桜才学園での生活   作:猫林13世

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寒くなってきましたねぇ…


バレンタイン後の視線

 津田君にチョコを渡したのを畑さんに知られてしまったせいで、私に対する視線の質が変わったような気がするのです。バレンタイン以前の視線は、男性恐怖症だという事を考慮してくれたものが多かったのですが、バレンタイン後は何やら執拗に粘っこいようなものが増えています。これはどういう事なのでしょうか……

 

「あっ、五十嵐さん。少しお話があるんですけど」

 

「津田君? お話とは?」

 

「あぁ、やっぱり知らなかったんですね……」

 

「何をです?」

 

 

 津田君がポケットから取り出したのは、一枚の紙と写真。これはおそらく畑さんから没収したものでしょうね。

 

「えっと……『五十嵐風紀委員長の実態! 本当はただの雌猫疑惑……』なんですかこれは!」

 

「畑さんの脚色と曲解を加えた新聞記事です。裏で商売してたようでして、発見までに時間が掛かってしまいましたが……」

 

「もしかして、この記事が原因であんな視線が増えたの?」

 

「あんな視線、とは?」

 

 

 津田君がきょとんとした顔で私の事を眺めてくる。いかがわしい感じは無く、純粋に心配してくれている視線だ。

 

「えっと……舐めまわすような、絡み付くような……そんな視線です」

 

「そうですか……では、こちらで対処しておきますよ」

 

 

 そう言って津田君は周りにいる男子生徒に鋭い視線を向け、その場から逃げ出せないようにした。

 

「さて、少し話があるんだが、時間大丈夫だよな?」

 

「「「い、イエッサー!!」」」

 

「畑さんも、逃げないでくださいね?」

 

「は、はい……」

 

 

 こうして津田君が畑さんが流した根も葉もないうわさを解決してくれたおかげで、翌日からあの気持ち悪い視線は無くなりました。

 

「五十嵐、何だか嬉しそうだが、何かあったのか?」

 

「いえ、昨日までちょっと問題があったんですけど、それが解決したので」

 

「なるほど。お通じは大切だよな!」

 

「違います」

 

 

 天草会長には悪いですけど、やっぱり私は津田君の事が好きみたいです。ライバルは多いですし、最大のライバルは私なんかより津田君と親しい間柄のようですが、私は諦めたくはありません。学外で少しくらいは津田君と一緒に出かけたりしてみようかしら……

 

「ほほぅ、何やらラブコメの気配がしてると思ったら、風紀委員長だったとは……」

 

「貴女はまだ懲りて無いんですか?」

 

「い、いえ……これは純粋に友達の応援を……」

 

「では、その隠したメモを渡してくれますよね?」

 

 

 何やら廊下で畑さんの悲鳴が聞こえたけど、きっと気のせいよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一年の間でも、タカ兄の人気はかなり高い。タカ兄に作業を手伝ってもらった子なんて、次の日には自慢げにその事を話して悦に浸ってるくらいだ。

 

「やっぱり、お前の兄貴って凄いんだな」

 

「そりゃ自慢の兄ですから!」

 

「その妹がこれじゃあ、クラスメイトがお前と兄貴の事を兄妹だって思って無くても仕方なかったよな……」

 

「あれは、コトミが悪いと思うよ」

 

 

 マキとトッキーが言っているように、最初の方は私とタカ兄が兄妹だという事を信じてもらえなかった。理由は単純に、私がタカ兄を性的な目で見てたからなんだけど……

 

「でも仕方ないでしょ! タカ兄のようなお兄ちゃんがいたら、どんな妹でも性的な目で見るって!」

 

「それは無いだろ……」

 

「そもそも、津田先輩はあんなにしっかりしてるのに、何で妹のアンタは阿呆なのよ?」

 

「タカ兄に全部持っていかれて、私には何も残されていなかったのだよ!」

 

「「………」」

 

「せめてツッコミを入れて!」

 

 

 無言で呆れた目を向けてくるマキとトッキーに、私は懇願する。だって、無言で見られると何だか興奮して来るんだもん!

 

「コトミ、いるか?」

 

「あっ、タカ兄! 何か用事?」

 

「いや、お前今朝弁当忘れただろ? だから持って来たんだが」

 

「え? ちゃんと鞄に……あれ?」

 

 

 今朝は珍しく私の方が先に家を出たのだ。理由は、昨日宿題を忘れた罰と、日直が重なった所為で、タカ兄より先に家を出なければ間に合わなかったのだ。

 

「相変わらずそそっかしいな、お前は」

 

「タカ兄がしっかりしてるだけでしょ! 高校生なんて、これくらい抜けてるのが普通だって」

 

「何処の世界の普通だ、それは?」

 

「ギャルゲー!」

 

「……はぁ、とりあえずこれな。後、ちゃんと宿題はするように」

 

「はーい」

 

 

 タカ兄から忘れたお弁当を受け取り、私は元気よく返事をする。タカ兄は呆れながらも、最後まで私の相手をしてくれるので、私がタカ兄依存症になってしまっても仕方ないと思うんだけどね。

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

「今日も遅くなるの?」

 

「生徒会の業務が溜まってるからな。夕飯は作れると思うけど、もし我慢出来なかったら冷凍庫のものを温めて勝手に食べて良いからな」

 

「うん、分かった! でも、タカ兄のご飯の方が美味しいから、きっとチンはしないだろうけどね」

 

「そうか」

 

 

 タカ兄は私の頭を軽く撫でてから自分の教室へと戻って行った。偶に見せる、あの優しい表情は本当にカッコいいと思う。妹の私から見ても……

 

「ちょっと津田さん! 何で津田先輩に頭を撫でてもらってるの!」

 

「あんな表情の津田先輩、見た事無い……」

 

「これが、妹の特権だというのか……」

 

「この学校、やっぱり変な奴多い……」

 

「トッキー、それは言っちゃダメだよ……」

 

 

 タカ兄の訪問は、思いもよらない暴動を生みかけたが、私がぼそっと「タカ兄に怒られる」と言って事なきを得た。タカ兄の怖さは、この学園で知らない人間がいないほどなのだから。

 

「それよりコトミ、アンタまた忘れ物したんだ」

 

「入れたはずなんだけどなー」

 

 

 マキとトッキーとのお喋りに興じながら、私はタカ兄の表情を思い浮かべて興奮していたのだった。




相変わらず無自覚で人を墜とすタカトシ……

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