何やら部屋から邪な雰囲気を感じるが、今は気にせず風呂に浸かるとしよう。
「それにしても……何をどうすれば、こんなに汚れるんだ?」
この間大掃除で綺麗にしたはずなのに、俺が入る前には既に風呂場はかなり汚れていた。会長たちが何かして遊んだのかもしれないが、それにしても汚れ過ぎている。
「仕方ない、軽く掃除してから上がるか」
元々長風呂では無いし、最後に入ったのも掃除をする為だったので問題は無いが、想像以上に汚れている風呂場にため息を禁じえなかった。
「コトミも何かしてたっぽいし、アイツに掃除させても良いんだけど……余計に散らかる未来しか見えないからな……」
何時もより長風呂だったコトミが何かをしていたのは間違いないだろう。だけど、アイツに頼むくらいなら自分で掃除した方が楽だし、そして確実だ。
「アイツも年頃の女子なんだから、家事の一つや二つ真面目に出来るようになりたいとか思わないのか? ……思わないんだろうな」
自己完結してしまったが、アイツに人並みの普通があれば、家事に興味を持ったんだろうけど、アイツの思考は思春期全開で、厨二病も患ってるからな……年頃の女子の感性より先に、そっちを何とかしなければダメだろう……
「せめて俺がこの家を出るまでには真人間になっていてほしいがな……」
高校を卒業したら、さすがに出て行くつもりだし、そうなるとコトミ一人がこの家の全てを行わなければいけない可能性だって出てくるのだ。今のままのコトミだと、掃除してるつもりが余計に散らかったり、調理しているつもりが科学実験に変わっていたりと、様々な残念な光景が広がってしまうのだ……
「会長たちに、勉強だけでなくそっちも教わった方が良いのかもな……」
同じく思春期全開の会長たちだが、全員家事も勉強もしっかり出来るのだ。コトミには一先ず会長たちを目標にしてもらって、それから思春期を卒業してもらった方が良いのかもしれないな……
風呂に入ってゆっくりしてきたはずなのに、風呂から出てきたタカトシは何処かグッタリしていた。
「どうしたのよ?」
「ちょっとね……凄い汚れてたから、本気で掃除してた」
「汚れて? 私が入った時はそうでも無かったけど……」
「わ、私じゃないですからね!」
「「………」」
誰も、何も言ってなかったのにも関わらず、コトミちゃんが慌てて何かを否定し始めたので、私とタカトシは揃ってコトミちゃんに冷たい視線を向けた。
「あっ、その視線……クセになりそうです」
「何をして汚したんだ?」
「ちょっとタカ兄の事を想ってソロプレイを……」
「なに!? 私も風呂場でソロ活動をしたぞ!」
明らかな自爆。余計な事を言った会長も、この後タカトシに説教される事が決定してしまった……
「アンタ、自宅でも大変なのね……」
「同情するのは止めてくれ……余計に虚しくなるから」
「ごめん……」
最早謝る事しか私には出来なかった。タカトシが心休まる場所って、どこかに存在してるのかしら……
カナちゃんと二人で色々と計画を練っていたら、タカトシ君が部屋に戻ってきた。お風呂に入ってただけなのに、タカトシ君は部屋から出て行った前よりも疲れが増している様な気がするんだよね。
「どうかしたんですか? お風呂でソロ活動し過ぎて疲れ果てちゃったんですか?」
「……阿呆二人を説教してきたので、それで疲れたんだと思います」
「阿呆二人? シノちゃんとコトミちゃん?」
スズちゃんとカエデちゃん、サクラちゃんはタカトシ君を怒らせるような事はしないだろうし、私とカナちゃんは怒られていない。そうなると消去法でその二人が怒られたという結論が出るのだ。
「あの二人は何をしてタカ君を怒らせたんですか?」
「風呂場で余計な事をしたと、自分から言ってきたので」
「それってソロ活動の事? まぁタカ君が普段使ってる場所に全裸でいたら、それくらいしたくなると思いますけどね」
「何のフォローなんですか、それは……」
最早ツッコミきれないのか、タカトシ君は倒れ込むようにしてお布団に入ってしまった。
「もう寝るんですか?」
「寝はしませんが、とりあえず横になっておこうかと……風呂で疲れを癒す事が出来なかったので、少しでも体力回復を、と思っただけです」
そんな事を言っていたタカトシ君だったが、少し経ったら規則正しい寝息が聞こえてきた。
「やっぱり、タカ君でも疲れてたんですね」
「そりゃそうだよー。普段から私たちにツッコミを入れたり、家でもコトミちゃんの相手をしたり、外に出たらカナちゃんや畑さんにもツッコミを入れてたら、いくら精力に自信がある人でも疲れ果てちゃうよ~」
「つまり、タカ君は色々な穴に……」
ツッコミが発生しないので、私たちは自分たちで内容を変える事にした。
「ツッコミって、大事だったんですね」
「そうだね~。あのまま続けてたら、タカトシ君は非童貞だってことになっちゃってたし……」
「上の口のファーストキスは取られちゃったけど、下の口のキスはまだしてないよね?」
「ではさっそく……」
「………」
タカトシ君が起きていればツッコミが発生したんでしょうけども、やっぱりツッコミは発生しなかった。
「仕方ありません、私たちも寝ましょうか」
「そうだね~。それじゃあ、お休み~」
灯りを消し、私たちは何食わぬ顔でタカトシ君の布団に入り込んだ。一緒に寝るだけなら、不純異性交遊にならないし、校内恋愛にもならないよね? もちろん、カエデちゃんやシノちゃんたちにはこの事を教えるつもりは無いけどね。
せめて痕跡は残すなよ……