生徒会室で、突如シノちゃんが宣言した。
「さて、今月の学園目標は『エコロジー』だ。物や資源を大切に、みんなで無駄をなくすのだ! そして、我々生徒会がその見本となり、活動に取り組むのだ」
「いきなりの発言にしては、シッカリと考えてますね」
「ちゃ、ちゃんと昨日から考えてたもん!」
「いや、『もん!』って……まぁ、立派な目標だと思いますけど」
タカトシ君が作業の手を止めてシノちゃんの相手をしている。こうやってシノちゃんが突如何かを言い出す事は稀にあるので、タカトシ君も慣れた感じだった。
「確かに私たちが無駄を出さないように気をつけなきゃね」
「そうだろ、アリア!」
「うん! 『ツンデレ』『貧乳』『生徒会長』のシノちゃんに、これ以上の属性付加は無駄遣いだし」
「なんだとぅ!?」
「資源の無駄って言ってましたよね?」
「あっ! そうだったね、ゴメンねシノちゃん」
「とりあえず、ゴミの分別からシッカリとやるぞ!」
何処からか取り出したゴミ袋を掲げ、シノちゃんがそう宣言した。
「あの、この書類今日までなんで。遊ぶなら三人でどうぞ」
「なっ! 遊びじゃないぞ! これはエコロジー精神を鍛えるための……」
「そんなの、普通に生活してれば出来てるものですよね? ゴミの分別なんて、当たり前に出来て当然のものだと思いますけど」
「主夫と学生を同列に見るなー!」
「いや、主夫じゃないんですが……」
「とにかく! 津田も参加するのー!」
駄々をこね始めたシノちゃんに、タカトシ君が折れた。どっちが年上か分からない光景ね。
「分かりましたよ。じゃあさっさと終わらせて仕事に戻りますよ」
「ではこのペットボトルだが……空だな。これは誰のだ?」
シノちゃんがお茶のペットボトルを取り出し、誰の持ち物かを確認する。うん、私のじゃないわね。
「あっ、それ私のです。捨てていいですよ」
「なるほど……ではこれは萌えるゴミだな」
「えっ……」
「外装フィルムはプラスティック、ボトル自体は洗ってから資源ゴミ、もしくはスーパーなどにある回収ボックスに持っていきます。最近ではキャップも回収しているところがあるので、それも分別して持って行くのが良いでしょうね」
普段からそう言う事をやっているタカトシ君が、物凄い速度でゴミの分別を進めていく。その顔は、まさに主夫だった……
「それから……ん? 七条先輩。俺の顔に何かついてます?」
「ううん。でも、手慣れてる感じは顔に出てるかな」
「……甚だ不本意ではありますが、家での分別は殆ど俺がやってますから……コトミのヤツは何でも同じゴミ箱に捨てますからね……」
手慣れた感じから、今度は苦労が絶えない感じが表情ににじみ出てきている……コトミちゃん、もう少しタカトシ君の負担を減らしたらどうなの?
「じゃ、じゃあ分別もある程度済んだし、このゴミを捨てに行こう!」
「これが燃えるごみで、コッチが危険物。それでこれがプラゴミでこっちが資源ゴミですね」
「では、学校に回収所がある燃えるごみとプラゴミを持っていくぞ! そんなに重くないから、一人で大丈夫だろ」
「どうやって決めるんですか?」
「じゃんけんだ!」
そう言ってシノちゃんは手を高く上げた。最近シノちゃんのリアクションがオーバー気味なような気もするけど、楽しいから何でもいいわね。
「では行くぞ! じゃんけん――」
「「「「ぽん!」」」」
シノちゃんの音頭でそれぞれが手を出し、その結果シノちゃんの一人負けとなった。
「私か……だが、まさか一回で負けるとはな」
「会長は最近、チョキを最初に出す傾向がありますからね」
「そうだったのか……最近くぱぁの練習をしてたからかな……」
「それが何かは聞かない」
既に興味を失ったのか、タカトシ君は書類作業に戻っている。それにしても、タカトシ君が一番真面目に分別してたような気が……
最近寒くなってきて、手がかじかんでいる。でも、寒いからって手をポケットに突っ込むなんて行儀の悪い事、風紀委員長の私が出来るはずもない。
「手の感覚も無いわねー」
「それは貴女の弱点を克服するチャンスでは?」
「どういう事です?」
急に現れた畑さんに、そんな事を言われ私は首を捻る。弱点って事は、男性恐怖症の事よね。手の感覚が無いのと、男性恐怖症の克服とどんな関係が……
「今なら男性の身体に触れる事が出来るのでは無くて?」
「はっ!」
そうか! 感覚が無い、って事は触っても大丈夫って事! そこから徐々に慣れていけば、男性恐怖症も治るかもしれない!
「では早速、通りがかったこのモブ生徒の下半身を……」
「って! 何処を触らせるつもりなんですか!」
「私は『下半身』と言っただけですよ。風紀委員長は『ナニ』を触るつもりだったんですかね~? 下半身なんですから、足でも膝でも良いんですよ~?」
「往来の場所で、何をしてるんですか貴女たちは……」
畑さんに詰め寄られてるところに、タカトシ君の声が聞こえてきた。おそらくは生徒会の見回りの最中なのだろう。
「いえ、風紀委員長の手の感覚が無いので、男性恐怖症克服の為の訓練を、と思いまして」
「それと貴女が言い寄ってるのと、どんな関係が?」
「男子生徒の下半身を触れ、と言ったら風紀委員長が真っ赤になったので、ナニを触るつもりだったのかを聞こうと……」
「完全に勘違いさせるつもりだったでしょ」
「では!」
タカトシ君に睨まれて、畑さんは脱兎の如く逃げ出した。そして、凄いスピードで廊下を走っていった。
「畑さん、今度会ったら説教ですね。廊下を走ったので」
「そうね。その時は私も付き合うわ」
「ええ、お願いします」
そんな会話をしていたら、天草会長が現れその場で固まってしまっている。
「そんな……津田と五十嵐が男女交際なんて……」
「あー、こりゃ誤解してますね」
天草会長の処理はタカトシ君に任せ、私はその場から逃げ出した。
「私とタカトシ君が……交際だなんて……」
天草会長の勘違いで、私は照れてしまったのだ。でも、畑さんのように走って逃げるわけにはいかないので、ゆっくり冷静を装って逃げ出したのだ。
シノの基準っていったい……