桜才学園での生活   作:猫林13世

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分別は大事ですね


エコマスター

 生徒会室で、突如シノちゃんが宣言した。

 

「さて、今月の学園目標は『エコロジー』だ。物や資源を大切に、みんなで無駄をなくすのだ! そして、我々生徒会がその見本となり、活動に取り組むのだ」

 

「いきなりの発言にしては、シッカリと考えてますね」

 

「ちゃ、ちゃんと昨日から考えてたもん!」

 

「いや、『もん!』って……まぁ、立派な目標だと思いますけど」

 

 

 タカトシ君が作業の手を止めてシノちゃんの相手をしている。こうやってシノちゃんが突如何かを言い出す事は稀にあるので、タカトシ君も慣れた感じだった。

 

「確かに私たちが無駄を出さないように気をつけなきゃね」

 

「そうだろ、アリア!」

 

「うん! 『ツンデレ』『貧乳』『生徒会長』のシノちゃんに、これ以上の属性付加は無駄遣いだし」

 

「なんだとぅ!?」

 

「資源の無駄って言ってましたよね?」

 

「あっ! そうだったね、ゴメンねシノちゃん」

 

「とりあえず、ゴミの分別からシッカリとやるぞ!」

 

 

 何処からか取り出したゴミ袋を掲げ、シノちゃんがそう宣言した。

 

「あの、この書類今日までなんで。遊ぶなら三人でどうぞ」

 

「なっ! 遊びじゃないぞ! これはエコロジー精神を鍛えるための……」

 

「そんなの、普通に生活してれば出来てるものですよね? ゴミの分別なんて、当たり前に出来て当然のものだと思いますけど」

 

「主夫と学生を同列に見るなー!」

 

「いや、主夫じゃないんですが……」

 

「とにかく! 津田も参加するのー!」

 

 

 駄々をこね始めたシノちゃんに、タカトシ君が折れた。どっちが年上か分からない光景ね。

 

「分かりましたよ。じゃあさっさと終わらせて仕事に戻りますよ」

 

「ではこのペットボトルだが……空だな。これは誰のだ?」

 

 

 シノちゃんがお茶のペットボトルを取り出し、誰の持ち物かを確認する。うん、私のじゃないわね。

 

「あっ、それ私のです。捨てていいですよ」

 

「なるほど……ではこれは萌えるゴミだな」

 

「えっ……」

 

「外装フィルムはプラスティック、ボトル自体は洗ってから資源ゴミ、もしくはスーパーなどにある回収ボックスに持っていきます。最近ではキャップも回収しているところがあるので、それも分別して持って行くのが良いでしょうね」

 

 

 普段からそう言う事をやっているタカトシ君が、物凄い速度でゴミの分別を進めていく。その顔は、まさに主夫だった……

 

「それから……ん? 七条先輩。俺の顔に何かついてます?」

 

「ううん。でも、手慣れてる感じは顔に出てるかな」

 

「……甚だ不本意ではありますが、家での分別は殆ど俺がやってますから……コトミのヤツは何でも同じゴミ箱に捨てますからね……」

 

 

 手慣れた感じから、今度は苦労が絶えない感じが表情ににじみ出てきている……コトミちゃん、もう少しタカトシ君の負担を減らしたらどうなの?

 

「じゃ、じゃあ分別もある程度済んだし、このゴミを捨てに行こう!」

 

「これが燃えるごみで、コッチが危険物。それでこれがプラゴミでこっちが資源ゴミですね」

 

「では、学校に回収所がある燃えるごみとプラゴミを持っていくぞ! そんなに重くないから、一人で大丈夫だろ」

 

「どうやって決めるんですか?」

 

「じゃんけんだ!」

 

 

 そう言ってシノちゃんは手を高く上げた。最近シノちゃんのリアクションがオーバー気味なような気もするけど、楽しいから何でもいいわね。

 

「では行くぞ! じゃんけん――」

 

「「「「ぽん!」」」」

 

 

 シノちゃんの音頭でそれぞれが手を出し、その結果シノちゃんの一人負けとなった。

 

「私か……だが、まさか一回で負けるとはな」

 

「会長は最近、チョキを最初に出す傾向がありますからね」

 

「そうだったのか……最近くぱぁの練習をしてたからかな……」

 

「それが何かは聞かない」

 

 

 既に興味を失ったのか、タカトシ君は書類作業に戻っている。それにしても、タカトシ君が一番真面目に分別してたような気が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近寒くなってきて、手がかじかんでいる。でも、寒いからって手をポケットに突っ込むなんて行儀の悪い事、風紀委員長の私が出来るはずもない。

 

「手の感覚も無いわねー」

 

「それは貴女の弱点を克服するチャンスでは?」

 

「どういう事です?」

 

 

 急に現れた畑さんに、そんな事を言われ私は首を捻る。弱点って事は、男性恐怖症の事よね。手の感覚が無いのと、男性恐怖症の克服とどんな関係が……

 

「今なら男性の身体に触れる事が出来るのでは無くて?」

 

「はっ!」

 

 

 そうか! 感覚が無い、って事は触っても大丈夫って事! そこから徐々に慣れていけば、男性恐怖症も治るかもしれない!

 

「では早速、通りがかったこのモブ生徒の下半身を……」

 

「って! 何処を触らせるつもりなんですか!」

 

「私は『下半身』と言っただけですよ。風紀委員長は『ナニ』を触るつもりだったんですかね~? 下半身なんですから、足でも膝でも良いんですよ~?」

 

「往来の場所で、何をしてるんですか貴女たちは……」

 

 

 畑さんに詰め寄られてるところに、タカトシ君の声が聞こえてきた。おそらくは生徒会の見回りの最中なのだろう。

 

「いえ、風紀委員長の手の感覚が無いので、男性恐怖症克服の為の訓練を、と思いまして」

 

「それと貴女が言い寄ってるのと、どんな関係が?」

 

「男子生徒の下半身を触れ、と言ったら風紀委員長が真っ赤になったので、ナニを触るつもりだったのかを聞こうと……」

 

「完全に勘違いさせるつもりだったでしょ」

 

「では!」

 

 

 タカトシ君に睨まれて、畑さんは脱兎の如く逃げ出した。そして、凄いスピードで廊下を走っていった。

 

「畑さん、今度会ったら説教ですね。廊下を走ったので」

 

「そうね。その時は私も付き合うわ」

 

「ええ、お願いします」

 

 

 そんな会話をしていたら、天草会長が現れその場で固まってしまっている。

 

「そんな……津田と五十嵐が男女交際なんて……」

 

「あー、こりゃ誤解してますね」

 

 

 天草会長の処理はタカトシ君に任せ、私はその場から逃げ出した。

 

「私とタカトシ君が……交際だなんて……」

 

 

 天草会長の勘違いで、私は照れてしまったのだ。でも、畑さんのように走って逃げるわけにはいかないので、ゆっくり冷静を装って逃げ出したのだ。




シノの基準っていったい……

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