風紀委員長として、学園の風紀の乱れには敏感に反応するように心がけているのですが、最近風紀が乱れまくっている様な気がします。共学になったのが原因か、女子も男子も色めいているような気が……まぁ、その大半が片思いなのは私にも理解出来ますが。
「相手は津田副会長ですものねー」
「貴女、本当に神出鬼没ね」
「同じクラスですし、貴女は個人的にマークしてますから。何かスクープ頂戴」
「頂戴と言われても……なにもありませんよ」
「ほんと~? 津田副会長と何か進展ないの~?」
畑さんの言葉に、複数の女子から視線を浴びせられた。おそらく彼女たちもタカトシ君と何とかして仲良くなりたいと思っている子たちなのだろう。
「ちなみに天草会長と七条さんが、津田副会長とお出かけする計画を練っている情報を手に入れたんだけど、これってデートの計画だと思う?」
「んなぁ! 風紀が乱れてるわ!」
私は真相を確かめるべく生徒会室へと向かう。もちろん廊下を走ったりはしないが。
『今度の休みはどうだ?』
『俺は構いませんよ』
『私も~』
こ、これは……今度の休みにタカトシ君と天草会長・七条さんがデートする約束。しかも二股デートなんて……
「貴女たち! いったい何を話してるんですか!」
「五十嵐さん? 今度の休みに生徒会の備品を補充しようって話ですけど……」
「あ、あれ?」
「乱れてたのは貴女の頭の中ですね~」
私の後を追って来ていたのか、畑さんが生徒会室の扉から顔を覗かせた。
「何の話です?」
「実はさっき、風紀委員長に『貴女たちお出かけする計画を練っている』って教えたんです。そうしたら早足でここに向かったので、何か面白い事が起こりそうだな、と」
「貴女がデートの計画だなんて言うから!」
「おや~? 私はどう思うか聞いただけですよ~?」
「ぐっ……」
思い返しても確かに畑さんはデートの計画と断言してた訳じゃないわね……
「てか、そう考えるように誘導したでしょ、貴女」
「さて、それはどうでしょうね~」
畑さんがしらばっくれたタイミングで、タカトシ君の携帯が鳴った。
「ちょっと失礼……萩村? うん……分かった。すぐ取りに行く」
「なんだって?」
「無くなったコピー用紙やガムテープですが、横島先生が勝手に持って行っていたそうです。回収出来そうなので買い出しはまた本当に備品が無くなってからで」
「そうか。あるに越した事は無いが、何故横島先生は生徒会の備品を?」
「あの人の考えなんて分かりませんよ」
タカトシ君がやれやれと首を左右に振ってから、生徒会室を後にした。残された私と畑さん、そして最初からここにいた天草会長と七条さん。私以外の三人は、獲物を見るような目で私に迫って来たのだった……
備品を買いに行く予定だったのが無くなったので、今日は一日自由になった。元々する事が無かったので予定があった方が良かったのだが、無理に買い物に行く必要も無いだろう。
「タカ兄、トッキーとマキと遊びに行ってくるね」
「遊びに? あんまり無駄遣いするなよ」
「分かってるって。せっかくタカ兄が死守してくれたお小遣いだもん」
その言い方にはおかしな点がいくつかあるが、今はとりあえず見逃してやろう。
「そんなに遅くなる事は無いから心配しないで」
「別に心配はしてないさ。八月一日さんと時さんが一緒だからな」
「うんうん! ……あれ? それって私一人だと心配って事?」
「時間、いいのか? お前はギリギリに家を出るから、無駄話をしてる時間は無いんじゃないのか?」
「時間? うわぁ! それじゃあタカ兄、行ってきます!」
慌ただしく出かけて行ったコトミを見送り、俺は何をするか考える為に部屋に戻った。本は読み終えてしまったし、参考書も殆どの問題を解けるようになったし……
「俺も出かけるか」
特に用事は無いし、洗濯物も干していない。午後から雨だと言うから出かけるなら傘を持って行った方が良いな……
「コトミに言うの忘れた……ま、いっか」
今の時代、コンビニで傘くらい売っている。無駄遣いになりそうだが、一回で捨てるわけじゃないんだし問題は無いだろう。
「さて、出かけるか」
目的の無い外出に出る為、俺は財布と携帯、そして傘を持って家から出た。鍵はコトミも持ってるし、先にあいつが帰ってきても問題は無いだろう。
油断した……少しくらいなら大丈夫だろうと思って傘を持たずに外出したら、見事に降られてしまった。
「どうしよう……この辺り、コンビニあったかしら?」
あまり来た事の無い場所でキョロキョロとコンビニを探すが、目に見える範囲には見つからなかった。
「困った……」
「あれ? 魚見さんじゃないですか。なにしてるんです?」
「タカ君……外だから名前で呼んで」
「……なにしてるんですか、カナさん?」
名前で呼んでもらって満足です。と、今は悦に浸ってる余裕はありませんね。
「こっちの本屋にしか置いて無い小説が今日発売だったので買いに来たのですが、見事に雨に振られてしまいました」
「……傘、持って来なかったんですか?」
「まだ大丈夫だろうと油断しました」
「……確かにこの辺りにはコンビニ、無いですしね」
「駅まで走って帰れば何とかなるでしょうが、新刊が濡れてしまうかもしれませんし……困っていたところです」
一応袋に入っているとはいえ、濡れない保証は何処にも無いのです。
「良ければ駅まで入って行きます? あの辺りならコンビニもありますし、キヨスクで傘も売ってるでしょうし」
「良いんですか? タカ君と相合傘なんて、誰かに見られたら既成事実になりかねませんよ?」
「……じゃあ濡れて帰ってください」
「冗談です。それくらいで妊娠するほど、私は簡単じゃありません」
「……何処の誰が傘に一緒に入っただけで妊娠するんですか」
タカ君は呆れながら私は傘の中に入れてくれた。二人で使うとやはりどちらかが濡れてしまうので、私はタカ君の腕に自分の腕を絡め、そして身体を密着させた。
「これなら濡れませんね」
「代わりに、周りの視線が突き刺さりますけどね」
相合傘で腕を組んで密着なんて、普段なら『リア充爆発しろ!』とか思うでしょうが、今日は私がリア充です。存分に自慢してやりましょう。
こういう場面、どうしてもシノでは考えられない……何故だ?