また警戒してる素振りもなく道を進んでいる。
「では、さっそく」
「……楽しそうですね」
私が気合いを入れると、タカ君が呆れたように呟きました。
「当たり前です! 脅かすのは楽しいですし。そしてなりより、皆さんが腰を濡らす……じゃなかった。腰を抜かすのを見るのはもっと楽しいです」
「ねぇ、その『腰を濡らす』ってなんなの?」
先ほどコトミちゃんも使っていた言葉に、タカ君は首を傾げました。
「語感がイヤラシイでしょ?」
「雰囲気だけかよ!」
『今のって津田さんの声?』
『確か津田君のペアは魚見さん……』
『また会長がボケたんでしょうね』
「失礼な! 私はボケたんじゃなくエロったんです!」
「『『なお悪いわ!』』」
すぐそばでタカ君が、少し離れたところからサクラっちとカエデっちのツッコミが入る。何ででしょう、こんなに興奮しているのは。
タカトシ君とカナちゃんが脅かしてるのを見て、私も早く脅かしたいという衝動に駆られている。だけどもスズちゃん・横島先生ペアも、コトミちゃん・シノちゃんペアも私たちのところにたどりつく前にリタイアしてしまってるのだ。
「早く来ないかな~」
「お嬢様、脅かす側もそれなりに気合いを入れなければいけません」
「そうだね~」
「ですから、ここは気合いを入れる為に貝合わせを……」
「鼻血出てるよ~」
「おっと。お嬢様のお身体を想像して行きすぎてしまいました」
「もー、出島さんは相変わらずなんだから~」
「「あははははは」」
『ふざけてるならアンタたちも帰れー!』
少し離れた場所からタカトシ君のツッコミが飛んできた。
「おや、聞かれていたようですね」
「そうみたいだね~。タカトシ君に私たち覗かれてたようだね」
「まったく。思春期の男はこれだから」
『誰が覗くか! 大体デカイ声でしゃべってたのはアンタたちだろうが!』
『まぁまぁタカ君。そんなに興奮したら出ちゃうわよ?』
『出るか!』
『あふぅ! もっと罵ってください!』
向こうではタカトシ君とカナちゃんがお楽しみのようだった。
「私たちも交ざろう!」
「そうですね! 私はSでもMでもどっちでもいけますので」
出島さんと笑いあいながら、私たちもタカトシ君に罵ってもらう為に移動したのだった。
津田さんが部屋に戻ってくると、疲れきっているのかそのままベッドに倒れ込んだ。
「津田さん? 大丈夫ですか?」
「……あんまり大丈夫じゃないです」
「何があったの?」
五十嵐さんも心配そうに津田さんに問い掛けました。
「あの後、魚見さん、七条先輩、出島さんの三人を纏めて説教しなければならない状況になりまして、それに加えて隠れていた畑さんも一緒に説教したので、さすがに疲れました」
「それは……」
「お疲れ様としか言えないわね……」
五十嵐さんと目が合い、私と五十嵐さんは津田さんを労いました。
「先に風呂使って良いですか?」
「構いませんよ」
「私たちはそこまで疲れて無いし。汗もそれほど掻いて無いから」
「それじゃ、遠慮なく……」
多少危なっかしい足取りだったけども、津田さんはそのままバスルームへと消えて行った。
「凄い状況だったんですね……」
「もし私が津田君の状況に陥ったら、きっと自力で部屋まで帰ってこれなかったと思う」
「私もです。さすが津田さん! っと言ったところですね」
私も五十嵐さんも基本的にはツッコミポジションだ。だけどそれは津田さんがいると違ってくる。傍観者のポジションへと移動出来るので、ついつい私たちは津田さんに任せきりになってしまうのだ。
そうなると津田さんへの負担が増える一方であって、何時か倒れてしまうのではないかとも思えてくるのだ。それでも、津田さん以上のツッコミを私たちが入れられる自信など無いのですけど……
へろへろになりながらも、何とか部屋まで帰ってこれた。そして少し倒れ込んだおかげでこうして風呂までたどり着く事が出来たのだ。
「あー疲れた……ホント勘弁してほしいよな」
疲れた身体を癒す為に、俺はのんびりと風呂に入っているのだ。本当ならシャワーだけを浴びてさっさと寝たいのだけども、同室である森さんと五十嵐さんの事を考えると、こっちの方がゆっくり出来るだろうと考えたのだ。
「五十嵐さんには胸を押し付けられたし、森さんとはキスしちゃったし……」
同年代と比べれば確かに性欲は薄いし欲望を剥きだしにしているわけではない。だが同時に全く無いわけでもないのだ。
「いっそのこと萩村と部屋を代わってもらう……いや、あの部屋は疲れが取れるどころか更に増すだけか……」
萩村のルームメイトである畑さんとコトミの姿を思い浮かべ、俺は自分の考えを頭から追いやった。あの部屋は死地かもしれないしな……
「大丈夫だろ、普段から平常心でいられるんだから、今回だって……」
普段は呆れるのを抑えつけているから問題は無いが、こんな感情を抑えるのはなかなか難しいかもしれない。
「ホント、どうしちゃったんだろうな……」
落ち着かせるためとはいえ、女性の唇を奪うなんてどうかしてる……その動揺からか、普段なら意識せずに済んだであろう五十嵐さんの感触も、バッチリ覚えてしまっているのだ。
「駄目駄目、落ち着け……俺は大丈夫だ」
自己暗示、でもしなければ落ち着けない状況なのだが、俺は自分自身を落ち着かせる為に何度も繰り返し同じ言葉を言ったのだった。
タカトシが人間らしい感じに……人間なんですけど