前回は急用でこれなかったけど、今回は全員集合出来るはずだと言う事で、追加の買い出しを行う事になった。予算も新たに用意したし、私もいるから必要なものかそうでないかその場で判断出来るしね。
「お嬢ちゃん、迷子?」
「誰がお嬢ちゃんだー!」
「萩村? なに騒いでるの?」
私が子供扱いされ叫んだタイミングでタカトシがやって来た。ここで名前呼びされてたら、私が妹だと思われると瞬時に判断して苗字で呼んでくれたのだろう。
「このお嬢ちゃんの知り合いですか?」
「同級生ですが」
「えぇ!? ……随分大人びてますね」
「そっちで解釈しちゃったか……自分たちは高校生です」
「……失礼しました」
おそらくタカトシの事を大人びた小学生だと思ったのだろう。タカトシが事実を告げるとその失礼な人はそそくさと逃げ出して行った。
「会長と七条先輩は?」
「まだ来てないのよ」
「そうなのか……まだ時間まで余裕あるし、何処かでお茶でも飲んで待ってる?」
「そうね……そうしましょう」
そうと決まればどこか良い場所は……あ、あそこにしましょう。
「タカトシ、あそこに入りましょう」
「あそこ? ……ケーキでも食べるの?」
「うん……」
既に頭の中がケーキで埋まっている私は、タカトシの生温かい視線に気づかなかった。
アリアと待ち合わせをしてから集合場所へ向かったので、私たちは約束の五分前に漸く到着した。だが周りを見渡しても津田と萩村の姿は無かった。
「あの二人が遅刻か? 珍しい事もあるものだな」
「シノちゃん、あそこにいるのってタカトシ君とスズちゃんじゃない?」
「何処だ?」
アリアが指差す方に目をやると、店の中で美味しそうにケーキを食べている萩村と、その前でコーヒーを啜っている津田の姿があった。傍から見ると美味しそうにケーキを食べている妹を眺める兄のようだな。
「私たちも入るか?」
「あっ、タカトシ君が気づいた」
アリアが手を振ると、津田が片手をあげて返事をしてきた。そして萩村に声を掛け、席を立ち会計に向かった。
「津田の奢りなんだな」
「スズちゃんに払わせたら、タカトシ君に色々な視線がくるからじゃない?」
「確かにな……」
津田と萩村の関係を正確に把握している私たちが見れば何もおかしくは無いが、二人の関係を知らない人間が見れば、妹に支払いをさせているダメ兄貴にでも見えるかもしれないのだ。
「会長と七条先輩がギリギリなんて珍しいですね」
「ちょっと出かける前に色々あったんだー。それよりもスズちゃん、ケーキ美味しかった?」
「はい! でも、もう少し甘くても良かったかなーって思いました」
「津田は食べなかったのか?」
「ええ。俺はコーヒーだけです」
津田は普通に甘いものを食べられるはずだが、今日は何故食べなかったのだろうか……気にはなったが、追及はしないでおこう。
「では、さっさと買い出しに行くぞ!」
「また別れて行動します? この間のように」
「そうだな! では行くぞ」
今日こそは津田と二人きりで……
「タカトシ君は私とだね~」
「そうですね」
「会長、さっさと行きましょう」
「そうだな……」
何故私は津田とペアになる事が出来ないんだ……もし神様がいると言うなら、私は神様を恨むぞ!
タカトシ君と二人っきりで行動するのって、考えればそんなに経験無かったなー。生徒会の備品の買い出しだけど、こうやって二人っきりでお買いものしてると、何だかデートっぽいかな?
「アリア先輩? 何か気になるものでも?」
「私、タン○ン派だけど、ナプ○ンってどんな感じなんだろうなーって」
「そんなの俺が知るわけ無いでしょうが……えっと次は……」
普段から買い出しに慣れているタカトシ君は、リストを見ながらスムーズに移動していく。一方で私は、普段お買い物なんてしないから、どうしてもすれ違う人とぶつかりそうになってしまう。
「ちょっと、タカトシ君……あれ?」
気になったものを見つけ、タカトシ君に聞こうとしたのだけども、私の視界の範囲内にタカトシ君の姿は無かった。もしかしてはぐれちゃったのかな?
「えっと、タカトシ君に電話して合流した方が良いのかな? それともこの付近を捜してからの方が……」
「お姉さん一人? 良かったら俺たちと遊ばない?」
「えっ?」
いきなり声を掛けられて、私は驚いた。気が付けば数人の男の人に囲まれて、逃げ場が無くなっていた……これってもしかして、連れ去られて調教されて一生雌奴隷ってパターンかしら……
「あっ、いた。何してるんですか、アリアさん」
「おいおいにーちゃん。先に俺たちが見つけたんだぜ? 横入りはいけないなー?」
「この人は俺の連れです。貴方たちこそちょっかい出さないでくれます?」
「っ!?」
タカトシ君の肩を掴んだ男の人が、タカトシ君に手首を掴まれて驚いている。おそらくは細いタカトシ君に手首を掴まれただけで動かなくなった事に驚いたのだろう。
「出来れば穏便に済ませたいんですが、大人しく帰ってくれませんかね?」
「……おい、行くぞ!」
「えっ? コイツぶちのめすんじゃねぇのかよ」
「良いから!」
タカトシ君の恐ろしさを知った一人が大人しく帰っていくのを見て、お友達もその人について行った。おそらく彼がリーダーだったんだろうな。
「ありがとう、タカトシ君。あのままだったら私、雌奴隷生活を送る事になっていたよ~」
「緊張感の欠片も感じませんね……とにかく、あんまり心配かけないでくださいよ?」
「じゃあ、こうしておけばいいんだね!」
スルリとタカトシ君の腕に自分の腕を絡ませ、はぐれないようにした。タカトシ君は振りほどこうとすれば簡単に出来ただろうけど、私の腕をそのままにして買い出しを再開したのだった。もちろん、後でシノちゃんとスズちゃんにバレて私が怒られたのは仕方ない事だったかもしれないけどね~。
スズとアリアはともかく、シノの事も考えないとな……でも、原作通りになるのはつまらないしな……