泊りがけで遊んでから暫くして、私はあの日以降津田とあっていない。それどころか生徒会メンバーとも会っていないのだが……
「ん? 電話だ」
携帯に着信を告げるメロディが流れ、私は携帯を手に取った。
『もしもしシノちゃん? 今日花火大会があるんだけど、一緒にどう?』
「はて? この辺りで今日花火大会なんてあったか?」
一通りのイベントの日程は調べているが、私が調べた限り今日は花火大会なんて無かったんだが……
『あるよ。家で』
「……スケール、大きいな」
普段から忘れがちだが、アリアはものすごいお金持ちのお嬢様だったんだよな……ホント忘れがちだけど。
『出来ればみんな呼びたいんだけど、シノちゃんは誰を呼びたい?』
「そりゃ生徒会メンバーは絶対だろ! 後はカナやサクラ、五十嵐とかも呼んだ方が良いよな」
『それじゃあ、シノちゃんがカナちゃんたちに、私はタカトシ君たちに連絡するね』
「待て! 津田には私が連絡する!」
『でもシノちゃん、タカトシ君の事相変わらず「津田」って呼んでるじゃない? そんなシノちゃんよりは私の方が良いと思うんだけどな~』
「グッ! ……タカトシには私から連絡するから、アリアはカナたちに連絡してくれ」
『しょうがないな~。でも、私だってまだ諦めて無いんだからね』
そう言ってアリアは電話を切った。私だって諦めて無い、諦められるわけが無い。五十嵐や森とつ……タカトシがキスしたからどうしたと言うんだ! 今の時代、ネトリ・ネトラレなど珍しい事でもないじゃないか!
「さて、タカトシに電話しなければな」
私は電話帳からタカトシの番号を呼び出し電話を掛けた。意外な事にツーコールでタカトシは電話に出た。
『はい?』
「今日アリアの家で花火大会をするそうだが、タカトシも来ないか?」
『今日ですか? また急ですね……』
電話の向こうからコトミの騒がしい声が聞こえてきた。おそらくはアイツも来るとか言い出したんだろうな。
『分かりました。他には誰が来るんですか?』
「この後萩村を誘ったり、アリアの方で英稜の二人や五十嵐に声を掛けてるはずだ。」
『そうですか。じゃあこっちでも誰か誘ってみますね』
「頼んだ。くれぐれも遅れないようにな!」
『分かってますよ。あと変な事は考えない方が良いですよ』
最後の意味ありげな言葉に、私はドキッとしてしまった。まさかタカトシに電話を掛ける前に考えていた事がバレていたのだろうか……いや、まさかな。
花火大会の準備をしていると、タカトシ君が一番に家にやって来た。
「何か手伝える事はありますか?」
「そうだね~、それじゃあタカトシ君には、私の浴衣を選んでもらおうかな」
「浴衣……ですか?」
「うん! 何なら着替えも手伝ってくれても良いけど」
「それは遠慮させてもらいます。じゃあ行きましょうか」
サラッと私の冗談を流したタカトシ君だけども、浴衣選びは手伝ってくれるようだった。やっぱりタカトシ君はなんだかんだで優しいんだよね。
「ところで先輩、もう名前呼びで固定なんですか?」
「ん? 駄目かな?」
「別にいいですけど、会長や萩村が呼びにくそうにしてるのに、先輩はあっさりと変えたなと思いまして」
「私は、シノちゃんやスズちゃんほど純情じゃないからね。名前を呼ぶだけでドキドキはしないわよ」
「まぁそうですよね。名前呼びくらいでそんな事思ってたら大変ですしね」
タカトシ君は特に気にした様子も無く、私の浴衣を選んでくれている。そっか、タカトシ君の中では、名前呼びは大した事じゃないんだ。
「この柄なんてどうです? 涼しげですし、アリアさんに似合ってると思いますけど」
「ホント? じゃあこれにしよう!」
「……選んどいてなんですが、ホントにいいんですか?」
「うん! タカトシ君が選んでくれたんだし、私も良いなって思ったから」
タカトシ君が選んだのは、薄い紫色のアジサイが描かれた浴衣だ。涼しげであり可愛らしいデザインなので、私もすぐに気にいった。
「じゃあ着替えるね。ちなみに、浴衣の時は下着を着けないのが習わしらしいわよ」
「何故それを俺に言う……」
タカトシ君が出て行ったのと入れ替わりで出島さんが部屋に入って来た。着付けは心得て無いって言ってたけど、最近習ったようで今ではパーフェクトらしいのよね。
アリアさんの浴衣を選び終えて外で待ってると、カナさんとサクラさんがやって来た。二人ともしっかりと浴衣を着てきている。
「こんにちは、タカ君」
「こんにちは、カナさん」
「ねえねえタカ君、浴衣の下には下着を着けないのが習わしだって知ってる?」
「さっきアリアさんに聞きました」
どうせ着けてきて無いんだろうな……てか、サクラさんは若干恥ずかしそうにしてるのを見ると、普通に着けて来ても問題は無かったのではないかと思ってしまうのだが……
「似合ってますよ、カナさんもサクラさんも」
「さすがタカ君。女性に催促される前に言うとは」
「あ、ありがとうございます」
素直に褒めたんだから、カナさんも余計な事は言わなかった。けど、サクラさんの照れ具合がものすごいんだがどうしたものか……あのキス以降、サクラさんが若干俺との距離感に困ってるような気がするんだよな……
「あら、津田君」
「五十嵐さん」
「や!」
「畑さんも」
五十嵐さんはしっかりと浴衣だが、畑さんは何時も通り制服だった……何故制服?
「新聞部として夏休み特別号を作成していたのよ」
「一応確認しますが、あの旅行中の事を記事にしたりはしてませんよね?」
「おほほほほほほ」
「後でしっかりと検閲させていただきますね」
「もちろんですとも」
「ちなみに、別で作ってる新聞もしっかりと確認させてもらいますからね」
「何故分かった!?」
「やはり」
ブラフをかましたら、あっさりと畑さんは嵌ってくれた。随分と素直に検閲を認めたものだがら、何か裏があるのだろうと思ったら案の定だったな。
「そうだ、五十嵐さん。浴衣、似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます」
何で褒めただけでサクラさんも五十嵐さんも真っ赤になるんだろう……そんなに恥ずかしがる事なのか?
「ちなみに津田副会長、浴衣の下は……」
「あーはいはい。それ三回目なのでもう良いです」
「ちぇ」
軽く畑さんのボケを流して、俺は一人空を見上げる。これなら綺麗に花火が上がるだろうな。
ツッコミのキレは相変わらずですが、多少意識しちゃってます。