桜才学園での生活   作:猫林13世

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本当は写生大会ですが、つまらなかったので……


待ち合わせ

 森さんとカラオケに行く約束をしていたので、今日は丁度生徒会もバイトも休みだったので出かける事にした。

 

「コトミ、俺は出かけるから、昼飯は自分で何とかしてくれ」

 

「ええー! 私、そんなにお小遣い残って無いんだけど」

 

「何に使ってるんだよ……弁当だって持っててるし、食費でそんなに無くなる事も無いだろ?」

 

「色々とあるんだよ」

 

「……まぁ、色々の内容を聞く事はしないから、来月からは少し控えるんだな」

 

 

 どうせゲームとかを買ってるんだろうし、ここでコトミにぶつくさといって時間に遅れるのもバカらしいからな。

 

「じゃあこれで昼飯は済ませろ。それから、洗濯物を取り込んどいてくれよな」

 

「分かったー! ところで、タカ兄は何処に出かけるの? また生徒会のメンバーと何処かに行くの?」

 

「いや、今日は生徒会メンバーとじゃない」

 

「ふーん……ま、行ってらっしゃい」

 

 

 あまり興味なさそうだったので、俺も特に誰と出かけるとか、何処に行くとかは言わずに家を出た。どうせ何かあれば携帯に電話してくるんだし、行き先を伝えておく必要も無いしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカ兄が出かけて暫くしてから、来客があった。

 

「はーい。どちら様ですかー?」

 

 

 玄関を開けて確かめると、そこにはシノ会長が立っていた。

 

「あれ? シノ会長、何かご用ですか?」

 

「いや……津田はいるか?」

 

「タカ兄なら何処かに出かけてますよ? 約束でもしてたんですか?」

 

 

 もしそうだとしたら、タカ兄が忘れてた事になるんだけど、そんな事今まで無かったような気もするんだよね。

 

「いや、約束はしてない……そうか、いないのか……」

 

「珍しく生徒会のメンバーとじゃないお出かけみたいでしたけど」

 

「男友達とか? だが、津田と話の合う男子など、ウチにいたか?」

 

「柳本先輩じゃないんですか? タカ兄が比較的に親しくしてる男子って柳本先輩くらいですし」

 

「そうか……じゃあ仕方ないな。邪魔して悪かったな」

 

「いえいえ、どうせ一人ですし」

 

 

 シノ会長を見送ってから、私はお昼をどうするか考える事にした。タカ兄から預かったお金は二千円。つまりこの金額の範囲なら何でも食べられるのだ。

 

「全部使ったら怒られるだろうから、少しは余裕を持たないとね」

 

 

 いくらアルバイトしてるからといって、タカ兄も高校生だ。それなりに出費はあるだろうし、男子なら尚更だろう。

 

「でも、タカ兄の部屋をいくら調べても見つからないんだよね」

 

 

 トレジャーハンティングをしても、タカ兄の部屋からはそれらしきものは発見出来ないのだ。もしかして、本当に持ってないのだろうか……我が兄ながら心配になってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカトシさんとストレス発散の名目で一緒にカラオケに行く事になり、私は前日に箪笥の中身をひっくり返して洋服選びをしていた。タカトシさんの方は、ストレス発散以上の考えは無いでしょうけども、傍目から見れば、紛れも無くデートなのだ。

 タカトシさんは普段着もしっかりとしているので、何処に行っても恥ずかしくは無いのでしょうけども、私の方はそうはいかない。 

 ただでさえタカトシさんの隣に立つのだ。平凡な格好では釣り合って無いと思われるだろうし、タカトシさんのセンスを疑われてしまうかもしれないのだ。

 

「……って! 別にデートじゃないんだよ!」

 

 

 セルフツッコミを入れるが、イマイチキレが無い。理由は明らかに私が浮かれているからだ。

 待ち合わせの時間は十時。現時刻は八時三十分。この時間を見るだけで、明らかに私が浮かれている事が分かる。いくら早めに行動した方が良いと言っても、待ち合わせの一時間半前からその場所にいる必要性はまったくと言っていいほど無いだろう。

 

「はぁ……何処かで時間を潰そう」

 

 

 いくらタカトシさんが真面目な人でも、さすがに一時間以上前に待ち合わせ場所には来ないだろう。私は浮かれている自分を落ち着かせるために、近くのカフェに立ち寄る事にした。

 

「あれ、森さん?」

 

「五十嵐さん、何故こんな場所に?」

 

 

 何気なく入ったカフェには、桜才学園風紀委員長の五十嵐さんがいた。

 

「お気に入りなんです、ここ。それに、近所ですし……男性客も少ないですし」

 

「なるほど」

 

 

 確かに、このカフェの雰囲気では男性客は見込めないだろう。皆無、という訳にはいかないだろうけども、男性恐怖症の五十嵐さんには居心地がよいお店なのだろうな。

 

「森さんこそどうしたんですか?」

 

「待ち合わせをしてるんですけど、一時間以上も早く来てしまいまして……」

 

「そうなんですか……あれ? あの男の子、津田君?」

 

「えっ?」

 

 

 五十嵐さんの視線を辿ると、確かにそこにはタカトシさんがいた。特に焦った様子も無く、待ち合わせ場所を素通りして何処かのお店に入って行く。

 

「本屋さんにでも行くのかしら? 最近新しい参考書を探してるって言ってたし」

 

「そうなんですか? やっぱりちゃんと勉強してるんですね」

 

「あっ、津田君が探してるのはフランス語の参考書だよ。学校の勉強はだいたい授業で理解してるらしいし」

 

「そうなんですか……同じ副会長として、私ももう少し頑張った方が良いのでしょうか?」

 

「津田君が凄すぎるだけで、森さんは十分頑張ってると思いますけどね」

 

 

 五十嵐さんとしみじみお話をしていたら、待ち合わせの時間が迫ってきていた。良く見ればタカトシさんが待ち合わせ場所に待っているではないか。私は慌ててお会計を済ませて店の外に出た。

 

「ごめんなさい、遅れました」

 

「いえ、そこの喫茶店にいましたよね」

 

「気づいてたんですか?」

 

「チラッと視界に入っただけですよ。俺も寄り道してましたし」

 

「本屋さんですよね? フランス語の参考書を探してるとか」

 

「良いのは無かったですけどね。それじゃあ、行きましょうか」

 

「そうですね」

 

 

 私はタカトシさんのちょっと後ろを歩きながら、カラオケ屋さんに向かった。

 

「あの二人、付き合ってるのかしら……」

 

 

 背後から誰かの声が聞こえた気もしたけど、その事を考える余裕は、今の私には無かった。




この後の展開は普通のデートなので割愛させていただきます

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