最近、目安箱に何の投書も無い日が続いている。学校に対する不満が無いと言えば聞こえがいいが、もしかしたら学校そのものに興味が無くなってしまっているのかもしれない。
「そこで、我々生徒会で目安箱を使った何かを考えたいと思う!」
「毎回ながらいきなりですね……」
「だって、空っぽだったら悲しいだろ」
目安箱が空だと、折角作ったのにと思ってしまうのだ。
「でもシノちゃん。何かって何をするの? 具体的な案は?」
「それをこれから考えて行こうと思うんだが……何か無いか?」
なにも考えて無かった訳では無いのだが、言えば絶対に津田が却下する事ばかりなのだ。
「何かと言われましても……言いだしっぺの会長から何か案を出してくださいよ」
「うっ……」
「? 何か問題でもあるんですか?」
萩村が何気なくいった言葉に、私は過剰に反応してしまった。それを津田に気づかれ、今物凄い視線を向けられている。
「その……津田に手伝いに来てもらいたい部活、とか」
「それって学校運営とか関係ないよね? 何で俺が餌にならなければいけないんですか」
「だ、だから言いたくなかったんだ!」
「え~。それじゃあ『津田君のお相手(男子)募集』もダメなの~!?」
「……何故そんな案が出たのか、じっくり聞かせてもらいましょうか、アリア先輩」
津田がアリアの事を名前で呼んだが、今は全然羨ましいと思わなかった。だって、今の津田の目、本気で殺そうと思ってる目なんだもん……
「さすがにリアルに、じゃなくて小説の中だよ~」
「それが言い訳になると、本気で思ってるわけじゃないですよね? もし本気なら……覚悟しろ」
「じょ、冗談! 冗談だから踏み止まってタカトシ君! さすがに処女のまま死にたくない!」
「……寝ろ!」
津田の一撃で、アリアはぐっすりと眠りについた。
「何したの?」
「ちょっとツボを押しただけ」
「……怖いわよ」
「そうかな?」
萩村と話してる時には、既に何時もの雰囲気に戻っていた。
「それじゃあ、萩村と津田は、何か案は無いのか?」
「そうですね……学食に追加してほしいメニュー、とか?」
「子供過ぎないかしら?」
「最近マンネリ化してるって聞いたけど」
「よし! それで募集してみよう! 期間は三日とする!」
今日から募集して、火曜水曜と時間をおき木曜に集計すれば良いだろう。
「では、アリアを起こして我々も帰る事にしよう」
目安箱の上に『学食のメニュー募集中』という張り紙をして、我々は帰る事にした。どれだけ集まるかなー。
そして木曜日、タカトシが持ってきた目安箱には、あふれんばかりの紙が入っていた。
「過去最高ですね」
「何たることか……」
会長も驚いているように、目安箱を設置して二年、これだけ投書された事は無かった。
「それじゃあ集計を始めましょうか」
「そうね……ところでタカトシは投書したの?」
「いや? 俺は学食を利用しないし」
「そうよね。主夫は毎日お弁当だもんね」
「だから主夫じゃないってば……」
てか、そう考えると、コトミちゃんは毎日タカトシの手作りのお弁当を食べている事になるわけで……
「何だろう、無性にコトミの事を説教したくなったんだが……」
「奇遇だな、萩村。私もだ」
「シノちゃんも? 実は私もなんだ~」
「……何でコトミに説教なんですか? 最近は大人しくしてると思うんですけど」
この場所で唯一私たちと感情を共有出来なかったタカトシは、首を傾げながら集計していた。
「とんこつラーメン、餃子定食、カツカレー、オムソバ……定番だな」
「あっ……」
タカトシがメニューを読みあげていると、七条先輩のお腹がなった。
「食べ物の話してると、お腹すきますよね」
「……浣腸が効いてきた」
「「ダッシュでいけー!」」
集計していたタカトシとツッコミが被る。さすが桜才学園のツッコミマスター(畑さん談)なだけはあるわね。
「会長、やたらとケーキという意見が多いのですが」
「ケーキはデザートだから除外だな」
「ちょっと待って下さい! 脳の栄養分はブドウ糖です。つまり甘い物は脳を活性化させます」
「……ケーキ、好きなんだね」
私がそれっぽい理由で採用してもらおうとしている事は、タカトシにお見通しだったようだ。
「まぁ、萩村の意見も一理あるし、これだけの希望者がいますから、無下に扱うわけにも行きませんよね」
「そうだな……だが、大勢いるからと言って、それで決まるわけでは無いぞ!」
会長が良い事を言ったところで、七条先輩がお手洗いから戻って来た。
「さすがシノちゃん! マイナーな○癖も理解してくれて……」
「なーいよ」
戻ってきてすぐのボケに、タカトシの絶妙なツッコミが入った。あんなツッコミ、私には真似出来ないわね。
「ケーキの次に多いのがシュークリームですし、さすがは元女子校ってだけはありますね」
「そうだな」
「ちなみに会長とアリア先輩はなんて書いたんですか?」
「私はネギチャーシューラーメンだ!」
「私はお団子だよ」
「……どっちも意外ですね」
二人のメニューを聞いて、タカトシはやれやれと首を振った。
「じゃあケーキで決まりですね。圧倒的な票数ですし、これを無視したら暴動が起こりかねませんし」
「そうだな。じゃあ津田、学食に話を通しておいてくれ。私は学長や職員室に報告に行ってくるから」
「分かりました」
後日、新商品のショートケーキは人気を博し、桜才学園記録の売上を叩きだしたのだった。
「やっぱりケーキは美味しいわね」
「……これなら自分で作れそうだな」
「何か言った?」
「いや、べつに」
こうして、見回り終わりにタカトシと学食でケーキを食べるのが、最近の楽しみになっているのだった。
最終的にそこに行きつくのか、タカトシ……